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ある悪魔祓い師司教の活動記  作者: 山坂正里
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 第五章  ラザフォード司教、中央区で契約者を探す。

 次の日の朝。中央区。……俺は今、メインストリートを天使と歩いている。天使と歩いているのに、こんなに気がのらねぇのは初めてかもしれねぇ。

 天使は昨日の恐怖を忘れたのか、無邪気だねぇ。チョコチョコ歩く姿はかわいらしい。

 ……今日はリボンのついた白のワンピか。そういえば、髪に付けているピンクのリボンをモラさんにしてもらって、嬉しそうに笑ってたなぁ。

 俺が憂鬱そうにしているのに気づいた天使は、下から見上げて……。その目は、「大丈夫?」と聞いていた。


「……アンジェ~。ずいぶん楽観的ね? アンジェこそ、怖くない?」


 契約者が近くにいるかもしれねぇのに?

 だってさ、外からの悪魔には結界に阻まれて、入って来れないとはいえ、内側にいる人間が転化しちまうことはあるからな。まぁ、それを止めるために、転化した人間を何とかするために、俺達はいるんだけどな。

 ふーっとため息をつくと、知ってるよ、と言わんばかりに笑う天使。……かわいいのぉ。


「怖くありませんよ。フォードさんと一緒ですから」


 天使! 俺は泣きそうだよ。いい子すぎるやろ。


「アンジェ。俺は頑張るよ」


 グシグシ頭撫でてやったよ。アンジェもまた、嬉しそうに笑ってくれて。アンジェのためなら、俺もがんばれそうだ。


「張り切って、契約者みつけるか……」


 昨日の夕方での話し合いで、アンジェの契約者が相手だってことで、俺とアンジェは捜索に外された。なんでだ? 俺がアンジェと直接契約してるってわけじゃないのにっ!!

 ヴィルドのやつめ。すっかりここの空気にもなじんでさー。戦闘系の俺の契約悪魔連中も手懐けて。俺の言うこと、まるできかねぇし。俺と契約してんのにさぁ。あいつらめ……裏切り者どもめぇぇぇ!!

 だってさ。「俺も一緒に……」なんて結構下手に言って提案したら、悪魔連中とクリスに「邪魔っ!」だぜ? めっちゃ、はもってさぁ。息ぴったりで。そんな一言投げつけられたら、しぶしぶ下がるしかねぇじゃんか。

 で、今日のシフト決めんのも、クリスとかが中心で。俺、ノンタッチなんよね。クリスに「感知しにくいから、害のなさそうな中央区に。ただしあんまり動くなっ!」なんてもう上から言われた。

 俺、司教なんだけどなぁ。偉いんだけどなぁ。ここの悪魔祓い師達の代表で、責任者なんだけどなぁぁぁぁ?!

 だから、しょんぼりしていたわけよ。そうだ。アンジェと一緒なら、使い魔いるかもしれねぇんだよな。猫とかカラスとかさぁ。

 周りを観察してもそれっぽいのいないなぁ。俺としては助かるが。

 天使にきいてもわからないと首を横に振っちゃうし。……だね。わかんないよね。普通はそうだよね。分かる方がおかしいんだよね。つまり、あいつがおかしい。なぁにが「日々の観察あるのみです」だ。分かんねぇもんは分かんねぇの!

 メインストリートって週末の休日になったら、両脇に商店とか開かれたり、催し物がされたりするんだが。今日はそんなこともねぇな。それを目印に、俺はしているんだが。

 「曜日感覚ない」ってクリスに愚痴ったら、「老化の始まりですねぇ」って鼻で笑っていた。クリス、本当に口悪いよ。……前からだけど。


「アンジェ、つらい記憶かもしれんが、堕ちる前にはそいつとは会っていないんだな? 堕ちてから知り合った?」


 ちょい暗い表情になったアンジェ。「はい」とコクンと頷いていた。


「……うん。他に無理矢理契約結ばされたっていうなら、この機会に全員しょっ引きたいが」

「その人だけです」


 天使、そんな泣きそうな顔せんでくれよ。俺も泣きたくなるよ。


「そいつの目的ってやっぱ悪魔願望かね? 契約者に多いしな」

「……はい」


 本当にごめんねっ! 嫌なこと思い出させたね。

 ポロリと涙流して。

 天使は悪魔化しても、そういう輩に一時監禁されていたらしいとは聞いていたが。そのときの残党かもな。

 悪魔化の利点としてあげられることに、無駄に体が頑丈になるってことか?

 戦闘系のあいつらも、ヴィルドがきた初日。悪い意味で子供好きだったオメガが真っ先にヴィルドに手を出した。ヴィルドの報復の仕方は……うん、最初はオメガの腕を切り落としたらしい。で、最終的には首とか、上半身とかが他の連中もお別れしたとか。

 ……それでも、生きてるんだから、頑丈だろ? 普通の人間だったら、死んでるし。最初、聞いた時は、俺も顔引き攣ったよ。――一方的な凶行すぎて。ガチでケンカ売っちゃダメなやつだろ。いや、もちろんこの程度では悪魔連中が死なないって、ヴィルドも知ってたからしたんだろうが。本当に容赦ねぇな。悪魔嫌いレベル、半端ない。普通の人間がイニシャルGを嫌うレベルで嫌いなんだろうなぁ。

 あとは、年とらねぇってことか? ほら天使も俺より年上って言ったけど、全然だし。

 自分で『(ゲート)』みつけた組でみつけた時、相当高齢でも呪術力がピーク時に変えるってことも利点の一つか? ロベルトもみつけた時は、還暦過ぎていたって言ってたしな。それもあってか、かなりお茶らけているが。オメガは三十代で、ウェスタは今の俺と大差ない時って言ってた。早い話、ウェスタは人間の時とほとんど変わってないとさ。

 悪魔連中、全員若いだろ? 天使を除いたら、十五から二十代前半くらいだもんな。

 反対に悪魔化の欠点をあげるなら、悪魔嫌いに心底疎まれるってことかな? ヴィルドさんほど激しいのは初めてだが。もしかしたら、中央にはいるのかもね。両柱神、特に天空神の信者や天空神の力借りてするっていうのは、さ。

 新しく司教になるっていうその十歳の子供もどんな子供なんだか。俺が持つ、十八で司教っていう最年少記録を塗り替えたし。ヴィルドがここにきてから、忘れかけてたが。まるで気にならねぇっていったら、ウソになるな。ヴィルドみたく、悪魔嫌いでないといいんだが。 じじいが俺なんかと会わせたがらないってことは、神の力を利用してってタイプのやつかもな。そういうやつなら、中央にいた方がいいだろう。

 うっすらとした記憶の中に、中央における俺のような悪魔祓い師の司教としてのポジションは空いていたはずだ。中央は悪魔への対策は、外からの悪魔の侵入に対する呪術式は随一なんだが、中の人間が転化する被害が最も大きいところなんだよな。空いているそのポストも悪魔かその関係者に殺されたとか何とか聞いた。人が多く集まるとこだけに、つくづくおっかない仕事だなぁ。……いや、俺も決して他人事ではないんだけどな。

 先代も悪魔との交戦による怪我が原因で亡くなったようなものだし。やはり、北の大聖堂内でも、死亡率が高い部署であることは確かだな。

 ……とと、泣いている天使を慰めながら考える内容でもねぇんだけどな。住人の視線がちょい痛いんよ。どこからどう見ても、司教が子供泣かせたなだけに。早く泣きやんでくれねぇかなぁ。「アンジェは悪くねぇよぉ」とか言ってるんだけど、やっぱダメかよ。

 アンジェからしたら、そこまで子供扱いするなと怒られそうだが、高い高~いとばかりに抱き上げた。お、泣きやんでくれたか?


「……フォードさん、恥ずかしいです」


 そうなの? 俺は楽しいけどな。

 言われるままに天使を下に降ろした。心なしか、顔も赤いね。昨日に続き、今日も陽気だからね。

 曇りない大きな瞳でじっと見て。どうした?


「わたし、ね。好きです。……フォードさんのこと」


 そんな改まって、何を言い出すのやら。


「おう。俺もアンジェのこと大好きだぜ」


 天使が不安にならないよう、いい笑顔で言ったんだが。あれれぇぇ? ちょい顔が困ったようになって。――なんか違った?


「……フォードさんにとって、わたしはいつまでも子供なんですね」


 ……えーっと? 天使さんのおっしゃる意味がわかりかねますが。


 ―――殺気っ?!


 メインストリートから派生した細い路地から?

 髪の毛ほどの細い針。……太陽の光に反射して、かろうじて見えるって代物かよ。しかも、狙いは天使か……。


「アンジェ!」


 呪術式では間に合わない。天使を反射的に押し倒していた。俺の肩口にある、悪魔祓い師の責任者である証の白いストラいわゆる頸垂帯が切られた。このくらいの犠牲なら、軽いわ。

 天使の契約者か? ヴィルドさんの言葉ではないが、天使との契約が邪魔になる。そう気づいて天使を消滅させに来たかもしれねぇ。

 応戦する俺の手も心なしか力が入った。雷系の呪術式。天空神がそういう呪術式を扱う神だけに、必然的にも俺も使う機会が多くなった。

 その狭い路地に向け放ったが、手ごたえがない。クッソ。腕だけなら、結構なやり手じゃねぇかよ。

 メインストリートであるにもかかわらず、今日の人の往来がまばらとはいえ、正気の沙汰とは思えねぇが。おっちゃんならこんな人眼のあるとこでは、絶対しねぇよ。目撃者が出て、足がついちまうからな。そういう意味では二流か。

 ……いや、そういう目撃者もろとも、消すのを辞さない輩か? なんて厄介な。

 あくまで、天使を秘密裏に闇に葬りたいのか、行うのはその細い針によるものだけだ。細い針も最初こそ、レース編みなんかに使うような十五センチ足らずの長いものを使っていた。しかし、俺に感知されにくいようにとするためにか、縫い針用の五センチくらいの短いものに変えてきやがった。それでも、俺の方はガン無視で。とことん天使狙いだった。その路地と天使の間に俺が立っているから、かろうじてかかってるくらいか?

 ……その針も、今は透明の分厚い結界で防いでいるが、いつまでもこの結界が持つわけでもないだろうし。その保証もどこにもねぇからな。


「アンジェ、悪い。とっさとはいえ……」

「平気……です」


 いきなり攻撃されたショックも隠せねぇのか、青ざめて。可哀想に。


「とにかく、この場から離れるぞ」


 せめて、アンジェだけでも安全な所へ、と思い立たせた。その時、背後でバリンと嫌な音が響いた。それと同時に俺の頬をナイフが掠め、飛んだ。

 針は防げても、ナイフは無理だったよ。どんな速度で投げてるんだ、そいつ。路地の建物の壁に張り付き、ナイフを投げつけている……男? 顔に白い仮面つけてるから、男か女かもわかんねぇ。体格はクリスと変わらず、細身で、それなりの身長ってことぐらいか?

 投げる角度を変え、質量を持たせたから結界も破れたってやつか。……結構、やるな。悪魔祓い師の見習い最終工程。おっちゃんと手合わせした時を思い出すよ。

 そんなことを考えながらでも、呪術式で雷を作り、浴びせているが、全然効かねぇ。全部避けるわ、そのすきに細い針で攻撃するわで、こっちに余裕がねぇな。


「フォードさん………血が」


 俺の後ろでアンジェが泣きそうに呟いているが、気にしてなんていられねぇ。

 さっきナイフが掠めた頬、切れたのか、ジンジンするな。全く、せっかくの男前が台無しだろうが。どうしてくれる。


「平気だ。それよか、あいつ。契約者か?」


 壁から降り立ち、路地をふらふらしながらかわす、白い仮面やろう。目の付近がほんの少しだけ開いているが、どんな目なのかもさっぱりわからん。

 こんな時こそ俺も感知系だったら便利だと思うんだが。ないもんは仕方ねぇな。少しは精度も上がってきたと思うんだが。俺の方は、まるで反応しねぇし。やっぱり、もっと近づかねぇと感知できねぇか?


「……いいえ! 悪魔でも、契約者でも……悪魔憑きでもないです!!」


 じゃあ、何者だよ!? 感知系でも感知できねぇ実力者か? それか、契約者がそういうもぐりの殺し屋にでも依頼したか?

 仮面の襲撃者は、天使との間に俺という邪魔がいる限り、何ともならんと悟ったのか、再び壁を駆け上がった。おそらく、何らかの呪術式を使ってなのだと思うが、えらく俊敏な襲撃者だな。やっぱり、プロかもな。――まさか、人型の使い魔か?

 建物の屋上に着くとためらいなく、飛んだ。俺を追い越して、メインストリート側、つまり天使の背後に着こうって魂胆だろうが、させるか。

 飛んでいる間は、方向転換もできんだろうって思って雷を放った。だが、今度はどこにでもあるようなナイフを避雷針代わりにして、かわしやがった。俺のやることはお見通しってばかりにな。俺の手の内も調べつくした上での襲撃かよ。俺の背筋に嫌な汗が流れた。

 予測した地点に着地し、すかさず天使に向かって投げつけられるナイフ。ヴィルドみたく、呪術式が描かれたものではないとはいえ、させるかよ。

 そのナイフを雷で叩き落とし、そいつに向かって蹴りを放った。さっきから、中遠距離からだけの攻撃だったから、近距離戦は不得手だと見込んでだ。

 予測通り、そいつは慌てふためいて、後ろに二段ジャンプでかわした。悪いな。俺はどっちもいけるんでな!

 一気に間合いを詰めて、パンチを繰り出すが、しゃがんでかわした。……だが、これも予測のうちよ!

 隠しておいた、たぶん狭い視界では見えなかったであろう位置から蹴りを放った。……当たったと視覚では捕らえたが、なんか手ごたえねぇな。

 襲撃者は、メインストリートに面した反対側建物の壁に叩きつけられた。……いや、違う。そこを足場にして張り付いていやがる。俺の蹴りも予測して、それに合わせて自分で跳んでいやがったのか。侮れねぇな。

 どう天使を消滅させようか、と攻めあぐねているのか、その場で硬直する襲撃者。……俺のことなど眼中に入れなかったからこその攻撃だったのかもしれねぇ。下手したら、俺の相手はするなとかいう指令だったのかもな。

 襲撃者の頭上に光る、赤い呪術式。あれは、ヴィルドが消滅させた使い魔の集合体が使っていたのと同じもの?

 赤い炎がその呪術式から生まれ、襲撃者を襲った。しかし、あっさりかわした。

 そして、斜め向かいの建物に向かって投げたナイフ。

 そのナイフの先には黒縁眼鏡の契約者! ナイフは契約者に当たらず、壁に刺さった。契約者は慌ててその場から離れようとしていた。

 こいつら、グルじゃなかったのか? 

 ……って、そんなことはどうでもいい。体勢を崩したのか、壁から地面…石畳へと着地してまるで動かない襲撃者。契約者の方ばかりを気にしているのか、俺と天使をそっちのけで見ているようだった。こうなったら、捕まえて吐かせるしかねぇだろ。縛る系の雷の呪術式。……これでもくらえや!


「……も《・》う《・》い《・》い《・》よ《・》、ヴ《・》ィ《・》ル《・》ド《・》く《・》ん《・》! こ《・》っ《・》ち《・》っ《・》て《・》!」


 こんなところで聞くはずがない、クリスの声。空には、パンと甲高い音がして、悪魔なんかをみつけたときに上がる黄色い光が。

 バタバタと契約者を追うおっちゃんにウェスタにオメガ。一瞬目があったウェスタに『ゴメン』と笑って口の動きで言われた。


 ……お前ら、俺と天使を囮にしたんかい!!

 襲撃者だった仮面のやつは幻だったのか、その場に残っていたのは二回り以上小さいヴィルド……さん。クリスに向かって「はい」と返事をしていた。しかも、幻系の呪術式を使っていたため、使えなかった呪術式で、俺の縛る系の呪術式を打ち消していた。

 素早くメインストリートをよぎり、さっきの襲撃者だとわかる動きで壁を駆け上がって、契約者のおっさんがいた建物の中へ窓から入って行った。

 俺、ちょっと前、あんな奴の身の安全を心配したの? じじいが大丈夫だと太鼓判を押した理由をまざまざと見せつけられた。


「司教ー、大丈夫っすか? 一応、毒入りは使わねぇって打ち合わせっすけど。怪我してるっすよ」


 「ヴィルドくん、アンジェちゃん狙いでやってるんすから、避けてくださいよ」とぼやいていた。うるっさいわ! 俺聞いてねぇし! 知るかよ!


「そりゃー、言ったら司教、手ぇ抜くでしょ? 司教はロリコンだから、絶対アンジェちゃんを護るって、ヴィルドくんにもみんなで太鼓判押しましたもん」

「聞き捨てならねぇことばっか言ってんじゃねぇ! 俺はロリコンじゃねぇよ!」


 頬を拭いながら叫ぶが、クリス、疑惑の目向けんなよ。


「だって、アンジェちゃんに大好きって。……天下の往来で何ほざいてんだ、このロリエロ司教って思いましたもん。それで、ヴィルドくんに思わずゴーサイン出しちゃいましたよ。計画では、もうちょい昼下がりになってからってことだったんすけどね」


 そこは計画通りやれよ! ヴィルドさんも迷っちまうだろうがよ!

 天使だって、怖かったよな、とか思ったけど。……あれ? そんなに怯えてねぇな。


「アンジェちゃんには事前に言っときましたから。司教には手を出したりしないけど、アンジェちゃん狙いでナイフなんかが飛んできたりするよって。それでも刺さっても痛いだけだって。消したりはしないからねって」


 それはそれで、シチュエーション的にあかんやろ! 幼女にナイフが刺さるって、人道的にも止めますからね?!


「なので、ヴィルドくんにも安心してねって言っときましたよ。しかし、接近戦に持ち込んじゃダメっすよ。バルトさんにも、そういう正体不明の敵に不用意に近づいて対処しちゃダメって教えてもらったっしょ?」


 相手が毒をもってる可能性もあるし、自爆して巻き込む腹があるかもしれねからな。ヴィルド…いや、ヴィルドさんも幻だから慌てて後ろ引いてたな。触れたら、その呪術式が解けるし、ばれちまうだろうからな。契約者も誘き出せねぇよ。

 しかし、なんでおっちゃんじゃなくてヴィルドさんなん? おっちゃんなら、俺の手も知ってるし、かなり緊迫したものになったと思うが?


「襲撃者が誰かわかったとして、司教に不用意にしゃべってもらっても困りますもん。囮になりませんよ」


 やっぱり囮かよ。


「だからって、ヴィルドさんにやらせんなよー。……二度とごめんだわ」


 俺狙いじゃないからあの程度にしても、呪術式を使ってなくてあれだもんな。足洗わなくても、十分腕いいよ。味方だとむちゃくちゃ心強いが、敵に回すと恐ろしいな。まだ背筋が冷てぇよ。

 早く帰ってこないかなぁ。おっちゃんにヴィルドさんたち。



 夕刻。……俺は宿舎で待っていた。しかし、何か知らんが、ボロボロのウェスタとオメガ。おっちゃんとヴィルドさんは機嫌がよくなさそうだった。

 ……うん、捕まえられなかったんだなっていうのはわかるがな。

 ウェスタとオメガに泣きつかれてもね。「もうやっだぁ。この元暗殺者コンビ……」って言われても。ボロボロになったの、この二人が元凶か。……なんとなく、そうだろうなって思ってましたが。


「何言ってやがんだ。相手は契約者だろう? 毒にも耐性あるだろ。当然」


 当然じゃねぇです。少なくとも、俺はありません。


「全くです。ラザフォード司教に向かってされたのですから。自身もされる覚悟が当然あるべきです」


 ……お二人とも、そのことで怒ってたの? で、お二人してやろうとして、この悪魔ズが止めた、と。もし耐性なかったら、どうすんのよ?! この悪魔ズは頑丈だから、この程度ですんだけど!


「死体の処理は面倒だがなぁ。ラザフォードちゃんの迷惑はかけねぇよ」

「呪術式で解体するものがあります。ご心配なきよう」

「おっちゃん、いい笑顔で誤魔化さない! ヴィルドさん、何を解体する気っ?! 俺は違う意味で心配になるよ!?」


 完全犯罪成立しちまうよ! 恐ろしすぎるよ! マジで逃げて、契約者!!


「おいおい、ラザフォードちゃん。どっちの応援してんだよ? 契約者を捕まえるのが目的だろう?」

「顔も気配も覚えましたし、いつでもやれますね」


 淡々と言うヴィルドさんに、「だな」と悪魔的に笑い肯定するおっちゃん。最凶同士が意気投合しちゃったよ! ()っちゃダメだよ、ヴィルドさん!!


「それでは、悪魔化するのを待て、と? 私は構いませんよ。悪魔化してもらえば遠慮なくできますから」


 人間でもあんま容赦なかったヴィルドさんだから。これでそいつが悪魔に転化したら、どうなるか。……簡単に想像できるな。悪魔達よー、怯えて俺に抱きつかんでくれ。いくらなんでも、お前達は消さないだろうよ。………たぶん。少なくとも、今は、な。


「ヴィルドさん、ヴィルドさん。そういうわけには、断じていかねぇのよ。腕や足……あばらの一本、二本くらいならかまわねぇから。なるべく生かして捕まえてくれよ」


 無傷で捕まえて? なんてこの場で言っても無理だろうだから、譲歩案出すさ。アンジェと契約結んだばっかりにこんな目に遭って。……無理矢理契約しろって迫ったようだから、同情はせんが。


「………なるべく、ですか」

「いや、絶対に」


 この御人ら、なるべくとか言っておきながら「やっぱり無理でした。ごめんなさい。テヘペロ~♪」とか言って、わざと殺しかねぇからな。テヘペロは死語だぞ、御二方。


「まったく、ラザフォードちゃんは難しいことばっかり言うなぁ」


 カカカとばかりに笑うおっちゃん。なに、そんなに相手強いんか? だったら……。


「弱すぎて、どこまでの加減で死なないのか測りかねます」

「だな。うっかり手元滑らせて殺しかねぇし」


 そっちかよ!? 殺す方が普通は難しいの!

 「そういうものなのですか?」なんて聞いておっちゃんに確認するなよ、ヴィルドさん! おっちゃんも苦笑して「普通の人間はな」なんて答えないで! 悪魔ズの言葉が現実味を帯びてきたから!


「……とにかく! 殺し反対!! ダメ、絶対! ヴィルドさんは明日から俺と回るぞ」


 俺の前で人殺しはいくらなんでもせんだろう、と目論んでだ。全く、この御人らは油断もすきもねぇ。

 ヴィルドさんは、あっさり「かまいません」って了承した。

 そりゃー、俺のストレス溜まる一方だけど、背に腹は代えられん。……っていうか、契約者といえども人命には代えられんからな。



 悪魔達には、ヴィルドさんと一緒ということで、やたら感謝された。俺の方はピリピリしっぱなしだよ、ヴィルドさん。

 おかんにも「くれぐれも、くっれぐれもヴィルドさんを変に刺激するな」って。とんだ腫れ物扱いじゃねぇ? 最初と違う?!

 うん。こんな風に夜に散策するのは久しぶりかね? おっちゃんと猫は今回、昼間に見失った東区全域を中心としているそうだからな。そこまで、追いかけっこしたんだ、お二方。猫に、くれぐれもおっちゃんが人を殺しそうになったら止めろよ、と頼んだが。……大丈夫だろうか?

 しかし、明日からとか言いながら、その晩回るのもなぁ。感知系でもある悪魔が二体もダウンしたからなんだけどな。毒で痺れて動けん、とか。言い出したからな。……オメガ、つくづく不運なやつ。あいつもどれだけヴィルドさんに奇襲かけられたら気が済むんだろう。きっと、オメガがヴィルドさんに消滅されるまでかな。うん、ありえそう。

 しかし、そんな俺達が、今日も歩いた中央区を歩くのは、何かの因果かねぇ。白いストラもモラさんに新調してもらうため預けているが。ないのは久しぶりだ。

 夜歩くのに、見た目子供と一緒だから、比較的安全なところが中央区しかないんだよな。いや、西区を歩いてもいいんだけど、ヴィルドさんより、俺が心配ってみんなに言われたし。―――逆だろ、普通。

 ヴィルドさん、また神妙な雰囲気で。どちたの?


「ラザフォード司教、お怪我は大丈夫ですか?」


 何だかんだ言って、気にしててくれたんね。割りと優しい子?


「おう。めっちゃ切れ味いいやつだったから。薬塗っておけば痕も残らんだろうってさ」


 現に切られた頬は薬塗って白い布を張りつけている。まぁ、三、四日は朝と昼、そして夜に計三回変えながら、後は放っとけばいいってさ。

 クリス、一応そういう医療系の二級資格も持っているんだよな。医療院に行けばいいのに。――そもそも、その二級の資格を持つきっかけが、俺とかが生傷たえねぇからだっていうからな。そりゃあ行けねぇか。俺とかが心配だから取ったって。……やっぱり、どう考えてもおかんだよな。

 司教といえども、二級までならどの資格でも試験だけなら受けられるからな。俺も受けてみようかな。すぐに使えそうだし。簡単なものなら、自分の治療くらい自分でしたいからな。

 「そうですか」とどことなく安心したようなヴィルドさん。最初は無表情だと思っていたけど、ここ数日一緒にいるから、なんとなくわかるようになったぞ。……すげぇ進歩だな。


「ラザフォード司教、クリスさんの忠告を聞かれました? いくら自信があるとはいえ、接近戦に持ち込むなど無謀です」


 あぁ、ヴィルドさんも同じことを言うのね。……わかってますよ。危険だってね。


「危うく、応戦して脚と腕を折りそうになりました。止めて下さい」


 俺の方のねっ?! 思い出すのは恐ろしいが、触れそうになって寸止めで止めてたもんね。ごめんなさい。ヴィルドさんにまで言われたよ。大丈夫だと思ったんだもん。

 わかってたけど、ヴィルドさんも接近戦できる御人なのね。俺より断然小さいのになぁ。


「ヴィルドさん、悪かったって。確かに、接近戦はここ最近、悪魔連中の仕事だから、俺も油断となまってたってのがあるけどさ。そんな責めんでくれよ。……もうしないよ」


 じーっと見上げるヴィルドさん。疑わしいとばかりに見ないでよ。俺だってちゃんと反省したからね。確かに、昨日の昼、クリスの言葉ではないが、悪魔より俺の心配をしろだよな。


「……私が言えた義理はありませんが、人間は脆いのです。くれぐれもお気を付け下さい」


 ヴィルドさんにとって、ずっと前……四年以上前は人間を殺すものだったからの言葉。重いね、ヴィルドさん。


「……うん、わかった」


 大人しく頷いたが、ヴィルドさんは疑わしいとばかりに見ていた。……本当に何よ、ヴィルドさん。


「……ラザフォード司教は、北部にいなくてはならない方。だからこそ、くれぐれもお怪我をなさらないように」


 ヴィルドさん、デレんなよ! 俺が照れるだろうがっ! 悪魔との契約者だから、嫌ってたんじゃねぇのかよ!!


「……ヴィルドさんやー。昨日の昼、曲解するなって言ったの。もしかしなくても俺の解釈に向かって言ったん……?」


 クリスの方が正しかったってこと……?


「そうですよ?」


 「今頃何を言っているのですか?」と言わんばかりだけど、わからないよ、ヴィルドさん! あの時、なんでこんなリアクションするのだろうなぁって不思議に思ってたんだね。

 素直じゃないじゃなくて、圧倒的に言葉が足りないよ! ヴィルドさん、もうちょいしゃべってよ!!

 猫とか天使みたく、ヴィルドさんも身長が俺より低いからさ。下から見上げるんだけどさ。ヴィルドさんの場合、可愛らしいっていうイメージがないな。あるとしたら……恐ろしいか? 昼間に襲撃者として襲われたからか、そんなイメージしかねぇな。


「で、ヴィルドさんさ。今俺と一緒でみつけにくくないか? 同じ契約者だし」

「ラザフォード司教の呪術力の大きさに隠されがちですが、問題ありません。悪魔憑きを減らすことから始めましょう」


 あぁ、まだいるのね悪魔憑き。小物の契約者のくせに、悪魔憑きを作りだすのはうまいな。


「ずっと地下に潜っててもらっても迷惑だが。こう活発に活動されるのもな」


 やれやれとため息をついた。ヴィルドさん、どした。足止まったぞ。空なんて見上げて。何かある?


「私とラザフォード司教がお会いした日が満月でした。次の新月が十日後。そして、満月が二十四日後ですか。悪魔化のしやすさは、月の満ち欠けが関係しています」


 そうね。またその時に罠にかけるって? 大地神しかり、天空神しかりお祭りは満月時が多いものね。ひと月二十八日単位で、一日が新月だからな。十五日目が満月って計算な。それに合わせて四季も巡ってくるからな。天空神がわかりやすい方がいいって神だけに、そこはきっちりしているな。

 その日は、大地神の聖誕祭があった日だもんね。司教試験と司教補佐試験って復活祭と聖誕祭の間……つまり新月時を挟んであるもんね。その日かその前日に普通は、じじいも中央から帰ってこなきゃいけなかったんだけどな。その日の午後っつうか、夕方に帰ってきたからな。何か中央でトラブルでもあったのかもな。


「やっぱ満月時かね? となると厄介だな」


 人の賑わいも今の比ではないだろうし。悪魔憑きを増やすなら、この日は外せないだろう。

 次の満月は、緑化祭といって、大地の新緑やバラなどの花が綺麗だからな。この時期は他地域と比べ、寒冷な北部も観光客も多いし。いやその次の満月時の夏至祭ほどではないが。

 冬の寒冷さに慣れたせいか、時々、春の日差しもきつく感じるんだよな。普段なら、もう少し優しいはずなんだけど。意外と日差しがきつい時もあるからな。気紛れかのように、さ。……俺がここ最近、疲れているだけかもしれんが。ヴィルドさんの件もあったから。……いや、北部はそういう温度差が激しいともいえるかな!


「その前に、祝日の礼拝時の方が危険では?」


 悪魔憑きも契約者も教会には入れるからな。もれなく、悪魔祓い師にばれるが。


「うーん。それよか、そのあと……かな? そんなへまを許すほど、俺達は甘くねぇけどな」


 その時、必ず一組以上悪魔祓い師が教会に着くし。その周りにも見回りで、ほぼ全員、完全に徹夜で張り込むし、巡回もするし。


「三日後、ラザフォード司教は中央区にいらっしゃるのですか。……なら、私は西区か東区に参りますか」

「寂しいこと言うなよー。一緒に中央区いろよ」


 俺の正装、見て惚れろ。

 アホなことを考えていたのがばれたのか、ちょい厳しい目になるヴィルドさん。空気、冷たいですよ、ヴィルドさん。いや、相変わらず、無表情なんですが。なぜか、そういう気配がしているように感じる。


「戦力の分配は必須です」


 そりゃそうですけど。そういう細かい作戦とかシフトって、他のみんなの意見も聞きながらやっているから、なんともいえない。


「……ヴィルドさん、司教のくせに権限ないわーとか、優柔不断なやつーとか思ったり」

「しておりません。きちんと人の話を聞いて取り入れるのは良いことです」


 今までのツンツンがウソのような変貌。……本当に、この人ヴィルドさん? 幻でなかろうか……。


「やっぱりさ。ヴィルドさんも気にしているように、そいつ『(ゲート)』をみつけたんか? いや、みつけたならくぐっているか」

「『(ゲート)』をみつけ、開く算段がついた、というところでしょう。全くもって遅いくらいです」


 ……契約者という名の辛辣な口を利ける者ができたから、相対的に俺へのあたりが軽くなったようです。ヴィルドさん、おっしゃり方が厳しいです。


「『(ゲート)』なんて一般人がそう易々とみつけられるもんでも、開けられるもんでもねぇからな。それくらいかかっても仕方ねぇだろ」

「不相応として、早々に諦めればよいものを。悪魔祓い師の仕事を増やさないでいただきたいものです」


 ヴィルドさん、愚痴っちゃやーよ。それ、本人に言ったってな。どの道、それだけかかったってことは、転化しても体の一部、もしくは全てが人間の形とは違っているかもしれねぇが。


「……身体だけだとよいですね」


 ヴィルドさんが冷たい。冷たすぎるよ。空気がさ。俺、凍えちゃいそうだよ。

 転化するのは意思とか自我とかそういうものであることも多々あるんだよな。もうそれは、悪魔としてではなく、魔獣として処理されるんだがな。それは駆逐の対象だ。どうしようもねぇな。人間としての意識も理性も残ってねぇんだもの。身体だけが魔獣と同じように人以外になって、理性とか自我とかがある場合は魔物って呼ばれるんだよな。猫男爵のようなやつな。


「悪魔や魔物を使って悪魔祓いとか魔物や魔獣処理っていうのは聞くが、魔獣使ってはしねぇよ?」

「魔獣ができるのは壊すことぐらいですから。聖職者が使っていいものではありません」


 ……別のは使っていいみたいな言い方ね。それもまた、ヴィルドさんが抱える闇の一部なのかもな。


「魔獣を使役する人間も嫌だがな。大体、召喚するにも代償? 生贄? そういうのとかが必要になるって……」


 確かに聖職者には不向きなものだな。生贄ってヤギとか羊とかでも食べる以外に殺すなんて、大地神にケンカ売ってるも同然の行為じゃねぇか。それが動物や家畜だけとは限らないわけだしな。


「人間だけとは限りませんよ。それが悪魔自身であることも往々にしてあることです」


 だね。それでも、使役するのが悪魔の方がまだいいな、と思った時点でダメなのかな?


「どちらにしても、そのようなことをした際には、それ相応の罰が待っておりますが?」


 ヴィルドさんの瞳は、漆黒に近いのに、それが怪しく光った。見、見間違いかな? ……そりゃあ、悪魔祓い師として、それは絶対に見逃せませんね。えぇ、絶対。


「よっぽどの小物の魔獣ではない限り、『(ゲート)』を開いてこちら側に呼ぶから気がつくが」


 ……ヴィルドさん、俺、今すごく嫌なことに気がついた。絶対、ヴィルドさんは前から気づいていた。俺に気づくように、ずっと前から言葉や態度で示していた。


「………ヴィルドさんやー。俺が祓った悪魔は、黒死病の病原菌を持たせたネズミ型の魔獣を召還したって? そして、そのネズミがまだこの地下にいるって思ってらっしゃる?」

「さすがはラザフォード司教です。よくおわかりで。……何匹か駆除したのですが、魔獣が別のネズミと交配して産ませた子孫にも菌を持っている可能性もありますから。その確認もしていきたいと思っております」


 気の遠くなるような話だな。自分を召還した悪魔はもういなくなっても、そいつは生き続ける。嫌なもんだ。今のところ、実害は出ていないが、いつ出ても不思議じゃねぇな。そういう魔獣を使役できるやつが来たら、この北もただではすまねぇだろうからな。全く、その悪魔も余計なものを残していきやがって。

 ……確かに、これは悪魔祓い師としての仕事だな。後始末もちゃんとしろってな。


「まだ調査も必要とはいえ、検討もしねぇとな。俺の独断では決めかねるが……そっち任せることになるだろう」

「ありがとうございます」


 ペコリと一礼するヴィルドさん。実力なら、俺やバルトのおっちゃんに引けを取らない御人だから。責任者として、間違った判断ではない……はず。


「魔獣は悪魔と違って、気配もさらに感知しにくいよな。一人であちこち行っていいって許可出してやりてぇけどなぁ」


 いくら十二で成人しているとはいえ、子供の見習い修道士が一人で町を歩くっていうのは結構目立つからな。……もっとも、じじいに特捜許可をちゃんと書面でもらっているヴィルドさんだから、可能ではあるだろうが。本当に賢いよな。俺、十二ぐらいのとき、そこまで頭回らなかったなぁ。悪魔祓い師の見習いの仕事覚えるので必死だった。


「ヴィルドさんがやろうとしてることは、住民のためになるから。決して間違ってねぇよ? でもさ、クリスとは違う意味で心配なんだよなぁ。ちゃんと報告してくれよ? 困ったことや悩むことがあったらちゃんと相談してくれや。絶対に無理だけはしてくれるなよ?」


 本当はもう一人、つけてやりたいんだが。悪魔祓い師って人数少ねぇし。下手なのをつけると、逆にヴィルドさんの足引っ張るからなぁ。……現に、足を引っ張ったことがあるだけに。


「はい」


 ちゃんと約束してくれるヴィルドさん。絶対だぞ?

 ヴィルドさんは、使い魔がいないとわかりきっているから、そんな話を吹っ掛けてきてくれてるんだろう。たとえいたとしても、その小物の契約者が何かできるとは思えないがな。



 ちゃんと夜が明けるまで二人であたりを見回りしたが、契約者なんて見つからなかった。……見つかったのは、ケチな盗人くらいか?

 ……俺に接近戦禁止とか言ったくせに、お前さんはいいんかい!? そんな突っ込みを入れたくなるほど序盤からその盗人に突っ込んでいった。ナイフでけん制するとかでなく。そんな思わせぶりな素振りもなく。掌底を相手の胸に叩きこんでいた。

 そりゃあ、久しぶりといえども、気功術師ですからね。……呪術師に気功術師って。ヴィルドさん、どれだけ多彩なんだよ。

 もちろんその盗人は、警邏隊に引き渡した。……全く、そういうものに好かれる体質なんかねぇ? ……厄介事や面倒事に好かれる体質? すっげぇヤダ。俺じゃなくて、ヴィルドさんだと思いたいな。その体質。


「司教の方っしょ? 犯罪や犯罪者が司教目指してやってくるんすよ」


 クリス、なんてこと言うんだよ。俺が悪いみたいな言い方せんでくれよ。


「ラザフォードちゃんはいいカモだからね。発光しているように寄ってくるさ」


 俺は誘蛾灯かよ?! おっちゃんにまで言われたよ。俺……泣きそうだよ。


「ラザにも寄ってくるだろうけど、あの子供も一緒にいたのにゃら、相乗効果にゃ。……蛇の道は蛇にゃ。来るに決まってるにゃ」


 ……あいつと歩くの、やめようかな。寄ってきたら、あかんやろ。悪魔とか契約者来いよ。リアル犯罪者はいらん。


「もちっとおまわりの連中にも頑張ってもらわんとなぁ。そんなんだから、おっちゃんも、うん十年稼業できんだよ」


 ……俺に言われましても。おまわりっていうか、警邏隊の方々な。裏稼業の方々の隠語、使わないで下さい。確かにその方々には頑張ってもらいたいが。

 おっちゃんの場合、最後のターゲットに先代をしたんだっけ? そして改心して、裏稼業から足洗ったって流れでしたね。よく先代生きてたな。先代って、本当はすげぇ人?


「ラザフォードちゃん以上に危なっかしいったらありゃしねぇ! 殺されそうって時に、懇々説教しだすんだぞ」


 先代!! 命知らずすぎるだろ!?

 で、とにかくシフトな。……どうすっか? 魔獣の感知って難しいだろ?


「相手ネズミなら猫だろ?」

「捕まえろや」


 キシシと笑う人が悪い……そりゃあ悪魔だったからな。そんな笑い方をするウェスタとオメガ。よっぽど昨日が堪えたのだろう。連中、クリスの後ろから出てこねぇよ。

 お前らねぇ。猫がまだ被害少ないからってそれはねぇだろ。猫も相当嫌なのか、毛も尻尾もピンと立ってブンブンと首を横に振っていた。


「絶対、嫌にゃ! 逆に捕まえられるにゃ! 吾輩にもしも、病気がうつったらどうしてくれるにゃ!」


 ネズミに捕まるのか? お前、それは弱いにもほどがあるだろ。病気? 大丈夫だろ。お前死なねぇし。それでも悪魔かよ。


「一応、悪魔的な階級が下でも。最下位に等しい魔物でも、魔獣よりかは上位だろ?」


 微妙な顔をする戦闘系悪魔たち。……何よ、違った?


「今回召喚されている魔獣はそうっぽいけどね。猫より強い魔獣もいるっちゃあ、いるんよね」

「たまたまこっちの召喚者や悪魔なんかが『(ゲート)』を開いて召喚していないだけでなぁ」

「魔獣でも、でかくて強いの『(ゲート)』の向こう側には、うようよいるもんねぇ」


 ウェスタとロベルトそしてオメガ……結構お前らもきついこと言うよな。どれだけ猫の階級が下なのかわかったが。

 「ほっとけにゃ!!」とにゃーにゃーわめく猫。……こいつってただしゃべる猫だもんな。忘れてたよ。


「最優先事項は契約者の確保です。こちらはただの調査だけですから」


 ヴィルドさんの冷静な一言でシフトも決まったが。いいんかねぇ?

 ヴィルドさん一人、祝日の教会の警備時以外、魔獣の調査となった。好きな時に休むようにって言ったが、性格上休まないだろうな。そんときはクリスに休ませるよう頼むか。

 祝日の警備も別々にされたし。つまらん。……もっとも、一カ月っていっても、遠いようで近いかもしれんが。




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