その『小さな親切が大きなお世話』なんだ!【下】
レヴィアさんに連れられて行くと、そこは王様の城だった。失神していたのか、城までの道中のことが記憶に無い。
そして……。
「冒険者ジークのパーティー、魔王討伐に成功しました!」
と、レヴィアさんは城の衛兵に話した。そして城の中の待合室で待たされる。
「討伐なんてしてないじゃないか! 今ここにいるし」
俺はレヴィアを指差して言う。周りの仲間は笑いながら。
「まあいいじゃないか、平和的解決ができたんだから」
全然良くない! 俺が怒ろうとした所で謁見を許された。怒る前にみんな進む。俺も仕方なく着いていくしかない。
「おお! ジークよ! よくぞ魔王を倒した!」
王様は大喜びで俺に感謝を言う。今まさに魔王が目の前にいます! そう言いたいけれど雰囲気的にいえない。こんな喜んでいる人々の前で真実を言える勇気が俺には無い。
「その証拠に魔物達も遠くの地に逃げていく姿が所各所で見受けられる。よくやったぞジーク」
これがただの引越しだなんて口が裂けてもいえないほど王様は喜んでいる。だけど俺は言うことにした。ここで言わねば何が勇者だ。
「王様! 俺は――」
俺は何もしていない。その事を言おうとした所に王様は何を考えているのか俺の言葉を遮る。
「言わなくてもよろしい」
俺の言葉を止めて、王様は続ける。
「これから国を挙げて祝おうではないか! 勇者ジークの栄光を」
良くない! と言ったのだが同時に聞こえたラッパの音で俺の声はかき消された。
「やったね! ジークさん」
白々しくレヴィアさんは俺に言う。
「これで勇者の仲間入りだね~」
フィニはボケた態度で言う。
「夢が叶ったねジーク」
クリエも本気で俺を祝っている。
ふざけるな!
「お兄ちゃん! おめでと~これで立派な勇者になったんだよね?」
何時の間に着たのか分からないが妹のルーシーが俺を祝う。お前くらいは俺の気持ちを分かってくれると思ってたのに……。
「鍛えたかいがあるってもんだ」
ただ、しごいていただけにしか見えないファーヴ、そりゃあ強くなった実感はあるけれど、俺は殆ど何もしていないじゃないか!
それにお前はフィニと一緒のときは気色悪いんだよ!
「みんなジークが居たから出会えたんだもんね。私もジークのおかげで研究が、はかどったし」
パララ……研究ってそれはクリエと一緒に悪趣味なゴーレム作ってた事か?
「これもジークさんの人望のおかげですね! 私も愛を教えてもらいました」
ファエル、お前はロリコンでシスコンなだけだろうが!
「素晴らしい活躍ですジーク様」
魔王に祝福される俺、最悪だ。誰か、これが夢だと言ってくれ!
王様は国が良く見えるテラスのある部屋の前に俺を連れて行き。
「さあ! 勇者ジークよ、国の民はお前が出てくるのを今か今かと待っているぞ」
確かに歓声が聞こえてくる。
いやだ! こんな、こんな、何もしてないのに勇者として持ち上げられるなんて!
俺が出来る行動は一つ! あいつらの策略を破綻させるために行動するしかない。
俺は逃げるように駆ける。テラスのある部屋からさりげなく出ると仲間たちが居た。
「ジーク! どこに行くの?」
みんなが俺に同じ事を言う。
「これから祝いの席があるのに?」
俺は首を振る。
「それに、称号授与もあるじゃないか。夢が叶う瞬間じゃないか」
俺は無視して城の裏口に向かう。みんなが追いかけてくる。
「どうした?」
城の裏口から外の様子を確認する。よし! 誰も居ない。
「本当にどうしたんだ? 夢だったんだろ?」
しつこく仲間達が俺に聞いてくる。
いや、俺の悩みの種たちと言った方が良いだろう。
「うるさい! お前達のその『小さな親切が大きなお世話』なんだ! くそーーーーー!」
俺は泣きながら駆ける。遠くで俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。
「何? ジークが居なくなった?」
王様の声が聞こえる。国中に聞こえる魔法道具を使っているのだろう。
「称号を必要とせず。ただ人々の為だとは勇者の鑑ではないか! 民よ! これから勇者ジークの名を歴史に刻もうではないか!」
王様は何を勘違いしているのか言い放った。その言葉にさっきよりも俺を呼ぶ声が聞こえる。
「勇者ジーク! 勇者ジーク! 勇者ジーク!」
勝手に感動して賛同する者が増えたのだろう。俺は駆ける。
そうだ、俺の名声が轟いていない所に旅に出よう……。
この、俺を称える声が聞こえない何処か遠い場所へ。
ある意味エンドレスストーリーなのですが、これで一応終わりです。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。