銀狼の少女
「フェリアーヌ様、面白い話が弟から聞けましたよ」
「おお! ばあや、どんな話か聞かせておくれ」
空が留置所から脱走しようとしているとき、王城ではアロエと言われるお付の女性が第二皇女のフェリアーヌにラテルでの出来事を聞かせていた。
「弟曰く、ラテルの警邏隊長であるゼオンが弱人族に裸で引きずられていったとか…」
「ほう、警邏隊長といえば盗賊や魔獣の殲滅を職にするものであったな。なぜに裸でひきずられておるのじゃろうな?」
フェリアーヌは王城の屋上からラテルの出来事を偶然見ており、あのマナを感じぬ男かと検討をつけるが、当然ゼオンが裸で引きずられる理由は知らない。
「大方、あの傲慢なゼオンが何か怒らせるようなことをしたのでしょう。元は唯の不良で御座いますゆえ」
「そういえば、ばあやはラテル出身であったな。だからそやつを知っておるのじゃな」
「はい、実家はゼオン組の向かいで御座いますゆえ。弟も迷惑しておりまする」
アロエが顔をしかめて言うのを見て、フェリアーヌは昔アロエになんかあったのかと思い、聞いてみることにする。
「ばあやはその、ゼオンと申したか。そやつと昔何かあったのかのう? 相当嫌っておるようじゃが…」
「ゼオン連中は実家の隣の広場で悪巧みをした挙句、弟を悪の道に引きずろうとしたので御座います。もっとも、弟がいじめられているのを見た私が、そのたびに角材で殴りつけたものですが」
「お、おおう……」
アロエの意外な武闘派な一面を知り、フェリアーヌが実は先程屋上で見てたことがばれたらと身をすくませる。
「しかし、ばあやは警邏隊の編成に賛成したのじゃろ? なにしろ反対しておらぬから隊長の肩書きがあるわけじゃからのう。ばあやが陛下に反対意見を奏上すれば陛下も検討もするじゃろう」
アロエは侍従長として発言力を持っている。彼女自身の能力自体も然ることながら、それは王子時代の現国王を随分諌めたことにも由来する。当時一介のメイドであったアロエには出すぎた行為であったが、誰も咎めるものはいなかった。
彼女の発言は常に正論であり、さらに王子への意見には厳しくもあったが、同時にやさしさもあったからである。その彼女の正しさがフェリアーヌの教育係を命じられた所以でもあり、現国王のアロエに対する信頼度はかなり高い。
「いえ、私は賛成でした。警邏中、盗賊か魔獣と共倒れになれば良いと思いましたゆえ」
「ひ、ひどいのう…」
容赦の無いアロエの意見に唖然とするフェリアーヌだったが、聞きたいのはその弱人族のことだと思い出し話を振ってみる。
「ところで、その弱人族はいかがしておるのじゃ?」
「弟の話によると、警察に連行されたとか…」
「ふむ、まあ、当然と言えば当然かのう。しかしゼオンなる者を屈服させたほどならば警察など蹴散らしそうではあるが…」
「なんでも、”捕まらない”と大言を吐いたそうで御座いますよ」
「すでに捕まっておるようじゃが……。どういうことかのう?」
「それ以上のことは分かりませぬ。また弟から連絡が来ましょう。しばらくおまちくださりませ」
「ふむう…」
アロエはフェリアーヌにお休みの時間ですと告げ、ベッドに横になるように指示する。フェリアーヌは素直に横になり、
「その弱人族はどのような男なのか、会ってみたいものじゃ…」
と、想像しながら眠りに就くのだった。
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フェリアーヌが就寝したころ、警察を抜け出した空はゼオン組に着いていた。
「ただいま…って、あれ?」
空がゼオン組に戻り、顔を出すと辺りには誰もおらず静まり返っている。
玄関を開け、中を覗いてみても暗く静かなままだ。
ゼオンの部屋に行ってみるとどうやら片付けられているようで、壁以外はほぼ元通りになっていた。
「よく考えたら、もう遅い時間なんだ。起きてるわけがねぇ。俺も一旦自分の小屋に戻ろう」
そうして空が小屋に戻ろうとしたとき、物陰から声をかけられた。
「ソラ、帰ってきたの…?」
目を凝らして声のする方を見てみると、マリィが眠そうな目をこすりながらこちらを見ている。
「マリィか…。無事か? 酷いことされてないか?」
「ん、だいじょ…ぶ」
「そっか。今日はもう遅いからおやすみ。俺は一旦自分の小屋に行って荷物取ってくるから。明日また来るよ。」
「ん…」
マリィは静かにうなずく。どうやら無理して起きていたようで、元気な少女はふらつきながら部屋に戻っていった。
「さて、みんなの無事も確認できたし、俺も帰って寝ようか!」
そう言って、空はゼオン組を出て転生場所の小屋に向かう。
道中何事も無く小屋に着いた空は、金貨の無事を確認してベッドに横になり、これから必要になるものを頭の中でまとめていた。
「正直、今が何時か分からん。この世界の時間概念ってどうなってるんだろう?」
「他にも知りたいことがあるが、知り合いが増えたのは良かったかな?」
「明日も忙しそうだ。建築屋行って、雑貨屋行って、鍛冶屋に串焼き屋も…」
「あとは……ゼオン組で…」
「……」
いろいろと考えているうちに、空はまどろみの中に沈んでいく。
こうして空の波乱に満ちた転生初日は終わったのだった。
ようやく初日が終わりました。
自分の文章が下手すぎてつらい…。
2日目からはほのぼの重視でいきたいです。