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ノルドの城にて

ブログに掲載していたものの転載です。「枕」の二作の間にあった小話です。

アンジュが手に持っているものを見て、ホーフェンは僅かに頬が引き攣った。

 矢筒に、黒騎士団の隊長の数だけ矢が入っている。

 それは、アンジュの用意した、クジだった。

 この先に矢尻はつけられておらず、矢尻の代わりに、一本だけ、先が色付けされたものが入っているのだ。


 「……どうしていつも、俺から?」

 「あなたが横にいるからよ。ほら、引きなさい」


 引きなさいと言われても、そうそう手は出せない。なぜならこれは、寝ている狼の巣穴に首を突っ込み、無理矢理引きずり出す犠牲者を決めるくじ引きだからだ。

 道具がしっかり書斎に用意されているのもどうかと思うが、これはある意味黒騎士団の伝統なので仕方がない。

 黒騎士団では、団長以外がなにかを決めるときは、くじ引きで平等に、というのが習わしだからだ。


 「お前はいつ引くんだ?」

 「親というのはどんな賭け事でも、全員が外した場合の責任を取るものよ」


 にっこり微笑むアンジュに、若干引きつった笑顔で、ホーフェンは言い切った。


 「妻にそんな役目をさせるのもなんだから、俺が親を引き受けるぞ。ほら、そのクジよこせ」

 「……私は、たかがクジに恐れを成して逃げ腰になるような男を夫に持った覚えはないのよ、ホーフェン?」


 同期の男達から猛女と恐れられ、黒騎士団一の才女として、結婚し子供を産んだ今も団長の傍で腕を振るうアンジュは、あくまで笑顔のままで、ただその腕を夫に向けて突き出した。

 年上の彼女の、弓引く姿に一目惚れし、ただそれを追いかけて黒騎士団に入り、結婚の条件に出された自分より稼ぐ男じゃないといやだという一言で参謀長まで登りつめたホーフェンは、結局彼女に勝てた事は一度もない。惚れた時点ですでに全面降伏だった。


 ゆっくりと引いたその一本に、色は付いていなかった。


 大げさに礼拝堂に向かって感謝の祈りを始めた夫を放置し、アンジュはさっさと犠牲者を決めるべく、部屋をあとにする。


 団長の机の上に、決裁と署名を必要とする書類は、どんどん溜まっていくのだ。

 アンジュは、廊下の窓から、寝ている狼、すなわち昼寝中の団長の部屋を見上げた。

 今日は、その部屋の傍に、その狼が唯一心を許す人がいるはずだ。彼女なら、寝ている最中傍にいても、団長が攻撃しない事もわかっているので、起こすのは手伝ってもらえるだろう。

 彼女の予定も把握しているアンジュはその事を知っていたが、結局連れ出す苦労は変わらない事もわかっている。

 大きなため息を吐きながら、足早に、他の隊長の大半が集まっている練兵場に足を向けたのだった。

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