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常識が『杓子定規』な世の中って偏見【1】

「勇者は魔王を倒し、世界は平和になりました」


 子供の間で人気のあった物語だ。


「おお~勇者すげ~」


 三歳の頃だったと思う。俺は幼い頃に勇者の物語を聞いて、何時か俺も勇者になるんだと誓った。




 俺の名前はジーク、有らぬ名声を得てしまった冒険者だ。しかし、これからの俺は違う。

 もう直ぐ魔王を倒す男だ。先日、真実とは異なる名声と共に魔王城への道を知り、俺は念願の魔王との対峙を出来る冒険者となったのだ。


 もちろんファーヴの地獄の修行、パララのスパルタにも耐え、ファエルの荒行に耐え、単純な強さでも負けるとは思えないくらいの力は手に入れたつもりだ。

 具体的には体力が向上し、使える魔法が増えた。更に僧侶が使う神聖魔法まで使える様になったのだ。

 あの三人が俺に協力するのを止めても名声を維持し続けるくらいには強くなったと思う。


 ファーヴの恐ろしい強さにもある程度追いつけるし、パララの凶悪な魔法、更に毒物や特殊な道具を相手にしても負けないくらいにはなれた。ファエルの怪しげな言い回しを回避する言葉のマジックも見抜けるし、今の俺に出来ない事はないと思う。

 難点はまだ三人に勝ったことがない所だが、今や俺に勝てる人間など世界でも数えるくらいだろうと思える。


 これだけ俺が強ければ仲間の協力さえあれば魔王にも負ける可能性は低い。名声もある。未来は輝いているのだ。

 ふ、ふははははははははははははははははははぁあああああっはっはっはっは!


「最近ジークがニヤニヤして気持ち悪い~」


「そうだそうだ! 調子乗るのも大概にしておけ!」


 うるさい外野が気分の良い俺に文句を言ってくる。まあいい、今の俺は心に余裕を持っているのだ。


「機嫌が良いのは仕方がないけどジーク? 王様に魔王討伐の任を承った?」


「あ、忘れていた! 急いでいかないと」


「そう思って、城の受付で謁見許可を申請しておいたよ」


 気の効く仲間のクリエが手続きをしておいてくれた。

 魔王城に入るには特殊な玉が必要なのだ。もちろん、ファエルが俺にくれたものだ。これが無ければ魔王に出会うことすら出来ないというわけだ。


 ちなみに俺の歴代勇者事典の中で魔王を倒した勇者は思いのほか少ない。勇者という称号は勇気有る者を指す事なので何も魔王を倒した=勇者になるわけではないのだ。

 人々を困らせる悪竜を倒す、非道な権力者から人民を救う、悪魔と契約した錬金術師を倒すなど様々な功績を挙げたものに授けられる名声の結果だ。

 そして俺はうまく行けば勇者の仲間入りが出来る。行くことすら困難の魔王城への入る方法を手に入れたのだ。




 ファエルが俺の家に上がりこんだ挙句ルーシーと一緒に昼食まで平らげた後の事だ。


「これがあれば一サークルまで入る事が出来ますよ」


「一サークル?」


「こっちの用語です、多くて5人位までが限界といった所ですよ」


 煌びやかな気色悪いオーラを出しつつファエルが俺にその玉をくれた。とりあえず感謝しよう。

 そこにルーシーが毎度家でいうことなのだが言わなくても良い言葉を発する。


「トイレ……」


「俺に了承しなくていいから早く行って来い」


 どうも年齢にそぐわないルーシーの子供っぽさ、そこは可愛い所だと思っていたが、この後ファエルの奇怪な行動に世間とは違うことを理解する。


「聖水を作りに行くのですね、ルーシーちゃん!」


「な、何を言ってるの?」


 キョトンとした表情でルーシーが振り返った。


「いえ、そのですね。ルーシーちゃんが、トイレで」


「聖水ってトイレで作るものなの?」


「ですから、ルーシーちゃんの体から―――フグ!」


 純真無垢な俺の妹に何を言っている! 思わず俺の拳はファエルの顔面にめり込んでいた。


「何を言っているんだ貴様!」


「ですからルーシーちゃんが聖水を―――」


「黙れ!」


 どこかで聞いたことがある。変態は女性の体液を聖水と呼ぶらしい。やはりコイツは変態だった! こんな奴が家にいたらルーシーの貞操の危機!


「出て行け変態!」


 塩を振りながら家を追い出した。


「そ、そんな! お義兄さん! どうか入れてください!」


「うるさい! ホラ、ルーシー、早くトイレに行ってきな」


「う、うん」


 俺は心配しながらトイレの前までルーシーを送って、ファエルを警戒しておく、あの変態天使! 一体何を考えてやがる。

 トイレが終わり、ルーシーが出てくる。


「ふう、これで一安心だ。ルーシーも気をつけるんだぞ! 最近ここには変態が沸くから」


「うん。変態ってだれ?」


「そうです。誰の事ですか?」


 ……どうして貴様がルーシーの隣にいる!? 俺は思わず剣を取り出して一閃!


「この程度で私に傷を付けるなど無理ですよ」


 キン!

 ク……。ファエルが俺の振るった剣先を摘まむようにして受け止めてしまう。

 ならば奥の手だ。


「ルーシー、ファエルに汚いこと考える人は嫌いと言いなさい」


「え? うん、ファエルお義兄ちゃん。私、汚いこと考える人はきら~い」


「グフ……さすが勇者ですね。私の弱点はお見通しだ」


 口から血を吐いてファエルは倒れこむ。やっぱり馬鹿だコイツ。

 何が、さすが勇者ですね。だ。


「お前馬鹿だろ」


「大丈夫? ファエルお義兄ちゃん」


 血を拭い、さわやかな笑顔でファエルはルーシーに微笑みかけている。回復の早い奴だ。


「大丈夫ですよ。ルーシーちゃん」


 その先は俺の思いを読み取ってルーシーが気を使ってくれる。さすが俺の妹だ。だがその同情が命取りになってしまう危険性を知ってくれ。


「あのね……ファエルお義兄ちゃん。トイレで興奮するのはいけないことだよ?」


「分かりましたルーシーちゃん。私、ファエルはルーシーちゃんのトイレによる聖水作りについてはこれ以降考えません」


 美形が台無しな台詞だ。後光も黄色に見えて、汚ねぇ……。


「ではルーシーちゃんのお兄さん。頑張ってください」


「お前を家に置いて出かけるには不安しか残らない……」


「何を言います。神に掛けてルーシーちゃんを守って見せましょう」


 ……信じられん。


「手を出すなよ?」


「手って何? お兄ちゃん」


「それはな―――」


 俺が説明してやる前にファエルが遮る。


「わー! わかりました! 妹離れ出来ないお義兄さんのために何もしないことを神に誓いましょう!」


「それでいい、もしも妹に手を出したら……」


「悪魔すら恐れる所業を覚悟しましょう」


 不敵にファエルが笑っているのに一抹の不安が過ぎったが……俺は絶対服従をしている変態天使を信じるしか魔王退治に出かけられなかった。





 ……閑話休題だったな。考えを戻そう。魔王、魔物の王様にして人々を混沌へと導く悪者、勇者に必ず倒される敵だ。

 ここで魔王をどうして王様が退治して欲しいかということを勇者の観点以外から知らなければならない。


 ある日、俺のいる国で魔王が行った事は城と城下町から少し離れた海から丸見えの島に城を建てた所から発展している。

 逆三角形を四つ並べた屋根に支えるように聳え立つ支柱、その建物の中には何があるのか、それを目撃した者はいない。

 望遠鏡で見るとその建物の中に魔物たちが出入りしている。それだけで城下町の住民を初め、人々は魔王がこの国に現れたと理解したのだ。


 王様は軍に魔王討伐を命じた。しかし、海からでは独特の海流が邪魔して船での上陸は不可能であり、回り道をすれば歩いて島に行くことが出来るのだが、魔王が結界を張っているらしく、必ず迷ってしまい入れず。道は閉ざされてしまっている。

 そのため、魔王を退治できる手段を王様は模索しているのだ。

 だからこそ、魔王城へ行くことが出来るこの特殊な玉さえあれば魔王退治の任を果せ仕る事が出来る。


「で、ここがその王様がいる首都か……」


 俺の基本的に活動している地域は国の西側、何回か首都には来たことがあってもそれは学校での行事で来た程度なのだ。

 一応、その時は魔王城が見える海辺まで行って何時かあそこへ乗り込むと心に決めていた。

 ちなみに、どうして王様に報告してから魔王退治に行かねばならないかというと、昔からの決まり事で魔王を退治する勇者は必ず王様に謁見してからしなければならない。俺の予想だが、そういった決まりがあるのだと思う。


「一回見たことはあるけれど~不思議な建物だよね。魔王城って~」


「そうだな」


「どうやったらあんな形状に建物が建てられるのかは知りたいところだな」


 俺、フィニ、クリエは海の見える丘で魔王城を見てから城へ謁見に行く、ファーヴとパララは黙々と俺たちに着いてくるのが不気味なものだ。


「魔王城か、そういえば最近は足を運んでいないな」


「そうね~私も自分の作品を作るのに夢中でしばらく行ってないわ」


 間取りを知っているようだ。後で聞いておこう。さすがにこの二人は協力するか分からないがこの程度ならばフィニやクリエに頼めば教えてくれるはず。




「魔王退治の許可を得るために謁見申請をしたジーク一行です」


 城の受付で俺が代表として前に出た。


「はい、承っております。王様に失礼の無いようお願い申し上げます」


 こうして、俺達は城に堂々と入ることが出来た。

 城の中はまさしく物語で出てくるような石造りのレンガを使って組み上げられている。絨毯は真っ赤で玉座まで続いているのだろう。

 絨毯の引かれた廊下を俺たちは受付にいた兵士の後を付いていく、途中階段を上ると広間に出た。その先には重々しい扉が一つ、


「こちらが謁見の間になります。どうか無礼の無いように!」

 やや高圧的に兵士が答えるが仕方ない。俺たちはそれなりに名声があるけれど普段、王様に会う程、偉い職に就いている訳ではないのだ。


「はい、次の者」


 ギイィィイイっと重厚感のある音を立てて扉が開き、兵士たちが守るようにして王様が玉座にいた。

 入れ替わりに老人が出て行った。さっき、受付に書いてある名簿を盗み見ると近隣の村長と書かれていた。

 王様の仕事は何も玉座でふんぞり返っていることでは無い。国民の声を聞くことも重要なのだ。冒険者養成学校で聞いた話では、手紙で送られてくる報告書の他に村の代表が今年取れた農作物についての意見、更には魔物の被害報告や目撃報告を行っている。ちなみに国の現状は豊かな方だ。村長の顔に悲壮感漂う様子は無い。


 勇者は姫様と結ばれて、後に王様になる可能性もあるからと学んだモノだが、正直な話。直に見ると大変そうだ。

 俺は王様の前に出て、騎士風の申告をした。


「で、次の者は、冒険者ジークであるな。勇者志願で何々、珍しいな。魔王退治とは、何やら報告では魔王城に入る方法を見つけたということだが?」


「とある冒険の過程で魔王の部下から魔王の本拠地への道を開く玉を奪取することに成功しました」


 俺は言いながら王様に見えるようにファエルから貰った玉を見せ、兵士に渡す。兵士は王様の近くにいた魔術師に玉を手渡し、何やら魔法を使っている。


「……本物のようです。魔王城への道にかけられた強力な結界を通過する力を感じます」


「ほう……許可をだそう、名前の控えを! 期限は三ヶ月。それまでの間に討伐できねば失敗であるが良いか?」


「はい!」


「報酬は何が望みだ?」


「え? あ……」


 しまった! すっかり報酬を忘れていた。普通は王女様と結婚とか、側近に入れてもらうとか色々あるけれど、魔王退治が出来ると浮かれて考えていなかった。


「まさか何も考えていなかったのではあるまいな」


「い、いえ……」


「ちなみにわが国に姫はおらんぞ?」


 うわ! 先手を取られた。一体どうする?


「おい、さっさと言えよ」


 ファーヴに後ろで小突かれる。とは言っても地位は興味ないし、お金で良いですなんていえねー!

 何を言うか困っていると王様は溜息混じりに俺を見て呟いた。


「今まで様々な勇者志願者を見てきたがお前のような奴は初めてだ」


「すいません」


「よいよい、見返りを求めるのを忘れるなどという今時珍しい若者だ。別に不快には思わん。そうだな、もしも成功したら爵位と大量の金で良いだろう」


「え!?」


 王様は俺の成功報酬を勝手に決めてしまった。こういうのは自分で言わないといけないのに、くっそ……失敗した。


「安心するのは早いぞ? 魔王退治という大業だ。成功したらというものなのだからな」


「はい」


 俺は頷いた。第五代勇者ベイは王様によく謁見していた事で有名だが、緊張してろくに話せなかったな……。


「では旅立つが良い! 成功を―――」


「お待ちください!」


 王様が言い放つ前に隣にいた太った中年男性。どうも大臣っぽい奴が手を上げる。すると何故か兵士たちが俺たちを取り囲んだ。


「どうしたコレク大臣?」


 大臣が王様の前に出て言い放った。


「王様、この者たちは犯罪者の集まりです」


「は?」


 俺は思わず声が漏れてしまった。犯罪者? 誰の事だ?


「まず、そこの魔法使いは人を堕落させる悪魔の書物を作成した罪があります! その助手も同様です」


 悪魔の書物と言うのかぁ? どちらかというとドラゴン使役書と言ったところだと思うけど。


「何を言ってんだ!」


 ファーヴは激怒の表情で立ち上がる。うわ! あれでは何時、本性を現してもおかしくない。


「私が聞いた報告ではこのような―――」


 大臣の懐からフィニが書いたらしい仕事の本が出てくる。絵は見た事あるけど内容は良く知らない。


「常識を逸脱した。現実に存在しない現象、それによる戦いや異常愛。それをさも現実にあるかのような話で作られております。このようなものを作ったものには相当の罰を与えるべきです。民衆が真実だと思ったらどんな混乱が巻き起こるか! 履き違えて犯罪を起こしたらどうなるか分かりません」


「ふざけるな! フィニ様の作品が世にそう思われるわけ無いだろうが!」


「大臣! 俺の仲間がそんな悪いものを書いているはずありません。信じてください」


 俺がファーヴの怒りをどうにか抑えさせるために大臣に進言する。このままでは城が吹き飛んでしまう。


「おお巷で活躍しているジークよ。お前は知らんのだ。この者たちの巧妙に隠された悪事を」


「悪事?」


 そうして大臣はフィニが書いたらしい本を開いた。そこには物凄い卑猥な内容が記載されているものだった。正直、スケベすぎて俺の理解力から逸脱している。


「こんなものを書いているものが正しい人間であるはずがない! 直ちに捕らえよ!」


「そんな~!」


 兵士に槍で牽制されてフィニは声を張り上げる。ファーヴは怒りをあらわにして大臣をにらみつける。物凄い殺気を放ち、俺でも逃げたくなる。

 大臣は次にクリエに向かって顔を向けた。


「俺!?」


「そこにいるレンジャーはなんと、世に蔓延る呪いの人形を作ったという罪があります!」


「クリエさんの悪口は私が許しませんよ!」


 これまたファーヴと同じようにパララが立ち上がって大臣を睨み付ける。

 単純な肉体能力ではファーヴに及ばないものの事、魔法知識や古代呪文、錬金術を組み合わせた独自の魔法を使いこなすパララを怒らせたら死ぬより怖い呪いを掛けられるのは明らかだ。


「クリエが一体何をしたというのですか!」


「可哀想に。そこまで仲間を信じているジークにそこのレンジャーの悪事を教えよう」


 そして大臣が同じように懐から人形を取り出した。とてもよく出来た精巧な人形だった。とても目の大きいフィニが描いた絵に出てくる人物をそのまま形にしたような物だ。何故か水着姿でポーズを取っている。


「こんな卑猥で人を魔の道に貶める人形を作り出した悪しき者が善き人間であるはずが無い! 証拠は挙がっているのだぞ!」


「いい加減にしてください! 変な言いがかりを付けて!」


「言いがかり? そこのレンジャーを語る呪いの人形術師が作り出したメイド型ゴーレムという物の被害届が来ているのだが?」


「無償修理受け付けているし被害が出たら即座に私たちの元に来るはずです! でっち上げも甚だしい!」


 パララがファーヴと同じように今にも暴れだしそうだ。正直この二人が暴れたら誰が止められるのだろうか? それぞれの師匠に対して怒っているのだから二人が宥めることは難しいだろう。現にどうにか二人を抑えているのだから、俺がどうにかするしかない。


「大―――」


「悪魔の書を作成した極悪魔法使いの僕、呪いの人形術師の弟子、貴様達を封じる手段が無いと思ったか?」


 俺が納める前に大臣が宣言した。

 何だ? あの二人を封じる手段? ちょっと知りたい。

 またも大臣が懐から何やら少しだけ古ぼけた本を取り出した。


「な! あれは生産数極小、更にそのストーリーから泣けると言われた有名同人作家、エイドリが作った初期生産、同人誌!」


 ファーヴの目の色が変わった。殺気が一瞬にして散っていく。


「今や製作者行方不明、更に現存する数が3個あったら良いほうの幻の本!」


 ヨロヨロとファーヴの動きがおかしくなっていく、目の色が変だ。


「オタクならば何を積んでも見てみたい物を……」


 フィニも何やら興味津々だ。ファーヴを抑える力が緩くなっている。


「さあ、大人しくしていないとこの本がどうなっても知らんぞ?」


 大臣がフィニとファーヴが釘付けになっている本を縦に持って今にも破り捨てようとしていた。


「や、やめろぉおおお!」


 ファーヴの絶叫が木霊する。隣にいるパララでさえも驚きで動きようが無い。


「どうする?」


「くっ……」


 ファーヴにとってここで捕まるよりもあの本が大切なものらしい。


「次は人形術師の弟子か」


 すると大臣はまたも懐から何やら小さな人形を出した。


「そ、それはアンニクマン人形シリーズ少数生産のイカスミアン! しかもナンバータグ付き! 唯でさえ少数生産された挙句、人気が無いイカスミアン、しかもナンバータグ付となったら現存する最後の物かもしれない代物!」


「更にコレだ」


 次に大臣は兵士に運ばせて、何やらごっつい人型ゴーレム見たいな物と水着姿の女の子型の人形が入ったケースを持ってきた。


「な! 今は亡き同人フィギュア造詣師、ミノミノウスが作り上げた傑作! オタクの中ではとんでもない懸賞金が掛かったものがどうしてここに!?」


 よくもまあペラペラと出てくる。あんな人形にそれだけの価値があるとは思えない。

 大臣が片手を挙げると兵士達がハンマーを持って構える。


「大人しく罰を受けねばどうなるか? そなたたちは分かっているだろう?」


「くっ! こんな程度で」


「ほう……ならば!」


 大臣が上げた手を下げる。すると兵士が迷い無くケースにハンマーを振り下ろす。


「ま、まって!」


 パララが青い顔をして呼び止めると大臣は手を上げる。すると兵士はケースすれすれの所でハンマーを止めた。


「……分かったわ。文化財を私の所為で消失させるわけにはいかないわ」


 血が出るほどパララは握り拳を締めて了承してしまった。そこまでして守らなければいけない物なのか? あれが?


「よろしい。では代表のジークを除き、他の者達を牢に閉じ込めておけ!」


「はは!」


 兵士たちは俺の仲間を押さえつけて連れて行ってしまった。

 この時、俺は唯呆然と仲間たちが連れ去られて行ってしまうところを見ているしか出来なかった。止めようとしてもどう言えば良いのか分からない。下手に刺激してファーヴやパララが守った物を壊されては元も子も無い。


 正直、訳が分からないというのが正解だったと思う。

 さびしそうな視線を俺に向けるフィニと目を合わせられない。クリエは大丈夫だと小さくガッツポーズを取ってくれたがその背中は酷く頼りなく見える。


 ファーヴはドウジンシに視線が釘付けで俺の事など、まったく見ていない。

 いつもの様な威厳に満ちた様子は無い。

 パララは目の色が変わっていて、妙な達成感を得ている。そのあまりにも幸せそうな顔に捕まった罪人には見えない程だ。


 一瞬にして俺は仲間を失ってしまった。一人残された俺はどうすれば良いのだろう。


「さて、ジークよ。一人で魔王退治に行くというのも酷というものだ。我が国が紹介している酒場で仲間を集め、もう一度来るがいい。それまで魔王城へ行くことが出来る玉を預かっていよう」


 こうして俺は城から追い出された。


 そういえば、どうして大臣はファーヴやパララが犯罪者として捕まっても良いと思うくらいの品々を持っていたのだろうか?

 と、思ったが今はそんな余裕はない。気がついた時には城の外にいて地図と紹介状を持っていた……。

今日はここまでです。

明日から19時更新予定。

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