勿体ない彼女
彼女はダイエット話が大好きな集団の中にいた。
食べる物に気をつけているという。お米よりもおかずを中心に。最近は鍋にこっているらしい。
そんな彼女がある日胃の辺りをさすっていた。
「胃が痛いの?」
彼女は憂鬱な顔で頷く。仕事で嫌な事でもあったのかな……面倒くさい事は嫌だけど、ここは大人として聞いておくか……
「なんか、悩み事?」
彼女は目を大きく開いて私を見つめ、笑い出した。
「昨日、ちょっと食べ過ぎちゃって」
心配したぶん、返せ。と、思いながらもほっとした。
「昨日、何食べたの?」
「鍋ですよ、鶏のつくね鍋したんです」
カロリー削減のため、豆腐を混ぜてつくねにしたらしい。最後の締めはおじや。
「おじやいいよね」
「そうですよね。お茶碗一杯があんな量になるし」
え?
「お茶碗一杯分のおじやって結構な量だもんね……」
「そうなんですよ、お腹いっぱいになっちゃって」
「なんで一杯分も入れたの?」
「私、ご飯は一辺に炊いて、一杯分ずつ冷凍してあるんです」
「で?」
「でって……残したら勿体ないじゃないですか。一度解凍したら、もう冷凍できないじゃないですか」
お粥とかおじやって、少ないご飯を増やす方法として用いられるんじゃないんだろうか……
いや待てよ。おかずよりもお米を中心に食べていた以前の食生活では、二杯ご飯を食べていたとすれば……
「その後に」えっまだ食ったのか。
「ストレス解消に買ったケーキも食べちゃったんです」
「……それは、余分だったんじゃないの?」
「そうなんですけど、昨日までだったんですよね、賞味期限。しかも二個も」
「一個だけ買えば……」
「一個だけ買うなんて……恥ずかしいじゃないですか」彼女は豪快に笑いながらそういう。
「それは……残したら勿体ない?」
「辺り前じゃないですか」
彼女はかばんからおもむろに液体の胃薬を出し、飲み干した。苦い匂いが広がる。
彼女は空になった薬瓶をゴミ箱に捨てて、軽快に歩きだした。仲良しの友達と遭遇する。
「あ、明日の飲み会さ、焼肉屋にしようよ」……薬飲むくらい胸やけなんじゃないんですか。
しかし。
食べもしないものをオーダーして残すよりは、よっぽどいい。
たとえ、ご飯の冷凍を最初からお茶碗半分にして半分を節約し、ケーキを一つにして五百円節約し、胸やけせずに体調の悪い時間を節約し、さらに薬代も節約できていたとしても、それはきっと『節約』で『勿体ない』ではないんだろう。
太る事などすっかり気にせず、残す事をいけないと思う、彼女の勿体ないって気持ちは立派だ。
その上、明日の焼肉を楽しみにできる強靭な胃袋を持つ。
きっと彼女は健康なんだ。
ただ少しエコなだけで、彼女はきっと、太っていない。