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うつくしいもの/2

どうも。弥塚泉です。

自分の小説が誰かに読まれるというのは嬉しいものですね。

少しでも面白い小説をお届けするためにも、感想、評価、助言、等々頂けると幸いです。

もちろん弥塚も頑張っていきますので、これからもよろしくお願いします。

 ただ今の時間、午後十二時半。着替え等の準備のために一旦解散し、その後病院を出た俺たちはファーストフード店にて昼食をとり、一休みしていた。

「ところで俺は桜上行人だ」

 二人とも目の前のものを食べ終わったのを見計らって俺は口火を切った。というのもある重大な事実に気がついたからだ。

「どうしたんですか?藪から棒に」

「いや、そういえば自己紹介まだだったなぁと思って。俺はあんたの名前も知らないんだ」

「名前も知らない相手によくいきなりあんなことを言えましたね。しかも白昼堂々」

「な、名前は知らなくても顔は知ってたんだよ」

 怒るというよりは呆れたような口調で言われたものだから、焦って余計なことを言ってしまう。

「どこかでお会いしたことがありましたか?」

 案の定余計な追及を食らったが、幸い嘘とごまかしは得意分野だ。

「…廊下で。病院の廊下で何度か見かけたことがあったからさ」

「そうでしたか……?」

 どこか怪しむような響きだが、嘘だとはバレなかったようだ。実際、一方的にだけど遭遇はしてるわけだし完全な嘘でもない。とはいえ、この話題は危なすぎるからそろそろ方向転換しよう。

「で、名前を教えてくれよ」

「いやです」

 笑顔を崩さず、見事な即答だった。

「なんでだよ!」

「なんでもです」

 とりつく島もない。

「だったらあんたのこと、なんて呼べばいいんだよ!」

「『あんた』で結構です」

「うぐぐぐ…」

 現時点で会話が成立しているために反論しづらい。

「だけど、例えば迷子になったのを探すときなんかはどうするんだ?そういう時は名前を呼ばなきゃいけないだろ」

 ちょっと意地悪風味に言ってみる。口喧嘩には多少自信があるのだ。

「ではお好きなように呼んでください」

 しかし彼女は変わらず、澄ました顔でそんなことを言う。

「………あぁもう!わがままな奴だな!じゃあ『かぐや』だ!男に無理難題ばっかいうとこなんかぴったりだろ!」

 自分でも熱くなりすぎだと思ったが、案に相違して彼女、かぐやはふふっ、と息を漏らすように笑った。

「いい名前ですね。ありがとうございます」

 ……この笑顔は反則だろう。




 かぐやの呼び名を決めた後、俺たちは本格的な行動を開始。まず俺は彼女をファーストフード店の近くの映画館に連れて行った。この世で一番美しいものというには役者不足だろうとは思ったが、まあぶっちゃけ俺がデート的なことをしてみたかっただけだ。当然かぐやの判定は不合格。しかしながら俺が自信を持っていたのは次に向かった美術館だ。一番美しいものというお題に対してベタどころではあるが、今ちょうど有名な画家たちの絵の展示をやっていることを病院で聞いていた。俺的には確実にここで合格。暮れゆく夕陽を背に…みたいな甘い展開が既に頭の中で繰り広げられていたのだが、かぐやの判定はまたしても不合格だった。 美術館以外に当てなどなかった俺は大ピンチ。しかも時間的には次に向かう場所が最後になるため、失敗も許されない。かといって考えすぎれば時間を使い切ってしまう。さっさと考えて次の場所に連れて行かなければならないのだが、俺は今アーケードの中をさまよっている。美術館を後にした俺たちは夕飯の買い物ラッシュにものの見事にはまってしまい、かぐやとはぐれてしまったからだ。一応ここまでの道のりはエスコートしてくださいといったかぐやの希望でほとんどの時間、手を繋いでたんだが人混みに巻き込まれてちょっと手を離した途端、引き離されてしまった。本当に迷子になってしまったわけだがまさか「おーい、かぐやー?」などと声に出して呼びかけるなんて恥ずかしい真似が俺に出来るはずもないから目と足で探している。誰かと並べて見たりすれば特徴的なかぐやも、この人混みの中で見つけだすのは困難だ。なにしろかぐやは頭が俺の肩を越すか越さないかって身長だ。そんなかぐやもアーケードを三往復ほどしたところでようやく発見できた。かぐやと目があったけど、まだ距離があるから声をかけるのも恥ずかしい。俺は手を振ることで呼びかけに代えた。しかし、かぐやはキョロキョロするだけ。あれだけバッチリ目があったんだから気づいてないはずないのに…。普通に話せる距離になってもかぐやは周りを見回し続けている。そういえばかぐやは最初に見つけた位置から一歩も動いていない。俺を探しているのは様子からわかるが、探そうとすれば動き回るんじゃないか?それにかぐやのいるところはちょうどはぐれたあたり。はぐれた後もそこを動かなかったみたいな位置だ。俺はどんどん膨れていく疑問にまさかとは思いつつかぐやの目の前に立つ。かぐやは、少し身を退いた。自分が通行の邪魔になったと思ったのだろう。

「かぐや」

 俺が呼ぶとかぐやは顔を上げて、浮かんでいた嬉しそうな表情をしかし、一瞬で消して悲しそうな顔をした。




「全く見えないわけじゃないんですよ。弱視といって…ものの形とかは分かるんです」

 最後の目的地に向かう道。かぐやは語りだした。

「わたし…明後日に手術を受けることになっているんです」

「目…見えるようになるのか?」

「はい。成功確率は五割と言われました。最悪の場合は失明すると」

 かぐやはなんでもないようにさらっと口に出したが、俺はそれに応えることはできなかった。

「だから……俺の無茶な頼みを受けてくれたんだな」

 かぐやは頷いた。

「見えなくなった時の悔いを残したくなかったんです」

 かぐやはきっと、あの場所に現れたのが俺じゃなくても、もっととんでもない見返りを要求されても、首を縦に振ったのだろう。考えてもしょうがないそんなことを考えてしまって、俺はちょっと寂しくなった。そんなことは分かり切っていたのに。 俺だって心残りがなくなるなら誰だっていいと思ってたのに。ぼんやりと初めてかぐやを見た日のことが頭に浮かぶ。こんなことを思うのは少し自分勝手かもしれないけど、もしかして俺はあの日…。

「でも桜上くんで良かった」

 かぐやは独り言みたいに言う。

「良かった」

 もう一度言う。俺は何も言えなくて、それきり俺たちは口を開かなかった。

お話の途中ですが、登場人物の名前の話をしちゃいたいと思います。なんか三話のあとがきが長くなりそうなので。


『華麗なる日々』に出てくる人物名には花の名前が入っております。

『うつくしいもの』では行人の名字に桜。かぐやはちゃんと本名も考えていまして、竹という字が入ってます。竹って花なんですかね?しらない。


が、『うつくしいもの』は元々独立した短編だったものを主人公たちの名前に花の名前が入っているからという安易な理由で『華麗なる日々』の一編として組み込んだものなのです。

ですから、行人の名前の由来は花からではありません。


かぐやというヒロインが出てきますが、短編として作ったものなので原典のように五人も男は出し切れません。というわけで竹取物語の五人の男たちの名前を合体させたのが行人の名前の由来です。具体的には以下の通り。

石作皇子…

車持皇子…く

中納言石上麻呂…上

大納言大伴御行…行

右大臣阿倍御主人…人


で、[ら]を補ったりなんかして『さ、く、ら、上、行、人』『桜上行人』となったのですね。


ほうら、名前の話だけでこんなに長くなった。これで安心して三話のあとがきを書けます。



では、次回。

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