出会い
夕日の残光が闇に融けて辺りが薄暗くなった頃、僕は公園のブランコに腰を下ろし、漂う静寂の中、浮かぶ波の音を聞くとはなしに聞いていた。冬の風が強く吹き付け、体温が少しずつ奪われていく。目を閉じると自分の存在が薄れて、消えていく感じがした。
目を開けるとすぐ近くに少女が立っていた。
「おじさん、大丈夫?」
二十代の半ばを過ぎたばかりだったので、おじさん、という言葉に少なからぬショックを受けつつ、なぜ僕に話しかけてきたのだろう、と思っていると「どうして泣いているの?」と少女はさらに訊いてきた。
その言葉を聞いて初めて、自分の頬をつたう涙に気づいた。
「こんな遅くに一人で出歩いちゃ駄目だろう」僕が少女の問いには答えずそう言うと、少女は悲しげな表情で「ごめんなさい」とつぶやいた。僕は心配になり
「ご両親は?」と訊ねた。
少女は泣きそうな顔で首を横に振った。
「死んじゃった」
僕はかける言葉が見つからず黙り込んでしまう。
吹き付ける風の音と潮の匂いが僕らを包み込む。揺れる木の葉。点滅する常夜灯。
少女は何かを言いたそうにしているがなかなか口を開かなかった。僕から聞き出すこともしなかった。二人の間には長い沈黙が続いていた。
寒さと沈黙に耐えられず立ち上がると、少女は僕の腕をつかみ
「私をあなたの家に住まわせてください」と言った。