環境に適応する彼女
「この職場にきてから太った」という声をよく聞く。彼女もその一人だった。
一年で洋服のサイズが二サイズアップしたと、嘆いていた。
「やばいですよね」
「なんで一つ大きくなったとき、気付かなかったの?」
「なんでですかねえ……」首を傾げる。
『この職場にきて』というのは、もしかしたらいいことかも知れない。少なくとも痩せ細ってしまうタイプのストレスがないのかも知れないからだ。
でも彼女は今『洋服が二サイズアップした』というストレスを抱えている。
一サイズ上がった時はどうだったのか。
私が察するに、多分ストレスではなかった。『この職場』ではそのサイズが標準だったからだ。
「ちょっと太っちゃって」
「全然そんなことないわよ」
「そうかなぁ」
「そうだよ、私の方がやばいよ」
「ええ!そんな事ないよ」
……こうしてストレスが解消していく。回りをみて
「私はまだ大丈夫」と思い、安心していく。
「ここはデブばっかりだなぁ」
口の悪いお客さんがいる。彼は当然煙たがられている。彼の言葉は『この職場』にストレスを持ち込むからだ。
二サイズアップしてしまった彼女は運動系のダイエットを始めたらしい。
「本当、着る物なくなっちゃうし。大きいサイズって可愛くないんですよね」
お、これはやる気だな……他人事ながらなんだかワクワクしていた。
しかし。
一ヶ月たって、仲良しの友達と最近始まった連続ドラマの話をしている彼女に痩せた気配はない。
「月曜日は何見てる?」
「漫画原作のやつ」
「私も見てる!今回の連ドラどれも面白いよね。私毎日見るのあるよ」
「私も」
そんなに面白いドラマなのかな、と思いながらも、お友達が席をたったのできいてみた。
「その後ダイエットどう?」
「中々……」そうは効果はすぐでないか。
「時間がなくて」
え?たった今、一週間毎日ドラマ見てるっていってなかった?
「一回のエクササイズどれくらいかかるの?」
「四十分くらいですかね」ドラマって、一時間はあるよね?
あんなにやる気に見えたのに、ドラマに負けるのか……そんなに面白いのかな……きっと痩せる以上に有益な何かが残るに違いない。
仕事が終わって帰る時、更衣室で彼女が歓喜の声をあげていた。
「ええ!可愛い。そのワンピースどこの!」
「ノンブランドなんだけど、セレクトショップがあるの。サイズが十三号以上しかないんだけどね」
「全然!そっちの方が助かるよ。場所教えて……」
こうして彼女は環境に溶け込み、今度は環境を作っていく。
もう彼女はサイズアップのストレスを感じないだろう。それが『ここ』では普通だから。
そう、彼女はもう太っていない。