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類は友を呼ぶけれど、どこまでが類?【上】

 俺の名前はジーク、この前のドラゴン退治で少し有名になってしまった勇者志望の冒険者だ。

 あれからファーヴは俺とフィニの住んでいる村に住み着き、訓練と称して俺に拷問をしている。

 のどかな村で、今は収穫の季節となっている。所々に藁の束が置かれて、脱穀を待っている。


「お膳立てをしてやると言っても基礎が無ければ下手をすれば死ぬことになるぞ!」


「俺はこれでも冒険者学校主席卒業生だ! 俺がどれだけ血反吐を吐いて修行していたかしらないんだな?」


 俺は幼いときから勇者になることだけを夢見てきた。ドラゴンに修行させられるなんて話聞いた事が無い。しかも変態のドラゴンにだ。


「幼いとき、第四十五代勇者の称号に輝いたベオのベルトを手に入れた時から片時も怠けたことなど無い」


 俺はファーヴに勇者論を説明した。勇者行動学をはじめ、英雄とはどういった行動をすれば良いのかを研究したものだ。


「第三十代勇者アルベルが約百年前に行った荒行とて俺は乗り越えた。そして第三十一代―――」


「ジークも中々凝り性でしょ?」


「そのようですね。長年生きている俺ですがここまで詳しく勇者について語れる者は見たことがないです」


「そこ! 話を聞け!」


 主席で卒業した俺にとって、かなり自信に満ちたものだ。なのにまた修行などしてなんになるというのだ。今は修行よりも経験を積まねばならないのだ。


「ハッ、バカか」


 コイツ! 笑いやがった!

 怒る俺の懐に即座に入り、投げ飛ばした。気づいたのは投げられて、積んであった藁の中に落ちてからだ。


「この程度の強さでか? それで竜退治の勇者と呼ぶには千年掛かるぞ?」


 強さで負けた俺に反論の余地は無かった。

 それはもう地獄としか言いようが無い程の荒行だ。不眠不休一週間の登坂訓練&武術指南。毒物摂取による肉体改造と意志力向上。ファーヴ自身が放つ洗脳魔法を跳ね返す訓練を同時進行でやらされた。

 こんな生活、ずっと続けば間違いなく死ぬ!

 修行の合間に仕事として冒険を行っているのだが……フィニが同行する冒険に必ずファーヴは着いてきる。


 これが非常に厄介だ。

 例えば魔物退治の冒険ならばファーヴだけで敵を倒していってしまう。ブヒブヒと何を言っているのか分からない豚の魔物、オークをファーヴが指差して。


「萌えを追求することは悪ではない、しかし自らを磨かねば群衆の中に埋もれるだけだ愚か者共! 貴様らは何をしている? 狩られるのが怖いからとオタクをやめるとは何事だ!」


 と、叫んでいたのは意味が分からん。

 俺とフィニは何のために来たのか訳が分からず冒険は終了。しかも名声は俺にだけ入るという不条理なものだ。

 こんな刺激の無い冒険にフィニは不満を言うかと思えば、それはそれでネタ? になるとかで特に怒りもしないのだ。


 本人曰く。

『ピンチになったのを想像すれば大丈夫~』


 だそうだ。何もしていないのに有名になるというのは昔話などの典型で俺は破滅しかねない。だから自力でやって行きたいのに……。


 そんな日々を過ごしつつ、俺は町の酒場で一人、愚痴をしつつ呑んでいた。

 最近、フィニが忙しいので冒険に付き合ってくれる仲間がいない。

 誘ってもドラゴン退治をした俺に舞い込む仕事では身が持たないと変なイメージが定着してしまった。


「あれ? ジークじゃないか!」


 そこに、見覚えのある友人が話しかけてきた。


「クリエ! クリエじゃないか! 元気だったか?」


 クリエ・アヌストス。手先が器用なレンジャーだ。

 性格は明るく。年齢は俺より一つ上の十九歳、顔は良くも悪くも無い、身長は俺よりやや低め、運動神経が良くて、学校での成績は上位、トップでは無いが俺は信用している。

 クリエの家は猟師をして生計を立てている。冒険に行かないときは親の仕事を手伝っている真面目で健気な仲間だ。


「どうしたんだ最近? 全然誘いに来なくて寂しかったぞ?」


「あ、ああ。ちょっと色々あってな」


 クリエをドラゴン(ファーヴ)退治に誘わなかった。

 だが、厳密に言えば誘えなかったのだ。丁度クリエの親戚に不幸があって遠くに出かけていた。

 そこからどうも誘いづらい環境になってしまったのは言うまでも無い。俺が有名になる理由が実はドラゴンであるファーヴの手柄を得ていると知られてクリエに見放されたくなかった。


「そうだ!」


 でも、最近ファーヴはフィニの仕事で忙しくてついてこないかもしれない。

 フィニに頼んでおけばもしかしたらファーヴに黙って冒険に着いてくる可能性もある。なんで気付かなかったのだろう。


「どうした?」


「クリエ、近々冒険に行かないか?」


「え? あ! そ、そうだな」


 どうしたのだろう? 何時もは二つ返事で了承してくれるクリエが変だ。


「……本当に俺で良いのか?」


「何を言ってんだ?」


「学校時代に主席のレンジャーがいただろ? なのにこんな俺で」


 そう、俺は学校卒業時、それぞれの職業でトップの者がパーティーを作っているのに誘われた。だけど俺は断り、フィニとクリエを仲間に誘った。


「何言ってんだ。俺はクリエこそが学校で一番のレンジャーだと思っているから仲間に誘ったんだぞ?」


 理由は簡単、幾ら試験での成績が良くても光る何かが無ければ能力に差が出るというものだ。それが何なのかは俺には分からない。けれど俺はフィニにしろ、クリエにしろ感じる光るモノがあったからこそ、こうして仲間だと思っているのだ。

 俺の返答にクリエは安心したように照れた。


「そうか、ジークに言われると嬉しいよ」


「どうしたんだ?」


 何時もは気さくな頼れる先輩といった面持ちなのにクリエときたら様子がおかしい。


「いやな……最近ジークが難しい仕事を成功させているだろ? 俺が着いていっても良いのかな? って思ってさ」


「なんだ。そんな事か、当たり前だろ? 俺がどんなに有名になろうともクリエの力が負けているなんて有るはずが無い」


 そう、俺自身には何の変化も無い。修行で少しは身体が引き締まっているけれど、本質までは変わったつもりは無い。


「名声が一人歩きしているだけさ、仲間がいなけりゃこうして酒場で飲み明かす奴でしかない」


「ジーク、そんなこと無い。俺がお前を有名にさせてやるよ」


 ファーヴの八百長よりもクリエのその励ましが俺にはいたく響く。そうさ、仲間って言うのはこうして支えあうものなんだ。


「そうと決まれば冒険に行くぞ!」


「おお!」


 こうして俺はクリエを冒険に誘うのだった。



 翌朝。

 俺は念のためフィニを誘いに行く。ファーヴとの関係は内密にしてもらおう。


「そういやフィニは有能な助手が出来たんだっけ? 前に会ったときにはそう言ってたぞ」


「あ、ああ。俺も知っているよ」


 フィニの家、そこで俺たちは話をしつつ、ドアを叩いた。

 フィニの家は小さな一軒屋だ。中を見させてもらった事がある。絵描きの仕事道具に資料が山積み、まさしく魔法使いの家といった感じだ。

 まあ……悪い魔女の類が持っている鍋などが無いのが正義っぽくて俺は気に入っている。


「お~い、フィニ~?」


 ドアを叩いてしばらく、フィニが何時まで立っても出てこない。

 俺が声を出すと、何やら足音が聞こえてきた。


「あ、ジーク~」


「どうしたんだ?」


 フィニにしては珍しく、何やら警戒しつつドアを開く、


「いや~編集者さんがいきなり方針変更を要求してきて~」


 ヘンシュウシャ? 何やら仕事関連の知り合いらしい。むしろ上司か何かだろうか?


「締め切りギリギリでちょっと大変なんだ~」


「そうなのか?」


 フィニが頷く、ノルマに追われて依頼人から逃げているようなものか?


「あ、クリエ~おはよう~」


 俺の後ろにクリエがいることを理解したフィニが挨拶をする。


「おはよう。じゃあ今回の冒険にフィニは不参加か」


「ごめんね~」


 本当に申し訳なさそうにフィニは頭を下げる。俺は徐にフィニの耳元に顔を近づけて尋ねた。


「……ファーヴはどうした?」


 仮にフィニが同行できないとしても、もしかしたら着いてくるという可能性もある。


「え~っと……」


 するとフィニはドアを大きく開いて家の中を見せてくれた。

 そこにはグッタリとしたまま、目の下に凄いクマを付けて眠っているファーヴが横たわっていた。周りにはどうも栄養剤らしいものが転がっている。


「……フィニ様……せめて後1時間寝かせてください……ムニャムニャ」


 なんとも凄い寝言だ。起きているのではないかと疑いたくなる。


「1時間じゃなくて幾らでも寝かせてあげるのにね~」


 そう言ってくたびれた様子のフィニは優しそうな笑みで答え、俺に一礼してドアを閉めるのだった。

 ドラゴンの生態はよくは知らないが、人間より遥かに強靭な生物、俺が身をもって経験しているあのファーヴが睡眠不足でダウンする仕事なのか……とんでもなくハードなんだな。フィニの仕事は。


「仕方ないな、他に誘える仲間も今はいないし、クリエ。良いか?」


「聞くまでも無い、だろ?」


 肩をすかしてクリエは笑う。


「そうだな」


 こうして今回は俺とクリエだけで仕事に行くことになった。

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