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ある悪魔祓い師司教の活動記  作者: 山坂正里
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 第一章  ラザフォード司教、悪魔嫌いの少年と出遭う。

誤字脱字、話の矛盾点がありましたら、優しく(ここ大事)ご指摘いただけたら幸いです。

初投稿です。ご都合展開です。

 月に一度の満月の夜っていうのはいつも祭りがある。まぁ、こんな夜遅く……だいたい、もう十時か十一時か? 今日は鐘が鳴らねぇから、正確な時刻は分からねぇなぁ。普通の老人が寝ていても不思議じゃねぇか。―――だが、じじいは起きているだろう。

 おっと、紹介が遅れた。俺はラザフォード。この北部地方、大聖堂に所属する司教だ。もっとも、ただの司教じゃなくて。悪魔祓い師一級という資格に受かり、他の悪魔祓い師を束ねている。その証に簡易とはいえ、黒の法衣に巻き付けている紐は紫だし。肩には金糸の刺繍がされている白いヒレ…いわゆる頚垂帯とかいうストラをつけている。これを着けられんの、この国で五人だけなんだぜ? ……もっとも、何人か欠員が出ているそうだが。

 この国を守護する神は二柱おり、その一柱である天空神から認められた悪魔祓い師……つまり各地方、東西南北と王都がある中央の悪魔祓い師のトップ、司教である証だ。そもそも、この国で金と銀は禁色といわれ、布を衣服として身に着けてはならない原則としての規則があるのな。身に着けていいのは、その両柱と、中央にいる両柱の言葉を代弁し、両柱の友であり、一番の理解者となる巫子だけなんだと。刺繍ならともかく、布で身につけられる勇気、俺にはねぇけど。金ぴかの服ってセンスの問題で、着れるかよって意味で。

 ……で、話が逸れたが。とりま、そこでも立場がある俺が、チョイ早足で大聖堂の回廊を歩いているのも、じじい…俺の上司に当たる枢機卿に直談判しに行くわけよ。

 枢機卿っていうのは、各地方、中央の大聖堂を束ねているドンって考えてもらえばわかりやすいか。で、そのすぐ下が俺みたいな司教な。

 北部地方にいる枢機卿――俺は親しみをこめてじじいと呼んでいるが――は実家が王都でも有力な貴族で。若い頃は――今の俺よりちょっと若い、だいたい十五、六――で巫子になった。まぁ、いわゆるブルジョアっていうか、わかりやすくいうと宗教家におけるカリスマみたいなもんか。巫子って若い時分にしかできねぇし。

今は、この国の王の腹違いの弟君がされているとか、なんとか。その弟君も、俺とそんなに変わらんくらいだそうだから、二十二、三かね? そろそろ代替わりかとかいわれているな。くわしく知らんけど。もっとも、あんまり興味もないが。そもそも、悪魔祓い師と巫子は水と油くらい乖離(かいり)してるだけに、さ。

 ……いい忘れていたが、一応俺も元は貴族だ。しかし、こっちの方が性にあっている気がする。跡継ぎじゃない男の貴族が立身する方法って、宗教家か軍人かって言われているし。跡継ぎの貴族も全員軍で働くっていう建前があるらしいが。この国は、戦争もないし。平和でいいことだ。騎士も、決して悪くはないだろう。比較的、今の宗教家なんかより、華やかな世界らしいとは聞いているが。しかし、宗教家以上に舞踏会だ、社交界だと忙しいらしいからな。

 ……俺、やっぱりこっちの方がよかったよ。少なくとも衣食住は保障されているし。人間相手に剣や呪術式使って殺し合うっていうのは正直いうと、あんまり好きじゃあない。こんなこといっているけど。残念ながら、悪魔祓い師、なんて仕事してるだけに、その台詞はあんまり大きな声では言えない、か。

 神や悪魔って本当にいるのかよって。何人も著名な宗教家を出してる家出身なのに。正直、俺ももっと小さい頃は思ってましたよ。疑ってましたよ。

 はっきり言います。

 ――――います。

 おりますとも。

 元々は俺も中央の王都に住んでいたんだが、北部に来て明確な地域の壁なんてものはないけど、空気が変わるっていうのを体験した。ある場所からある場所の一直線上にそういうスポットがあった。

 一応、この国が天空神と大地神の二柱を主神と崇めているからであって。北部は特に大地神の守護が強いからその影響があるんだと。

 国と国が変わるとその差はもっとすごいらしく、目に見えて不透明な壁が存在するんだと。実際に国越えした人間の話だから、よくわからんが、そうらしい。俺をだましている訳ではないだろうが。だましても、その人物にメリットがあるとはとても思えんが。

 確かに、中央は日照りもさほど強くもなく、俺みたいな色素の薄い人間が多い。俺だって金髪碧眼だし。しかし、北部は日差しもそれなりに強く、空気もどちらかといえばカラッとしている。そのせいか、そこそこに彫りの深い黒髪黒瞳の人間が多い。

 そもそも、天空神も壁画や絵画、ステンドグラスにあるものによると、金髪金目だから、色素薄いもんな。大地神は、それに対比してなのか、銀髪銀目だが。どちらも人間とは思えねぇ色彩だよな。

 俺も悪魔祓い師一級の試験を受けるために、中央に行き、その時に両柱とも会ってはいるが。本当にそんな見た目だったよ。初めてだっただけに、思わず、二度見してしまった。そんな風に見られるのに慣れているのか、両柱とも、気にしてはいなかったが。器がでかいというかなんというか。俺なら、何ガンくれてやがるんだってキレそうですが。すみませんね、器が小さくて。人間的にできていなくて。そういうところは、さすが神様って思えたよ。

 そもそも、悪魔祓い師の一級に受かるやつって少ないし。両柱とも、今回もなれる人いないかもね、と諦めムードだったからな。受ける前から、諦められているのも、なんか腹立つから、受かってやりましたが。

 大地神の方が、その傾向が高くて。それを天空神が窘めている風だったけど。天空神も、内心では、やっぱり無理じゃねぇ? なんて思ってたらしいが。本当に失礼な神達だよな!

 試験が終わってから、俺だけ受かったと知り、二柱とも「よかったねぇ」と軽かった。その後、大地神に「伯爵くらいなら、一人でも祓えるって基準なら……受かるだろうねぇ」なんて、意味深に言われたが。どういう意味だったんだろうな。それ以上の階級の悪魔、祓える気がしねぇよ。出遭ったら、死ねるじゃねぇかよ。

 天空神が比較的若い神で、大地神は古い神だから、というのも理由の一つかもな。……若いっていうのは、外見、つまり見た目の年齢じゃなくて、神としての経験とか、神歴的なそういう意味な?

 早い話、国を護る神によって、その地域の気候は変わる。地形とか、この星? この世界? とにかく、その自転や公転なんて一切合財お構いなく。そのための壁ともいえるのかね?

 全世界この大陸上、国は変わっても、ある伝説は共通なんだわ。

 元々、この星は、人間が住めるようなとこじゃなくて。人々は細々と生きていくことを余儀なくされていた。そこに今いる神や、新しい神が生まれ、人や地域なんかを守護した。それによって国、王家なんかが生まれ、今の生活が出来るってな。

 その国の力イコール神の力っていってもいいくらいで。そのため、巫子選びには慎重に慎重を重ねて規す…らしい。俺はノンタッチだから知らんが。

 で、神の方はそれくらいでいいとして。悪魔っていうのは、単純明快。そのおこぼれを預かろうとして国の力を蝕むやつ…かな? そうじゃないのもいるにはいるが。ほんの一部、な。

 そういうのが進入したり、悪さしたりしないようにするのが悪魔祓い師だ。……こうきくと結構、大事だろ? 縁の下の力持ちみたいなやつだな。

 で、さっきからちょくちょく出てる呪術式とかっていうのは、わかりやすくいうなら、この世界を支える根本っていうか、基本式っていうのか? そういうのを使ってこの世界に介入や改変をするのが呪術師である……か?

 人は誰でもそういう力を持っているが、その大小がある。それによって、各要職に付きやすさっていうのはある。一般に貴族や王族はその力が強いってことになっている。どんなことにも例外は付き物だけどな。ちなみに俺も使える人間だぞ。当たり前だがな。使えないと悪魔祓い師なんてなれねぇって。

 その力を扱って国や人を守護しているのが神だからな。神の方が、断然、その扱いも長けているといわれてが。もちろん、その例外もあるらしい。詳しくは、追々、後々に語る。

 そんな俺が急ぐのも、俺と同じ悪魔祓い師一級試験の資格に受かったやつがいるからだ。その知らせを聞きつけたのが半月前なんだが。肝心のじじいは、中央から帰ってこねぇし。で、手紙や使いを送っても梨の(つぶて)だったからな。けんもほろろに無視されてた訳だ。だから、そいつを俺のところに配属させてもらおうと直談判に行こうってやつだ。

 ――決して、殴り込みではない。ケンカ売ってどうすんだよ。

 え? だったら本人に言えばいいだろうって? ……いや、その一級試験の資格受かったやつってまだ十歳らしく、後見人が必要なわけだし。おそらくそうだろう、じじいに頼み込みに行くわけよ。その子供の顔も名前も知らないってことも、第一の理由なんだがな。秘密レベルが半端ではなく、情報収集担当のやつらにもわからないようにされてたよ。そんな子供が受かったことさえ、一般には秘匿扱いだったよ。

 どちらにしても、一級試験を取るためには、中央に行かねぇといけねぇのな。じじいもその資格試験中、引率として行くわけよ。元巫子のじじいがいたほうが映えるっていうのも理由の何割かあるかも知れんな。その時期に一斉に枢機卿が中央に集まるんだがな。その時に巫子も代替わりするとかいわれているし。今年はしなかったようだがな。

しかし、帰ってきた途端、その枢機卿を奇襲するっていうのも、俺らしいというか、なんというか……。


 

「いやいや、ラザフォード司教ー。僕も正直眠たいんだけど。ちょっとは時間とか考えてよ」

 

 じじいの部屋に無理矢理押し入ってたが、こざっぱりしてんな。……いや机とか椅子とか箪笥とかアンティークでどっしりしたもの使ってるけどな。いいもの使ってるなぁ。じじい、趣味いいな。一応聖職者たるもの、質素であれ清貧であれっていうのもわきまえてはいるが。だから、どこぞの貴族なんかのお下がりか喜捨、寄進されたものなんだろうな、きっと。そういうのはありらしい。使わないと、贈ってくれた人にも、その物にも反対に失礼だからな。もったいないし。……発想が貴族らしくなくて、すみませんね。俺は庶民派なんだよ。宗教家生活が長いからかもしれねぇが。


「こうでもしねぇと、枢機卿、俺の話し聞いてくれないでしょ。ずっと無視って……ヒドクないですか?」


 心当たりがありすぎるのか、目を逸らしたじじい。

 眠たいとか時間考えろとかいうくせに、式典とか祭典とかに着る緋色の正装じゃねぇかよ。略装とかの法衣じゃねぇぞ? なんだかんだ言いながら、俺の訪問を見越していたのかもな。

 じじいって連呼してるが、もうすでに七十を超えているからな。いや、もちろん長生きしてもらいたいものだがな。しかし、七十超えてるっていっても、五十代半ばでも十分通じる若々しさを保っているのは不思議だな。顔もしわないし。なにより、青灰色の瞳は衰えをみせねぇ眼力が宿っているし。

 そういうこともあって、年齢的にもじじいは椅子に座っているが。もちろん、俺は立ったままだが………。


「………だってさ、本人の意向も無視して、どうこうするわけにはいかないでしょ?」

「だったら本人どこですよ。本人に直接言いますよ」


 俺んとこ来いって。まさか、別のところの悪魔祓い師に引き抜かれた、なんていわねぇよな。じじい、お前、何してんだって怒るぞ。怒鳴りつけてやるぞ。


「いや、本人もねー。成り立てだからねぇ? いろいろ忙しいんだよ」


 中央に残って人脈作りか? 確かに、そういうのもねぇと、この宗教家業界も甘くねぇからな。全くもって、残念なことに。

 十歳って年若いのに実力だけあるって大変だな。いろいろ下積みがないでなると、大変な典型例だな。普通は見習いの修道士、そして司教補佐。頃合を見計らって司教だからな。一気に司教になったら、あかんだろ。

 しかし、一級の資格試験ってどれもこれも結構難関だぜ? 毎年、何人か受けているらしいが、ことごとく撃沈しているとか。通常、司教以上の推薦をもらって受けるんだがな。

 じじいってめったにそういう推薦出さないし。北部地方では、どの資格も本当にその実力に見合った人間だけにしか受けさせねぇからな。適正があるのかどうか、いくつもの試験があって、その受験者をふるいにかけるんだが。無論俺も、そのふるいに引っかかった人間なんだけどな。その子供もひっかかった人間か。

 どの資格試験でも、じじいのような枢機卿推薦組みがいる試験って司教推薦組みのみの例年より、試験そのものが難しくなることで有名だけどな。……もう、これって嫌がらせかっ?! なんてレベルだそうだ。それに受かったって……。実力も観察力も半端ないんだろうな。

 そういう噂は、こういうところで働いていたら、嫌でも耳に入ってくるんだよ。別部署とも、ある程度仲良くしておかないと、悪魔祓い師っていうのは、やっていられない仕事なんで。それが嫌か、と言われれば、そうでもないが。誰からも好かれるっていうのは難しいが。仕事に差し支えのないレベルで、好かれたり嫌われたりしたいな、とは思う訳なんだが。

 いやいや、悪魔祓い師って命がけな仕事だけに、本当に実力とかあってもらわないと困るからな。その年で殉職してもらっても寝覚め悪いし。……もっとも、じじいもその点だけはしっかりわかっていて、推薦して、試験を受けさせ、資格を与えたんだろうけどな。

 悪魔祓い師と大聖堂を警備している人間とどっちが死亡率高いだろうって影で噂されているそうだ。……大聖堂も確か、軍とか町の警邏隊とかではなくて、修道士やら補佐やらが警備してるんだと。で、そこの隊長も司教職があるそうなんだが。なかなか受からないらしく、人員難なのだと。

 大聖堂の建物自体、歴史的な価値もあるからな。その破壊活動に勤しむっていうのが悪魔やその関係者だった場合、俺たち悪魔祓い師も動けるが。そうではない場合は動けないからな。しかし、そういう人間自体、罰あたりっていうか。違う意味で俺個人としては、しょっぴきたいけどね。テロじゃねぇかよ。完全にダメなやつだろ。


「そうそう。ラザフォード司教にお願いがあってね? 僕の知り合いからの預かり子。……一カ月ほど預かって?」


 じじいの影。……見習い用のグレーの修道士用の法衣を着た黒髪黒瞳の十二、三歳ほどの子供が立っていた。腰に巻いている布も薄い青というか、水色だから、大聖堂所属なのはわかるが。……俺、じじいに言われるまで気がつかなかったよ。

 ―――まったく。じじいもそんなことで。


「うちは託児所じゃありませんよ!」


 断固拒否だ! じじい、ふざけんなよ、コラッ!!


「まぁまぁ、そういわず。キミとこの子の後学のために、よろしく頼むよぉー」


 俺の機嫌を取成すように下手に出やがって。何が俺のためだっ!


「俺の後学って。……何のですか?」


 自分が楽するためだろ、と喉元まで出かかったが、そこはぐっと我慢した。

 元巫子とあって、本当はこのじじい、中央の枢機卿でもなれた。なのに、空きがないからってことで、わざわざ北部に引っこむくらいだからな。面倒事を避けるためだろ。両柱神の相手に懲りたからっていうのも何割かあるんじゃねぇと俺は思っている。各種様々な神話やじじいの話を聞く限り、性格的にも相当な神達らしいから。


「ほらぁ。資格持ちの子が来た時のため?」


 そりゃあ、その子供も十歳だし? 今、目の前にいる子供とそう変わらねぇか?


「……素人だと怪我しますよ」

 

 悪魔祓い師は危険だと、じじいだって知っているだろう?


「大丈夫、大丈夫。その点しっかりしているから。もし、その子が気に入ったんなら、ずっと預かっていてくれていいよ~」

 

 軽いなっ?! あんたの預かり子だろうがっ! 面倒そうなことを全部こっちに丸投げしてんじゃねぇよ!

 その子供も俺の預かりが嫌なのか。それか、じじいの丸投げ感にイラッとしたのか「枢機卿……」とおもむろに発言していた。

 じじいはじじいで、まるで悪びれた様子もなくて「ん~? なんだい、ヴィルド?」と軽かった。もう、楽しそうに笑ってやがるよ。

 で、その子供は無表情だよ。顔固まっているよ。


「そのようなことをしていただく訳にも」

 

 そんなふうに、ちょい否定的なんよ。俺やじじいに遠慮しているっていうのも何割かあるのかもしれねぇな。


「あっれぇ~? ヴィルドは実際の悪魔は怖い~? そんなことないよねー」

 

 じじいのやつ、その子供……ヴィルドっていうんか? それをまたからかう風に言って……。ほれ、みろ。ヴィルドも黙り込んだよ。沈黙しちまったよ。

 そんなことないよねー、とか言っているように、怖がってということはまずないだろう。そして、そんな風にたきつけても、安っぽい挑発にのるタイプじゃなさそうだぜ。俺がガキの頃なら、あっさりその挑発にものりそうだが。……すみませんね、アホで単純なガキで。

 じじいも相手をみて、その手の言葉をちゃんと使い分けるのか、フッと優しげな表情になっていた。そして、そんな表情でヴィルドを見た。じじいは椅子に座っているせいで目線、そんなに変わらねぇよ。……まぁ、そういう狸っぽいことができねぇと、ここまで出世もできねぇか。


「ヴィルド。キミはまだまだ若い。外に出て……色々な経験をしてきなさい。その経験は、これからの人生の糧となるからね」

 

 ようやく真面目になったじじいに、ヴィルドもしぶしぶ「……はい」と肯定していた。

 しかし、今の時間で緋色の正装ってことは……。ひょっとしなくても、この修道士と話があったからかもな。で、そこに俺が乱入したと。……そして、ついでだから預けよう、と。なんてこったい。俺ってば、飛んで火に入る夏の虫じゃねぇかよ。

 どうでもいいが、いいようにまとめてくれてるけど。これ、俺が一時預かりを拒否したら、どうするんだよ。

 じじいは、俺の困惑を見透かしたように、俺に向かってニッコリと笑った。


「ヴィルドがもう帰りたいって言ったら、別に帰してくれて全然構わないから。預かってくんない?」

 

 やっぱり、俺の方からお断りっていうのは、なしかよ! そう突っ込みたいけど、宮仕えの辛いところ。そこはぐっとこらえた。


「………一カ月だけですからね」

 

 念を押し気味に了承するしかねぇじゃん。

 その答えにじじいは、満足げにニコニコ笑って……。


「ラザフォード司教に任せていたら、一安心だね。よろしくぅ~?」


 なんて楽しそうに言っていやがった。

 初めから、こう答えるってわかってたろ、絶対。やっぱりこの狸じじいが。



 悪魔祓い師専用の宿舎に夜道、歩いて連れて行った。どちらにしろ、大聖堂が所有している敷地内だからそんな危険でもない。しかし、子供の修道士が一人、こんな時間歩いていたら巡回している修道士なんかに見咎められるだろうが。

 俺の髪の長さ、首にかかるかかからないかぐらいで前髪も下して、適当に左右に分けてんだけど。これでも、宗教家の中で、男にしてはちょっと長めかなとか思っていたんだが。ヴィルドは、子供だからか、肩にかかるかかからないくらいで、前髪も癖なのか、アップ気味。見た目からして、クール系で、また若いシスター方受けしそうな感じなんだよ。

 もちろん、俺も年若い方だからか、シスター受けがいいらしいが。正直なところ、よく分からんが。全部伝聞系で、申し訳ねぇ。町行く人たち受けは悪くないようだ、とは日々の仕事の中で分かるんだがな。


「……で。お前、ヴィルドっていうのでいいんかー? まぁ、話聞いてたら分かると思うが、北部大聖堂所属、悪魔祓い師、ラザフォード司教とはー、俺のことよ」

 

 ちょっと自慢げになってしまうのも、大人げないか?

 しかし、ヴィルドのやつは、隣を歩いているけど「えぇ、今日初めて知りました」と結構、辛辣。

 こんの見習い~、と喉元まで出かかったが、ぐっと我慢した。それこそ大人げないよな、と思い直したのだ。


「司教っつったらよぉ、さっきの枢機卿っていうじーさんのすぐ下の位なんだぞ? こう見えて俺ってば、結構偉いんだぞー?」

 

 こう見えてって、どう見えてるんだよ、とセルフ突っ込みを入れたくなったが。二十代の若造の割にって意味でだ。ヴィルドのやつは、子供扱いするなとばかりに黙って俺をじっと見ていた。さすがにそれくらいは知ってたか?


「……各資格の一級試験に受かると司教。二級は司教補佐……でよろしかったですね」

「で、何の資格もないのはそのグレーの修道士服っていうのはわかっているか」

 

 ヴィルドは俺が軽くそう言ったのにも聞かず、ただ自分の服を見ていた。


「ま、これから行くとこは、お前ほどチビっこいのはいなくとも、見習いも補佐もいるから気にすんなー。俺が若い頃……大体お前くらいの時に二級受かったからなー。まぁ、頑張れば受かるさ」

 

 二級は各大聖堂内で行われる。しかし、一級は中央の大聖堂のみのため、枢機卿もその子供を含めて連れて行ったそうだからな。

 ヴィルドの頭を叩こうとしたら、さっと避けられた。俺をうかがうように、警戒しているのか、じっと下から見上げて…。触れられるのが嫌なやつなのだろうな。そういえば、じじいもボディタッチしてなかったし。これなら、ちょっと研修受けたら、準二級でも受かるかもな。

 北部では、別の資格に受かった司教補佐が別地方の教会に異動の際に、悪魔祓い師準二級っていうのを受けなきゃいけねぇのな。悪魔被害はどこの地域でもある訳だから。それに対処できるように、一通りの訓練を受ける決まりだ。その研修は大聖堂の悪魔祓い師用の宿舎で行っているが。つまり、俺の部署なんだけどな。


「しっかし、悪魔祓い師なんてコアな役回りに興味持つなんてなぁ。相当な変わり者だな」


 自分のことを棚に上げつつ、頭の後ろで腕を組んで、軽く言った。

 しかし、またしてもだんまりを決め込むヴィルド。まぁ、()()()にあんなこと言われたらな。引くに引けなくなるよな、と納得だ。

 さっきの身のこなしからして、多少の荒っぽいことをしても大丈夫か。しかし、無表情っていうのは気にいらねぇな。ヴィルドのやつ、さっきから眉ひとつ動かしてねぇだろ。人間味が足りないのもどうなのかと。大方……貴族の愛人の子かねぇ? 本妻とかその子供にいじめられてたか? それなら、表情が変わらなくなってても仕方ないか……。


「で……悪魔祓い師も三つくらい種類あるっていうのは知ってるか? 俺んところは二種類しかいねぇけどな」

 

 ヴィルドのやつはやっぱり、警戒しているのか、俺のことをじーっと見て……。無表情のくせに、目力強いな、こいつ。さすがに、相手が子供なだけに、何ガンくれていやがんだ、なんて言いませんが。……言いませんよ? それこそ、大人げないし。

 一つは一般人にもよく知られている神の力を借りてってやつだ。

 二つ目は自分自身の力……呪術式を使ってってやつだ。

 最後は悪魔と優位に契約していうことをきかせてってやつか。目には目を、歯には歯を悪魔には悪魔をってやつだな。

 それで、ここにいる悪魔祓い師は残念なことに二つ目と最後のやつしかいない。中央にいかねぇと一つ目はないわー。ここ天空神の加護薄いし。大地神の力の方が強いからな。

 しかし、現存する悪魔祓い師の中で、大地神の力を借りてってやつは聞いたことがない。あの神が、そもそも契約ってするのかっていう疑問があるし。契約の仕方自体、知っているのかと問い正したい神だからな。自神優位の契約はしてもってやつで。その人間と対等もしくはその人間優位には……この国でできるやつはいないと思う。できるなら、そいつ人間じゃないと思うし。人間って、俺が認めたくない。


「………ラザフォード司教は、二つ目と最後のものを合わせて悪魔を祓う、悪魔祓い師なのですね」

「あー、じじいから聞いてたか?」

「そういう司教がいるとだけ」

 

 そういえば、俺個人のことは初めて知ったって言ってたからな。

 無表情とは何度も言ったけれど、何か、俺を見上げてくる目が、さっきから妙に冷たい気がするんだが。気のせいか?


「今から行く宿舎には何体いるのですか?」

「んー、一応六体だが。……もしかしなくても、悪魔嫌いか、お前? それで悪魔祓い師になるんかぁ。確かに中央じゃあ、そういうの多いらしいからな」

 

 そういう連中は一つ目の天空神と契約して、呪術力を底上げしてってやつらしいんだがな。


「私は自分自身の力しか頼りません」

 

 あ、パターン二か。まだ話が通じる方だわ。神の力を借りてってやつら、お前らが悪魔と契約してんじゃねぇの? そう言いたくなるほど妄信的っていうか狂信的で狂神的な輩が多いからな。


「……一応、宿舎にいるのは人間には危害加えられねぇって契約してんだから。そう目くじらたてんなや」

 

 大体こいつの感情の振れ幅、わかってきたかもしんねぇ。筋金入りの悪魔嫌いだわ、これ。こいつの周りの空気、一瞬ピリッとしたものに変わったからな。あかん。これ、現場出す前に、何とかしねぇといけねぇかも。無鉄砲にこんな態度で悪魔なんかにケンカ売られたら洒落(シャレ)になんねぇぞ。



 宿舎に着き、「司教ー、お疲れさまー」と言って広間で迎えてくれる補佐のクリス。俺の右腕的なやつだからなぁ。俺と同じ黒の法衣だが、俺の補佐だから青い紐を腰で巻いている。そうじゃない大聖堂所属は、ヴィルドみたく水色に近い薄い青い紐とか布を巻いてる。

 この紐派と布派の仁義なき戦いというか、その好みは本人の意思だからな。自分が付けたい方を付けろってやつで。そこは自由なんだよな。ちなみに、悪魔祓い師宿舎では、圧倒的に紐派が多いが。悪魔祓いを行うに当たって、紐の方が便利だからだが。契約者とか悪魔とか、捕まえた時に捕縛するの、呪術式で強化した紐を使う機会もあるからな。ヴィルドは布派のようだが。

 あ、ヴィルドのやつもクリスをじっと見上げているな。こいつはお前と同じパターン二だよ。それが分かったのか、警戒レベルを少し下げたな。


「司教、この子は? 息巻いていた子と……違うよねぇ?」

 

 「こんばんは」とちょっと屈んでクリスが挨拶すると、今まで見た中では比較的和やかに「こんばんは」って挨拶かえしとるのぉ。俺んときと態度ちげーじゃねぇか!


「あんの狸じじい、その子供は人脈作りだ、なんだと忙しいんだとよ。本人には会わせてもくれなかったぞ」


 非番の広間にいるやつらも興味をもったのか、どやどやと集まってきやがった。……もちろん、ヴィルドが嫌いな悪魔もな。あ、ヴィルドの機嫌が一気に降下した。また、さっきみたく周囲の空気が冷たいものになってきた。


「……まぁね。枢機卿もいつか会わせてくれるよ。何といっても司教なんだから」

「あれあれぇぇ? 司教っつったら、年は若くてもラザフォードとも同格だからねぇ。新手に悪魔祓い師としても立ち上げられんじゃねぇのぉ?」


 慰めてくれるクリスに対し、余計な事を言うなウェスタ。見た目からしても悪魔だからな、そいつ。ヴィルドもガン見だぞ。――もちろん、悪い意味で。

 悪魔連中は修道士服なんて着てねぇし。もろバレだからね。ウェスタとて体にめちゃくちゃフィットしてる胸だけを隠した布に短いズボンだし。へそ出して、そこに銀のピアスをしてるし。赤茶色の長い髪を普通に背に流している。

 何を勘違いしたのか、ウェスタのやつ、ヘラヘラ笑って、ヴィルドを見ていた。


「あれれぇ~? 俺に興味あんのかなぁ? よかったら契約してあげようかぁ?」


 ……うん。落ち着こうな。お前、早まるな。


「……ラザフォード司教。私には、どのあたりが危害を加えないのか分からないのですが?」


 じろりと絶対零度並みに冷たい眼でじろりと睨みつけてきた?! こっちに飛び火したよ!? 全部俺のせいになってるじゃねぇかよっ!! そりゃあ、こいつらの責任者俺だから仕方ねぇけどなっ!


「……いや、あいつが言ってるのは冗談だから。――害、ねぇだろ?」

「悪魔は存在そのものが有害です」


 ――取りつく島もねぇぞ、ヴィルド。

 はい、この部屋の空気が固まりました。筋金入りじゃねぇよ。もう、金剛石並みの悪魔嫌いだわ。違う意味で話しが通じねぇよ。


「ラザフォード。一回、このガキ。……しめていい?」


 ひくひく悪魔たちの顔が引きつってやがる。気持ちはわかるが、後でな。


「じじいの知り合いの子だと。一カ月間預かってくれだってよ」

「枢機卿も仕事増やしてくれたねぇ」


 クリスもちょっと苦笑してる。あきれるしかないわなぁ。

 しかしだ。ヴィルドの方が嫌気さして、じじいに泣きついてくれたら、それも終わるからな。それにかけるか。


「ヴィルド、部屋案内してやるよ。ほれ、こっち来い」


 ちょいちょいと手招きすると大人しくついてくる。ちょっとばかり、俺に対して警戒しているけど、まぁまぁ気を許してくれたかなぁ?


「司教、そんなの俺がしますよ! どっか空き部屋あったかなぁ」


 クリス(おかん)が台帳をひっくり返し、空き部屋を探しているが、ねぇよ。


「クリス、そんなもん相部屋に決まってるだろー。初っ端だから、慣例通りでいくか」


 「いいねぇ」とウェスタをはじめ、悪魔どもが極悪に笑った。見習いたちは、当時の自分たちを思い出したのか顔をしかめていた。なかには不憫そうにヴィルドを見る者までいた。


「ちょ、司教! 相手子供ですよ?! 慣例とはいえ、さすがにかわいそうですよ!」


 「止めんなや、おかん」と口々にクリスをディスる悪魔ども。有害扱いされて、憂さ晴らしがしたくてたまんねぇんだろう。


「せめてもの情けに初心者への心得と二級受験者用の本を置いといてやるから。暇な時読め」


 ――もっとも、暇があればの話だが。

 悪魔祓い師の宿舎にきた初日、見習いだろうと補佐だろうと関係なく、一晩悪魔たちと同室で休む。さっきのヴィルドの不用意な発言で、連中相当ご立腹のようだからな。

 クリスがヴィルドに「あいつら、殺気立っているから。本当に危なくなったら俺の部屋においで」なんて言って、部屋教えていた。クリスのやつ、やっぱおかんだな。それも、めちゃくちゃ心配性の。なんだかんだ言って、あいつ、子供に甘いからな。

 ヴィルドもクリスには懐いたのか、ピリッとした空気ないわー。あ、案内してやるのね、おかん。


「ラザフォードちゃん、ちょっといいかなぁ?」


 ポリポリと頬をかきつつ、悪魔祓い師のなかでも、俺が見習いの時からいる古参なバルトのおっちゃんが言った。北部地方に多い見た目の黒髪黒瞳の五十代ながら、未だ見習いの修道士のままでいる。入って十数年だそうだが、本人が修道士のままでいいっていうスタンスだから何ともいわないが。

 今日も夜の見回り当番なんだが、小休憩で帰ってきていたようだ。


「さっきの子供。あんま近づかん方がいいぞ。かなり隙のない身のこなしだったぞ」


 この手の経験則はおっちゃんの見立ての方が正しいことが多い。やっぱりあのガキ、年齢にしてはかなりいい動きしてたからな。その手の訓練を受けている、もしくは受けていたのかも知れねぇな。


「……あぁ、そうだなぁ。それがあいつらに通用するかはわからんがな。現場で本物に出遭うよりかいいだろう? あの手のタイプ……早死にしそうだ」


 自分の実力と見合わぬ悪魔にも、ケンカ売って殺されそうでな。若い芽をつぶしたくねぇが、ちょっと今のうちに痛い目に遭っていた方がよさそうだ。そういう意味で、あの狸じじいも俺に預けたのかもな。


「……明日の朝、早めに部屋に行ってやれよ。泣いてるかもしれんからな」


 バルトのおっちゃんはため息をつきつつ、膝上にいる生後数カ月ほどの黒い子猫の背をブラッシングしていた。

 泣いてるって。……逆にそれなら俺も見てみたいかもしれん。あの無表情で小生意気なガキが、か?

 もっとも、その膝上にいる子猫もただの子猫ではないんだがな。


「あのガキ、吾輩にもメンチ切ってきたにゃ! 許せんにゃっ!」


 あくまで、猫型の悪魔あえていうなら魔物であって、普通の猫ではない。断じて。だいたい、こんな風にしゃべるしな。おっちゃんの腹話術ではない。する意味ねぇし。どこからそんな高い声出してるんだって思うし。……おっちゃんなら、出せそうだが。変装とか得意だし。クオリティ高いし。

 ブルーアイの瞳をランラン光らせてまぁ。子猫だから、瞳に色素がないんだと。だから、青なんだってさ。俺、猫にはそんな詳しくないから、又聞きなんだが。


「猫男爵。ただ単に触りたかっただけかもしれねぇだろ? 子供は猫好きだからな」

「あれは完全に殺気だってたにゃ! 吾輩も殺る気だったにゃっ!」


 前脚上げて主張してもかわいいだけだぞ、こらー。あざといんだよ、お前。とりあえず、肉球プニプニしとくか。俺も言っててそれはないだろうと思っていたからな。


「……喜びがあぁなったとは考えられんかねぇ?」


 金剛石も驚く硬さの悪魔嫌いっぽいから、無理かもしれんが。絶対にないと思うが。元々、顔面筋が死亡してるようだったからな。ないと思うけどな。


「ムリにゃっ! あれはすでにニャン人かヒトを殺している人間の目にゃっ! そんにゃやつでも、ラザはいいのかにゃ?!」


 あんなガキに殺される人間もどうかと思うがな。確かに、後ろ黒いことの一つや二つ、闇を抱えている人間特有の気配はしたが。


「一カ月の我慢だ。それに、今夜の休みって満月だっていうのにロベルトにオメガだろ? 小休憩中のウェスタもなんか、やる気みたいだし。ここの悪魔トップスリー相手だし。悪魔の階級的にも実力的にも猫男爵よりか、断然上だろ?」


 ウェスタ。ここで一番強いのに、性格は誰に似たのか、子供っぽいからな。俺と実年齢も見た目もそう変わらんというのに。あれだけバカにされたら、ムキになるだろうとは、分かっていたが。

 指を挙げて数えながら、猫に世の常を説いてやった。そして、はぁ、と露骨にため息をついてみせた。

 すると猫男爵はムキになっていた。「吾輩を侮辱するにゃ!」とか、にゃーにゃー喚きながら猫パンチしてもきかねぇよ。俺の手をタシタシしてもあざといだけなんだよ。媚び媚びなのが丸見えなんだよ。どんだけ自分かわいいアピールしたら気が済むんだよと言いたい。


「ニャンコの言葉はこの際置いとくとして。子供の方は、しっかり対処法考えておくに越したことはないからな」


 おっちゃんの的確な突っ込みに、俺は「そうだな」と頷いた。預かっている間に死なれたら目覚めが悪すぎるだろうからな。


「置いとくにゃ! 吾輩ご立腹であるにゃ! 夜食ににゃんこ飯を要求するにゃ!」

「ただ食いたいだけだろ、という突っ込みはさておき、夜の見回り行ってこいや! 他の連中は行ったぞ」

「……ラザは猫遣いが荒いにゃ。行って来てやるにゃ」


 バルトおっちゃんの膝をトンと蹴り、床に降りた猫男爵。その後、床に呪術式が浮かび、抜け落ちるようにして消えた。当番制だし、お前は猫だから夜行性だろうが、と何度言ったらわかるんだろうな、あのバカ猫。そんで、お前猫遣いでいいんだな。悪魔遣いじゃなくていいんだな。悪魔としてのプライド、マジでどこ行ったんだ。せめて魔物遣いって言えよ。

 ヴィルドの案内をし終えたクリスが、階上を気にしながら広間へと戻ってきた。おかん、お帰り~。


「司教、やっぱりあんまりですよ。あんなに傷ついている子供いじめるなんて。あの子、絶対悪魔絡みで嫌な思いしてるんですよ。やめてあげましょうよ」


 クリス……相変わらず子供に甘いなぁ。悪魔が子供に化けていた時、その手が鈍りそうで怖いんだが。


「あいつらだって、ちょっと灸を据えてやるくらいで、実害のあることはせんだろ。……そのせいで、悪魔嫌いがますます増すかもしれんが」

「増しちゃダメでしょう! そんなんだから、司教のことも嫌ってるんですよ」


 悪魔を利用するのも嫌いそうだったからな。悪魔憑きにでも何かされたのかもな。

 やれやれとあきれて言うなよクリス。……っていうか、俺が嫌われてるって知りながら、おかんはガキの肩もつのな。この裏切り者め。


「悪魔の中には、本当にどうしようもないクズもいますからね。実力があっても、性格が破綻しているのもいますし」


 焦燥感にとらわれたように親指の爪噛むなよ。きたねぇだろ。


「あぁ、オメガな。子供が泣き叫ぶのが好きとか。……おかんが心配になるのも、分からないこともないが。むしろ分かるが。分かってしまうのが時々嫌なんだが。

 ―――うん、大丈夫だろ」

 

 ニッコリさわやかな笑顔と親指を立てて安心させるように言ってやった。


「不安要素しかありませんよっ! 今頃出られないように閉じ込められてないかなぁ……」


 おろおろと俺の前を行ったり来たりされてもな。俺は途中でやめさせる、なんてことしねぇぞ。俺もあいつと同じ頃、同じことされたし。……その当時の悪魔連中は、猫男爵を筆頭に弱いやつばっかだったけど。違う意味で……主に精神面を鍛える訓練にはなったが。


「ま、明日、夜明けくらいに行ってやるからさ。クリスも早く寝るぞ。明日も早いんだしさ」


 クリスの肩をポンポン叩いて「おやすみー」と声をかけ手を振り、階段に足をかけた。

 おっちゃんは、いつの間にか消えていた。……たぶん猫が消えると同時くらいに仕事に戻ったんだと思う。おっちゃんもたまにそういう動きするからなぁ。ヴィルドのことをとやかくは決して言えねぇよな。

 その契約悪魔の猫はともかく、おっちゃんがさぼっているとは決して思わねぇが。……長年の信頼感ってすごいな? おっちゃんは真面目に巡回という名の仕事をしているイメージしかねぇな。

 しかし、なんかバタバタ足音が聞こえたり「まてや、このガキャー!」とか聞こえたりするが、気にしねぇ。いやー、元気だなぁ。



ラザフォード司教、影薄かった…

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