ペンは竜殺しの剣より強し?【上】
オタク……部屋に閉じこもり、趣味に没頭する人々の呼び名。
趣味は多岐に渡るがオタクと呼ばれる者の大半はアニメ、マンガ、フィギュアのどれかであり、彼らは収集した物を宝と称してコレクションしている。
暗い部屋、人によっては宝の山……何かに、似ていないだろうか?
「そろそろ行くぞ」
今日、俺は大きな仕事があった。この仕事さえうまく行けばそれだけで有名になれる。
俺の名前はジーク・シグルス。現在十八歳の勇者志望の冒険者だ。
最近、国が主催の武等大会で優勝したのが自慢だ。その大会で優勝して流れてきた仕事を今からするために旅立つ。
「もうちょっと待って~」
今、俺を待たしているのは仲間のフィニ・アンティニール。
幼馴染の魔法使いの女の子。
代々続く魔法使いの家の出で、将来を有望視され俺が通っていた冒険者養成学校を一緒に卒業した仲間だ。
何でも生まれつき睡眠時間が少なくても平気な体質らしい。
これが有ると無いとでは魔法使いとしての資質に関わるとか……。
よく考えてもらいたい、勉強する上であまり寝なくても良いというのがどれだけアドバンテージを持っているかを、それだけ優秀な仲間であるということだ。
但し、学校のほうではフィニの素晴らしい所を評価しなかったという不満がある。
下から数えたほうが早い。だから俺はどうにかして見返してやりたいのだ。
フィニはお前達学校の連中よりも有能な魔法使いであると。
学校での評価が低いために魔法使いの就職口に良いものが無なかった。
年齢は俺と同じ十八歳、顔は童顔で可愛いほう、身長は低く、守ってあげたくなる華奢な体つき。そしてメガネを着用している。
気持ちの悪い男に言い寄られるのが悩みらしいのを俺に打ち明けてくれた。
「早くしろよ」
「うん、後はゲンコウを荷物袋に入れるだけだから~」
性格はゆっくりとした天然。その所為で就職できなかったのかもしれない。
フィニは趣味が講じて絵描きの仕事を掛け持ちしている。そこまで生計が厳しいのだろう。
ゲンコウが何を指す言葉かは知らないが俺の仕事を手伝ってくれるのはアイデアが浮かぶかもしれないからだそうだ。
だが、俺は感謝している。
彼女しか今回の仕事に同行してくれる仲間がいなかったのはそれだけ大変な仕事だからである。
「準備完了。早く行こ~」
などと考えているとフィニは俺を急かす。
不安めいたものがあるのだが……まあ手伝ってくれるなら文句は言えない。
もちろん、知り合いから同じ仕事を頼まれても俺は首を縦に振れるか分からない。
仕事の内容は冒険者なら誰でも夢見るドラゴンを見る事が出来る。
今回の仕事はゲルマン山と言う山に古代から住む生きる伝説、ドラゴンを退治する仕事だ。
ドラゴンというのは基本的に遺跡や洞窟に好んで住み、強靭な肉体を持つ、大きなトカゲに蝙蝠の翼が生えた化け物の呼び名である。
鱗は鋼で作られた剣でさえも弾く強度を持ち、口から特別な息を吐く、それは火であったり、氷であったり毒であったりと様々だ。強大な魔法すらも使いこなすとも言われている。
そして有名な話なのだが金銀財宝を溜め込む習性を持っていて、巣穴の中には宝が山のように煌びやかな輝きを放っているらしい。
但し、宝に手を出そうものならば怒り狂ったドラゴンによって瞬殺されてしまうそうだ。
今まで何人もの冒険者がドラゴンの宝に手を出して殺されたか……。
噂だけでも相当数の人数が、この世から消えている。
よく英雄譚や勇者の物語に現れては姫を浚い、勇者や英雄が退治するまで悪の限りを尽くしている魔物なのだ。
軍隊が一匹のドラゴンに全滅させられたなんて話を聞くくらいだ。
ドラゴンを倒し、その財宝を手に入れる。
まさしく勇者になるための登竜門だが、俺にはまだそれだけの力がない。
剣でも魔法でも、大人数で押しかけて倒すことが叶わない。
そんな人間が倒せるのか怪しい相手を倒せなくても仕事を成功させる事は出来る可能性があるのだ。
仕事の成功条件はドラゴンの体の一部を手に入れる。もしくは討伐。
どうしてこんな仕事があるのかというと。
何でも、とある貴族の令嬢の病の治療に必要な材料が、特別な竜の体の一部なのだという。
だからこそ、鱗の一枚でも手に入れられたら仕事は成功する。
俺は勇者や英雄になりたい。しかし伝説の武器など持ってはいないし、一人で倒すほどの力もない。
だから有名になって世界各地を回って伝説の武器を探すという夢もある。
旅立って数日、目的地のゲルマン山に着いた。
ドラゴンがいるのは山の中腹にある遺跡らしい。
ゲルマン山に着いた時は夕方になってしまったので今日は野宿をとることにした。フィニに向けて意思を伝える。
「ここで野宿しよう」
「うん」
俺はフィニに伝えるとフィニは荷物袋からゲンコウを取り出して書き始める。
その間に俺は荷物を解いてキャンプ用品を広げる。
「……悪かったな、大変な仕事に手伝わせて、野宿の準備は俺がするから」
きっと忙しい絵描きの仕事を押して手伝ってくれたのだろう。
だけど我慢してくれ、この仕事が終わったらお前もみんなが認める魔法使いになってそんな仕事をしなくてもよいはずだ。
「いいのよ。行き詰っていた所だし、冒険をしないと得られないアイデアもあるし」
笑顔で答えるフィニのために俺は一人で野宿の準備をする。薪を集め、火を起こす頃には夜になった。
食事を終えてもフィニは必死に書いている。
「朝になったらドラゴン退治だ……幾ら体質的に平気でも、そろそろ寝たほうが良いと思うぞ」
俺が進言するとフィニは書くのをやめて、顔を上げる。
「うん、一区切りついたから寝るね~」
言い終わるとそのまま寝てしまった。この辺りの使い分けが体質的に優秀なのだと常々思う。
何時見ても驚かされる……俺も朝に備えて眠る事にしよう。
朝露が山の麓の森を覆う頃、俺達は遺跡に入る準備をしていると突如上空から突風が起きた。上を見ると大きな影が通り過ぎる。目的のドラゴンだ。山の上の方に降りたのが見えた。
「遺跡から行くよりも近道があるかもしれない、行くぞ」
追いかけるように山を登る。この辺りは冒険者の学校で学んだ登坂訓練が役に立つ。走るまでにはいかないが一般人よりは早く登っていける。
ドラゴンが降り立った辺りまでたどり着くと大きな穴が開いていた。辺りを調べると階段がある。遺跡への抜け道なのだろうか。
俺は息を呑み、振り返る。
「……行くぞ」
「ちょっと待って」
「どうした?」
荷物袋からフィニが一冊取り出して俺に渡した。
「もしも私に何かあったらこの本を持っていて欲しいんだ」
「何の本なんだ?」
「私が絵描きとして売り出す前にはじめて出した本。生きて帰って来られるか分からないから持っていて欲しいんだ~」
物語の類ではこのような発言をするものは……俺はフィニの肩を掴む。
「ジンクスがあるんだぞ? もしかしたら、もしも等を言って物品なんて渡したらお前は――」
そうだ。大抵の英雄譚で、自分に何かあったら等という人物は死ぬ、ならば言わせないのが吉だ。
「でも、何が起こるか分からないから持っていて欲しいんだ~」
「だが」
『もしかしたら』が起こらないようにする。だが、起こる可能性をゼロに出来ない。
英雄譚でも物語でもない。紛れもない現実なんだ。ならば受け取るしかないだろう。
起こってしまった後に何を残すか、大抵は生き残った人物に何かを齎す。それが何であれ、後の英雄は乗り越えていくのだ。
それに勇者志望の俺だって歴史に名を残したいと思うと同時に、志半ばで倒れていても誰かに何かを残すことを俺は否定できない。フィニを絶対に守らねば俺の勇者道は傷がつくと同時に誇りが失われてしまう。
俺は黙って首を縦に振り荷物袋に本を入れる。
「……じゃあ行くぞ」
「うん」
俺達は抜け穴をゆっくり降りていった。
今日中に9話まで更新予定です。




