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ソラの恩返し

「それで、ゼオンはもどってるのかい?」


 レティルがゼオン組の人間に聞いたところ、まだゼオンは治療中であり、戻ってはいないということだった。いつ戻るかは分からないが、特に命に別状はないようで、内心空はほっと胸をなでおろした。

 もっともゼオンだから無事なのであり、普通の人間だったら危なかったであろう。空は未だ自分の力加減に慣れておらず、これから修練を積まなくてはと決意する。


「じゃあ、どうするね?ソラ君。君がよければウチでしばらくゼオン組を見張っていればいいよ」


 そう提案するのはマロウである。空には小屋があるのだが、今後のことを考えるとまだマロウの家にいた方が何かと都合がいいかもしれないと考える。しばらくはあらゆる情報を集め、旅に出るかここに残るか決めなければならないのだ。

 落ち着いて考えると、初めての異世界という突然の環境変化に興奮して、パニックになっていたのだろうと思う。死神からもらった力をこれ見よがしに晒したのは悪手であったと判断せざるを得ない。なにしろ目立ちすぎて街全体に変なあだ名が回っているくらいなのだ。

 その結果、自分の力を悪用される可能性も否定できず、庇ってくれているであろうマロウやレティルも結局はゼオンに対抗する為という意図を明確に空にぶつけているのだ。今後、もし戦争などに駆り出されるとしたらと思うと、何のために転生したか分からない。

 ただ幸運なことに、ゼオンとの一件も街の住民の態度から見ている限り、どうも空が悪いとは思われていないフシがある。警察自体も騒ぎの鎮圧に乗り出してきただけであり、実際見知らぬ旅人のような空を外部からの刺客と疑うのも、よく考えれば当然ではある。

 文化の違いで傷害事件が軽い扱いなのか、はたまた本当に少ない確率で、街全体で嫌われ者のゼオンを屈服させて実は英雄扱いされているのか判断しかねるのだが、つい三日前まで普通の日本人だった空にとって見れば、今更ながら顔から火が出るほど恥ずかしいことであった。穴があったら入りたいとはこのことである。


「…ラ君、ソラ君。どうしたんだい。具合でも悪いのかい?」


 うつむいて考え込んでいた空に、心配そうにやさしく話しかけるマロウ。

 隣に座っているレティルも、


「疲れが出たんだろう。悪いこと言わないからマロウおじさんにお世話になった方がいいよ。そうすりゃみんなもいちいち探すことも無いんだし。警察なんかほっといていいんだから」


 さらにレティルは続ける。


「だいたい警察なんかさ、ゼオンが悪さしたって動かないのに、ゼオンとっちめたら動くなんておかしいんだよ。キッチリ文句言ってあげるからソラは安心して、むしろ一緒に怠慢を王都に訴えてやろうか?」


 ヒートアップしていくレティルにこらこらとなだめるマロウだが、空の方を向き、また優しく話しかける。

 

「幸いウチは部屋は余っているんだ。遠慮なくいてくれればいいよ。窓からゼオン組も見れるからね、情報集めにぴったりだよ」

 

 そう諭された空は、しばらく思案したのち、


「分かりました。しばらくご厄介になりま…」


 と、言って二人の世話になることに決めた瞬間、レティルが、


「よっしゃ! そうと決まれば早速準備だよ!」


 と叫びながら立ち上がる。

 何事かと驚く空に、マロウも


「じゃあ、僕はみんなに話してくるよ。あ、ソラ君はゆっくりしてていいからね」


 と、にこやかに話しかけてくる。一体何がどうなっているのか、

 困惑する空にレティルが満面の笑みを浮かべながら宣言する。


「祝勝会だよ! ソラ君が勝ったんだから!」


 一瞬何の祝いだろうかと思う空だったが、


「えええええええ~~!!」


 自分がゼオンに勝ったお祝いだと知って、またも驚愕する空であった。



 ☆~~~~~~~~~~~~~~~~~~☆



 祝勝会の準備中に、空はゼオン組を見張っていたのだが、当然なんの進展も無い。

 ブギたちは部屋を片付けているのか姿をみせず、たまにマリィがこちらに笑顔で手を振ってくるだけである。いや、目立つからやめてほしいんだけど…。

 とにかく暇を持て余していた。


「なんか手伝うかな…」


 そう思って、裏口からレティルの串焼き屋の勝手口にまわり、レティルに声をかけようとすると、袋を持ったレティルと鉢合わせする。


「うわ、びっくりさせないでよ。コレ重いんだからさ、もう!」


 特に怒っているでもなく、笑いながら袋を持ち上げる。その袋の中身が気になった空は、中身がなんなのか尋ねる。


「ああ、これかい。ほら、ホロウ鳥の骨だよ。身を毟ったらもう必要ないからさ」


 今日は宴会だから多く仕込むよ~とうれしそうに大量の骨を見せてくれるレティルに、空は何か思いついたようで提案する。


「じゃあ、その骨全部くれないかな? あと深い鍋も借りたいんだけど」

「ん、いいけど…。なにするのさ?」


 レティルが興味半分、怪しさ半分な顔して聞いてくる。空は、


「ちょっと故郷の料理を披露しようかと…」

「主役にそんな…、でもなんか楽しみかも…、う~ん」


 うんうん唸るレティルに空は説得を続ける。


「なんか悪いし、第一俺が暇だしね。昨日街を歩いていたときに閃いてさ。なんとか作ってみたいんだ。故郷の料理を振舞うことで、自分が違う文化を持っていることを知ってもらえたら、って思う…。ダメかな?」

「ん、じゃあお願いしようかな。ウチの調理場使ってよ。何かあったら言ってくれればいいからさ」

「ありがとうございます。じゃあ、ちょっと買出し行って来ますわ」

「え、じゃあアタシも一緒に行くよ」


 そう言って街に買出しに出る二人。空はレティルと一緒ならば警察に会っても何とかなりそうだなと思いながら道中歩いていると、案の定警察の昨日の二人と会ったのだが…


「あ、あねさ…」

「シッ! 余計なこと言わないで!」


 あわてて警察の口を塞ぐレティルに、口をあけて呆然と見ているだけの空。

 そんな空に警察は気付いたのだが、隣のレティルから感じる妙な寒気に警察は見てみぬフリを決め込んだようで、


「い、異常なーし…」

「ですね…」


「へっ?」と驚きをさらに重ねる空。レティルは警察の二人に近寄りつつ、


「じゃあ、ソラ、行こうか。マルテにカクトもご苦労様」


 と肩をぽんとたたいて労をねぎらう。

 警察の二人はマルテとカクトと言って、どうやらレティルの顔見知りらしい。道理で警察に強気な訳だと空が感心していると、


「あ、そうそう。彼、ウチのお得意様なんだ。彼に何かするんだったらアタシにまず言って欲しいんだけど…、わかった?」


 マルテの肩に手を回し、冷気を漂わせながら耳元でささやくレティル。

 そんな彼女に対し警察の二人は、


「あね…、レティルさんのお得意様でしたら何の問題もありません! ハイッ!!」

「此れにて捜査を打ち切ります! 犯人は行方不明であります!! ハイ!!」


 敬礼しつつ、直立不動でレティルに返事をする警察二人。一体レティルとの間に何があったのだろうか? 警察に追われないのはいいことのはずだが、これはこれで不安を隠しえない空である。


「いい返事だ! あ、そうだ。今晩祝勝会やるから、マルテとカクトもおいで」

「ハイ! ありがとうございます! あねサン!」

「喜んで伺わせていただきます! 姉御!」


 ピクリ…とレティルの耳が動く。その反応を見たマルテ達は『やばい!』と手で自分の口を塞いだが、時すでに遅く、


「――― あんたたちぃイいい!」

「「うわああああああああああ!!」」


 レティルが放った氷結魔法によって、顔面を氷粒で傷だらけにされた警察の二人の姿が残されたのであった。



 ☆~~~~~~~~~~~~~~~~~☆



 警察の二人と別れた空たち二人は、商店街の奥にある八百屋の前に来ていた。レティルは居酒屋と打ち合わせがあるらしく、一旦別れて今は空一人で買い物に来ている。


「おう、そこにいるのは”脱がし屋”の兄ちゃんじゃねぇか! 次は誰だい? 今度は女の子脱がしてくれよ。ガハハ!!」


 と下品な愛嬌を振りまいている店の主人に空は質問をする。


「まあ、それは置いといて…。ちょっと聞きたいんですが傷物の野菜とか安く売ってもらえません?」

「はぁ、まあ、それはいいけどなんに使うんだい? 煮物位しか使い道ないぜ」

「まさに煮物ですよ。傷物の方が都合いいんでね」


 それを聞き、素直にちょっとまってなと大きな箱を持ってくる主人。その中にはさまざまな野菜が入っている。その中に気になる野菜を見つける。どうやら地球で見た食材とは違う様で、主人にいろいろと聞いてみることにする。


「これはなんですか? イモ?」

「それはソイユの実だ。すりつぶして使うんだぜ」


 その茶色の実を見てなぜ空が聞いたのか。それは香りが『醤油』に似ていたからである。すりつぶして肉や野菜にまぶして食べるらしい。なんでもそのままだと辛くて食えないのだと言う。まさに固形醤油ではないかと空は新たな発見に喜んだ。さらに質問を重ねていき、八百屋の主人を辟易させているとレティルが戻ってくる。


「あれ、ソラ君まだやってるの? そろそろ帰らないと時間無いよ」

「ん、もうそんな時間か。他にも回りたいし行くか。じゃあご主人、ありがとうございました。また!」

「おう、今日は俺も行くからそん時にな! レティル! 脱がされんじゃねぇぞ! ガハハ!」

「も、もう! ゴヤおじさんったら変なこと言わないでよ。誤解されるじゃないか!」

「おおっと、遊んでるとカミさんに怒られちまう、ガハハ!」


 悪びれも無く言ってのけるゴヤこと八百屋の主人。また一人空の記憶に愉快な人間が追加された瞬間だった。そんなゴヤが、


「ほれ、レティル」


 ぽいっと桃の様な果物を投げてよこす。ピーモンというらしい。どんなものかというと、


「それ食って精力付けろよ。そろそろ嫁にいかねぇとカティルさんも心配するだろうよ。ガハハ!」


 そんなゴヤにレティルが顔を真っ赤にして反論する。


「だから違うって言ってるでしょ!! もう!! おかみさんに言いつけてやるんだから!!」


 そんなぷんすか怒っているレティルをガハハと笑って見つめるゴヤの目はとても優しい。彼女は街の看板娘のようで、どこへ行っても人気者だと言うことを、この後すぐに空は知ることになる。

 八百屋を出て、次は小麦粉、卵と次々と仕入れに行く。どちらにしろ食材の探索はいろいろと昨日すでにこなしており、順調に進んでいた。その途中、乾物屋で発見したもののおかげで空が王室に目を付けられるのだが、それはまだちょっとだけ先の話である。


「うん、こんなもんかな。乳製品があればいいんだけど。この世界は風習がないのかな?」


 空の呟きにレティルが反応する。


「乳製品…って動物のお乳のことかい? だったらウチの父さんの田舎で扱ってるよ。メープっていう動物のお乳を搾って飲むんだけどね。甘いけど独特のクセがあるよ」

「へえ、やっぱりあるんだね。でもどうしてラテルではないんだろう。見たこと無いよ」

「そりゃ、運んでる間に腐っちゃうからだよ。なにしろラクノの村から獣車で5日はかかるんだから」

「なるほど、輸送の問題か…」


 そういって空は考え込む。なんかうまい手はないものかと。そんな考え込んだ空をレティルがどうしたのかと覗き込む。そうして二人目が合った時、空の脳裏に閃きが走った。


「そうだ、レティルさんがいるじゃないか。今度一緒にその村へ行こう。君がいないとダメなんだ!」


 レティルの手を握りお願いする空。そんな空を見たレティルは先程のゴヤの話と相まって、頬を染めながら硬直する。やがて…


「は、はい…」


 と静かに、恥ずかしそうにうなずいたのだった…。 

 

あれ? なにこの展開。予定と違う…どうしよう

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