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ある悪魔祓い師司教の活動記  作者: 山坂正里
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 第三章  ラザフォード司教、枢機卿に呼び出される。

コメディを目指してます。

 そういえば、昨夜もここに来たな、と思いながら、枢機卿お付きの後ろを歩いた。本来なら、俺も正装でないといけないんだろうが、すぐに、だし。昨日も略装で来し、大丈夫だよな。

 大体、悪魔祓い師に、本来なら休日なんてねぇし。市民の安全確保が最優先だからな。

 人払いがされているのか、お付きも枢機卿の執務室前で待機し、俺の後に続こうとはしなかった。えぇ、俺一人でじじいに会えって? いやだー。

 執務室の机に向かっているじじいは、夜……そこまで更けていないにせよ、がっつり緋色のローブ。同色の上が正方形の帽子まで被っての正装だった。今日、そんな祭典みたいな行事なかったはずなんだがなぁ。

 ペン立てが邪魔で、何か書き物をしているとは分かるが、何を書いているかは分からなかった。そんなじじいの側に、昨夜みたくヴィルドが控えているかと探したが、どこにもいなかった。どこに行ったんだろ、あいつ。


「あぁ、ラザフォード司教。僕に何か言うことがあるんじゃない?」


 少し、親しみのある笑みをみせながら、書く手をやめずに告げるじじい。


「……明日から、ごみ処理場などで働く受刑者達の面会をさせてもらってもいいですか? 悪魔憑きが大量に生み出されているんです」

「うん、いいよ。今、その書類書いてるから。……ついでに持ち物検査もさせてもらえるようにお願いしてるからね」


 ペンをペン立てに戻し、その脇に置かれた子供の手くらいの大きさのハンコを押したじじい。その書類をもう一度見直した後、折り畳み、封筒に入れた。それをちゃんとシール用の指輪で赤い封蝋もしていた。その後、小さな呼び鈴を左右に振り、鳴らした。

 さっきのお付きを呼んで「これ、刑務所のブラーク署長に届けてくれる?」と頼んでいた。そのお付きが「かしこまりました」と言って受け取り、一礼して出て行った。

 それを見送ってから、じじいはにっこり笑い、指を組んでいた。


「ラザフォード司教、こっちがその許可書ね。これを見せたら、顔パスできるよ」


 さっきの書類と同じ判が押され、書かれた書類を示していた。机の上に置いてるのを勝手に持って行けってやつね。

 俺はそれに「ありがとうございます」と言って、近づいて受け取ろうとしたら、わざと上にあげられた。まだ受け取っちゃダメ、と言わんばかりに。あれ……?


「……それより、他に僕に言うことなぁい?」


 間近で見たじじいはまるで笑っておらず、炯々とした瞳が俺を非難するように見据えていた。

 ……いや、もう心当たりありすぎますけどさぁ。

 だって、都合よくほしい書類をじじいが書いてるなんて、ありえないだろ。おかしすぎるだろ。ヴィルドが先に言ってくれてたに違いねぇよ。

 思わずたじろいだ俺に、じじいはため息をついた。


「頼んだ僕が、こんなことを言うのはなんだけどさぁ。あの子がね。僕に泣きつきに来るなんて、そうそうないと思ってたのね? そこら辺にいる悪魔ごときに後れを取るような、ぬるい鍛えられ方をされている子じゃないから」


 ……それは、身にしみて分かっている。油断もあり、人間に危害を与えられないっていう枷があったとはいえ、うちにいる悪魔三体を相手にしても、全く引けを取っていなかったから。……ただし、性格にはかなり問題があったが。


「だから……僕に泣きついてくるとしたら、他の人間を巻き込みそうになった時だろうなって思ってたんだ。さっきね。危うく、ラザフォード司教を契約者の罠にかけて殺しそうになったって言っててね。すごく落ち込んでたよ。だから……ラザフォード司教の傍にいられないってね」


 あいつ、じじいにそんなこと言ったのかよ。ケガしそうになったのも、死にそうになったのも俺の不注意だろうに。ヴィルドはまるで悪くないのに。なんで自分を責めるんだよ。落ち込んでたって。俺には、そんな素振り、見せなかったのに?


「ラザフォード司教は司教位だから、少なくとも自分以下の身体能力や呪術式力はないだろうって、思っちゃったんじゃないかな? だから、自分は大丈夫ってラインまで、ラザフォード司教を巻き込んだんだろうね」


 ヴィルド一人なら、契約者の位置だってもっと早くに特定できていた。それに、使い魔を追跡して、なんて間接的な方法でなくてもよかったんだ。そして、罠系の呪術式なんて引っかからずに、契約者の確保もできたかもしれなかったんだ。

 全部、俺と一緒だったから、後手、後手に回ってしまったんだ。

 あきらか落ち込んだ俺に、じじいのやつもあきれたのか、ため息をついてみせた。


「……僕はね。それはラザフォード司教の自己責任の範囲であって、ヴィルドは悪くないよって言ってあげたんだけどね。……あの子ね。今でこそ、マシになったけれど。一時、自暴自棄になっちゃったのか、生きていく目標をなくしちゃったようでね。朝も夜も、晴れの日も雨の日も……ずっと空ばかり見上げていたんだよ」


 ここに来た時って……前は別のところにいたというのは前提か、じじい。そういうところで鍛えられたって訳か。

 口も利かず、空を見上げていたって。そんなにここに来たくなかったのか?


「外の世界……日のあたるところ。どちらも、あの子にとっては、手の届かないところだったのだよ。……そして、どちらも望んではいけないところ」


 俺にとっては、当たり前のところ。でも、ヴィルドにとっては……?


「……あの子はね、本人が知っている以上に、重いものを抱えているのだよ。ただでさえ、重荷なのにね」


 じじいもヴィルドに同情しているのか。それとも知り合いからの預かり子だからか。立場を越えて心配しているようだ。やっかみの対象になりそうだがな。

 しかし、かなり後ろ黒い過去を持つヴィルドを預かるなんて、勇気あるな。どれだけその知り合いが有力な貴族筋なんだ? ……いや、保身のためにも詮索はしねぇが。かかわるのも面倒だしな。じじい自身、実家の後押しと本人の過去の功績もあるから、多少のことではその地位も立場も揺らがんが。

 それでも、そんなやつを俺にまた預けるなんて、思い切ったことするな。確かに、あの身体能力を生かすには悪魔祓い師はうってつけだが。


「ラザフォード司教はね。そういう人間にとっては、とても眩しすぎる存在なんだよ。だから、あの子の重荷、少し取り除いてあげてほしかったんだよ」


 取り除くって、本人まるでその意思なかったが……? 俺に突っかかってくるくらいだし。


「あの子がかい? ラザフォード司教、ずいぶん懐かれたんだね。僕なんて、儀礼的な挨拶しか話さないのに」


 そこで「いいなぁ」とか言われましてもねっ! どこら辺がうらやましがる基準なのかわからない。あいつのクリスへの態度を見たら、じじいがキレるレベルではなかろうか、と心配になってきた。いや、割りとあっちも儀礼的っぽいか? 年相応な態度を見せるっていうのが、うらやましがるポイントかよ。


「大事に育ててきた一人娘を悪い男に盗られた父親の気分だよ」


 やべぇ、突っ込みどころ満載だわ。年齢的に考えて、じじいとヴィルドは孫かひ孫のレベルだろうが。そもそも、ヴィルド男だし。じじい結婚してねぇだろ。そして、じじいが育てたわけじゃねぇし。どうせ施設にでも預けてたんだろ。


「冗談はともかく。あの子にも、この件はラザフォード司教に一任するから待機しとくようにと言ったのね。だから、どうするか……ちゃんとラザフォード司教の口から、あの子に伝えてあげてね」


 ようやく許可書を俺に差し出したじじい。そんなの、決まってるだろ。


「……今追っている契約者をとっ捕まえるまで、絶対に返しませんよ」


 許可書を受け取るなり、鼻息荒く踵を返そうとしたが、じじいはこうなることが初めからわかっていたとばかりに楽しげに笑っていた。本当に狸……いやタヌキだな。


「……そうそう。本当にラザフォード司教は、あの子を預けた僕の知り合いの片方に似ているね。だから、あの子も懐いちゃったのかな」


 しんみり語るな、じじい。


「――俺がそいつに似てるんじゃないですよ。そいつが俺に似てるんです」


 ピシャリと言い返すとブフッと吹き出したじじい。笑うな、ゴラァ!


「本当にそっくり。絶対、同じこと言うわ、うん」


 背中をピクピク震わせて爆笑すんなよ。


「……一度会ってみたいですね。その知り合いに」


 ちゃんとあいつの面倒みろや! そんな風に文句だって言いたいし。


「たぶん、ラザフォード司教はどっちとも会っていると思うよ。似ている方とは……遠い親戚だと思うから」


 遠い親戚ってことは、やっぱり貴族かよ。しかし、そんなやついたかなぁ? 俺、全然記憶ねぇわ。

 一礼して、とっととじじいの執務室から出ていった。



 さて。まずあいつがどこにいるのか探さねぇとな。あいつみたいな感知系なら、居場所もわかるかもしれねぇが、俺は違うからなぁ……。たとえ感知系でも、あいつは悪魔でも契約者でもないから無理かもしれんが。


「ラザァァァァァァぁぁぁぁぁ!!」


 どこかで聞いたような声っていうか、ものすごいデジャブな展開だな。一応、ここは大聖堂の本殿だから、悪魔除けの強力な結界が張られているんだが。……小物過ぎるから効かねぇのかもな。


「……バカ猫、こっち来んなっつってるだろうがよ」


 本殿の渡り廊下だから、その結界も緩かったのかもしんねぇが。

 猫男爵が猛ダッシュで俺の方に来て、肩までよじ登ってきた。……いや、うん。中身知っててもかわいいから許すけどよぉ。きつく叱れねぇのも、バルトのおっちゃんが甘やかすからだろう。今度注意しとくか。


「あの子供、怖すぎるにゃっ! 恐ろし過ぎるにゃ! さっき、にゃか庭を散策してたら、ばったり会っちゃったにゃ! 思いきりニャイフにゃげつけられたにゃ! ラザんところのって呟いたら、にゃんとか見逃してもらえたにゃ!」


 見本、見せるんじゃなかったのかよ。思いっきり負けてんじゃねぇかよ。あいつら以下じゃねぇかよ。……いや、まぁ、そうなるだろうとは思っていたけどな。

 目もウルウルさせてまぁ。口さえきかなかったら、かわいいんだけどな、本当に。


「……中庭か。引き続き仕事しろよ」


 肩から降りろとばかりに揺らすが。……こんの猫。しがみついて離れねぇ。今日、大聖堂内部の情報収集だから、こんなところをうろうろしていたのだろうが。


「あの子供にラザは会いに行くのかにゃ? ダメにゃ! バルトがいにゃいときは絶対にダメにゃ!」


 ニャーニャーわめくな。うるせぇ。あいつは俺に危害なんて加えねぇよ。

 ペイッと引き剥がして、廊下に放物線を描くように投げた。すると、ちゃんと地面に着地していた。うん、まぎれもなく猫だ。一応、魔物のはずなんだが、魔物じゃねぇよ。


「ラザにもしものことがあったら、他の連中に合わせる顔がにゃいにゃ!」


 もしもって。お前らとは違うから、大丈夫だつぅの。今日一日側にいたし。


「夜ににゃると人格変わるタイプにゃ!」


 悪魔絡みになると、の間違いだろ。俺んときもそうだった。


「……日中は平気だとラザは言うのかにゃ?」


 くるりんと首を傾げんじゃねぇよ。かわいこぶるなや。

 お前は悪魔…いや魔物だから、昼でも夜でも視界に入った時点でアウトだよ。


「……悪魔差別の激しいやつにゃ。そういう環境だっただけに仕方にゃいにゃ」


 小さくため息つくな猫。悪魔に同情されたくねぇって言いそうだぜ。あいつ、プライド高そうだからな。


「……仕事はちゃんとするにゃ。とにもかくにも、ラザは会っちゃダメにゃ。バルトに言いつけるにゃ」


 下から見上げるなや。ずっと猫の振りしとけや。そして、シスターに可愛がられとけ。くそ。うらやまし過ぎるわ。


「そういうわけにもいかんだろ。ほれ、もう行け」


 しっしっと手で追い払う仕草をすると、不満そうにニャーニャー言っていた。もう無視だ。はっ! バカ猫が。あいつは基本、人間には危害加えねぇっての。



 ……危害、加えねぇよな。


「何の様ですか、ラザフォード司教。場合によっては、あなたをこの中庭から、無事に出せなくなります」


 ヴィルドは、血がついた修道士服から着替えたのか、ウェスタや若い頃のおっちゃんみたく、体にフィットしている黒の上下であった。……腕も脚もモロ露出しているから、例の呪術式がみえていた。……四肢全部に描かれてるじゃねぇかよ。背中とかみえねぇけど、絶対に描かれているだろうな。


「……よし、ヴィルド。とりあえず落ち着こうか。そして、これ抜け」


 木に刺さったナイフ。何本俺に投げつけてきたのか知らないが、俺の司教服、穴あいちまったじゃねぇかよ! 動けねぇよ! しかも、俺を木に張り付けるのが目的とばかりで、全部俺の服に命中してるし。ミスって木に刺さってるだけとかはねぇのな。

 木に張り付けられたままの俺を見下ろすヴィルド。

 ……うん、あいつ、木の枝に普通に立ってるんだよ。結構細い枝だけどな。俺の腕より細いんじゃね? 本当に身体能力も高いな。

 俺がかわせたのか、それともヴィルドがわざと外して投げたのかわからねぇが。このナイフ、夕方の時の罠系のではないよなぁ。刀身が普通の金属っぽいし。

 ヴィルドのやつは、やれやれそんなのも対処できないのか、とばかりにナイフを持っていた腕を横に一閃させた。……それと同時に刺さっていたナイフも消えた。……っていうか、あいつ、何本ナイフ持ってるんだよ。

 変な格好で磔にされてたから、ちょい疲れた。コキコキと腕とか動かしていた。もう冷たい冷たぁい視線を上から感じた。主は誰かわかってるさ、うん。


「じじいから聞いたぞ。もし、俺んとこでていって……それからどうするんだ? 契約者だってそのままってわけにもいかんだろう? 悪魔本体もどこかに潜んでるかもしれんし。近々でかいことをやらかす計画だったようだからな」


 大量の悪魔憑きを生み出して、その生命力を奪うのなら。大方、大きな儀式だか何だかだろうが。こちら側とは異なる次元や世界……向こう側へ行くための『(ゲート)』を開くつもりか。それか、新手の向こう側の住人……悪魔や魔物、魔獣といわれるものを呼び寄せるつもりか。おそらく、その二つに一つだろうが。


「それは一人で探します。枢機卿からも特捜許可が下りております。たとえ他の修道士や司教補佐等に見咎められても、枢機卿からいただいた書面を見せれば、問題ありません」


 じじい……説得させる気あったのか? このガキ、一人で突っ走りそうなんですけど。


「同じものを探すんなら、人手だって多い方がいいだろう? 情報の共有だってしていた方がいいし」


 第一、同じところを探していたら、二度手間だろうが。


「足手まといです」


 うん。実際そうだっただけに耳痛いわ。そんなきっぱり言うなよ。さすがの俺だって傷つくぜ?


「……そりゃー、俺はそういう暗部とかにはさほど耐性ねぇけどよぉ。一応、中央で司教位もとったし? 悪魔に関しては、それなりに一家言があるわけだがなぁ」


 そういう悪魔連中が暗部とかにかかわりが、一切合財無い、とは言わんが。暗部はそれだけ深いんか?


「深いですよ。……そして、罪深い」


 腕の傷痕に目を落としたヴィルド。無表情ながら、憐憫なように見えた。あいつ、年齢詐称してねぇ? どんな生涯を送ってきたのか、俺の方が心苦しくなるぜ。

 ヴィルドは先程までの気配なんかを一切合財消して、上の枝に跳び移り、かけていた修道士服を着出した。……ひょっとしなくても、今の寝間着か? 寝ているところに猫しかり、俺しかりが来たから、ナイフをぶん投げてきたのか?


「……そういう暗部に精通している人間は、いつでもウェルカムだぜ。悪魔祓い師なんて危険な役職、誰もつきたがらねぇからな」


 新人っつっても、どこかの地方の教会に配属するため、最低どの資格も二級は受からねぇといけねぇってやつしか来ないからな。そういうところにも悪魔は潜んでいるかもしれねぇっていうのに二級かよ、と突っ込みてぇ。司教補佐になると、準二級でいいってルールがあるからな。二級ほど、基準も厳しくないけど、他の資格と比べたら、十分厳しいってやつだ。


「……そういう方、今もいらっしゃるでしょう?」


 修道士服を着終わって、最後に枝先にひっかけていた銀のロザリオを取り、首にかけていた。それは、随分古そうなもので、首にかける紐には黒と青の珠もいくつかついていた。おそらく、じじいからもらったものだろうとあたりをつけた。普通の修道士が持てるロザリオじゃねぇよ。俺がミサに出るための正装時の儀式用に使うものと変わらない装飾がされてるからな。

 しかし、ヴィルドも自分と同じ空気をまとう人間がいることに、とっくに気づいていたか。さすがだな。暗部に通じている者同士ってやつだな。


「いるけどよぉ。戦力は一人でも多いに越したことはねぇだろ?」

「お断りします。次はラザフォード司教……死にますよ?」


 はっきり言ってくれるね、お前。確かに、今回は危なかったけどよぉ。


「悪魔絡みで死ねるなら本望さ。市民を多く守れるなら、なおさらな」


 真顔で、本心からで言い切ったが、ヴィルドは素で「あなたは愚かです」と言った。おい、愚かって。何言いだすかな、このガキ!


「あなたが死んだら、今いる悪魔祓い師達は行き場をなくしますよ」


 後ろ黒いことに手を染めていたバルトのおっちゃんなんて、確実に刑務所行きだからな。下手したら、死刑だな。それに俺と契約している悪魔共は白紙になるが、また人間に害をもたらしそうになったら……?


「その時は私が祓いますよ」


 今すぐにでも祓いたい御人ですからね! むしろ、俺が死んだ方がヴィルド的にはお得なのかもな?


「そんな訳ないでしょう。ラザフォード司教は頭が悪いのですか?」


 おい! フツウに悪口になってるぞ! 俺のこと嫌いなんだろ!?

 じろりと絶対零度の瞳で睨むなや! 悪魔達ではないが、ガチでこえぇよ! なんかしゃべってくれや!


「用がないのなら、もう行きます。夜は悪魔が活発化する時間ですので」


 やっぱり、ここで仮眠してたのね。上に跳びたそうなヴィルド。このまま行かせる訳にはいかねぇのよ。


「……悪魔祓い師は、常に危険と隣り合わせだ。だから、今日のことは気にしてねぇ。お前こそ……毒は大丈夫なのかよ」

「いつの話ですか? もうとっくに解毒しました」


 あいっかわらず、取りつく島もねぇな。しかしそれは、毒の耐性ある人間だって、告げたも同然だがな。仮に俺が受けてたら、本当に死んでたな。


「俺は別にお前の過去に興味はねぇ。うちに必要なのは、悪魔を祓う能力の有無だけさ」


 だから、戻ってくれ。……そういう気持ちだったんだが、ヴィルドは目を伏せた。

 やっぱり、ダメか……。


「……私が傍にいれば、ラザフォード司教を傷つけますよ」


 いや、確かに。さっきから言葉の暴力でザックザック傷ついてますけどねっ?! そういう意味じゃないのね。


「悪魔祓い師は全員、傷つくのも死ぬのも覚悟の上だ。俺だけ例外ってのはねぇよ」


 ヴィルドは黙ったまま、俺を見下ろしていた。本当にこいつの沈黙って、重いし怖いなぁ。……十代でこんな雰囲気まとうって、どんな生涯を送ったら出せるんだろうな。


「………ラザフォード司教、あなたは愚かです。こんな悪魔憑きが現れたら……どうされるのですか?」


 そんな言葉とともにヴィルドは枝から降り、別の下の枝に移り、俺の首近くにナイフを突きつけていた。……身長差で地面だと首まで届かんからね。枝から枝に移った、なんて言っているが、実際に移った姿は見ていない。すんげぇ早いのよ。ナイフ、いつ、どこから出したんだろうな。見えなかったよ、俺。

 しかし、生涯でこんな風にナイフを突きつけられるのって、普通の人間なら、何回あるんだろうな。

 残念なことに俺は結構あるぜ。……回数こそ数えてねぇが。バルトのおっちゃんに何回かされているから。慣れっこだぜ。


「……そうだなぁ。バルトのおっちゃんか悪魔連中にそういうのはお任せかな。俺、そういう人間への正しい対処法のうち、こんな風に接近された場合、あんましらねぇのな」


 ヴィルドも別段、俺の答えに満足した様子もなく、ただ淡々と「そうですか」と言っていた。そして、ナイフを消した。ヴィルドも枝を手放し、俺から下がり気味に地面の上に降り立った。……うん、こいつ運動神経いいな。俺、同じことしろって言われてもできねぇよ。


「人には向き不向きがあるのです。ラザフォード司教に向いていることは、他にありますでしょう?」


 ……うん、正論だね。ヴィルドにとって向いているのはそっち方面だったってだけなんだよな。


「で、ヴィルド。元に戻る気あんのか?」

「……一カ月だけですが、その間に契約者と悪魔をみつけますよ」


 カッコいいなぁ! そのセリフ、俺が言うべきことなんだけどな!


「言われなくても。しかし、その悪魔、今まで活動もしていなかったのに、なんで今さら……?」

「会ったときに尋ねましょう」


 だな。考えても、わからんからな。ただ分かったら、そいつへの対策もそいつを罠にかけることもできるんだがな。

 しかし、お前出会った瞬間祓うとか、抹殺するとか言わねぇのな。悪魔嫌いのやつってそういう傾向が高いんだが。


「――よろしいのですか?」

「やめてください」


 俺の顔を立ててやめてくれてたのね! なまじ祓える力持っているだけに恐ろしすぎるだろ!


「……そういえば、お前よー。悪魔って、存在そのものが何なのか……知ってるのか?」


 知ってて祓うっていうのなら、俺がいうのもなんだけど、少し……さびしいな。


「当然でしょう。そんな人間が悪魔祓い師になれるはずがないでしょう」


 うーん、正論だなぁ。それでも、ときどきいるんだけどなぁ。悪魔祓い師の準二級や二級の資格ほしさにここに来るやつの中にはさ。


「……一応、うちにいる連中は全員知っているからそのつもりでいろよ」


 また不用意に発言すんなって意味なんだが。分かってくれたかねぇ?

 俺がしょっぱい顔をしたのに気づいたヴィルドは、下から不審そうに見上げていた。


「……ラザフォード司教、ずっと気になっていたのですが。獣に身を堕とした悪魔……祓ってよろしいですか?」


 こそこそと花壇の陰に隠れて、俺とヴィルドの様子をうかがっている、ものすごく見覚えのある黒猫。……仕事しろって言っただろうが!


「……いや、ダメだ」


 すべからく、悪魔アウトなお人でした。……なんとなく、寝起きとはいえ、猫男爵にナイフ投げつけたっていってたから、ダメな人だとはわかっていたが。本当だな。


「あんな下級。お前が手を下すまでもなかろうて。……情報収集なんかには役に立つんだよ」


 ……ヴィルド、うろんげに黒猫みるな。猫相手には通常しゃべれねぇ内容もしゃべれるってやつだ。人間じゃできねぇところも……っていってもバルトのおっちゃんクラスはしてくれるけど。そればっかりもな。

 ……もしかしなくても、ヴィルドもできるタイプかもしれねぇが。これは、必須スキルとのおっちゃんの言だからね。

 猫男爵も、自分自身の身が危ないと気づいたのか、俺とヴィルドに背を向けるようにして駆けて行った。うん、見事な逃げっぷり。


「お前よー。悪魔連中にトラウマ植え付けるなやー。使い物にならんやろー」


 言うの何回目だ、これ、と思いながらため息をついた。

 あぁ、別に植え付けているつもりなど、私はありませんよーな顔しないの。いや、表情無だけど、なんとなく分かるぞ。実際のところ、ヴィルドは半端なく過剰なだけで、自分から仕かけているつもりないのかもな。猫しかり、理由あってのことだし。

 これで、他の連中にも、非難がましく言われたりしないだろう。

よかった、よかった。



 しかし……。


「なんだって、ヴィルドくんをバルトさんに預けるんですか! 悪魔達より断然、性質(たち)が悪いですよ!」


 ……もう、さっきからクリスうるさい。一応、今刑務所に行くための道中で、ついでに見回り中なんだよなぁ。別に悪魔連中でもよかったんだが。「自分が行く!」とクリスが立候補してきたんだよ。お前、夜も行ったじゃねぇかよ、と思ったが。「明日、非番にしてもらいます」と妙に目が据わっていたから、一応、了承した。……うん、文句言うためだったのな。


「大体、ラザフォード司教がどんくさいのが悪いっていうのに、なんでヴィルドくんのせいになってるんですか?!」


 バルトのおっちゃん、しゃべったのね。だったら、毒の耐性あるし、かなり後ろ黒いやつってわかったろうに。それでも、やっぱりクリスはヴィルドの肩もつのね。


「バルトさんに預けるって、ほとんど最終課程じゃないですか! 今までの見習いも補佐もそうだったのに……」

「だって、ヴィルドもうそこまでのレベルだし? バルトのおっちゃんも多少の感知系とはいえ、クリスとか悪魔連中ほどじゃねぇしな。ヴィルドは戦闘もできるし、うってつけだろ?」


 少なくとも、今まで研修なんかに来ていた口だけのやつらと違って、おっちゃんの足は引っ張らんだろうし、とのことだ。

 クリスもそこは渋々ながら、納得なのか「……それは、そうですけど」と呟いていた。


「不安だから、猫男爵もつけた」

「余計不安になりましたよ?!」


 ……昨夜の件もあるし、なおさらな。しかし、午前中は猫も寝ているし、おっちゃんは非番連中のために昼飯の用意をしているからな。……ヴィルドもその手伝いをしてるのかな?


「……今日は、刑務所の見回りが終わったら、早めに帰りません?」


 あいつら、夜の見回り当番だからな。……今時間、ヴィルドを寝かせておこう、なんてバルトのおっちゃん、やさしいことしねぇからな。猫男爵も、いじめられたって、おっちゃんに訴えていたからなぁ。

 ――なんでだろ。最悪な展開しか、想像できねぇ。うん、そうしよう。

 じじいが書いた許可書を見せると、やはり話も通じているのか、あっさりだった。新しく悪魔憑きにされたと思われるやつもいて、その呪術式も消した。しかし、残念なことに、悪魔憑きを増やしたと思われる原因のものは見当たらなかった。

 やっぱり、クリスも感知系とはいえ俺の側だからみつけにくいのかもな、と思った。本人いわく、それだけでなく、発動しているときでないと感知系でも原因物をみつけるのは困難だと。一応、他の連中にも報告しとくか。


「実際に契約者か悪魔がいたら楽なのですが。そうではないようですから。……厄介ですね」


 ふぅっとため息をついたクリス。やっぱり悪魔憑きを増やした原因、特定できんか。


「夜の見回り連中には、探しておくように頼んでみるか。できるようなら、破壊してもかまわねぇって」


 悪魔憑きを増やす呪術式を完全に無効化するのは、補佐と司教の仕事だが。悪魔連中もできなくねぇだろうからな。もし、対象物が何らかの小道具なら、物理的に破壊しても、効果はなくなるから。バルトのおっちゃんと猫男爵、ヴィルド班でも可能だろう。

 ――いや、あの御人らなら、たとえそれが小道具でなくても嬉々としてやりそうだな。建物だろうが、素手で砕けそうだし、破壊できそうだし。呪術式を使おうものなら、言わずもがな、で。

 


 無事に宿舎に帰ってきたが。……モラさん、どうした?

 モップ片手にうろうろ廊下を行ったり来たりしている女性。……緑色のメイド服にそれとおそろいのデザインのレースが付いたカチューシャをつけていた。ブロンド髪に水色に近い青い瞳。十代半ばの見た目で、背もクリスより数センチ低い。……見た目だけなら、あまり普通の人間と変わらんが、一カ所だけ、フサフサの毛が生えた耳がとがってるのな。

 服装と性別からしてわかるように、悪魔ではある。……もっとも、服装からすぐわかるように宿舎の清掃と洗濯等を一挙に担うバックアップ要員である。可憐な見た目に騙されがちだが、汚いものや汚れが大嫌いで、情け容赦なく、鉄槌を下す猛者でもある。

 ――いや、普段はこんな風に大人しいんだけどな。念のため。


「……ラザフォード、どうしよう。あの悪魔嫌いの子供、バルトに喧嘩吹っ掛けられたみたいなの。助けてあげて?」


 本気になったおっちゃん相手にどこまで通用するかってやつだな。モラさんのような大人しいのに止めろっていうほうが無理だろう。

 本当は止めるの嫌だけど、仕方ねぇな。俺も巻き添えくらいたくないんだがなぁ。

 二人がいると思しき、料理場へと行くが。……あれ、何か妙に静かだよなぁ。あの二人、喧嘩してるんじゃなかったか? 嵐の前の静けさ?


「おう、ラザフォードちゃんに坊、お帰りー。どうした、二人して。今日は早いなぁ」


 昼食とみられる木の器にブラウン色のシチューと思われるものが入っているものを両手にもったおっちゃん。

 おっちゃんの修道士服は……あちこちナイフで切られたと思しき跡が。……痛々しいぜ。

 もう、ことは起こった後だったのか。……おーい、ヴィルドー。生きてる?

 おっちゃんの足にじゃれつく猫男爵。猫、お前も毛並みが悪いぞ。ストレスか?


「ラザー、お帰りにゃー。バルトは頑張ったにゃ。吾輩からは……それしか言えにゃいにゃ」


 泣きそうな。情けない声出すなよ、猫。俺も泣きそうになってきたじゃねぇかよ。


「ヴィルドくんは厨房? 大丈夫ぅぅ?!」


 あわてて厨房の方へと駆けていくクリス。……うん、おかん。やっぱりあいつの心配するのね。おっちゃんの現状見て、普通、逆だよね。


「あいつ、ニャイフの扱いはうまいが、野菜を切るのはへったくそにゃ。厚さニャンセンチとか指定しにゃいとみじん切りかブツ切りにしかしにゃいにゃ」


 ……そうかい。そりゃあ見ものだっただろうよ。


「バルトのおっちゃんよー。もう若くないんだし、無茶せんでくれよ」


 わりと真剣に言ったら、ガハハと豪快に笑って「年寄り扱いすんなー」と言われた。六十だって近いのに、現役引退しろやー。若いもん育てる方に力注いでほしいもんだ。


「すみません、このざるどこでした?」


 木を編んで作られた、そこそこの大きさのざるを片手にひょっこり顔を出したヴィルド……うん、こっちは無傷だ。本当に、こいつ人間離れしとるのぅ。


「あぁ、一番右の戸棚。ちゃきちゃき片付けてくれよー」

「了解しました」


 淡々と答え、顔を引っ込めたヴィルド。……二人の攻防戦で、厨房がえげつないことになってんのなー。で、クリスも片づけを手伝ってると。クリスも楽しそうに(おもにクリスが)そんな話してるからな。

 食卓についてる連中も「バルトのおっちゃんも負けたん?」「引退しろー」だの無責任に言っていた。「そういうことはおいちゃん倒してから言えやー」とおっちゃんも楽しそうに返していた。ここの連中、俺が言うのはなんだけど、明るいなぁ。


「司教ー。明日、ヴィルドくんも休みでいいですよね? というより、しろ!」


 うわぁお、命令? クリスー、お前一応、司教補佐だろ? 俺の部下だよなぁ? 最近、それに疑問視したくなるよ。


「……ヴィルドがそういうならな。好きにしろ」


 もう知らん。できればヴィルドにかかわりたくないからなぁ。

 片付け終わったクリスとヴィルドは厨房から出てきやがった。うん、あいつら、仲いいなぁ。といっても、クリスが世話を焼いてるって感じだが。


「バルトさぁ~ん。ヴィルドくんに、いきなりナイフ投げつけたって、一体何をしてるんですかっ?! ヴィルドくんもびっくりしたって言ってますよ」


 非難がましいクリス。あぁ、やっぱりおっちゃんから仕かけたのね。モラさんの言葉は正しかった。

 うん、きっとおっちゃんだから、当てないようにしてくれたと信じたいね。……下手に動いて当たって、やめるって言ってたやつもいたよねっ?! 準二級受けないとか言ってたやつもいたよね?! やっぱりまたやったのかよ、おっちゃん!


「それをまな板で防いで、おいちゃんに返されたの初めてだよ。おいちゃんもびっくりだよ」


 ヴィルド、お前、どんな逆境にも負けない、強い子ね!? そこは素直に流しとけよ! 避けるだけにしとけよ!!


「おいちゃん、ナイフで服着られたの、ここに来て初めてよ。つい嬉しくなってはしゃいじゃったよ」


 年甲斐もなく、ガキ相手にはしゃぐな! 大体、ヴィルドくらいの年齢の子か孫がいてもおかしくない年だろうが!


「で、厨房がえらいことになったんですね。モラさーん。バルトさんを成敗してくださいよ」


 クリス、情けねぇ発言すんなよ。お前がしろよ。


「俺が? 無理に決まってるでしょ。返り討ちに遭いますよ」


 ハンって鼻で笑った?! 俺、何度も言うが、お前の上司! っていうか、モラさんも成敗できねぇよ! おっちゃんはここの陰のドン! 階級ヒエラルキー、完全に間違ってるよな。もしかしなくても俺、一番下っ!? 悪魔より下?! せめて猫よりか上に。


「最低ラインですね」


 会って二日目の見習いにまで、なめられとる! あかんやろっ!! このままだと、司教としての俺の威厳が……。


「「「「元々ないだろ?」」」」


 食堂にいる全員がハモった?! おっちゃんやクリスまで!?


「にゃいにゃー」


 オイ、猫。てめぇは黙れや!

 この猫、俺が殺意向けても、きかねぇ。ヴィルド並みの殺意向けられたらな。俺に直接向けられていなくても、背筋が伸びるような強さだし。慣れやがったか、この猫。


「バルトのおっちゃんは本気だしてなかったん?」

「いや、向こうも本気だしてなかったし。……俺もさすがになぁ。どっちか、死んじまうぜ?」


 くくくと楽しそうに笑って言うことじゃねぇよな。

 おっちゃんも若い頃は北のこの地でブイブイいわせていた、腕利きだろ?! それとタメ張れるってどんだけ!


「……風の噂で、昔の北の王家だか、側近の血筋が中央で闇に潜ったと聞いたことがあるぞ」


 (じゃ)の道は(へび)、だな。その手の同業者の情報もちゃんと仕入れてるんだな。

 ヴィルドー、私は知りませんよーな顔すんなよ。シチューを始めて見るみたいに、クリスと何か話してるし。

 あれ? ヴィルド、くわねぇの? ヒューっと上行きやがった。


「ラザフォードちゃんと坊も昼飯食べてくか?」


 余分に作ってくれてるのね。そりゃあ、もちろんいただくさ。

 ……何よ、クリス。言いたそうに、こっち見んなよ。


「ヴィルドくん、体調がすぐれないから、上で休むって。交代の時間になったら、呼んでって」


 ……何よ、俺たちと飯食いたくないからそう言ってるって、お前言いたいの? まぁ、そりゃあ、おっちゃんは全く優しくないし? ヴィルドを相当無理させたっていうのはわかるが……?


「ラザフォードちゃんよー。悪いけど、あの子供が飯を人前で食べないっていうのは、気にせんでいいぞ。面とて割れてるんだから、それが普通よ」


 ……そういえば、おっちゃんも人前で食べないな。おっちゃんが作っているだけに、毒を盛っている、なんてことはないだろうが。


「まぁ、習慣みたいなもんよ。悪く思わんでね」


 苦笑を浮かべるおっちゃん。やっぱし、元同業者同士、通じるものがあるのだろう。


「……別に、クリスや俺のこと嫌っているってわけじゃねぇのね」


 クリスは安心したのか、ほっと息をついていた。

 今、ヴィルドが使っている部屋も、モラさんが清掃してくれたようだった。そのため連中がトラウマを植え付けられる前の状態となっている。窓も、新しく石英を削ったものを張り直していたようだからな。


「でもよ。そういう時って何食ってるんだ? ……まさか、そこら辺に生えてる草とかじゃねぇだろうな」


 そんなの許さねぇぞ。ここの監督員としても、一人の大人としてもな。


「……一応、ここは大聖堂内に果樹園も薬草園もあるからなぁ。そこで自分で調達するだろう。水も井戸があるし、大気中からでも集めるだろ」


 その呪術式を知ってて当然みたいな言い方やめてね。……いや、おそらく知っているだろうが。悪魔連中相手に、炎だの雷だの風だの浴びせてきたそうだからな。


「……井戸水よりか、大気中の水集めた方が安全だな。果樹園とかも……勝手に採って大丈夫か」


 じじいのやつが、果樹園は大聖堂絡みの人間なら誰でも使えるようにしたからな。薬草園の方は、毒なんかもあるから許可が必要だけどな。


「おっちゃんもよく果樹園利用してんのな」


 ……しかし、部屋で食ってたら、モラさんに叱られそうだけどな。モラさんの天敵は、名前も出したくない地を這う漆黒の魔物……魔獣だからな。ここって、やっぱり男ばっかりだからか。何か知らんが、そのイニシャルGが出やすいんだと。時々、モラさんの悲鳴が響いてる。そのたびにおっちゃんしかり、猫しかりが退治してるそうだが。

 ……猫、お前は大丈夫なやつなんだな。少し見直した。いや、もちろん、俺も退治できなくはないが。……ただ、生理的に気持ち悪いと思うだけで。できることなら見たくないし、触りたくないなぁ、とは思うが。


「ちなみに今日も台所に出たんよー。おいちゃんとあの子供で退治しといたよ」


 ………ヴィルドも平気な人なんだ。その一件もあって台所がえげつないことになったのか。納得だ。


「おっちゃん、お疲れ~」


 ――――今日一の働きだな、まったく。




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