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痩せたいって言わない彼女

 彼女のお腹は、胸から脚の着け根まで、なだらかな曲線を描いていた。

 二重になった顎はふてぶてしいまでにしっかりしている。

「あの子、太ってるよね」周りの女の子たちはひそひそと話している。

 私もそう思っていた。

 意思の強そうな、気の強そうな雰囲気はあるが、綺麗な顔立ちをしている。

 痩せるだけでモテまくる典型的なタイプじゃないか。

 でも彼女の口から

「痩せたい」と聞いた事がない。

 女の子が大半をしめる職場では、一日一度はその手の話になる。

 だが、彼女がダイエットについて話しているところも、そんな話に加わっているところも見た事がない。

 それどころか、みんなの話が体重におよぶと、そっと席を外している。

 もしかして、病気か何かなのか。薬の副作用で痩せないとか……それなら、知らなかったとは言え、太ってるなんて思って申し訳なかったかも……小心者の局な私はちょっと心配になった。

 しかし、彼女はいつも溌剌としていた。誰かとつるむタイプの社交性はなく、凛としていて、いや、ちょっと行き過ぎて鼻持ちならないところも見え隠れして、

『殺しても死なないタイプ』ですらある。

 ある日、彼女と二人きりになった時だった。彼女が独り言を言った。

「痩せちゃった……」

 私は耳を疑った。かなり動揺した。国民総ダイエット時代にそんな事いったら、命が危ない。私は誰もいないのを確かめるようにキョロキョロした。

 彼女は私が呟きの出所を探しているかと思ったらしく、笑いながら、

「私です、私が今独り言いいました」と、言った。

「痩せるといけないの?」

 彼女は笑って曖昧に頷いた。なんとなく、

「聞かないで」という雰囲気がある。大人としては流すところだろう。でも、聞きたい。真実を知りたい……

「なんで?」

 好奇心を押さえる事ができず、聞いてしまった。彼女にも私の心の葛藤が見えたらしく、苦笑いしていた。そして周りを確かめて、小声で言った。

「私、声楽やってて……声をだすためのベスト体重があるんです」

 唇に人差し指を当てて内緒だよ、と合図をする。

「なんで内緒なの?カッコイイじゃない」

「だめだめ。実績もないのに、格好悪いじゃないですか」

 照れたように笑った彼女の瞳はキラキラしていて、首と一体化した顎が揺れていた。

 こそこそと囁かれる陰口も、多分耳に届いているだろう。でも彼女は食べる。他人がなんと言おうとも食べる。彼女は夢のために食べる。

 彼女はカッコイイ。

 彼女は美しい。

 そして彼女は決して太っていない。

 

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