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常識が『杓子定規』な世の中って偏見【2】


 地図の場所は国が運営している豪華な酒場を兼ねた紹介所だった。国の一等地に立っていて民間人の住む地域とは離れている。

 正直浮いた気分だ。

「へ~魔王退治……ね。珍しい紹介者ね」

 酒場の受付らしい所で酒場の運営者らしい女性が紹介状を受け取って答えた。

「今はまだ人が来ていないけれど夜になったら集まるから少し休んでいくと良いわ。貴方顔色が悪いわよ?」

「はい……」

 そう言われて酒場の奥にある宿泊所で俺は夜まで休むことにした。

 城に入るまでは仲間がいたのに出るときは一人……仲間が犯罪人だというショックと兵士たちに連れられていく後姿に俺の心は何が正しいのか分からなくなってしまった。

 信じていた仲間が悪人だったなんて……。第十代勇者ベルスと同じみたいじゃないか……。後に真の友と呼べる仲間を得た勇者。俺は彼のように信頼できる仲間を得ることが出来るのだろうか。

「よし!」

 とにかく、前向きに行かねば。


 眠っていたら何時の間にか夜になってしまっていた。騒がしくなっている酒場に俺は入った。

「あ、来た来た。今なら登録されている冒険者の殆どがいるから気の会う仲間を探すといいわよ」

「はい」

 そう言って俺は酒場にいる冒険者たちに酒を片手に探し始めた。

「お? 新入りか?」

「そうなるかな?」

「って、コイツはジークじゃないか!?」

 俺の名声はここでも轟いているらしい。まあ、国中に放送されているのだから知らない訳もないか。

「となると、とんでもない仕事を請けてんだな。一枚俺たちに噛ませろよ」

「はは、俺は評判ほどじゃないし、貴方たちの事を知らないから全員を知ってから誘う相手を決めるよ」

 それとなく断って酒場にいる冒険者たちを値踏みしていく、う~む……どうも誘いたくない。

「お? お前はジーク!」

「あ!?」

 そこには冒険者養成学校で主席だった戦士と魔法使い、レンジャーに僧侶がいた。名前はなんだっけな? 成績がいい事以外はろくに好感を持てなかったから覚えてない。

「武道大会以来だな!」

 戦士とは武道大会決勝で戦った間柄だ。強さはそれなり、しかしエリート意識が強くて困る奴だった。

「なんだ? 俺たちの仲間になりに来たのか?」

 これまた嫌みったらしい魔法使い。学校卒業時、主席組みがパーティーを組んで冒険しようという誘いがあった。それを俺はフィニやクリエの為に蹴ったのだ。

「今日は、俺たちより成績が低い奴らを連れていないんだな? お前、一人なんじゃねえの?」

 誘いを断ると、こいつ等は根に持ったのか俺が他にも誘っていた仲間候補者を無理やり引き抜く等、様々な嫌がらせをしてきたのだ。こんな奴らが冒険者をしているから冒険者の評判が悪い場合があるというものだ。

「まあいいや、今日は機嫌が良いから見逃してやる」

 偉そうに僧侶が言う。コレで聖職者というのだから教会は腐っているとファエルが愚痴っていたのも頷ける。

 俺はその場から離れて酒場で開かれている見世物を見ようとした。運悪く一回目の上映が終わってしまったようだ。

「あら? ジークさんじゃないですか」

「え? レヴィアさん?」

 酒場のステージにはレヴィアさんが立っていた。どうも聞き覚えのある歌が酒場で流れていると思ったら彼女だったのか……。

「どうしたんですかこんな所で」

「それは俺の台詞だって、こんな立派な酒場で歌える人がどうして俺の行きつけの店で歌っているんだ?」

「私は何処でも、私を望んでくれる所に行きますよ」

 のん気な笑顔でレヴィアさんは答えてくれる。

「それより、ジークさん、何か悩んでいる顔をしていますよ? 私でよければ聞きましょうか?」

「そんな、レヴィアさんに心配してもらうなんて……」

 どうも俺は彼女の前では恥ずかしくなってしまう。とても優しそうな彼女に心配なんてしてもらいたくないという見栄がある。

「人に話して悩みが解けるかもしれないですよ」

 優しく俺の手を握ってレヴィアさんは答える……なんて柔らかい手触りなのだろう。

 俺は、少しずつ、俺自身ですら疑問に思っていたことを呟き始めた。

「俺さ、最近有名になってきたでしょ」

「はい」

「あれって本当はさ……俺が活躍したわけじゃなくて仲間のお陰なんだ。しかも相手を倒した訳でもなく買収してさ」

 そう、ファーヴを説得したのもフィニのお陰だ。彼女がいたからあんな大仕事成功させられたのだ。

「そうなんですか……」

「他にも似たようになのが何回かあってさ、結局俺の名声は仲間に築き上げてもらったものなんだ」

 クリエにしろ、ルーシーにしろ、みんなが俺を有名人にしてくれた。みんなが善意で俺の力になってほしいとファーヴやパララやファエルに頼んだんだ。せっかく、どんな願いも叶えてくれるという約束を使って。

「でもその仲間はジークさんを慕って手柄を明け渡したんですよね」

「ああ、それで今日、王様に謁見して魔王退治の仕事を請けに行ったんだ」

「わあ! 凄い大仕事じゃないですか」

 レヴィアさんは拍手をして俺を褒め称えてくれる。嬉しいけれどさ……。

「で、そこで仲間たちが全員……俺は良く分からなかったんだけど、副業の所為で捕まったんだ」

「ええ! どんな罪で?」

「なんか、ドウジンシって本を書いた事とフィギュアって言う人形を作って人々を惑わした罪、だとかで……」

 そう、どうしてアレくらいで犯罪者になるのか想像も付かない。確かに表現が行き過ぎてはいると思う。けれど、小さい頃に読む本にも大人になったら分かる残忍な事が書かれている。

 勇者が敵国の兵士を倒した。しかし、それは殺人では無いか? 敵の兵士ならば罪にならないのかと勇者が好きである俺もたまに思った。

「それってそんなに悪いことなのかな? 俺には全然分からないんだ」

 俺の悩みにレヴィアさんは深く考えていた。その何処までも透き通った赤い目をした彼女が口を開いた。

「昔、私が聞いた話をしますね。とある国の話です」


 その国は人のものを盗むことが正しいことでした。これは国が定めた法律です。逆に自ら働いて物を作ることが犯罪だった。

 国は裕福とは程遠く、人々は疑心暗鬼のまま生活していました。

 何時自分の物を盗みに人が来るのか分からない。国として纏っていること事態が不思議な国だった。

 そんな国で一人の青年がこのままではいけないと真面目に物を作り出し始めました。食べ物を初め、生活に便利なものも自分で作り出した。

 国は彼を犯罪者として刑務所に入れました。しかし彼は刑務所の中でも物を作り、畑を耕して自分の生活を裕福にします。

 国民は盗もうにも刑務所の中、そこでは彼と志を同じにした仲間たちが一緒になって裕福な暮らしをしています。国民は羨ましい。けれど刑務所の中にいる罪人に石を投げることは出来ても物は盗めません。ただ、王様を除いて、

 王様は彼から様々な物を盗んでいました。王様も裕福な暮らしです。罪も犯さず羨ましい限り、国民は王様から物を盗むことを考えました。

 そして国民は王様の物を盗みます。

 王様は怒りました。彼自身が決めた法律にも関わらず……。


「話は一度ここで区切りますね」

「それが、何の関係があるの?」

「常識というのは国や人によって様々です。話の中にある人の物を盗むことが正しい国、ですがここでそんなことをしたら犯罪者ですよね」

 俺は頷く、あくまでそんな国があるとは思えないけれど盗むことは犯罪だ。

「ですがその国では罪にならない。逆に物を作ることが罪になる」

 メチャクチャな国だ。常識がまるで逆、だけどその国の中では犯罪ではない。

「ここが重要な事ですが罪って、誰が決めるものですか?」

「それは、法律とか……常識かな?」

「ええ、そうですよね。要するに人や国が決めることなのです。話を続けましょう」


 王様は更なる法律を課しました。王様の所有物を盗んではならない。

 独断と偏見の塊な法律です。国民は怒り狂いました。

 暴動が起こりそうになったとき、王様はしぶしぶ法律を追加します。

 変わりに刑務所の物は盗んでも良い。身勝手な法律でしたが国民は受け入れ、刑務所にある全ての物を盗んでいきました。

 ですが刑務所に合ったものなど国民全ての手に渡るほどではありません。

 なのに王様は裕福な生活をしている。

 ここで、初めて物作りを始めた青年が立ち上がりました。自分たちが裕福でないのは誰の所為なのか、それは自分たちが人のものを盗むことだけしかしなかったから、犯罪である物作りをしないから何も自分たちには無いのだと。

 国民は生活に疲れていました。だから彼の言う犯罪行為を受け入れて物作りを始めました。すると見る見る生活が楽になっていきます。

 しかし、王様はそんな犯罪行為を許しません。兵士を使い、国民の物を奪っていったのです。自分の至福を肥やすために。

 ですがそんな事をしても何も始まりません。彼は国民を引き連れ王様と部下の兵士たちが盗みに来られないようにとても高い、防壁を建てて、独立国家を作りました。

 その中では盗むことが罪、そして作ることが常識になり、生活は豊かになりました。王様は盗みをしようと何度も独立国家に攻めましたが結局、飢えて敗北を認めるのでした。

 その国は今もどこかで豊かに物を作っているそうです。


「おしまい」

 レヴィアさんはそう言って俺の顔を見る。

「凄い話だったね」

「ええ、どうして、この話をしたか分かりますか?」

 正直な所。国の常識が合わないので理解できない。レヴィアさんがどうしてこんな話をしたのだろう。

 俺が首を傾げる。すると。

「この国では物を盗むことこそ『正義』なのですよ。ですから国民は否定しなかった」

「な!?」

 考えてみればそうだ。正しい行いなのだ。国の常識なのだから。

「ですが新しく国を作った青年は、元々の国では『悪』であることを正義にしたのです」

 悪いことになっているのにそれを知って尚、青年は自分が正義だと思っていたのだろうか……。

「私たちからすれば犯罪が正義の国、その中でこれこそ悪なのだからと自分が見つけた正義を貫くのはどれだけ勇気があることだと思いますか?」

 そう、下手をすれば殺される危険だってあったんだ。犯罪なのだから。

「極論ですけどね。ジークさんの仲間は倒すべき魔物を何かで買収していたんですよね?」

「ああ……」

「ですが、その結果、魔物たちはどうなりました?」

「そいつらと、とても仲良く……しています」

 俺の言葉にレヴィアさんは頷いた。

「ではジークさん。魔物だからといって殺しても……良いのですか?」

「え!?」

 俺は、気づいた。彼女が何を言おうとしているのかを……。

 魔物=悪だと誰が決めた? そして殺すことが許されるなんてどうして決まっている? そう、国が決めたこと。盗むことが正義の国と変わらないのだ。

 ファーヴやパララ、ファエルはカテゴリーで言えば魔に属する者たち、だけど一緒に笑い、話が出来る関係だ。何処に悪い所があるだろう? 元々彼等は自らの命を守る為に戦っていたのだ。例え死者を出して、殺人をした事もあったとしてもそれは正当防衛なのかもしれない。

「確かに魔物にはとても強い生命力があるのでしょう。ですが……斬られれば痛いはずですよね」

 多分、痛いじゃ済まないはずだ。彼らも襲い掛かってくるけれど、どっちが先に刃物を振り上げたのか……俺は人間側では無いと否定できない。

「ジークさんや仲間たちはそこで無血による話し合いで終わらせたのですよ? これが如何に難しい事なのか。そんな人たちを巡り合わせたジークさんを私は尊敬します」

 彼女はとても優しい人なんだと俺は思った。今まで気づかなかった切られることの痛みを俺の話から理解したみたいだ。

「話は戻りますけれど、この国では犯罪であるかもしれない同人誌やフィギュアでしょうが、被害は殆ど出ていないのに何故捕まらねばならないのでしょうね?」

「……そうだね」

「私の古い友人に少しだけ調べて貰います」

 レヴィアさんはとても顔が広いらしい。酒場で人気の歌姫をしているからだろう。彼女に相談して俺は良かったと思った。そして彼女は俺を驚かせる発言をした。

「ですからジークさんはこの国にいる魔王を退かせればよいのだと思います。そうすれば魔物はしばらくこの地からいなくなると思うので」

「え? さっきの話じゃ魔王だって……」

 レヴィアさんの話は矛盾している。それでは解決にならないはず。

「退かせると言いました。説得でも何でも良いのです。今は魔物と人間とは距離を取った方が良いと思うのです。刑務所に国民が盗みに入ったように、一時の報酬が必要な時、関係を修復するための……それからジークさんが手を取り合うように宣言すれば良いのですよ」

 有名になり魔物とも分かり合えると俺が話の中の若者になれば良いとレヴィアさんは伝えてくれる。

「そうか……」

「ですから、ジークさんが後悔しないように仲間を集めて魔王を倒してください」

 レヴィアさんは慰めてくれた。そこで俺は……魔王と本当に戦える仲間の顔が浮かんできていた。やっぱり……あいつらしかいない。

「うん、やっぱ―――」

「なんだぁ? お前魔王退治なんて馬鹿なことしようっていうのか?」

 俺の話を区切って学校時代の主席戦士が俺に言い放った。

「馬鹿とは何だ!」

「万が一魔王が倒れちまったら魔物が国からいなくなっちまうじゃねえか! 俺たちの食い扶ちを無くしちまう! 魔王なんて放って置くのが常識だろ?」

 そう、第三代勇者イルスが魔王を倒した後、世界は平和になり、魔物がいなくなり、冒険者の大半が引退したという話がある。これはレヴィアさんが言った事と符合するものだ。

「そんな事学校でも聞いたことが無いぞ!」

 しかし、魔物がいるから被害報告も討伐の仕事もあるが魔王を倒さない理由になるなんて学校でも聞いたことが無い。

「常識なんだよ! しらねぇ方がおかしいんだ!」

「何を言っているんだ! 村の人を始め、国民が困っている魔物がいなくなる。平和になることこそが重要なことだろ!」

 まるで冒険者が人の不幸で食べていっているみたいじゃないか。

「やっぱ馬鹿だ。お前、そんな考えで冒険者家業に手を出せるわけねぇだろ」

「仲間がいないのも頷けるな。まあ、あいつ等も大した奴らじゃなかったけどな」

 戦士が笑いながら答えると魔法使いも頷きつつ言い放つ。極めつけには。

「そうだな! 成績微妙な奴だったし」

 フィニの事を馬鹿にした。フィニがどれだけ頑張って生活しているのか、どれだけ魔法の努力をしていたのか知りもしないでそんな事言いやがって。

「ああ、あの猟師は中々器用だったけど俺たちには及ばねえもんな」

 レンジャーはクリエがどんなに頑張っていたのかを否定した。あいつが、学校の成績が悪くて、誰にも見られない様に悩んでいた事を思い出す。普段は着丈に振舞っている奴だけど、一度や二度、泣きたくなってしまう時くらいあるはずだ。

「何だと……」

「神もあのような愚か者たちを見捨てたんですよ」

 しかも神が与えた運命だと!?

 こいつら……

 俺は怒りに任せて戦士の胸倉を掴む。あいつらがどれだけ頑張ったのか分ってねぇ!

「何だよ。やるって言うのか?」

「ああ」

 声を殺して俺は答えた。こいつら許さねぇ……俺の仲間を馬鹿にしやがった。

「表へ出ろ!」


「いい度胸じゃねえかジーク! 武道大会の恨みと俺たちの誘いを断った因縁を晴らしてやる」

 戦士、魔法使い、レンジャー、僧侶が酒場の前で俺を取り囲んでいる。

 ここは国の一級地だ。国民が用も無いのに来る場所ではない。なのでギャラリーは酒場にいる者達。

「こっちも色々言いたかった事があったからな、丁度良い。お前ら成績だけ良いけど実力が無いんだよ! だから断った」

「あんな雑魚の方が俺たちより上だって言うのか!」

 またフィニとクリエを馬鹿にしやがった。絶対に許さない。

「そうだと言っている!」

「何だと! おい、お前ら! やっちまうぞ!」

「おお! 一人で俺たち相手に何が出来る!」

 首席四人が各々の得意な攻撃の準備を始めた。俺はただ立ち尽くして相手の出方を待った。

「食らえ!」

 戦士が俺に向けて剣を振りかぶってくる。その後ろに魔法使いが魔法の詠唱を始め、レンジャーが弓を構えていつでも撃つ準備をしている。僧侶はどうも神聖魔法で戦士の能力を引き上げているようだ。

 とはいえ、武道大会じゃ苦戦した相手だけど、ファーヴとパララが俺にした地獄の特訓の成果か恐ろしく遅く感じる。無謀な特攻だな。構えがまるでなっていない。貴族の御遊戯レベル、実践で役に立つのか疑問に思う。

 俺は戦士が振るった剣の刀身を片手で掴み、流れるように奪って蹴り飛ばす。

「遅い」

「何!? 馬鹿な!」

 戦士は自分の武器が奪われた事に転んでから気づいた。これで主席なのだから聞いて呆れる。

 俺はそのまま魔法使いに向けて剣を媒体に雷の魔法を付与、振り切って雷の斬撃波を飛ばした。確か雷鳴波という魔法と剣の混同必殺技だったはず。

 はじめて出来た時はとんでもない必殺技を手に入れた気持だったがファーヴやパララ、ファエルにはまるで効果が無いと知って落胆したものだ。

「ギャアアアアア!」

 断末魔だけで魔法が飛んでこない。フィニならば何かが飛んでくるタイミングだ。まずは相手の隙を作ってから長い詠唱魔法を使うと言っていた。常識だと思っていたが違うようだ。

「詠唱が遅すぎる。どんな威力のある魔法でも直ぐに撃てなきゃ意味が無い」

 俺が言った直後、レンジャーが矢を放った。

「弾道に工夫が無い。これでは掴んでくれと言っているようなものだ」

 望み通り掴んで投げ返してやった。一応、弓の弦を切ってやる。クリエならばもっと嫌らしい飛ばし方をしてくる。何時の間にか罠まで仕掛けて、絶妙なタイミングで発動させる。

「そ、そんな!」

 僧侶が魔法使いに回復魔法を掛けている。

「せめてもうすこし距離を取れ、その場でやれば狙ってくださいというものだ」

 俺は短く眠りの神聖魔法を僧侶に掛けた。

「眠れ」

「な……魔法に……神聖魔法を……」

 僧侶はそのまま眠りの世界に旅立った。

「次はどうする?」

 俺は戦士に剣を向けて言い放った。弱い、あまりにも弱すぎる。

「馬鹿な! 俺たちは首席だったんだぞ! どうしてお前はそんなに強いんだ!」

「鍛錬だろ? どんなに優秀でも努力が足りないんだよ。お前らは!」

「嘘だ!」

 一昔前の自分を思い出した。なるほど、ファーヴが修行しろとうるさかったのも分かる。パララの魔法訓練も、ファエルの神聖術講座も痛いほど俺に染み付いていた。

「学校で習うのは基礎なのさ、鍛錬がこうして差を開く」

 毎日、勇者の物語じゃ終盤の大物たちと戦っているのだ。否が応でも強くなる。

「この酒場じゃお前たちはどの程度なんだ?」

「トップに決まってるだろ!」

 戦士が卑怯にもプライドをかなぐり捨てて砂を俺に向けて投げつけて殴ってくる。ワザと目に砂を受けてやった。

「ハッハッハ! 死ね!」

 ギャラリーの好奇に満ちた悲鳴が轟く。

「甘いな」

 心眼で戦士の腹に向けて剣の塚を当てる。

「う……」

 後はレンジャーだけだが気配が無い。どうも逃げたようだ。

「この程度がトップか。たかが知れているな」

 俺は剣を倒れている戦士に向けて放り投げてからギャラリーを睨み付ける。

「どうした? 他にはいないのか?」

 全員が首を横に振った。なんて雑魚ばかりなんだ。

「そうか」

 最近、フィニやクリエ以外に勧誘した仲間が直ぐにやめてしまうのが分かった。

 どいつも形だけの冒険者なのだ。学校時代に誘いたかった有能な仲間は自分の国に帰ってしまった。彼らならばもしかしたら付いて来られるかもしれないが。俺がピンと来ない冒険者ではこの程度なのだろう。

「レヴィアさん」

「何ですか?」

「やっぱり俺は城に戻って王様に言ってくるよ。俺が信頼できる仲間は捕まっている奴だけって」

 レヴィアさんと話をしていると酒場の支配人の女性が腕を組んで俺に言う。

「私からも伝達しておいてあげる。うちの酒場にいる冒険者じゃジークに釣り合う猛者がいなかった。だから多少の罪程度で罰を課すのは惜しいってね」

 ウインクして言ってくれる。

「だけどね。今は真夜中だよ? 城はとっくに閉まっているわ。明日の朝になってから行きな」

「あ、そっか」

 月の出ている夜だ。かっこつけた矢先コレでは対面が悪いな。

「善は急げといいます。友人に聞いてきますね」

 レヴィアさんは出掛けていき、俺は少し居心地が悪いけれど酒場の休憩室で仮眠を取ることにした。


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