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ゼオン組あらわる

「確か建築屋は串焼き屋さんの裏の通りだったな」


 もぐもぐとパンを噛みながら空は裏通りに向かう。

 あのあと串焼き屋の他に八百屋やパン屋、乾物屋や鍛冶屋、雑貨用品店や花屋などいろいろな店を巡り、建築物に触れたり、その店の商品を手にとって見ていた。 どうやら資材や食べ物などは地球の食材に似通ったものが多く、地球の気候と似ていることに関係しているのではないかと推測する。尤も酒屋は蒸留酒などはなく、冷えてないワインやどぶろくみたいな物ぐらいしかなかったのだが。

 この街の表通り自体が地球で言うところの『ショッピングモール』のようなもので見ていて楽しい。落ち着いたら欲しいものをまとめて購入しようと考えていた。


「お、ここかな」


 建築屋に着いた空はすいませんといいながらドアをあける。ガラス張りの自動ドアなどこの世界には無いため中が見えず、首だけを出して声をかける。すると中から耳の垂れた犬っぽいおじさんがでてきた。


「おや、君が弱人族の青年さんかい。レティルから話を聞いてるよ。資材がほしいそうだね。自分で修理でもするのかい?」


 おじさんがにこにことしながら空に話しかける。レティルという聞きなれない人の名前がでてきて空はいつの間に情報が回ったのかと警戒するが、おじさんからレティルは串焼き屋の娘だということを教えてもらった。そういえばお互い自己紹介してなかったと思い出す。今度また自己紹介がてら買いにいこうと思う。


「まあ、そんなところです。僕はソラっていいます。扱ってる資材をみせていただきたいのですが・・・」

「ウチは図面引いて大工に発注するくらいだけどね。修理もやってるから少しはあると思う。どれ、となりの広場においてあるから一緒に来なさい」

「ありがとうございます」


 どうやらおじさんは人が良いらしくいつもにこにこしている。案内された広場には木材と石材がおいてあり、きちんと大きさ順に整頓されていた。


「おおっ!これは煉瓦レンガじゃないですか。こっちにもあったんだ!」

「おや、そんなものが欲しいのかい?せいぜい竈くらいにしか使わないのにねぇ」

「いやあ、家のほかに窯も造りたいんですよ。ところでこの店はセメントとか扱ってますか? もし無いとするとこの街は石造りな家が多いけど接着とか何使っているんですか? アスファルトとかあるの?そういえば道路も石畳になっていたなぁ。漆喰の技術があれば日本家屋ができるかもしれない。あ、畳も必要になるな。そういえば鉄材とかは扱ってないんですか? 見当たらないけど!」


 矢継ぎ早に日本での専門用語を店主に繰り出す空に、犬耳の店主は困ったように答える。


「なんかよくわからないけど、接着材はもちろんあるよ。粘り油に特殊な砂をまぜるとしばらくしたら固くなるんだ。不思議だよね。何で固まるのかは分からないけど便利だしウチも置いてるよ。良かったら見てみるかい?」

「マジすか。見たい。見たいです」

「それじゃ、こっち。倉庫に置いてあるんだ」


 ひょこひょこと案内してくれる犬耳おじさんにだまってついていく。文化レベルが低いと思っていた空だったが、なんとかなりそうだと胸をなでおろすのだった。


「ほら。これだよ」

「こ、これ、石灰石かな?」

「なんだいそれは?まあ、その白っぽい砂を粘り油に混ぜると固まるんだ。でっかい石に加工しようとしても時間かかるし、火山の地方でしか取れないから正直言って竈や石と石の目のつなぎぐらいしか使わないよ。こんなのがいいのかい?」

「いやいや、十分来た甲斐がありましたよ」

「そうかい、それならいいんだが・・・」


 うれしそうに店主に話す空に、店主は不思議そうな顔をむける。レティルの言っていたとおり変わった弱人族の青年だと密かに思うのだった。


「そういえば、さっきも聞いたけど鉄材とかは扱ってないですか?鍛冶屋にいけばいいのかな?」

「ああ、鉄材はフェンリル王国が管理してるんだ。許可をもらってる鍛冶屋くらいしか扱えないんだよ」

「武器になるかもしれないからですか?」

「それもあるけど、もともとこの国は鉄が不足してるんだよ。石材なら多いんだけどね」

「なるほど。そういえばさっき王国って言ってましたね。この国は王国なんですか?」

「そうだよ。七人の神種族のひとり、フェンリルの子孫が王様の国だよ。…って知らないのかい?」

「まあ、来たばっかりでして…」


 世界共通の歴史である七神種族を知らないことに、犬耳店主が驚く。犬耳がおろおろしているのがありありとわかるのだが見ていてかわいい。やれやれとため息をつきつつも親切に教えてくれた。やはりいいひとらしい。


「仕方ないな。説明するよ。ここは銀狼族の国で王家は純粋に銀狼族のみの血統をもっているんだ。ぼくは亜人だから雑種なんだけどね。何が違うかというと純血の銀狼族は先祖がえりを起こして銀狼に姿を戻すことができるんだよ。君の知ってるレティルも銀狼が先祖にいるんだけどもうかなり前だし、彼女も亜人だから姿は戻せないんだ」

「なるほど。それじゃ先祖がえりすると力も戻るんですか? それとも姿だけですか?」

「銀狼は氷結魔法が得意でね。姿を戻すとかなり強力になるらしい。他の魔法も使えるんだけど氷結魔法は圧倒的らしいよ。もちろんぼくはみたこともないんだけどね」

「へぇ。魔法があるのか……」

「そういえば君は弱人族だったね。魔法が使えないんじゃ不便だろう。雑貨屋でいろいろ買っておくといいよ」

 

 弱人族は魔法が使えない。その事実を胸に刻み込んだ空は、この世界の魔法の種類について店主に聞いてみることにした。


「銀狼は氷結。他の種族にも得意魔法ってあるんですか?参考までに教えて欲しいんですけど」

「ふむ。まずは僕は土魔法が得意、って言っても土をやわらかくする程度だけどね。これは先祖に猪人族オークがいるからだよ。ほかに竜族は火炎、海人族は水、天空族は風、森林精族エルフは雷、妖精族は光が得意らしいよ。他にも猫人族やら犬人族やらもいるけど自力で魔法を勉強して使えるぐらいかな。相性はいろいろな属性の魔法を試してみないとわからないから大変だよ。ぼくも最初わかんなかったし。先祖にオークがいるって知ってから土魔法を試したからね。ぼくは外見は犬人族だからなあ、予想もつかなかったよ」


 あははと笑いながら教えてくれる店主に、笑い返す空。店主は嫌味がなくずいぶんと話し易い人なので、この世界に来たばかりの空にとっては貴重な存在になっている。散々言われている”弱人族”とやらについても聞いてみることにする。


「僕…弱人族って、散々言われるんですけど…そんなに弱いんですかね?」

「ふむう、君が認めたくないのは分かるが、魔力が無いから魔法も使えないし、力も弱い。せいぜい手先が器用なところくらいかな? だからこそニパンの島でほそぼぞと暮らしているんだろう。君がなぜ島を出てきたかはわからないけど、この街は差別するような人は少ないが、いないともいえないから気をつけなさい」


 そこまで酷いのかと空は考える。それと同時に何かに利用できないかとも考え始める。なにしろ死神さまから力を授かっているのだ。正直自分は弱人族どころか世界最強かもしれないし。考え込んでいる空に店主が優しく話しかける。


「気を悪くしちゃったかい。ごめんよ」

「え、ああ、とんでもない。参考になりました。ありがとうございます」


 お辞儀をして御礼を言う空に対し、店主が詫びを入れてくる。空本人は弱人族でもなんでもないため気にも留めてないのだが、店主は弱人族だと思ったため言い過ぎたことを気にしているようで犬耳が申し訳なさそうにしんなりしている。


「それはいいんで、家の参考画像興してきます。それを元にまた相談させてください」

「あ、ああ、それはもちろんだよ」

「それじゃ、今日はこれで」


 建築屋の店主と別れ店をでる空。あたりは薄暗くなってきており、この世界にも夜があり、月らしき星が見えることに喜ぶ。ついでに帰りに夕飯がてら串焼きを買って帰ろうと思い、そういえばレティルに自己紹介してなかったなと思い出し、表通りに足を向けた矢先に事件は起きた。


「よう、兄ちゃん。景気よさそうだなあ」


 ぱっと見、タチの悪そうなヤツらが4人、空を見て話しかけてくる。レティルが言ったようにすぐ絡まれたということはこの街でうわさが広まることが速いことを示している。そこまで目立ったとは思えないのだが誰かが見ていたか、情報を流した人がいるのかもしれない。


「おいおい、ブルって声もでないのかよ」

「別に変なことはしねぇよ。ちょーっと話をしたいだけだぜ。へへ・・・」


 彼らがウワサのゼオン組の連中だろう。揉め事は正直めんどくさい。暴れてうっかり殺してもアレだし無視して帰ろうと決めて歩き続けていたが、そうは問屋が下ろさなかった。


「おい、ちょっと待てよ」


 そういいながらチンピラ風の男が回りこんでくる。どこの世界でも同じらしい。デルトは地球そっくりと言っていた。こんなとこまで地球に似ているのかと内心デルトに感心した空だった。


「やなこった」


 あっさりとチンピラを無視して空は表通りに向かって歩き出す。男が空の腕をつかんで止めようとするが、そのままずるずると男を引きずっていく。


「いててっ! な、なんだこいつ。びくともしねぇ! …っておい、待てよ!」

「お、おい! なにすんだよ。やめろよ!」

「アタイの兄貴にひどいことすんなよな!」  


 からんでいるのはチンピラ達のはずだが、力の差か、すっかり立場が逆転している。しかも声から察するに女の子もいるらしい。そのまま引っ張られて転んだ男に顔を向け、空は確認したいことを聞いた。


「なあ、お前らゼオン組って知ってるか?」

「え、あ、ああ。俺達がそうだ。俺らに逆らうとひどいぜ!」


 転んだままの男がそう答えると、やっぱりゼオン組の連中かと空は納得し、さらに質問をする。


「で、ゼオン組に逆らうとどうひどいんだ?」

「えーっと。たしか家を壊したり、娘を奴隷商に売ったり、殺したりするみたいだぜ」

「アタイらはそんなゼオン組なんだよ。怖いんだから。」

「おいおい、『みたいだぜ』ってなんだよ……」


 ゼオン組についていろいろ質問する空に対し、チンピラ連中が和気藹々と答えてくれる。結構素直に話してくれるので情報収集はすんなりと行った。どうやら少年少女の集団らしく、正直全く怖くない。

 どうやら彼ら自体は荒事には参加していないようで、ゼオン組が如何に悪いことをしているか又聞きした程度の内容だったのだが。

 それでも空には貴重な情報でもあった。


「なるほど。ゼオン組ってのはひどいやつらだな。なんでお前らゼオン組なんかに入ったんだ?」

「俺と…あっ、俺はブギって言うんだ。こっちの女の子は俺の妹のマリィ。あとはコイツがルタ、こっちがアルコっていうんだけど、俺たち…親がいなくて孤児院にいたんだ。でもゼオンに乗っ取られちゃって、そのままゼオン組に入れられたんだよ」

「アタイたち孤児は奴隷にされるはずだったんだけど、売らないで仕事させてやるって言われて…」

「ゼオンはなんで孤児院なんか乗っ取ったんだ?なんか金銭のやりとりでもあったのか?」

「わかんない。でも院長先生のこと追いかけてた。アタイ覚えてるよ。院長先生嫌そうにしてたもん!」

「何が院長先生だ! あいつは俺たちを置いて逃げ出したんだ! 信じてたのに裏切った最低の女だ!」


 ブギが彼女を思い出したのかはき捨てるように叫ぶ。マリィは何か言いたげな表情をしていたが激高している兄をみて口を出さずにいた。


「逃げ出した? 院長先生は逃げだしたのか?」

「ああ、突然逃げた。ある日いなくなったんだ。何が俺たちを守るだ! 結局面倒見てくれてるのはゼオンじゃないか!」

「院長先生はお前らの目の前で逃げたのか?」

「いや、ゼオンが孤児院に探しに来た。それで逃げたことが分かったんだ…」


 彼らの孤児院での話をいろいろと聞いていると、ゼオンって言う男がゲスな男であることがわかる。おそらく院長先生との間に何かがあったのだろう。子供たちを守ると言っていた彼女が逃げることは到底考えられない。空は彼女が逃げたのではなく孤児院に向かえなくなったのではと考える。そしてそれはゼオンに聞かないと分からないことだった。


「おい、ブギっていったな。今お前何歳だ?」

「え、俺たち男は15歳だ。マリィは12歳」

「院長先生がいなくなったのはいつなんだ?」

「4年前だ。忘れもしないよ」

「そっか…」


 まだ子供じゃわかんないよな…とボソリとつぶやく空。そんな空にマリィが何が分からないのかと聞きたそうにしている。果たしてこの推理を彼らに教えていいものか考えていた。この恐ろしい推理、すなわち『院長先生がすでに死んでおり、殺したのはゼオンかもしれない』という自分の推理を。だから代わりにこうたずねる。


「ゼオンってどういう人?」

「な、なんだよいきなり。どうって…」

「すごい力持ち」

「オークの血を引いているんだ。外見もまんまオークだよ」

「性格は怒ると怖いからみんな嫌ってるよ。でも怖いからみんな逆らえないんだ…」


 予想通り力任せのゲス野郎らしい。どんなヤツか会ってみたいと思い始める。さらに場合によってはぶん殴ってやろうかと正義感が沸いてきていた。


「なあ、ゼオンってやつシメてやろうか?」


 ちょうど力を試すチャンスだと思い、どこまでやれるのか知るのにいい機会だと思う空。先程の木をへし折った力を見ると相当強いらしいし、何よりデルトが”最強”って言ってるのだ。逆に殺さないようにしなければならないだろう。


「えっ!?」

「む、無理だよ!」

「や、やめなよ。弱人族なんかすぐ殺されちゃうよ!」


 マリィがあわてて空を止める。男子連中も同じ気持ちらしくうんうんとうなずいている。


「今いるかなぁ? なあに、殺しはしないよ」


 空はにやりと邪悪な笑みを浮かべている。そんな空にマリィは困った顔をしながら答える。


「たぶんいるとは思うけど…」

「ほ、本気でそんなこと考えてるのか? 絶対無理だって!」

「他にもいっぱい強い人いるんだよ!」


 ブギたちが必死になって止めようとしているが、空は自分が殺されるとは微塵にも思っていない。

 転生の手助けをしたのが死神であり、その力を得た自分の転生には何かしらの意味があるのではとも考え始めている。

 もっとも、死神がデルトであるだけに本当にミスしただけかもわからないのだが。

 少なくとも空は自分は選ばれたのだと確信していた。 

 本来なら死亡事故で終わったはずであり、死神と会い、”地球の記憶を持って”他の星に転生できる人などほとんどいないはずなのだから。


「死神の使者が死ぬわけねぇよなぁ、デルト…」


 空はもう声の届かない少女に語りかけながらゼオンの屋敷に向かっていた。

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