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常識が『杓子定規』な世の中って偏見【3】

 俺の周りを黒い影が回っていく、誰だか特定は出来ない。けれどそれが学校時代の同級生だというのを頭では認識してしまっている。

「ジークってさ、真面目すぎてつまんね~」

「そうそう、つまんね~」

「つまんね~」

「つまんね~」

「つまんね~」

「つまんね~」

「つまんね~」

 やめろ! 誰がつまらないだ! 俺は―――。


「ハッ!」

 目を開けると酒場の休憩室の天井が見えた。

 夢だったのか……どうして学校時代に授業仲間に言われた事を夢に見たんだろう。休憩室から外を見るともう直ぐ朝日が昇る。

 することを思い出そう。まず王様の元へ行って、捕まっている仲間をどうにか出してもらうことを交渉しよう。うまく行くかは分からないけれど、勇者はここで信じた道を貫くものだ。

 今日、俺がしなくてはならないのは王様にフィニたちの弁明をする事、魔王退治の報酬としてあいつらの罪をないことにしてもらえないだろうか? それが無理だとして次に何をするか考えなくてはいけない。忙しくなりそうだ。

 フィニやクリエが捕まってまだ一日しか経っていない。いきなり刑が執行されるはずなんて―――。

「大変だよジーク!」

 酒場の支配人である女性が休憩室のドアを叩いてきた。

「どうした?」

「それが、ジークの仲間を今日の朝、死刑にするって返事が帰ってきたんだ!」

「何!?」

 おいおい! フィニやクリエの刑がそんなに重罪なのか!? ファーヴやパララなら大量殺人をしている可能性が高いからバレたら納得できるけどそれにしても早すぎるだろ!

「私も思うがコレは幾らなんでも変だよ! 王様に直訴したほうが良い!」

「分かった! けど、もう城に入れるのか?」

「まだだ。けれど、陰謀を感じた時点でちょっとだけ私も力を貸すわ」

 そう言って支配人は俺に着いてくるように指示してくる。俺は荷物を担いで足早に後を追う。


「ここが城と繋がっている秘密の通路さ」

 酒場の裏手、井戸に縄梯子を降ろして支配人の女性は言った。俺は梯子に手を掛ける。

 すると女性は納得したように微笑んだ。何かあるのか?

「さすが名のある冒険者だ」

「は?」

 いきなり褒められる理由が思いつかない。どうしたというのか?

「いきなりこんな所を秘密の通路と言って迷わず入ろうとする」

 なんだ? 嘘なのか?

「いやいや、馬鹿にしているわけじゃないよ。あんたが本当に良い人だと評価しているんだ。考えてもみな、酒場の裏にある井戸が城と繋がっていると思えるかい? 普通は怒るもんだ」

「何を言っているんだ? 嘘だったのか?」

「いや、本当の話さ。でも、内の酒場にいる奴らは信じなかったよ」

「仲間の命が掛かってんだ! どんな信じられない事だろうと行くに決まっているだろ!」

 すると支配人の女性が嬉しそうに頷く。

「いい返事だ。受け取りな!」

 鍵を俺に渡した。

「その鍵が無いと先に進めないよ。あんたと酒場の奴らの違いはそこからも来ているんだね」

「……ありがとう」

「良いってことよ。わたしゃ、大きな変革に巻き込まれていることを確信するね」

「えっと、貴方の名前は?」

 考えてみれば知らない。ここまで色々してくれたのにどうして聞かなかったのだろう?

「私はイルナーダ、ここの酒場の支配人さ。私の観察眼じゃ、アンタは勇者に成れるよ。頑張って仲間を助けてきな」

「はい!」

 俺は迷わず縄梯子を降り、井戸の奥にある鉄格子に付いた鍵を外して進んだ。


 城への秘密通路は一本道だった。時折鉄格子に嵌った牢屋や脇道が見えたけれど、今は調べる所ではない。

 牢屋の方から呻き声が聞こえた気がする。こんな隠し通路に何故牢屋があるのだろうか。とは思ったが早く行かねばならない。

 まっすぐ進んでいき、日の光が見えた所はやはり井戸だった。丁寧に鉄格子が掛けられているが行きと同じ鍵で開く、こちらの井戸は何故か上り階段が用意されていた。そこを駆け上がり、息を殺して周りを窺う。

 今、俺は侵入者なのだ。見つかるまでも無く犯罪者。どうにかフィニたちの処刑を止めて王様を説得しないと俺も牢屋行きだ。

 井戸の外はどうやら城の中庭みたいだ……って!

「こ―――!」

 ヤバ!

「ん? 今、変な声が聞こえなかったか?」

 口で手を押さえて声を漏れないようにする。

「気のせいか」

 ふう……どうにか気づかれずに済んだ。井戸の先は中庭だった。避難用の施設なのだ。

 どうして俺が声を上げそうになってしまったかというと、その中庭がフィニたちの処刑場にされていたのだ。石造りの塀と井戸をバックにフィニたちが縄で地面に植え付けられた鉄棒に縛られている。

 フィニとクリエは青い顔のまま自分がこれからどうなるかを想像しているようだった。変わってファーヴやパララはしきりに叫んでいる。何を言っているのか声が大きいので良く聞いてみよう。

「やめろ! 俺たちは絶対に抵抗しない! だからその作品たちを灰に帰さないでくれ!」

 ファーヴの視線の先には本が火にくべられようとしている。同様にパララの目線の先にも人形に向けて大きなハンマーを構えている兵士がいた。

「私の命なら幾らでも上げる! お願いだからそれだけはやめて!」

 ……………命よりもあんな物が大切というあいつらの考えが分からん。

「さて、これから刑を執行する。貴様らの罪状は先に申した通り、それに弟子や助手はどうやら魔に組する存在だったようだな、問答無用で死刑だ!」

 大臣がこれまた悪そうな笑みを浮かべている。その後ろには、表情は良く見えないけれど王様が鎮座している。

 ファーヴやパララは生半可な処刑機具で殺せるとは思えないと、思っていたら、とんでもない大きさの……。なんだっけ?  竜を殺すために作られたというボタン一つで大木程もある鉄槍が一瞬で飛び出し、串刺しにする道具が運び込まれてきた。

 歴史で習った事があるのだが、威力の面では効果があるといわれているけれど現実の竜には命中させることが困難と言われている珍しい道具だ。

 あんなものを受けたらさすがのファーヴでも死ぬだろう。用意周到な事だ。

「魔の者から今際の言葉は聞かない決まりだ。者共! 刑を執行する!」

 大臣の命令にフィニたちの口に布が巻かれた。呪詛を吐かせないためだろう。

「やれ!」

 俺は飛び出して、まずフィニに向かって槍を構える兵士に眠りの神聖魔法を掛けた。

「待ってください!」

「お前は! どうして貴様がここにいる!」

 大臣が俺の登場に焦った表情を浮かべる。だが刑の執行は終わらせるつもりが無いようで、クリエに向かって走った兵士に電撃魔法を浴びせる。

「待ってくださいと言っているんです」

「邪魔をするな冒険者無勢が! こいつ等は魔に組した者共だ! 貴様もそうだったと言うことか?」

 大臣の命令は止まない。ファーヴに向けて処刑機具の槍が飛ぶ。

「待てって言ってんだろ!」

 雷鳴波を放って機具をバラバラにして俺は大臣を睨み付けた。どうして無理やり仲間たちを殺そうとするのか!

「ば、化け物!」

「誰が化け物だ! 俺はただ仲間のために全力なだけだ!」

 俺は大臣から目を放して王様に向かって言い放つ。

「王様! 無礼をしてしまって申し訳なく思います! ですがここで言わせてください」

 俺の登場で青い顔をしている王様だったが大臣よりも回復が早く、俺に聞き返してきた。

「なんだ?」

「昨日、王様たちに紹介された酒場で仲間を探しました。しかし、俺の意思……力に付いてこられる器を持った者はいませんでした! ですから―――」

 そう、俺の思いをただぶつけるしかない。

「俺の仲間に課せられた罪に対する刑罰を、魔王退治に行ってからにして欲しいのです。成功の暁には無罪にして頂きたい!」

 そう、罪には罰をしなければならない。もしかしたらこの国では悪いことになっているのかもしれないけれど、せめて平和になってから罪を償う方法もあると思うのだ。

「なにを言う? 私がこの者たちの罪を言ったであろう」

 何故この程度で死刑になるほどの罪になるんだ? 絶対に偏見だ!

「『杓子定規』で勝手に罪を作って断罪するな! どうしてこいつ等が悪いことをしたと言えるんですか」

 そうだ。俺は聞いたことが無い。そもそもオタクというものが悪いことだったなんて初耳だ。一般人でも聞いたことが無いはずだ。確かに悪いイメージはあるけれど、基本的に無害な存在じゃないか。

「そもそもどんな法律なんだ?」

「国の機関が定めた法律だ。個人による卑猥なものを作成した場合。私自身の裁可で断罪する!」

「はぁ!?」

 ちょっと待てよ、おい! それって大臣が罪か罪でないかを決める法案って事じゃないか!

「ふざけるな! お前一人が決めた法案じゃないか! 現実の被害者なんてまだ出てもいない!」

 王様は、俺と大臣のやり取りを一通り聞いて、辺りを見渡しながら答えた。

「なるほど。ジーク一人でこれだけの事が出来るのだ。そこにいる仲間たちも同等の強さがあるのだろう」

 王様は感心したように頷く。

「魔王がどれほど強いのかは未知数だが……毒には毒という言葉もある。罪人であっても平和のために戦うというのならば良いかも知れんな」

「王様! 世迷言を申してはいけません! この者たちは城で無礼を働いたものなのですぞ?」

 クソ! この野郎は何を見ていたんだ! 国の平和よりもフィニたちの処刑が大事だって言うのか?

「大臣、ワシも思うのだがどうしてここまで急ごしらえで死刑を執行するのだ? 幾らなんでも早すぎるとワシも思うのだが?」

「そ、それは」

「その答えは私が答えましょう」

 王様の疑問に突如上から声がした。忌々しい俺にとっては会いたくない変態の声だ。

「おお……」

「神よ……」

「天使様が舞い降りた……」

 視てくれだけならば神々しい、中身はシスコンのロリコン。そして爽やかさなら誰にも負けない変態天使ファエルが俺の前に下りてきて王様に向けて頭を下げた。

「空からの訪問、真に申し訳なく思う候。私が加護を設けたジークとその仲間の危機に参上申し上げます」

「天使の加護を受けた一行……」

 王様がポツリと言った。確かに世間的に見ればそうかもしれないけれど、実際この変態天使は家の妹に欲情しているだけだって言いたい!

 けどこの雰囲気では言えない!

「騙されてはいけません! こいつ等は魔に魅入られたもの達ですぞ!」

 大臣が力の限り言い放っているがファエルの後光に兵士たちも呆気を取られて動けないようだった。

「魔に魅入られた? 何を申すのです? こうして天使である私が見守っているというのに?」

「貴様は天使ではない! 天使の皮を被った悪魔だ!」

 大臣は場の雰囲気に流されずに弾劾し続けている。この場にいる人物の中で俺以外に流されていない奴だ。

「そう、思いますか? 私の体から溢れるこの愛の力を貴方達は魔の力だと……思うのですか?」

 ブワっと如何わしいオーラが辺りに広がっていく、俺はコイツの正体を知っているから被害は無いが兵士たちや王様には効果が抜群のようだ。

「なんという聖なる力……これが慈悲でないのなら何が愛なのだろう」

 兵士の一人が呟いているが、この力の正体は俺の妹に対するスケベ心だ。愛といえば愛だろうがそれは汚い色に染まったものだ。

「ま、まあ良いであろう。して天使が如何様で?」

 王様がハッと我に返ってファエルに尋ねた。俺にとって悪い話ではないはずなのだ。ファエルをドツキたいのを我慢しよう。

「貴方が思った疑問に答えようと舞い降りました。大臣がどうしてジーク一行の仲間を処刑したいか、その答えです」

 鋭い目つきで大臣をファエルは睨み付けた。大臣も負けじと睨んでいるが心なしか腰が引いて見える。

「王様、この国で同人は禁止されているのでしょうか?」

「同人? そんな言葉始めて聞いたぞ?」

 ファエルが微笑む、王様も初耳なのか。俺もあまり詳しくは無い、一緒に聞こう。もしかしたら分かる事なのかもしれない。

「そうですね。王様も書物を読んだ事がありませんか?」

「ああ、多少嗜みとしてあるが」

「その時、例えば悲劇に見回れ、死んでしまった登場人物がいたとしましょう」

 ファエルがもっともらしくポーズを取りながら説明していく、どうして誰も突っ込みを入れないんだ! キモイと!

「その登場人物が死なない話を個人で作り、販売して広める。コレも一つの同人なのです」

「な、なるほど。ワシも昔、この悲劇を回避できたらと読んで思ったものだ」

 王様が頷いてしまった。

 いや~、俺からすればドウジンという奴はもっと違うものに見えたぞ? 何かとんでもなくスケベなものに。その前にファエルのポーズに突っ込みを入れてくれ!

「その過程で、この二人以外の誰かが結ばれたらもっとよくなりそう。そう思うことはありませんでした」

「ある!」

 王様がファエルの話術に飲まれ始めた! なんか危険な空気だ。ノリが良すぎる。

 キザったらしくバラを口に添えて手を前に出してイケメンアピールをファエルはしている。

「その!」

 そのまま仰け反って翼を見せびらかしつつ流し目を送り、

「夢を!」

 両手を広げて高らかに回転をし、

「叶え!」

 身体を丸めて、即座に身体を伸ばして広げ爽やかさをアピールする。

「形にするのが同人の本懐!」

 だから一言ずつポーズを取るな気持ち悪い!

「それを製作、販売することが……罪なのですか?」

「いや、そんな罪は無い。ワシもさっき大臣から聞いて初めて知った事だ。だが、ならばどうして作られた本はあのような卑猥な内容になると共に人形があるのだ?」

「軽度では王様が満足できるくらいの書物がありましょう。しかし……。これは欲望を叶えるというのと同じで満足できなくなるのです。それが麻薬と申すのならば私は否定しません。ですが愛の形だとも言えると思いませんか?」

「ぬ?」

 首を傾げた王様に俺も同意だ。

「愛とは媚薬、時に溺れ、身の破滅を招く愛もあるように危険な同人も存在します。ですが、同人を否定するということはこの世には愛がいらないというのと同じ!」

「そうか~?」

 俺の言葉は誰も聞いていないようで王様が頷く。

「なるほど、愛が無ければ出来ない事、それが同人なのだな」

「ええ! この世に愛が無いということがどれだけ恐ろしいか……皆さんは分かっているでしょう?」

 俺と大臣以外が頷いている。正直ついていけない。

「分かった。ワシの理解する範囲ではジークの仲間たちに罪があるようには思えん。我が国では罪であるとは言い難い。では何故、大臣が罪だと言ったのだ?」

「まず、逃げた大臣を捕まえてからにしましょう」

「何!?」

 ファエルの言葉に王様が大臣を探す。俺も気づかなかったが大臣が何時の間にか居なくなっていた。

「何時の間に……」

「私が止める間もなく転移の魔法を使って逃げたようです。逃亡先は魔法の流れで特定出来ましょう」

「分かっていたならさっさと言え!」

 俺が始めてファエルに突っ込みを入れられた。まったく、どうしてコイツはこんなに場の空気を掴むのが上手なのか。

「者共! ジーク一行に掛けられた罪は凍結、解放をせよ!」

 王様が高らかに言うと兵士たちがフィニたちの縄を解いた。

「ジーク~!」

 縄を解かれたフィニが俺に向かって走ってくる。

「絶対助けてくれるって信じてたよ~さすが勇者だね~」

「いや、実際助けたのは変態天使……」

「先にジークが俺たちを助けてくれたじゃないか!」

 フィニとクリエが俺に嬉しい事を言ってくれている。ファーヴとパララは。

「おおおおおおおお! どうにか無傷! よかった! 本当によかった!」

「やった! 失われなくて本当に嬉しい」

 それぞれ人質? にされていた本と人形の前で感激の涙を流している。正直あいつらは自分の命よりあんなものが大切という理解不能な神経の持ち主だ。放っておこう。

「では、まずは大臣を拘束してから話をせねばな」

「家臣を王様直々に疑う程度で捕らえては立場も危うい事に成りましょう。ここはジーク一行と私にお任せを」

 ファエルが礼をして答えた。どうもこの一体はファエルに支配されているようで、王様も頷いてしまう。

「よかろう。ジーク一行に大臣の追跡を任せる!」

「「「は!」」」

 え? どうしてフィニやクリエも釣られて礼をしてんだよ!? 俺も礼をしなきゃいけないのか?

 一応合わせて頭を下げる。

「では行ってまいれ!」

 その後、俺達(目の色を変えていたファーヴとパララはフィニとクリエが話しかけてどうにか理性を取り戻した)はファエルの誘導で大臣の逃亡先へ向かうことになった。

 断りたいのは山々だけど、なんと大臣が魔王城へ行くための玉を持って逃げてしまったのだから俺も断りようがない。

 さっさと終わらせたいものだ。

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