私は太っている
私はダイエットをしている。
「必要ないでしょ?」とよく言われる。
そんなことはない。
私は太っている。
世の中には、色んな基準がある。
数値的な事では、洋服のサイズや身長マイナス百。体脂肪率。計算式のややこしいBMI。どれも標準を下回っている。
見た目という基準もある。
娘には、
「虫けらみたいな腕だよね」と言われる。職場の女の子にも、
「どこ痩せるんですか!?厭味ですか!」と言われる。
それでも私は太っている。
だって靴紐を結ぶ時に、ちょっと違和感を感じるのだ。
お腹周りを計ってみたら、一センチ増えていた。体重も一キロ増えた。
私には私の基準がある。
数値が何を示そうが、他人の評価がどうだろうが、私は私の基準でいたい。
もちろん痩せすぎると戻す。体調が悪くなっては意味がない。
だって。
私はいつまでも若々しくいたい。
いつまでも大好きな細身のシルエットの服を着たい。
いつまでも娘の友達に『格好いいママ』と言われたい。
いつも靴紐はすんなり結びたいのだ。
だから初めから節制もする。それでも太ったらダイエットをする。
その時には。
勿体ないのは嫌だから、最初から食事は少なく作る。失敗に終わっても、せめて経験が残るようなダイエット用の買い物しかしない。他人の経験はよく聞いて、だけど他人とは比べずに、誰のせいにもしない。
私の周りにもう一人、太っている人がいる。
彼女は私なんかとは比べものにならないほど、忙しくて時間に終われているのに、きちんとジムに通い、午後八時過ぎには食べ物を口にしない。
その徹底ぶりはアッパレだ。
彼女は言った。
「人間の最大の敵は、自然でも科学でも他の生物や人間からの侵略でもないらしいよ」
「なんなの?」
「なんだと思う?」
「うーん……宇宙人とか?」
「ぶっぶう。正解は『面倒くさいって思う心』でした」
そういって立てた人差し指は、十日前に会った時より、心持ちほっそりしていた。
私も彼女も、ダイエットが楽しい。痩せていく自分が好きだ。
そこには他人は介在しない。自分が『優先したいもの』なのだ。
私たちは今日も自分に酔いながら、体重計にのり、一喜一憂する。
だから私も彼女も太っている。