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『二度ある事は三度ある』事を阻止するのは三度目の正直?【上】

 ……俺の名前はジーク……この前の出来事で更に有名になってしまった冒険者だ。


 今、俺は一人、落ちぶれている。


「ヒック……」


 昼間から琥珀色の水に溺れている。嫌な現実から逃げられないからである。

 あの後、俺には多数の仕事が流れてきた。だが、どの仕事も勝手にフィニかクリエが着いてきて芋づる式にファーヴかパララが着いてくる。

 しかも大抵、裏で糸を引いている事が多い。あの二人は魔物の方ではかなり偉い立場らしい。録に戦いも発生せず。コネで、しかも裏工作気味に終わるのだ。不本意に俺の名声は上がって行く……。

 修行の内容がバージョンアップし、肉体修行はファーヴ、精神修行はパララに一任された。不眠不休、一週間の訓練に常時魔法を使うという並みの人間では死んでしまうものだ。


 俺は最近、フィニ程ではないがかなりの数の魔法を使えるようになってきた。強くなっている自覚はある。だけど全然嬉しくないのだ。

 何をしても達成感のまったく無い。仕事を請けずに昼間から酒場で飲んでいる。

 今いる酒場は、馴染みの酒場ではない。歌姫のレヴィアさんには最後に残ったプライドから顔を合わせられない。


「ジークさん、そろそろ名を馳せてくださいよ」


 酒場のマスターが俺に言った。最近では良く話す間柄だ。


「いやだ……」


「なぜ?」


「……話したくない」


 ここ最近同じ会話を続けている。マスターは呆れたようにため息を漏らし。


「フィニさんもクリエさんも事業で有名になっているというのに……」


 フィニは漫画家として売れに売れている。何か賞を取ったとか言っていた。

 クリエはパララと共同の事業に成功した。何でも、家政婦型ゴーレムとか言う物が大人気だそうだ。


「……」


 黙りこんでいるとマスターも諦めたのか酒を出す。


「今日はこれで最後ですよ……」


「ありがとう」


 俺はマスターに感謝し酒を飲もうとすると。


「またお兄ちゃん! こんな所でお酒を飲んで!」


 そこに俺の妹が酒場に入ってくる。


「ルーシー……」


 年齢は十ニ歳。ひいき目で見ているからかも知れないが、とてもかわいい妹だ。ただ、見た目が同じ年の子よりも幼く見えるのは俺の気の所為じゃない。

 何者かに年を取るのが遅くなる呪いを受けているのらしいのだ。忌み子として村八分になりそうになったのを俺が助けたのが六年前、俺自身が始めて勇者は努力すればなれると思った出来事だ。意思を持てば目の前の家族に降りかかる不幸を断ち切ることすら出来ると……。


 呪いの所為で妹は普通の人よりも少しだけ頑丈なだけなのだと、俺自身が暴れる妹を止めて見せた。

 その時の勇気ある行動によって、俺は村中から冒険者の学校で学んで妹に掛けられた呪いを解くという誓いをした。


「ジークさん? 最近、この酒場で飲んだくれていると聞いて探していたルーシーちゃんと一緒に来たんですよ」


「レ、レヴィアさん!?」


 ルーシーの後を追うようにしてレヴィアさんが酒場に入ってきた。

 どうする? 俺のプライドが立ち上がり、カッコよくしろ告げる。だけど、同時に諦めの心も声を上げた。いずれバレる事なのだから良いのでは無いか?

 ルーシーは俺の腕を引っ張る。


「こんな所でお酒なんて飲んでないで、また冒険に行って私にお話してよ! 私に掛けられた呪いを解くんでしょ! お兄ちゃん!」


 冒険を始めた頃は帰ってくる度に話をしてあげた。

 だけど今は違う。冒険? 八百長の間違いだろ? 名声? 俺の力で得たものじゃない!


「ほっといてくれ! レヴィアさんも、こんな俺を見放して酒場に帰ってくれ!」


 手を振り払う。そうだ、何もかもがどうでもいい!


「そんな! ジークさん! どうしたというのですか?」


 善意的な彼女が俺には痛い。


「帰らないなら俺が出て行く。マスターありがとな」


 お金をカウンターにおいて立ち去る。


「お兄ちゃんの馬鹿!」


 ルーシーは跳躍して俺の顔を殴った。


「ぐは!」


 俺の身体は錐揉み回転をして酒場の壁に向かってスローモーションになりつつ飛んでいく。人間、緊急事態になると神経が過敏になるといわれているが、妹に殴られてなるなんて知らなかった。


「うぎょぇぇええ!」


 油断した。六年前こそ、十二歳の俺でも押さえつけられた力がここまで強くなっているなんて……。


「そんなお兄ちゃん、大嫌い!」


 ルーシーは視点が定まらない俺に言うと、そのまま走り去る。


「ル、ルーシー……」


 その後ろ姿を見たまま俺は気を失ってしまった。



 俺は何をしているのだろう。

 酒場で落ちぶれて……。自分を信じていたレヴィアさんには冷たい事を言ってしまった。そして妹にすら見捨てられるなんて、俺が望んだ勇者とは一体なんだったんだろう。

 気がつくと酒場の部屋に寝かされていた。起き上がり部屋を出る。


「気がつきましたか……」


 カウンター席にいるレヴィアさんが俺に言った。マスターはレヴィアさんの事を知っているのかサインを描いてもらって棚に飾っていた。


「ああ……さっきは、ごめん」


 酔いは覚めている。どれくらい気を失っていた? 外は夜の帳が落ち始めているのを窓から見える。


「私が言うのもなんですが、せめて信じている者のために頑張ってみたらどうです?」


 俺に大嫌いと言った妹の顔を思い出す。よく見えなかったが泣いていたようだった。


「……そうですね」


 頑張ってみようと思う。要は名声に見合った強さを手に入れれば良いんだ!


「それでは私から依頼をしましょう」


「お、レヴィアさん。何か頼みたい事でもあるの?」


 丁度いい! 今ならどんな無理難題でも片付けられる気がする。その第一号はレヴィアさんから依頼を受ける。


 何でも、隣町の町から離れた聖堂に悪魔が住み着き。町に迷惑を掛けているので退治してくれとの事だ。

 悪魔というのは……宗教に俺はそこまで詳しいわけじゃないが、神の意向に逆らう元々は天使だった存在が堕ちたとも、人間を堕落させるべく生まれた魔物とも言われている。

 総じて戦闘能力が高く、倒すことは困難な相手なのだ。


「その悪魔に教会も手を焼いていて、やむにやまれず冒険者に退治を願い出たんだそうです」


 悪魔退治か、勇者志望の俺には良い仕事だ。


「分かった! その依頼、請けよう!」


 威勢よく依頼を請ける。


「お兄ちゃん」


 振り返ると妹のルーシーが隠れて俺を見ている。


「明日、お兄ちゃんは冒険に行ってくるぞ!」


 妹が喜ぶように笑顔で言う。


「うん!」


 ルーシーも笑顔で返す。


「さあ、家に帰るか!」


 手を繋いで家に帰る。晩御飯がとても美味しかった。

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