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常識が『杓子定規』な世の中って偏見【4】

 城下町から北東へ、辺りは民家すら見えない草原まで来ていた。

「ここって大臣の領地だって~」

「広いなー何処までも草原じゃないか。普通、領地って領民がいるんじゃないのか?」

 俺が風に草が靡く草原を見ながら言う。すると。

「個人の敷地なんだって、他に領民のある所でも領主をしているらしいよ」

「何処まで……」

「というかこっちは隠れ家みたいな物でしょう。王様自身も驚いていたようですし」

 何処までズサンな国なんだ……いや、大臣が王様に内緒で行っていたことなのだろう。

「もう直ぐつきますよ。巧妙に隠しているようですが天使とドラゴン、エルフを舐めてはいけません」

「って、草原の真っ只中だぞ?」

 そう、辺りには何にもない。本当に地平線しか見えないこの場所で隠れ家とは何事だ。

「まあ見てなさい。ファーヴさんにパララさんは分かっていますね」

「おう!」

「当たり前です」

 三人が俺たちの前に立つ。徐にファーヴがドラゴンの姿に戻って炎を吐いた。

「どわーーーーー!」

 何をしてやがる! 草原があっという間に火の海だ!

 と、思ったらどうも燃え方が変だ。四方、三メートル範囲までしか燃えていない。よく見たらファエルが魔法で結界みたいなものを張っている。

 そして目を凝らすとファーヴが炎を吐いた所には鉄の扉がある。

 地下への入り口か?

「よくここまで強固に隠して結界まで張ったものです。お義兄さんは気づきませんでしたか?」

「誰がお義兄さんだ! それに鉄の扉は今気づいたが、何を気づけというのだ?」

「やはり気づきませんでしたか……この草原に植えられているのは迷い草、植えたものが強固に守りたいと思った場所に人を近づけさせないものです」

「なんだその冗談みたいな草の名前は! 聞いたことがないぞ!」

 迷い草、なんだそのふざけたネーミングは! 冗談にしてもつまらん!

「もちろん。本来の使い方をするにはとんでもない広さの土地が必要ですから人間では知るはずもありませんね」

 何を勝ち誇った笑みをしてんだこの変態天使は! とはいえ道を教えてもらっている立場だから強く突っ込みを入れられない。

「ファーヴさんに火を吐いてもらったのは草自身に強固な魔法が掛けてありまして入り口の草は切っても即座に生えるようなんですよ。ですから燃やしていますので少々お待ちを」

 そう言われて、俺は今も炎が渦巻く鉄の扉を眺めていた。すると草がもぞもぞと再生しては燃えていた。気色悪い……。

「よ! は! とう!」

 しかもパララが変な液体をそこに投げ込んでいる。何か効果があるのだろうが気持ち悪い色の煙が立っている。

 やがて草も力が尽きたのか再生しなくなったと同時に鉄の扉が溶けた。

「では入りましょう」

 それとなく俺を先頭にするのは罠に嵌めるためとも思えるがまあいい。

「ああ」

 草原の穴、大臣の隠れ家に俺は入った。

 入り口からして怪しいが中は思いのほか明るく、空調も整理されて穴や洞窟独々の生臭い匂いがしない。壁はかなり良い石材を使っていてつなぎ目が分かりづらい石造り。正直清潔といった方が正しいだろう。

「贅沢もここまで来ると凄いな」

 思わず俺は言ってしまう。ここまで手の込んだ作り、絶対に一人では作れないし金も相当使っただろう。

「国の税金か?」

「どうも、違うそうですよ」

「は?」

 ファエルが俺に答える。これが国の財源で作られたものではない?

「その答えは直ぐに分かるでしょう」

「あ、ああ。分かった」

 問い詰めたいが、そう答えられては聞けないな……。

「気をつけろジーク! 罠がある!」

 クリエが俺の前に出て叫んだ。

「ここにか!?」

「うん。正直、俺でも見つけるのに苦労するくらい巧妙な罠が……」

 そう言ってクリエがボールを取り出して投げると俺から一メートル先が突如天井が落ちて来た。かわすも何もアレでは一瞬でぺしゃんこだ。そして直ぐに天井は元の位置に戻っていく。

「起動は温度体感装置、しかも主認識魔法まで掛けて……とんでもないくらい厳重な警備だよ」

 クリエが舌を巻いて答える。

「外せるか?」

「正直、建物自体に仕掛けられているから簡単にいかないよ。むしろ装置を潰さないと」

「そこは私に任せてください」

 元迷宮に半世紀潜んでいた錬金術師が前に出て薬品振りまき何やら呪文のような言葉を吐いている。

 すると壁がゴーレム化して俺たちの四方を取り囲む。

「美しくは無いですけど、これで楽に進めますよ」

「なるほど、仮初の命を与えて建物に掛けられた罠を全て動作不良させる。さすがパララさん」

「そんな、クリエ先生が褒めてくれるなんて」

「じゃあ行こう! ホラ、ジークも早く進まないと後が詰まっているよ」

 何やらパララが頬を染めて乙女の表情をしているがクリエは気づいていない模様だ。

 クリエが俺に向って前に出るように言った。どうもパララは信用できないけれど、クリエが言うのだから仕方ない。

 俺が先頭で進み、しばらくすると広い場所に出た。そこは一言で言えば扉の部屋。四方八方扉が付いている。どうやら俺たちを迷わせるつもり―――。

「同人誌の部屋?」

 フィニが勝手に扉の一つを開けた。

「ぬお!」

 ファーヴが何やら恐ろしい速度でフィニについていってしまう。

「あ! お前ら!」

 急いで扉を潜ると、

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 ファーヴが奇声発して図書室のような部屋で本棚から本を出して読んでいた。

「こ、これは! 今やとんでもない金額にまで上り詰めているプレミア本!」

「それ、前も似たような事言ってなかったか?」

 確か、捕まった時にも言っていた覚えがある。

「何を言う! あの時とコレは訳が違うぞ! これぞ、捕まったときに人質にされた同人誌の執筆者、『螺旋海溝』が書いたもっとも初期の本、生産数一桁のオタク内では国家予算に匹敵する物だぞ!」

「知るか」

 俺にはミミズが手繰った落書きにしか見えん!

「しかも製作者は行方不明! さらにプレミアがあがっているというものだ」

「どうでもいいわい!」

 溜息しか出ない。これも罠なんじゃないのか?

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 今度はパララの悲鳴が聞こえた。急いでドウジンシの部屋を出ると今度はフィギュアの部屋と言う所の扉が開いている。中はさっきの部屋と同じように棚に人形が山のように並んでいる。一部屋一部屋が恐ろしく奥に広いのは何故だ?

「す、すごい!」

 言うまでもなく中にはパララが透明なケースに入った人形を穴が開くほど見つめている。

「なんていう完璧なディティール! まさしく幻の『ロマニオッテ』が作った遺作」

 何やら金属質でごっつい……ゴーレムを発展させたような人形を凝視していた。

「一体どれだけの値段がするか検討もつかない。ああ! 資料に是非ほしい」

 吐く息が手に見える。そうか……喉から手が出る程欲しいというのはああいうことからついた言葉なんだな。

「あ、ジーク」

「なんだ?」

 クリエがフィギュアの部屋の扉に手を掛けている俺に一つの部屋を指差しながら呟く、

「なんか勇者の部屋ってのがあるのだけど」

「勇者の部屋?」

 俺は徐に勇者の部屋の扉を開いた。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 そこにはヴァルハラが広がっていた。

「これは第五十六代勇者ウェルが使っていたとされるベルトに、あれは第六十代勇者カインが使っていた檜の棒!」

 その部屋には歴代の勇者が使っていたとされる宝がコレでもかと眩い光を放って展示されていた。

「あんな汚いベルトがそんなに良いものなのか? というかカインって名前が彫られている棒じゃないか」

「何を言う! あの眩い光が目に見えないのか!?」

 俺の叫びにファーヴとクリエが駆けつけてきたようだ。

 どうだ! 眩しすぎるだろう。

「あ! あれは第十五代勇者アウェルが使っていたどうの剣」

「錆びてボロボロじゃないか」

「何処が錆びているって言うんだ。輝いているじゃないか」

 こんな光り輝いた聖剣、探したって滅多に無いぞ。是非、俺のコレクションに入れねば! そう、俺の冒険をする第二の目的は勇者の武具を集める事なのだ。

 あんなピカピカに輝いている宝の何処が錆びているのだ? あいつらの目は節穴だな。

「きっとジークにはそう見えるんだよ」

「あんな物の何処がそんなに目の色を変えるのか分からんな」

「何言ってんだ。お前のペラペラならくがきより遥かに美しいぞ! コレだけの物があれば国が何個買える事か!」

「なんだとぅ!」

 俺の言葉が逆鱗に触れたのかファーヴの目の色が変わっている。

 所詮ドラゴンと人間では分かり合えるものではない。

「ファーヴくん落ち着いて~ファーヴくんからしたらゴミだけどそれはジークから見たファーヴくんの宝はそう見えるんだよ。お互い様だから我慢して~」

「フィニさまのお言葉で我慢してやるが次は無いと思え!」

 馬鹿な奴らを放っておいて俺はこの宝の山を探索する。ああ、大臣の私物だろうか? 勇者の権限で泥棒したいところだけど……王様に没収してもらってから報酬に貰うのも悪くないな。

「気に入ってもらえたかな?」

「誰だ!」

 俺たちのとは違う声が宝の山の先から聞こえてきた。

「大臣!」

 そこには大臣が腕を組んで見下げるような目で立っていた。

 俺は即座に剣を取り出して構える。

「おっと、こんな所で戦えば貴様たちの宝がどうなるか? 分かっているだろう?」

「「「くっ!」」」

 俺、ファーヴ、パララがそれぞれ同じ言葉を発する。ここで下手にドンパチして宝が埋没しようものならどれだけの損失か分かったものではない。

「他の者たちの食指にも合うものがあるはずだが?」

「そういえばファエルくんは~?」

「さっき幼女アイドルの部屋という所に入って行くの見たよ?」

 フィニとクリエが見た変態天使の行方。相変わらず行く先が分かりやすい奴だ。

「確かに凄い宝の山だね~私もびっくり~」

「そうだな、レンジャーの部屋や猟師の部屋に置かれていた宝はさすがの俺も心を奪われかけた。幻の動物の剥製なんて何処で手に入れたのか……」

「そうだろう。これだけの宝を集めるのにも苦労したものだ」

 なんていう財力だ……大臣は国家予算で購入している訳ではないとファエルが言っていたが……。

「そんな訳で諸君、君たちさえよければここにある宝を別けてあげようと思うのだが」

「「「何!?」」」

 本気か? この宝の一つでも遊んで暮らせるくらいだ。売るつもりなんて無いが。

「……条件は何だ? お前を逃がすなんて条件は無理だぞ?」

 声を殺して俺は呟く、悪魔の囁きに似た甘美な響きを持った大臣の囁きに負けそうに成ったが冷静になれ!

 ここで大臣を取り逃がすということはこの宝を報酬に出来ないということで―――。

「そうだな、条件はワシの手駒となり、王権を奪うのだ!」

 大臣の提示した条件に呆気を取られる。何を考えているんだ!? 国家転覆なんて、馬鹿げている。

「財政は国よりも遥かにある。今まさにこの国は革命の時なのだ」

「ふざけるな! そんなこと手伝えるわけもない!」

 そんな勇者として恥ずべき行為を俺は絶対に受け入れられない。

「そうかな?」

 大臣が徐に魔法を唱えた。それはフィニにも対処が遅れる早い魔法、そして飛んでいった先にあったのは―――

「ギャアアアアアアアアアアアアアア!」

 第六十代勇者カインが使っていた檜の棒が燃え盛り、炭と化した。






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