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ペンは竜殺しの剣より強し?【中】

 抜け穴を降りていくと大きな広間に出た。所々大きな岩など障害物がある。どうやら遺跡の正体は寂れた礼拝堂のようだ。辺りを探してもドラゴンの鱗は見つからない。

 奥から荒い獣の声が聞こえてくる。ドラゴンの声だ。


「フィニ。お得意の魔法で作った罠を頼むぞ?」


「うん、わかった~」


 魔法使いのフィニに強力な氷の魔法の罠をここに仕掛けてドラゴンに奇襲をかける。もちろんそれだけで倒せるとは思っていない。しかし今回の目的は体の一部でも良いのだ。仲間が少ない現在。倒すことなど無謀すぎてやってはいけない。

 俺はフィニを信じている。彼女はちゃんと強力な魔法が使えるのだと。そして魔法で少しでも動きを止めて鱗を剥ぎ取り、余裕があったらドラゴンの宝をくすめる作戦だ。コレで仕事は大成功となる。

 フィニは地面に大きな記号を書く。その間、俺はドラゴンがこちらに来ないか見張る。


 古代から生きている伝説の生物ドラゴン。冒険譚などの挿絵に描かれている物と同じ生き物が眠っている。色は黒光りして美しい。

 何時か、罠に嵌めて逃げるのではなく、正面から挑んで倒したいものだ。そのために一刻も早く強く、そして伝説にあるような武具を手に入れたい。


「できたよ」


 見張っている俺にフィニは罠を仕掛け終わった事を教える。


「よし、作戦実行だ」


 ドラゴンに向かって落ちていた石を投げつける。投げつけた石はドラゴンの頭にコツンと音を立てて跳ね返る。気付いたドラゴンが目を見開いて俺を睨み付けた。


「ここまで来てみろ!」


「ゴルァアアアアア!」


 ドラゴンが俺を目掛けて炎を吐きかける。暗い遺跡の中で炎が辺りを照らしつける。


「っげ!」


 急いで岩を盾に隠れる。物語に書いてあった炎を吐くというのは冗談でもなんでもない。俺は感動と同時に戦慄した。

 炎の息、息であるからしてドラゴンが呼吸するときは飛んで来ない。俺はどうにか炎をやり過ごしそのままフィニが仕掛けた罠の位置まで逃げながら隠れる。


「うわっ! 危ねえ」


 危うく炎に当たるところだった。炎以外にもドラゴンは翼で風を起こした。

 吹き飛ばされそうになりながらも辛うじて目的の位置までどうにか逃げ切り罠のある位置までドラゴンを誘導した。


「いまだ!」


「うん!」


 言うとフィニが罠を作動させる。

 地面と空中から氷の槍が現れドラゴンに向かって飛んでいく、それが終わると竜巻が起こり真空をかもし出す。それが更に相手を氷の檻へと閉じ込める魔法。

 その影響であたりに物凄い土煙が巻き起こる。これだけ素晴らしい魔法が使えるというのに学校の奴らは何を見てフィニを無能扱いしているのやら、煙が晴れたときにはしばらくの間だけだがドラゴンの氷漬けが見えるだろう。


「やった!」


 フィニが物陰から俺に向かって走ってくる。


「うまく行ったね」


「ああ」


 後は仕事の内容道理、ドラゴンの体の一部を持ち帰るだけだ。

 ついでにドラゴンが持っている財宝を手に入れることが出来ると勇者の仲間入りできる。とはいえ、どこかに落ちているかもしれない鱗で我慢しよう。フィニの魔法でどれだけ足止めできるか分かったものではないのだ。


「ガァアアアアア!」


 そんな考えを吹き飛ばすような雄たけびが前方から聞こえ砂煙からドラゴンの爪が俺達に向かって伸びてくる。


「危ない!」


 反射的に俺はフィニを引っ張るように避ける。

 ビリィイイイイ!

 盛大な音と共にフィニの荷物袋が裂ける。辺りにフィニの書いたゲンコウが飛び散る。


 砂煙が収まりドラゴンが現れる。碌なダメージを受けていないようだ。あれだけ強力な魔法でも怪我一つ無いだと! 凍りつかせる計画もドラゴンの強力な魔力で無効化されてしまっている。

 倒れこむ体制の俺達にドラゴンは炎を浴びせかけるために息を吸う音が聞こえる。もうだめだ。俺は死を覚悟しフィニを守るように伏せ、思わず目をつぶる。俺の持つ最大限の魔力を防御に回しこんでフィニだけでも守れるようにしないと!


「ガァ! ゴガング!」


 ドラゴンの変な叫びが聞こえ、来るであろう炎は来なかった。


「あれ?」


 なんだ? 一体何が起こっているのだ?


「一体……」


 目を開くとドラゴンが飛び散ったゲンコウに目を向けている。

 今のうちに体勢を立て直すべく俺達は立ち上がって物陰に身を潜めようとゆっくりと後ずさった。

 やがてドラゴンは徐に俺達のほうへ顔を向ける。


「あなたは……」


「しゃ、しゃべった!」


 確かにドラゴンは頭がいいという話を聞いたが人の言葉を発するなんて知らなかった。いや、言葉を話すほど高位のドラゴンと戦っていたなんて知らなかったというのが正しいか。

 ドラゴンが驚いているフィニの方を向く、俺も含めて思わず数歩、後ろに下がる。


「あなたはもしかしてペンネーム『無限メガネ』様ですか!?」


 『無限メガネ』?

 なんだそれ?

 何か特別な魔法か?

 それともフィニが有名人とでも言うのか?

 魔法使いとしての腕前は素晴らしいが、ドラゴンの耳に入るくらい有名かと聞かれると首を縦に振れない。


「えっと、そうですけど何か?」


 肯定するとドラゴンが目から滝のような涙を流した。無限メガネって何? 名前なのか? 変な名前。


「あなたに会えて光栄です! ファンなんです」


「はぁ?」


 気のない返事と物凄く困った顔でフィニはドラゴンを見る。


「この姿では失礼ですね! ちょっと待っていてください」


 ドラゴンが言い終わると煙が巻き起こる。強力な魔法の力を感じた。一体何が起こっているのか俺の理解の範疇から超えている。


「うわ!」


「きゃ!」


 思わず悲鳴を上げる。煙が晴れるとドラゴンが居た所には一人の男が立っていた。

 顔は絶対に町で歩いていたら女子が寄ってくるほどの長髪美形、身長は俺より高い百九十センチ位。

 服装は黒を基調にした動き安そうな騎士服。どこかの国でお使えしている有能な騎士といった面持ちだ。

 一体どこから現れた? それにさっきいたドラゴンが跡形も無く消えている。


「さっきのドラゴンは? 後……どっかで見たことあるような?」


 フィニが男に聞く。男はフィニに近づいて会釈し、フィニの手にキザったらしくキスをした。


「私がさっきのドラゴンです『無限メガネ』様」


「はい?」


 俺とフィニは思わず声が漏れた。


「所で『無限メガネ』様の本当の名前が知りたいのですが」


 美形の自分をドラゴンと言った男はフィニに懇願するような態度で聞く。所で『無限メガネ』って何?


「私の名前は」


 フィニが答えようとしている所で男はハッとして頭を下げる。


「すいません! レディに名を聞くとき自分から名乗るのが礼儀でしたね! 私の名前はファーヴ・フレイドと申します」


 フィニってそんなに偉かったっけ? 俺が知る限り、魔法使いの家に生まれた、絵描きで生計を立てている奴だったはずだけど。


「いいのよ~私はフィニって名前ですよ。ファーヴさん」


 困った顔のままフィニはファーヴと名乗った男は号泣しながら答える。


「フィニ様ですか! 名前を呼んでもらって感激です!」


「あなたがさっきのドラゴンさんなんですよね?」


 フィニが男に聞く。そこは俺も気になった所だ。


「はい! フィニ様は如何様にして私めの巣に来たのでございますか」


「えっと仕事でドラゴン退治に来たの~。所で~ファーヴさんとはどこかで会った事ないですか?」


「おお! 覚えてくれていましたか! 引退時の即売会で始めに並んでいた者です」


「ああ~あれ君だったんだ? 気付かなかったよ~、あの時はもっとラフな格好だったし」


「ドラゴンの姿では初対面です。一ファンでしかないのですから仕方ありません! むしろ覚えてくださっていて光栄です」


 丁寧な口調で聞かれたのでフィニは思わずここに来た理由を答えてしまった。俺は無限メガネという言葉の意味が分からずに話が終わったフィニに聞くしかない。


「というか『無限メガネ』って何?」


 俺がフィニに聞くとファーヴは俺に詰め寄り。


「そんなことも知らないのか! その神々しい名前はフィニ様のデビュー前の名前であらせられる」


 と、俺の胸倉を非現実的な怪力で持ち上げる。


「く、くるしい」


 息が出来ない。冒険者学校首席卒業の俺を片腕で持ち上げている。


「しかも何だ! フィニ様をこんな危険な所に連れてくるとは、フィニ様は漫画界でもやがて名を残す程の希少な存在なんですぞ! 私が気付かなかったらどうなっていたか考えろ!」


 漫画界? 何だそれ。と、聞きたかったが息が出来ないので答える事が出来ない。

 ヤバイ、意識が朦朧としてきた……息が出来ずに手に持っていた荷物袋が手から離れる。荷物袋の中身が俺の足元に転がっていく。

 すると突然ファーヴが手を離す。


「ゲホッ! ゲホ! 何すんだよ、死ぬかと思ったぞ」


 ファーヴが俺の荷物袋の中身を見て奇声を発していた。


「おおおおおおおお! これは!」


 それはフィニが俺に渡した本だった。


「幻のフィニ様のデビュー当時少数生産された初作品! 再販を希望するとフィニ様が拒む一品! 限定20部で今やどんなに積んでも手に入れるのは困難のプレミアもの! 」


 それにしても騒がしい奴だ。


「まあね~残しておくのは重要だけど……恥ずかしいから~」


 さっきの怪力を見ると、こいつがドラゴンだと言うのも信じられるかも知れない。と、思っているとフィニ

が微笑みながら告げる。


「そんなに欲しければあげるよ~」


「良いのでありますか!?」


 フィニは首を縦に振る。人からの善意は素直に喜んでしまう女性、それがフィニだ。長所であるのだろうけれど、ドラゴン相手にもやってしまうのは些か間違っていると思う。


「ありがとうございます!」


 ファーヴは敬礼をしている。それはもう見事な敬礼で思わず見習いたいと思った位だ。


「お礼に何なりと申しつけください!」


 俺とフィニは思わず内緒話を始める。


「何なりと申しつけくださいって言ってるけどどうする~?」


「あいつは、お前の言うことしか聞かないんじゃないか? 俺はさっき殺されかけたし」


 チラッとファーヴに視線を向ける。

 まだ敬礼していた。敬礼しながらフィニが上げた本を見て悦に浸っている。美形が台無しだ。


「だけど、仕事のために体の一部をくださいなんて言えないよ~」


「何故、体の一部が欲しいんですか!?」


「聞こえていたのかよ」


 離れた所、しかも小声で話をしているのに聞こえるなんて、とんでもない地獄耳。ドラゴンだから出来る芸当なのか? しかし、ならば近づいてくる俺の足音が何で分からなかったのだろう?

 聞き耳でも立てていたのか?


「ここで話もなんです、こちらに来てください」


 と、ファーヴは遺跡の奥の方へ行ってしまう。


「話し合いで済めるなら大丈夫かな~?」


「そんな気楽な」

 フィニが勝手にファーヴの後に着いていってしまう。仕方なく着いていく事にした。

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