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ペンは竜殺しの剣より強し?【下】

 ファーヴの後を着いていくと大きな部屋から個室に移った。

 個室には来客用のテーブルやイスが置いてあるファーヴはイスを引いてフィニを座らせる。


「お茶を持ってきますので待っていてください」


 言いながら部屋を出て行く。その出て行くファーヴをフィニは見送りながら俺に尋ねてくる。


「なんかドラゴンってイメージと違うね~」


「違いすぎるだろ、人間の姿になれるなんて初耳だぞ」


 フィニは荷物袋のかき集めた中身がバラバラになったゲンコウを並べる。


「いい話のアイデアになりそうだけどね~」


 俺は冒険譚で聞いたような手に汗握る展開を期待していたのに……ドラゴンとお茶を交わすって、まあ。いきなり有名になれる大冒険など期待していないけど奇妙な経験してしまった。

 俺の知っている勇者禄に奇妙な体験をした勇者がいないわけじゃない。そう思って我慢しよう。


「それではフィニ様。私めが思うのですが、今回連載している話の主人公はちょっと個性が弱い気がするのですが」


「ああ、ごめんね。もう少しすると実は潜伏するために喋らないようにしていることをばらすのよ」


「なんと! すばらしい、まったく先の展開が―――」


 陽気に理解できない話題を組みだすファーヴを楽しそうな顔に呆れつつ俺はぼんやり英雄譚と現実の違いに悩んでいた。




「ドラゴンの宝ってどんな物なんですか~?」


 お茶を飲み終わるとフィニは好奇心全開の目でファーヴに聞く。


「良くぞ聞いてくれました!こちらです」


 個室から出て大きな扉のある通路に案内される。


「これが私のコレクションです!」


 片手で大きな扉を開ける。中を見ると……え~っと……本が陳列していた。本屋などである棚が置かれていて、売っている本より妙に薄いものだ。

 ドラゴンの宝って、黄金とかじゃないのか?


「まあ同人誌ですね~すごい量の」


 ドウジンシ?


「私の大切な宝です! 宝を守るためにこの命無くしたって惜しくない」


 フィニが困ったような楽しいような顔で俺に話しかけてくる。


「ドラゴンの生態って話だと狭い所に宝を集める所があるけれど」


「金銀財宝じゃないのかよ!?」


 夢にひびが入る音が聞こえた気がする。


「昔はそうでしたが今は違う!」


「自分に取って宝を集めて悦に浸る……生態だけ見たらオタクと変わらないよね~」


 ファーヴはフィニから貰った本を宝物庫に大切に入れる。本にしてはペラッペラで薄いなー、後、オタクって何?


「それで何故、私の体の一部が必要なんですか?」


 ファーヴはフィニに聞く、どうも、ドラゴンが協力的になっているというのは俺にとって信じられない。


「え~っと、仕事」

「ドラゴン退治も仕事と言っていましたね。体の一部でも良いのですか?」


 さっきから敬語口調のドラゴンに何かイメージが。喋るにしてももっとふてぶてしいものがあるような気がするのだけど。

 フィニはファーヴに事情を説明する。それに突き足しを付ける。


「この仕事がうまく行けばジークは夢に近づくんだ~」


 話を聞きファーヴは俺を真剣な眼差しで睨みつけてきた。


「……なんだよ」


「貴様の夢はなんだ」


 偉そうな態度で尋ねてくる。張り合うように俺は前に出た。


「俺の夢は勇者や英雄として歴史に名を残すことだ!」


「ほう……」


 ファーヴは笑っているような目で俺を見て、その後、フィニの方を向く。


「フィニ様! こいつを立派な勇者にして差し上げます! かわりに……」


「かわりに?」


 ファーヴは首を傾げて尋ねるフィニに迷っているような顔立ちになる。


「……まずは仕事自体を成功させましょう」


 ファーヴが話を逸らした。何が目的なのだろうか。変な事を企むようだったら俺が息の根を止めてやる! ここまで変人? ならば勝てるような気がする。

 しかし、不意打ちで仮にも敵対の意思が無い人間っぽい奴に手を加えるほど俺は外道では無い。とりあえず剣を抜くのは止めておこう。


「それでは行きましょう」


 さりげなくフィニの手を握り出かける意思を示す。


「よかったね~思ったより楽に終わりそうで~」


 そういう問題か?


「……まあ楽に終わるのは良いんだろうけど、こういうのってありなのか?」




 そのまま俺達はファーヴを連れて仕事を請けた町に帰り、依頼の受け取り先に行く。貴族の住む大きな屋敷で依頼の完了を報告すると医者と思わしき人物と太った男が来た。


「君達かね? 高位ドラゴンの体の一部を持ってきたと言うのは」


 全ての指に宝石の指輪をつけた偉そうな小太りの男が言った。恐らく依頼主の貴族だ。

 ファーヴが前に出る。


「そうです。ドラゴンの体の一部」


 手を後ろに回し、服の下に手を入れブチッと言う音生々しい音と共に黒い大きな皿とも取れる物を見せて……というか、どうやってそんな大きくなったんだ?


「ドラゴンは倒せませんでしたが鱗を取ってきました」


 ドラゴン、それは変な体つきをした生物。人間に化けて、隠した鱗を毟ると大きくなった鱗を取り出せる。

 医者と思わしき人物が鱗を確認している。


「本物です、旦那様」


 証明が取れると貴族は涙した。な、なんだ?


「よくやってくれた! これで娘も助かる!」


 そう言いながら執事に手を振り小さく何か言うと、執事は部屋を出て大きな袋を持ってきた。


「これが礼金だ! 他に何か頼みがあったら何時でも言いたまえ」


 言い終わると貴族は上機嫌で部屋を出て行った。医者も駆け足で部屋を出て行く。そのまま屋敷を出て、大きな袋の中を確認すると物凄い大金が入っていた。


「すごい大金だ~それにあの家の子も助かるみたいだし、万々歳だね」


 フィニが袋の中の大金を見て言う。


「三人で分けるか」


 俺が妥当な提案を述べるがファーヴは手を前に出してバツ印をした。


「そんなもの興味はない」


 金に興味無いだと!? どこがドラゴンなんだコイツは。


「いらないの?」


 フィニが首を傾げた。そうだ。コレだけの大金を二人で別けるなどは正直悪いと思う。


「私はもっと良いものを貰いました。フィニ様の初作品、今回の報酬でも払いきれない希少な物です!」


 ジーっとファーヴを見た後、フィニは俺の方を見て感心したように口を開く。


「……価値観って凄いね~」


 俺に同意を求めないで欲しい。金銀財宝よりあんな本のほうに価値があるなんて俺には思えない。


「はぁ……」


 溜息が自然と出た。とても重たい……。




 その後、酒場では俺達が依頼をこなした事で話題が出ていた。人の噂話ほど早い者は無いというが、早すぎるだろ!

 水晶玉の中継ニュースとして俺達の情報が流れている。あんまり俺と似ていない絵でドラゴンから鱗を取って貴族に渡す映像が流れている。


「調査の結果、ジーク一行が奪取したドラゴンの鱗はなんと竜帝ファフニールドレイクだったもようです!」


 竜帝ファフニールドレイクだと!?

 俺はファーヴの方へ視線を向ける。

 竜帝ファフニールドレイク。遥か昔から生存する、冒険者の中でも知らない者はいないと言われる有名なドラゴンだ。

 二十代程前の勇者と大接戦の末に逃げたと言われるドラゴンであり、隣国のどこかでは未だに魔王とすら呼ばれている。


「すげ~なお前達! 倒せなかったとはいえ体の一部を持って帰ったんだって?」


「竜帝を相手にして生きて帰った奴はいないのに、対した奴らだな」


 噂ではそうだったのだが、まさかそのドラゴンと一緒にいますなんて口が裂けても言えない。


「おめでとうございますジークさん」


「あ、ありがとう」


 今、俺に話しかけてきた人は酒場で歌姫をしている。レヴィアさんという少女だ。やや青みが掛かる銀色の髪をした。十六歳くらいの可愛い女の子。

 やや人間離れをした不思議な魅力を持っていて冒険者学校にいる頃からここの知り合いだ。

 八百長気味の現在。あんまり偉そうな事は言えない。


「おや? 新しいジークさんの仲間ですね。始めまして、レヴィアと言います」


 レヴィアさんは新顔と思っているのかファーヴに向けて頭を下げる。フィニにも他の仲間にも丁寧にしてくれる人だ。この誰にでも優しい所が俺は好きだ。


「あ、ああ。よろしく。俺の名前はファーヴだ」


 呆気にとられたような顔をしてファーヴがレヴィアに返事をする。なんだ? 一目惚れでもしたのだろうか? フィニに好意を寄せているくせに……顔がよければ誰でも良いみたいだな。下半身は狼かコイツ!

 一刻も早く引き離せねばレヴィアさんの貞操が危ない。


「とにかく! これから次の冒険に備えて準備しなきゃ行けないからそろそろ行くね」


「はい、何時でも来訪をお待ちしていますわ。ジークさんの事……よろしくお願いしますね」


 丁寧な対応が魅力の彼女は頭を下げて、俺を見送ってくれた。そのままの足で俺たちは逃げるように町を出る。


「所でファーヴさんはジークを立派な勇者にしてくれる変わりに何をして欲しいの~?」


 そういえば何かを欲しがっていたな。一応、感謝しないといけないし、内容によってはここで逃げるなり戦うなりしないといけないわけになるのか。だが。

 ファーヴは顔を赤くしている。


「あの、その……変わりに」


「変わりに?」


 な、なんだ? その、女の子に告白するような雰囲気は。


「私をフィニ様のアシスタントにしてください!」


 ……は?

 俺が呆然としているとフィニは笑顔で頷き。


「良いけどなんで~?」


「始めてフィニ様の作品を見たとき体に電撃が流れるような衝撃を受けました! あふれるような画力! 先が読めない展開! この方の手伝いが出来れば自分は本望だと!」


 凄く真面目な顔で言っている。俺には何のことだかわからないが、俺の中にあるドラゴンのイメージにヒビが入っていくことだけは分かった。


「そう言われると嬉しいな~」


「はぁ!?」


 ここは嬉しがる所じゃないだろ! いくら美形の男だからって限度があるだろ。


「アシスタントにしてくだされば、この男を有名な勇者として仕立て上げて見せます!」


「そのくらいの事でやってくれるなら良いよ~こっちもファーヴさんと仲良くなれば良いアイデアが出てきそうだし~」


「フィニ、ちょっとこっちこい。お前は待っていろよ」


「はい!」


 俺はフィニをファーヴから離し、少し離れた所で耳打ちする。今度は盗み聞きされないようにしないとな。


「フィニ」


「なあに?」


「勝手に決めるなよ!」


「いいじゃない~これでジークくんも有名になれるよ~」


 こんな風に有名になりたいわけじゃない!


「俺が夢見ていたのはドラゴンを最終的に自力で倒したかったんだ! 今は勝てないけど何時か! 自分で倒したかったんだ!」


 俺の夢をフィニに詳しく言い。さらに畳み掛ける。このままではおかしな方向に俺の未来は進む予感がした。何だろう。運命というか天からの指示というのだろうか?


「第一何なんだよ、あのドラゴン! はたから見たら気持ち悪い。お前が嫌がる変態じゃないか!」


「そうかな~? ファーヴ君は私が好きなんじゃなくて、私の書く話が好きなんだよ? それにジークくんを有名にしてくれるって約束してくれたし」


「こんな風に有名にしてもらうのが目的じゃない!」


 ずるをして有名になんかなりたくない。ましてはドラゴンに強くしてもらうなんて!


「それになんであいつはお前の言いなりなんだよ、おかしいじゃないか」


「う~んと……」


 フィニはひとしきり考えた後。ひらめいたように手を叩く。



「『ペンは剣よりも強し?』さすがに竜殺しの剣より強いかはわからないけど~」



 ファーヴの元へ戻って行った。


「良いアイデアが浮かんだよ~ファーヴさんをモデルの話でも書こうかな~」


「光栄です!」


 二人は俺を置いて家路に歩き出す。


「なんだそれーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

 俺の叫びは……空の彼方まで響いたと願いたい。


 ドラゴン。

 生態だけ見ればオタクとも言える。フィニが言っていた言葉を俺は嫌というほど感じていたのだった。

 ちなみにオタクというのはこのドラゴンが収集しているように物を集めるものや、自分が好きなものを熱弁し続ける人の事を呼ぶ総称らしい。


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