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アルマゲドンが終わるまで 9 蛇の降臨と僕のプロポーズ

僕は護身銃をマイケルに向ける。


マイケルは相変わらず

「モニカはどこだ」

と言い続ける。


僕は《真っ黒》の気配を強く感じていた。《真っ黒》は僕らの頭上にいる。まもなく降りてくるんだろう。


ここは危険だった。


このままマイケルとにらめっこを続けているわけにもいかなかった。


ちなみに僕は彼に銃を向ける事について、両親を殴るのと同じような罪悪感に苛まされている。それも理由の1つ。


とにかく、今は強行的な手段にでるしかないのだ。これは自己弁護の為ではなくて、現状そうせざるを得ないから。


僕は美佳にその意志を伝える。美佳は音速と光速の中間くらいのスピードでマイケルの首筋にちょんと手刀でノックアウト。


そのまま若い兵士と僕とマイケルを抱えて建物の外へ猛ダッシュ。


外に出ると空が暗い。暗くなるには時間が早すぎるのに空が真っ暗。


美佳は僕らをキャンプからちょっと離れた街の一角に降ろす。


商店街で、ひっそりとしていた。戒厳令というものが出ていると若い兵士の言葉。


僕は若い兵士にマイケルを頼んだと言った。もし、何もかもが上手くいったらまた会いにくると付け加える。


僕と美佳は空へ舞い上がる。


空がうねりを見せ始めていた。そのうねりがどんどんうねうねしてくると、ぽかっと、真っ暗な空の中に、さらに真っ暗な穴が開く。


とてつもなく大きな穴だった。僕はブラックホールを思い出す。見たことはないけど、恐らくブラックホールというものはこういうものなんだろうなという印象をもった。


何かが吹っ切れていた。僕の中の、迷いとか悔恨とかそういったものが吹っ切れていた。


全てを後回しにする事が、いい結果を生むとも思えないけど、全てを後回しにする事で、少なくとも《真っ黒》との戦いには集中出来る。


「来るよ、隼太。びびんないでね」


「今更、怖いものなんかないよ」


美佳を除いて、という言葉は怖すぎて却下した。


穴から、巨大な闇が這いずるように出てきた。


言葉を失う光景だった。


その生物?は、馬鹿みたいに太くて、馬鹿みたいに長くて、馬鹿みたいに黒いのだ。


蛇…。


何かに例えるなら、そう、それは蛇のような生き物だった。


空から大地へ蛇は降りる。その下に防衛軍のキャンプ。東西南北に伸びる巨大な鏡のメガホン。一瞬で蛇に潰された。


地上に蛇の頭が付いても、穴からはまだまだ尻尾らしい部分がするする出てくる。


蛇の顔には赤い目が1つ付いていた。


爬虫類というより大きな人間の目という方が近い。


端的に言って不気味だった。


蛇がようやく、全長をあわらにした。


尻尾もそのまま大地に落ちる。


衝撃が大地に走り、地震が起こった。


それだけで、まだ残っていた高いビルが崩壊するのが空から見える。


「おいおい、これは想像以上だよ美佳」


「本来にヤバいのはこれからだよ隼太」


美佳の言うようにこれからだった。


蛇の体が光る。エメラルドグリーン。幾千幾万の細い光が、放物線を描いて飛び出した。


僕らにもその光が襲いくるも、美佳は華麗に旋回してそれをかわす。酔いそうだ。


大地から悲鳴が聞こえた。


だけど、今の光で何かが壊れたようには見えなかった。


「食べてる…」


美佳がポツリと言う。


「人を食べてる」


蛇が頭を上げた。赤い目で僕らの方向を見る。というか僕らを見た。


「ねぇ、美佳はあいつの弱点知ってるんだよね?」


「知らない」


戦況が絶望的である事を再確認。


「それじゃ、探そう」


「どうやって?」


「成り行きと運で」


「隼太のそういうとこ、嫌いじゃないかも」


アオーンーー。


蛇が雄叫びを上げた。


次の瞬間、さらに信じられない事が起きる。


蛇がその巨体からは到底有り得ないスピードで空に舞う。


それでもって頭から僕らに突っ込んでくる。


ギリギリで美佳は高度を上げて、何とかそれを逃れた。胃が痙攣して気持ち悪い。


「勇気ある撤退をお願いします」


「依存ありません」


僕らは猛スピードで蛇に背を向け敵前逃亡。てか美佳が逃げなきゃいけない相手がいる事が今日3番目くらいに信じられない。


上位の2つは同率1位といったところか。


蛇は追ってこなかったが、彼方からたくさんの影が見えた。


鬼達だった。


おばさんとおじさんを先頭に、やっぱり猛スピードでこちらへ向かってる。


「美佳!隼太君!」


おじさんの叫び声。初めて鬼達の存在が心強くて喜ばしかった。


「無事なの?」


心配そうにおばさんが言った。なんだかんだで娘が心配なんだろう。うんうん、感動の再開だ。


僕は父さんと母さんを思い出す。


「美佳!」


「何隼太?」


「ごめん、僕を降ろしてくれ!ちょっと急用を思い出したんだ」


「ママとパパでしょ?私も行くよ」


ありがとう、と僕は言うべきで、でもここへきての美佳の鋭さにビックリして感動して、何も言えずに押し黙ってしまう僕だった。


「いや、隼太君のご両親は私たちに任せなさい」


おじさんの言葉。


「あんた達には役目があるはずよ」


おばさんの言葉。


「どうして、ママ達が知ってるのよ?」


「あんた達の友達が、教えてくれたのよ。消え入りそうに小さな声だったけどね」


名無し…。


「いい?《裁く者》が狙っているのは実際のところ私達の一族なの。隼太君のご両親を助けたら、私達は一族総出で奴の注意を引きつける。あんた達はその隙をついて奴を滅ぼしなさい」


「でも、それじゃママ達が…」


同感だった。あの大きな蛇相手に、注意を引きつける事がどれだけ困難で危険かは言うまでもない。


「何を言ってんの。美佳、あんたに心配される筋合いはないわ。私達はもう親子の縁を切ったんだから」


「おばさん、こんな時にそんな事言わなくても…」


いいじゃないですかと言う前に、おばさんが次の言葉を放つ。


「こんな時だからよ。私達の心配なんかしたら、奴に勝てる可能性はゼロに等しいの」


毅然なおばさんの態度には、もう覚悟が見えていた。僕はそれが解ったので、それ以上何も言えなかった。


「隼太君のご両親はどこにいるんだ?」


僕はおじさんに病院の場所を伝える。


そして、僕も覚悟を表明する事にした。


「父さんと母さんには、僕が生きている事を伝えないでください」


「隼太…?」


「いいんだ。もう、決めたから」


おじさんは戸惑いの表情を見せたが、僕の覚悟を少しでも察してくれたのか、それ以上言及する事はなかった。


後方から轟音と雄叫びーー蛇が世界を壊しながら、僕らの元へ迫り来る。


「あいつの弱点に、心当たりはない?」


美佳が尋ねた。


腕を組んでしばし天を仰いだ後、おじさんが思い出したように言う。


「太古の傷…」


「太古の傷って?」


「もう数千年前になるが、我々が《裁く者》と闘った際に、奴を傷つける事に成功したんだ。肉を持たなかった奴にとって、それは唯一の傷となった。護身銃は、その時千切れた奴の《肉のない肉片》から我々が創りあげた物なんだよ。一族の中に反逆者が出た際などは、よくその銃で異次元送りの刑に処したものだ。《裁く者》が近い次元域に迫り来た折りには、死刑の意味合いも兼ねてな」


《裁く者》って、そういう経緯で付けられた名前だったんだ。納得。


「その太古の傷が肉を持った奴の体に残っていれば、あるいは、それが奴の弱点になるかもしれない」


僕と美佳にとって、それだけが勝機だった。やっぱり成り行きと運に賭けるしかないようだ。


「そろそろ行かなきゃならないわね」


おばさんが鬼達を促す。


でもその前に、僕には言わなきゃならない事があった。


「おじさん、おばさん。あなた達が、美佳と縁を切ったと言っても、それでも、僕はこの世界の敷きたりに乗っ取って、言わなきゃならない事があります」


なにかしら。なんだい。おばさんとおじさんの返事は同時。


「娘さんを、美佳さんを、僕にください。僕と美佳さんの結婚を認めてください。必ず、僕が彼女を幸せにします」


両親への許可の願いを兼ねたプロポーズ。しかも僕は美佳に抱えられて宙にぶらぶら。形としてはムードもクソもないけれど、贅沢は言ってられない。


頬に水滴。多分美佳の涙だろう。


だっておじさんもボロボロ泣いてるんだもの。


「…了解した」


「ありがとうございます」


胸のつかえは取れた。全てが終わったら、やっぱりマイケルに殺されようと思う。僕と美佳はその時まで夫婦になった。


「者ども!」


おじさんが鬼達に吠えた。


「これより、我々一族は最後の決戦に打って出る!決着の一撃を、この新しいつがいに任せる事に異論の無い者は、命を懸けて付いて来い!」


鬼達の叫び。


「パパ、ママ」


美佳の声。


「今まで、ありがとう」


おじさんを筆頭に、鬼の群れが蛇に向かう。最後におばさんが残った。


「ご両親は必ず助けるわ。隼太ちゃん。美佳を、お願いね」


僕がはいと答える前に、おばさんは猛スピードで鬼の群れの最後尾に付いて行った…。



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