表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

齋藤一明 小噺集

宿泊型サービスエリア その2

作者: 齋藤 一明

 宿泊型サービスエリア その2


 町おこし事業の視察で思いがけない体験をした役場職員の続報です。


 視察研修を終えてとんぼ返りをした二人、移動疲れもさることながら精神的にも疲れていました。それを癒すために薦められたご休憩システムの毒牙にかかってあえなく撃沈されてしまいました。

 枕元にあった二枚だけでは足らず、かといって追加を注文する勇気もなく、勢いにまかせて……。


「お願い、そとに……」


 お互いにそれくらいの理性は残っていましたが、名残が残っているのに我慢できず……。

 とうとう気を失ってしまいました。


 気が付けばもう朝、陽が高く上っています。慌てて出発しようとしたら検問が……。


「過労運転の取り締まりです、ご協力を。隈ができているけど、大丈夫ですか?」


「隈?」


 思わずルームミラーを見ると、目の下に眉毛ができています。難しそうに考えていた警察官がチラッと施設に目をやりました。


「あ、ああ、……そういうことね。ちょっと度を越したのね? いいでしょう、休んだことに違いはないでしょう。お手数かけました」


 意味ありげな笑みをうかべて開放してくれたのです。



 何ヶ月かたち、仕事中に高橋さんが席を立つことが多くなりました。

 ある日の帰宅間際、町長から呼び出しがありました。


「立ち入ったことを訊ねるがね田中君、高橋君とはどういう関係だね?」


「どうって、……どういう意味ですか?」


「だから、親しい関係かどうかだよ」


「職場の同僚ですが、それがなにか?」


 まだ何のことかわかりません。


「いやな、妙に親しげだとまわりが見ていてなぁ」


 ドクンと心臓が強く打ちました。それからやむことなくドクドク打ち続けています。


「高橋君、妊娠したそうだな。聞いたか?」


 額に汗が滲んできました。


「いえ、何も……」


 ツツーっと背中を汗が伝いました。


「相手は君だそうだ、間違いないか? よかったか?」


「はい、そりゃあもう……。……い、いえ、気持ちよくなんか。……いえ、そうじゃなくて、みみずが這う……。あいや、締め付け……じゃなくて、……よかったです」


 もう何を言ってるのかわからなくなってしまいました。



「テメー、この野郎。娘をだいなしにしやがって! 何発やったんだ!」


 恐ろしい剣幕で高橋さんのお父さんが乱入してきました。


「何発って……。……そんなこと覚えていません……」


「なんだとー? 数えられないくらいやったのか! まだ手付かずだったはずだぞ、幾代は男嫌いだったんだ! それをガバガバにしやがって、おまけに金的命中させやがって、どうしてくれるんだ!」


「どうって、知らなかったから。……たしかにきつかったけど、貫通済みだったような……。でもガバガバになんか……」


「この野郎、この期に及んで……。いくよイクヨって言わせたんだろうが!」


「いえ、くる、クルー、でした」


「なんだと? この野郎!」


 お父さんが掴みかかるのを町長が割って入ってくれました。


「高橋君は、せっかく授かった命を散らすのは嫌だと言ってるが、覚悟はいいな?」


 町長のとりなしに逆らうなんてできなかったのです。それよりも、おおっぴらにできる嬉しさのほうが……。



 話がまとまると、くだんのサービスエリアに関心が移りました。

 そこで見聞きしたことを詳しく話しますと、それを町おこしの柱にしようということになりました。具体的な案を作るために視察に行こうとなったのです。


 まだ少壮の町長みずから視察だそうで、去年亭主に先立たれた旅館の若女将を連れ出してしまいました。

 案の定、足元をふらつかせて帰った町長は、資料集めのために観光課長と保健婦を派遣しました。

 噂を聞きつけた職員が視察希望を申し出、あみだ籤で相手を決める一幕があったり、数が合わない組み合わせができたりしました。

 あろうことか、修学旅行の指定旅館になったのでたまりません、卒業式は腹ボテが多かったこと。それは見事なものでした。

 そうやってすべての資料が整うまでに何度も視察が続いたのです。


 わが町にサービスエリアはありません。しかし、腹ボテの後妻を抱えた町長は公社に談判を重ね、パーキングに隣接する施設に立ち入れるようにしてしまいました。

 そこには茸や筍を模った建物が並んでいます。星空がきれいな土地ですので天井は素通し。声は空に駆け上がるようになっています。

 すると、開設を待ちきれないのか溢れんばかりに行列ができました。

 そこで提供されるウェルカムドリンクを飲みたさに人はやってくるのです。

 マムシ、スッポン、鯉の生き血、イモリの黒焼き……。そして少量のご禁制薬品。

 これに勝てる人などいないのです。


 かくして、人気の高まりとともに腹ボテばかりで賑わう町になりました。

 人口が増加に転じ、無医地域に診療所ができました。爆発的に増加する若い世代のために保育園が、学校が建ち始めたのです。


 受胎から見直す町づくり! 受胎曼荼羅!


 役所の玄関を飾る宣伝文句が踊ります。直営店を含め、今では全国展開を始めた取り組み。さてさてどうなることやら。


 産業の基本はお産にあり。

 それを見つけて発展した町のお話でした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 最新エッセイと読んだ順序が逆で良かったです。 大いに笑わせて頂きました。 この手の話を書くと本当に生き生きとなさってますね。 町興しの視点もそうですが、齋藤さんは素で人の生活の向上に関わる事…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ