ラテルの街
(さて、街着いたらどうすっかな・・・)
舗装されていない小道を下りながら、空は今後の予定について考える。
(まずは現状の確認と、街で売っている使えそうなものの確保・・・。地球との文化レベルの違いも知らないとな・・・。魔法とかファンタジックなモンあるのかな?)
そう考えながら空はあたりを見渡す。先ほどは街が見えたことでそこにばかり目がいってしまっていたが、太陽があり、空は青く、雲も流れる、まさに地球といわれても違和感のない風景であった。
(うーん、ホントに地球っぽいな。そういやさっき、デルトは好条件だと言っていた。そんなに酷いことにはならないはずだ。というか酷いことになったらホントやってられん。転生した意味なくね?)
(まあ、この力があるし、最悪暴れまわればいいか。どこまでできるかわかんねーけど。)
空がいろいろと思考している間にも街が近づいてくる。
(いろいろ覚えていかないといけないけど、とりあえずは日本での生活になるべく近づけたいな。)
と、目標を定めたところで街に着いたのだった。
_______________________________________________
「着いた着いた。意外にすぐ着いたな。」
街に着いた空はさっそく辺りを見渡す。するとちらほらと人影が見えるのだが、空の視線はある一点に集中する。
(尻尾がある。みんな尻尾持ちだ・・・。亜人・・・てやつか?どんな種類の亜人がいるんだ?言葉通じるのか?)
キョロキョロとあたりを見回す不審者全開の空に周囲の人影が反応し、ささーっと引いていってしまった。そのおかげで空は自分がいかにおのぼりさん状態だったか気付き、同時にあたりにいいにおいがしてきたことにも気付いた。お店らしき建物から煙が出ている。いつのまにか商店街に入っていたらしい。
「お、あれか?串焼きかな?すいませーん!!」
「お、いらっしゃい・・・ませ?」
ふつうのおねえさんっぽい顔しているが、空はすぐに亜人であることを見抜いた。耳が頭上に生えていたからである。きつねだか犬だかの耳のようだ。もっとも空の視線はすぐにおいしそうに焼かれているモノにいってしまったが。
「この串焼きひとつください。」
「はい、200エムノね。ところでアンタ弱人族かい?変な格好してるねぇ?みんな不審がってるよ。」
「あー、まあ、ごめんなさい。ところで俺は弱人族ってのじゃないよ。日本人だよ。わかんないとおもうけど。あ、これ使えます?お釣りあるかな?」
「そ、そんな大金をそんなところに入れてるのかい? あ、お釣りか。ちょ、ちょっとまっててね。えーっと・・・。ひぃ、ふぅ・・・。そのニホンジンってのはあんたの名前かい?変わった名前だねぇ。」
空のポケットには数十枚の金貨が入っており、そのうちの何枚かを手にとって店員のお姉さんに見せる。お釣りを準備しているところを見るとどうやらこの金貨は使えるようだ。本来この世界では革製の巾着袋に貨幣を入れて持ち歩くため、店員のお姉さんが驚くのも無理ないことであった。
「いや、違うから。」
などと会話しながらポケットから出した金貨を1枚店員さんに渡す。そういや言葉普通に通じてよかったなどと思っている空に対して、店員のお姉さんは数え終わったおつりを渡してくる。
「えっと、大銀貨1枚、銀貨4枚に、大銅貨1枚、銅貨3枚、はい、9800エムノね。まったく、弱人族が大金持ってるとすぐゴロツキにからまれるから気をつけるんだよ。」
空腹の絶頂だった空は渡されてすぐに串焼きにかぶりつく。鶏肉に似た味だが繊維質は豚に似ている。タレも甘辛くしてあり、この肉に合っている。食材も地球に似たようなものがあるのかもしれない。いろいろ探してみようと思いながら答える。
「ヤベェ、これクッソうめぇ。だから日本人だとあれほど・・・。しかし怖いね、この街にゴロツキなんているんだ。もぐもぐ。」
「おいしいかい?よかったよ。で、このラテルの街には”ゼオン組”ってのがあってね。自警団を自称して威張ってるのさ。まあ、街の人間には手を出さないけど、あんたみたいなおかしな格好の弱人族なんか真っ先に身包みはがされちゃうよ。」
この街がラテルという名前であることを理解するとともに、この世界の弱人族どんだけ弱いんだよと思いながら、ふと思いついたことを店員のお姉さんにたずねる。
「ま、そんな怖いのには近づかないからいいよ。それより資材売ってる店とかご存知ありませんか?家を建てたいんですけど。石材やら木材、大工道具とか売ってる店とか知ってたら教えて欲しいんですが。」
軽く商売の邪魔をしつつ、空は質問を続ける。せっかく現地人と話ができるんだ、チャンスは最大限に生かす。それが私の主義だ。とは誰が言った言葉だったか・・・。
「資材だったら、大工とかそういった連中に聞けば分かると思うけど。建築店ならウチの裏の通りにあるんだけどね。そこの向かいがねぇ・・・」
犬耳(狐耳?)をしんなりさせて残念そうに店員のお姉さんが言う。
「ゼオン組なんだよ。」