観察する彼女
彼女は口数が少ない方だった。
とはいえ、大人しいというのではなく、少し気取ったような印象を受ける。頭が良いのが滲み出ているからだろうか。
みんなのダイエット話の輪に入っても、聞いているばかりで自分からは話しはしない。
それでもとても熱心に聞いていて、ダイエットには人一倍興味をもっているようではある。
「何か、ダイエットしてるの?」みんなから少し離れたところで二人になったので、聞いてみた。
「いえ、まだ」
「まだ?」
「はい。自分にあってるか調べてからにしようと思って」
「ああ、なるほど」
「せっかくこれだけ女性が多い職場だから、色々見られるじゃないですか」……『人体実験』という言葉が浮かび、頭をふる。
気を取り直し、最近ちょっと痩せたかな、と思う女の子をしめしてみた。
「あの子、最近痩せたよね」
「ああ、あの人はサプリのダイエットですね。運動する時間がなくても、毎日サプリを飲み続ける才能がある人には効果的です」
あまりにも分析的な口調は気になるが、的確な指摘はさすがだな、と思って感心していたら、
「でも本当は」彼女はそっと耳打ちした。
「あの人、カレと上手く行ってないみたいなんです」
「へぇ……」
「サプリの効果じゃないですね」そうなのか。私もサプリ飲んでるぞ。
「最近激ヤセのあの人は……」
彼女は最近痩せて来たと思われる女の子をしめしては、勝手に続けだした。
体を動かすのが好きなあの人は、ジムに通って激ヤセしたが、本当は仕事上の悩み事が原因らしい。
映画好きのあの人はながらダイエットをして足が顕著に細くなったように思えるが、最近不倫で悩んでいるのが原因らしい。
「あの人は……」
性格とダイエットの関係の観察眼には一目おくが、なにもゴシップまで。至極ローカルなワイドショーを無理矢理見せられたみたいで、お腹がいっぱいになった。
当の彼女は、楽しそうに話していた。……まぁ、他人の不幸は蜜の味。女の子は噂も大好き。人それぞれだから意見する必要もないか……
「すごい分析力ね」彼女は得意そうだ。
「あなたの分析からいうと、悩みや不幸な出来事が一番のダイエットね」
「……」
あれれ。厭味のつもりじゃなかったんだけども。
彼女は黙りこくって深く考えている。
「そういう見方もできますね……うん」
仕事が忙しくなって、話がそこで終わってしまった。
意地悪いったかな、と思い、気になっていた。みんながダイエット話をしているのに彼女は加わっていない。
「ダイエット分析、やめたの?」
内心、ドキドキしながら聞いてみると、彼女は明るく笑った。
「はい。と、いうか……」彼女は小声でいう。
「ダイエット自体やめました。それで不幸だって思われるの、それこそ不幸じゃないですか」
そういってにやりと笑う。
「私、カレとらぶらぶですし」
……ダイエットに成功した人を全て不幸があったと思うのは、彼女だけだと思うぞ。
とはいえ、ダイエットを必要としなくなった彼女。
彼女はもう太っていない。