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第六章 最終日 後半

PM:13:43分 カルタ部部室


「つくばねの~・・・・・・」

「はいっ!!」

 読み手が上の句を詠んでいる声を骨喰先輩の声が被さる。

 バンッと畳を叩くと、その周辺にいた者がカルタ札と共に舞い上がった。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」

 これはもう畳に手刀を繰り出したのと同じだ。  

「君の所の部長さんは、風術士かなんかかい?」

「いえ、そういう魔法の類は使えないかと・・・・・・」

 先輩が手を出す度に竜巻が起るので、俺の隣にいたカルタ部員がそう尋ねてきたのも無理はない。

 俺達(厳密には先輩のみ)はノスフェラトウの戦いを終えると、すぐに全員を叩き起こして(俺自身も含む)部対抗権利書争奪戦へと戻った。ノスフェラトウは妖精達に任せ俺達は現在まだ生き残っている部をしらみつぶしに当たっている。

「苦苦苦、これで二五枚目。絶無だな」

 先輩一人に対して、カルタ部は三人掛かり。本来一対一が主流だがここはお約束の不利ルールを提案した形だ。

「ク、クィーンの誕生だっ! カルタの女王、一宮高校の千崎優奈にもひけをとらない存在だっ!」

 出たよ、超高校級の各分野トップ選手の名が。しかし千崎さんとやらは先輩のように風を操るのだろうか。

「詠まれるのは句だけにしろっ! 呼吸まで読まれたら負けだっ!」

 先輩のお説教の時間が来た。暗記力、瞬発力、反射神経に加えて関係なさそうな攻撃力も他とはずば抜けているから呼吸がうんぬんはもうどうでも良さそうに思えた。

 なにはともあれ、これで残すはあと三つ。



 PM:14:05分 クイズ部部室


 殺人部は全員参加でクイズ部相手に5対5でのクイズ対戦を行っていた。

 一年の新入部員がお茶を出してくれたり対応は良かったが、これは今までで一番苦戦を強いられる戦いとなっていた。

「空中都市、空中の楼閣、インカの失われた都市などと言われるペルーの世界遺産はなんでしょう?」

 司会役の部員が問題を読む。俺達は一斉に答えを書いたフリップを出す。

 クイズ部の五人が同じマチュ・ピチュという答えを出し、殺人部の方は俺と先輩がマチュ・ピチュと書いた。残りの邪子、八尺、矢出は、全員ラピュタと書いていた。

「正解はマチュ・ピチュです。お~と、殺人部、我らがクイズ部との差が広がる一方だぁ~」

 一問正解する事に10ポイント、五問目を終えた時点で250対100。あっちは全員全問正解しているのに対して殺人部は俺と先輩しか正解しないのでやる度に差がどんどん開けていく。

「さぁ、次からは先鋒、次鋒、中堅、副将、大将と、タイマン勝負早押し対決に移ります。これは一人20P入ります」

 ん、これ全問こっちが正解しても勝てなくね?

「さぁ、さっそく行きましょう、先鋒戦、クイズ部三年、狷介孤高の開拓者、内海利隆! 対するはミス研部二年、切裂邪子!」

 く、俺の疑問はさておき早押しならこちらが負ける事はない、幼稚園レベルの問題がくればあるいは。それにしても相手の二つ名みたいなのかっこいいな。

「パンはパンでも食べられないパンは何で・・・・・・」

 完全に相手に見逃してもらって邪子がボタンを叩いた。クイズというかもうなぞなぞだったがこれならば邪子でもいけるはずだ。

「ブドウパンッ!」

「ブー、不正解ですっ!」

 ピンポーン、すかさず狷介孤高の開拓者がボタンを押した。

「フライパン?」

 あまりに簡単すぎたので相手も自信がなかったのか少し語尾が上がった。

「正解ですっ!」

「え~、邪子、ブドウ嫌いだから食べられないよっ!」

 よし、邪子の言い分はほっといて気持ちを切り替えつつ次だ。次鋒は矢出だ、漫画の問題がくればあるいは。ちなみに相手はクイズ部二年、則天去私の先駆者、佐伯弓枝だそうです。

「第二問、ゲームの世界に閉じ込められてしまった主人公が他のプレイヤーとクリアを目指す、大人気小説が原作です、通称SAOとはなんの略でしょうか!?」

 おお、いいぞ、俺はアニメを見ないが、これはたまたま夜放送していたのを見てはまったんだ、勉強の合間に丁度いい三〇分、漫画化もしてるし矢出が知らないわけがない。

 矢出が先に推した。これは正解するだろう。

「スグハ、アスナは俺の嫁っ!」

「おかしいだろっ!」

 思わず声に出してしまった。内容知ってないと出てこないだろがっ! それなのになんで正解しないんだよっ! そうか、こいつは横文字に弱いんだ。英語じゃなかったら正解してたはずだ。そうあって欲しい。

「第三問、血統や門地などで社会的特権を与えられた一族または個人をなんというでしょう?」

 二問目もなんなく則天去私の先駆者に取られ、今度は八尺の番だ。しかし、答えは貴族なんだろうが、これは八尺には難しい問題だろう。

 と、思ったが先に押したのは八尺の方だった。これはいけるか。

 八尺が答える。

「薔薇貴族っ!」

 それを聞いた俺が思いっ切り空気を肺に送り込む。

「薔薇いらねぇぇだろがっ!」

 勢いよく吐き出して、またしても思わず声を出してしまった。なぜ余計な物をつけたのか訳が分からない。 

 この問題は俺が答えを言ったようなものだとして流れた。そして俺の番。

「相対論と量子論を融合さ・・・・・・」

「量子重力理論!」

「正解です!」

 ふむ、特異点定理やホーキングと迷ったが、ひっかけじゃなくて良かった。しかし俺が正解した所で現在270対120、残念だがもう勝ちはない。ここまでなのか。

「いよいよ最後の問題です。これはスペシャルで正解者には500P入りますっ! がんばってくださいっ!」

 おっとここで今までの全てが無駄になるスペシャル問題が飛び出した。

「クイズ部部長三年、無限回廊、豁然大悟の探求者、悠木英才。対するはミス研部部長、三年、死屍累々、狂瀾怒濤の水先案内人、骨喰カンナっっ!」

 なんと先輩にも二つ名があるなんて意味はともかく羨ましいぞ。

「では行きます。・・・・・・我がクイズ部、一年、円転滑脱の女賢者といえば・・・・・・」

 卑怯な、こんな問題、クイズ部員でしかわからないだろう。最後にスーパーサービスしてくれたのは自分達が必ず正解する問題だからだったんだ。

「乾 真弓っ!」

 と思ったが先輩が答えた。

「・・・・・・せ、正解です・・・・・・」

 しかも正解だ、この先輩まじぱねぇ。

「な、なぜ、わかった・・・・・・」

 豁然大悟の探求者が先輩に向かって問いかける。これは俺も知りたい。

「苦苦苦、今年クイズ部に入った一年は四人だ。その内女子は二人、さらにその二つ名で考えば、先ほどからお茶出し、道具の準備とうを手際よくこなし、学年4位の学力を誇るそこの女子生徒に他ならない。彼女の名は・・・そう、乾真弓女史っ!」

 犯人を言い当てた探偵のように先輩は指を差す。

 クイズ部員達はその犯人だったように皆、地に手をついて崩れた。 

「まさか、他の部員の名前まで知っていようとは。お前こそが英知の結晶、クレアバイブルの称号を得る人物だ・・・・・・」

「そうか、ならば名乗ろう、私は死屍累々、狂瀾怒濤の水先案内人、クレアバイブル骨喰カンナっ!」

 先輩を取り囲むクイズ部部員や邪子達から歓声が上がった。

 俺はどうでもいいけど長すぎだろと思った。



PM:15:35分 殺人部部室


 俺は邪子と共に吹奏楽部から権利書を奪ってきて先輩に手渡した。

 時間も押してきていたので、先輩達は最終戦に向けての準備。俺は邪子だけを連れて吹奏楽部へと乗り込んできたというわけだ。

「ご苦労さん、これで残りは一つだな。結局残ったのはサバイバルゲーム部か。うちのサバゲー部は軍隊並だからまぁ順当か。統制もとれてるし装備も本格的だ。ラスボスには申し分ないな」

 先輩はそう言ったが俺にはそうは思えない。サバゲー部は五十人だったかな、こっちは四人。でもどう考えても負けないよな。

「では、ルキ君はここの無線でやつらの音声を傍受していてくれ、不振な動きがあったら連絡を頼む」

「はぁ・・・・・・」

 こうして俺は安全なシェルターのような部室に閉じ込められ、先輩達は外へと駆けだした。「寝ててもいいんだろうけど、一応、聞いとくか・・・・・・」

 サバゲー部の連中は携帯ではなくトランシーバーで連絡を取り合っていた。すべて周波数を拾えるように合わせる。

程なく聞こえてくる音声。

「ガガ・・・・・・こちら、ブラックフォックス・・・・・・ガガ・・・・・・対象はA地点に向かっ・・・・・・ぐあぁぁあっ」

「ガ・・・・・・ガ・・・・・・どうした、何があった。おい、BFっ!」

「こちら・・・・・・タートルネック・・・・・・我が部隊は壊滅寸前だっ! や、やつらは悪魔だ・・・・・・」

 パラパラパラと銃弾を撃つ音が合間に聞こえる。後は悲鳴とか。

「スナイパーがやられた。何故かやつらには場所が特定されるっ! 応援を要請する。繰り返す応援を・・・・・・」

「銃が当たらねぇっ!!! 仲間がどんどん倒れてゆくっ!」

「お、俺、この戦いが終わったら、二組のあの子に告白するんだ・・・・・・」

「俺は、病気の妹に・・・・・・がぁはっ!」

 もう聞いていられない。あまりに相手が不憫でならない。

 俺はそっと無線の電源を落とした。



 PM:16:15分 第一グラウンド


 こうして俺達が水鏡学園の全部活の頂点に立った。

 殺人部は骨喰先輩を先頭に壇上へと上げさせられた。

 開始当初よりは若干人数が減っていたが、それでも大人数の生徒達の注目を浴びるのは緊張する。拍手の中迎えた表彰式。

「優勝部はミス研部の皆さん。健闘された他の部の皆さんも素晴らしかったですが、ミス研部が見事64億の権利を得ました」

 羨望と妬みの入り交じる視線の中、俺達は校長から一枚の紙を手渡された。

「これは?」

 受け取った先輩が首を傾げた。俺は小切手かと思ったがそれにしては大きい。

「賞品のこの学園の権利書です。受け取りなさい。広大な土地、建物、その他すべて含めれば64億の価値があります。理事長は貴方達にこの学園を譲ると・・・・・・」

「はぁ? お金じゃないのか?」

「金なら使い道はあるが、学園は残していてもしょうがないと理事長がおっしゃってな・・・」

「それこそ学生の私達にどう管理しろと!?」

「まさか五人しかいない部が優勝するとは思ってなかったみたいで。まぁ、学年トップが二人もいればどうにかなるだろう」

「・・・・・・ふむ、ここにいる学生全員の授業料も入ってくるし、ちゃんと管理できれば思ったよりいいかもしれんな・・・・・・」

「そもそも理事長なんてのはお飾りでしょう。経理などの管理は他に委託すれば案外どうにでもなるんじゃないですかね」

 考え込む先輩に俺が提案する。

「そうだな、よし、やってみるかっ! そうだな、まず、陸上トラックに花を植える。あそこ一面の花畑を作ってやる」

「あぁ、そんな事言ってましたね」

「有言実行だ。学園の事は生徒会に引き続きがんばってもらうとして、私達はこれから茨の道だ。ここを拠点に凌いでみせるぞ」

 そうだ、先輩達は共喰い者としてこれから妖精のみならず吸血鬼にも狙われる事になったんだ。でも、そんな事はこの俺がさせない、俺は妖精の主だ、先輩には手出しさせないし、吸血鬼が来たら返り討ちだ。

「ルキ君も花を植えるの手伝ってくれるな?」

「姉さんの頼みなら喜んで・・・・・・」

 先輩は俺の姉さんになってくれた。ただし二人きりの時にかぎりという条件の中でだ。人の目が気になるらしく、その代わり二人だけなら何してもいいと言った。俺は我慢した分、後で思いっ切り先輩に甘えよう。今度は吹き飛ばされないように周りに細心の注意を払って。

 俺は見えないように先輩の手を握った。

「ん・・・・・・」

 先輩は驚いたが、ちゃんとその手を握り替えしてくれた。

 俺はもう二度と大事な者を手放さない。

 あの時守れなかった姉さん。今度はちゃんと守りきってみせる。

 例え相手が吸血鬼だろうがなんだろうが俺はそう心に刻んだ。 

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