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アルマゲドンが終わるまで 8 友達について

僕の望みは叶わない。


マイケルがトリガーを引いた瞬間、護身銃から光が消えた。


そして、周りの空間が闇に変化していく。


闇の中で、再び護身銃が光り出した。マイケルの手元から離れて、宙に浮く。


時が止まった。マイケルが完全に静止すると僕は振り返って背後を見る。


若い兵士も止まっていた。


この空間において、時の流れと共にあるのは、美佳と僕だけのようだった。


「隼太!」


美佳が僕に駆け寄って、思い切り僕を抱き締めた。


「なんでよ!なんで勝手に死ぬなんて言い出すのよ?さっき、ずっと一緒って約束したばっかりじゃない!」


「ごめん」


バカバカバカバカと僕を責めまくる美佳に、言えるのはそんな言葉しかなかった。


「隼太、私の事、本当は好きじゃないんでしょ?」


「違うよ。本当に好きだから、だからやっぱり、僕は死ななきゃならないと思ったんだ」


「なにそれ、もう、全然意味わかんない!」


ごめんよ、と、僕は美佳の頭を撫でる。


【本当に、意味わかんねえぞおめえ】


《名無し》、あるいは《真っ黒》の声。


宙に浮いた護身銃が、やがて僕の友達へと姿を変える。


【おめえさんらが死んじまったら、誰が世界を救うんだぁ?】


相変わらず間延びした、おっとりとした声で名無しが言った。


「名無しじゃない!どうして、こんな所にいるの?」


【そりゃあ、おめえさんのカレシに聞いてみるといいぞ、どうやら、おめえはもう気付いているみたいだからさぁ】


美佳は怪訝そうに僕を見る。


「どういう事?」


僕は溜め息をついた。


「名無しが、《真っ黒》だったんだよ」


ますます、美佳の怪訝レベルが上がる。


「え?」


【いつから気がついてたんだぁ?】


「前に護身銃で撃たれた時に、僕は《真っ黒》に食われなかった。よく考えたらおかしいよ。人間より遥かに強いあの鬼達だって恐れている《真っ黒》から、どうやったら生きて逃げれる?」


そう。しかも撃たれた先にいたのは《名無し》で《真っ黒》じゃなかった。さらに僕を追って異次元に入った美佳だって、やっぱり無傷で帰ってきてる。


「美佳、よく思い出してみて?僕を追って辿り着いた、その先の異次元で、君は一体何を見て、何を恐れたんだい?」


頬に手を当てて、美佳はゆっくりしっかり思い出す。そして、ハッと両手で口を抑えた。


「うん、そうだ。私、あそこで名無しに会ったんだ。そしたら名無しが、《奴》に、《裁く者》の姿に変わっていって、それで…」


「《裁く者》って?」


「隼太が《真っ黒》って呼んでるヤツの事。そっか、私それで…」


名無しが《真っ黒》である事を悟った美佳は、ショックで、その瞬間の記憶を失った。


「名無し、何で僕達を食わなかったんだい?」


【友達だからさ。それにまだまだ名無しは本当の意味で《真っ黒》じゃねぇ。名無しは《真っ黒》を導く者だったんだ。名無しにとって大切な事は、《真っ黒》をこの世界に導く事だったんだぞ】


僕は名無しの言う事がチンプンカンプンだったので、とりあえず名無しに僕の願いを聞いてもらう事にする。


「空間を元に戻してくれないかな」


【それで、また撃たれる気だろお?ダメダメ、ダメだ。名無しはそれを許さねえ】


「何故?」


【友達に死んで欲しくねぇし、友達に世界を救って欲しいからさぁ】


「ごめん。でも、僕にはそんな資格、やっぱりないよ。ここでマイケルに殺されるべきだ」


美佳が僕を思い切り睨む。


「まだそんな事言ってるの?」


「仕方ないんだよ、美佳」


仕方ないんだ。


【仕方なくねえ!】


ギョッとして僕は名無しを見る。今まではどんな時でもぼんやりしていた名無しの顔が、明らかに怒っていた。


【仕方なくねえぞ!友達との約束を守る事に、資格なんていらねぇはずだ!それに、おめえが人間達に責任を感じているなら、なおさら世界を救うべきだろ!】


「この上、僕に何が出来るんだよ名無し。僕は何から世界を救えばいいんだ?」


美佳と僕がいなくなる事が、一番それに近いじゃないか。


【おめえは誤解してる。おめえさんらが救うのは、人間だけでも、鬼だけでもねぇ。その両方だ。何から救うかって?】


決まってるじゃないかといわんばかりのニュアンスで、名無しはキッパリ言い放つ。


【名無しからだ】


僕と美佳は、確認するようにお互いの顔を見合わせる。


名無しから、というか《真っ黒》から世界を救う?


「もしかして、《裁く者》が、形を成す?そういう事なの?」


《真っ黒》については美佳の方が詳しい。そのせいか名無しの言う事を僕よりは全然理解しているようだ。


僕には相変わらず何のことだかさっぱりだった。


【おめえの言うとおりだ。名無しはもうすぐ、導かなきゃなんねえ。導いたら名無しは《真っ黒》に食われて《真っ黒》になる。そうすると、もうおめえさんらを助ける事も出来なくなる。《真っ黒》は形を成して、この世界を、そして他の次元に存在する全ての異世界を食い尽くしちまう】


「名無しが導くのを止められないの?」


美佳が尋ねる。


【無理だ。名無しは思い出しちまったから止められねぇ。思い出しちまったからには、名無しは導かなきゃなんねえんだ。《真っ黒》の肉にならなきゃなんねえんだ】


とことん理解不能な名無しの言葉に、僕の頭はパンク寸前だ。


【いいか。おめえさんらと会えるのは、おそらくこれで最後になる。名無しはもう導く力を使っちまった。空から《真っ黒》が降りて、この世界を喰い始める。そしたら、おめえさんらが、《真っ黒》を殺すんだ。これが、友達に対する最後の頼みだ】


「《真っ黒》を殺したら、名無しは?名無しはどうなるんだい?」


名無しは答えない。


変わりに【名無しは《真っ黒》になる】と、一言ぽつりと呟いた。


冗談じゃないよ、名無し。僕の罪をこれ以上増やさないでくれ。友達殺しなんて、僕にはできない。


「名無しが死ぬのは嫌だよ私」


僕は美佳に頷いた。


【ありがとう。名無しが出会えたのが、おめえさんらで本当によかった。でも本当によくなかったぞ】


支離滅裂な言葉を言いながら、名無しは悲しそうな表情をする。


【おめえさんらに出会えたから、名無しは導く事を思だした時、辛くなっちまった。おめえさんらがいるこの世界を、壊したくないと思っちまった。大切なものが、たくさんになっちまったんだ】


大切なものがたくさんある事の苦悩を、僕は知っていた。名無しに教えられたのだ。


大切なものは、1つ。そうじゃないと、守りきれない。


《真っ黒》が形を成すとか、そういう事の意味はまだ全然不明だけど、そんなものは後から美佳に聞けばいい。


僕が美佳を選んだように、名無しも《真っ黒》を選んだのだろう。いや、選ばざるを得ない理由があったんだ。そうじゃなきゃ、あんなに悲しそうな表情は出来ない。


【こんな辛い気持ちを知るくらいなら、おめえさんらと出会わなければよかったぞ。けど、こんな素敵な気持ちを知れたから、おめえさんらに会えてよかった。名無しはもう、1人じゃねえ】


悲しみと喜びが名無しの顔に混在していた。


【名無しは、おめえさんらの友達だよな?】


僕と美佳は口を揃える。


「友達だよ」


【よかった。それじゃあ、頼むな。時間、が、もう、ない】


名無しの姿が薄くなる。


「名無し!」


解ったよ、解った。名無しとの約束は僕と美佳が必ず果たす。それはとっても辛い事だけど、名無しにはたくさんの恩がある。


《真っ黒》だけじゃなくって、名無しはしっかり僕の事も導いてくれたんだ。


世界中の人々に対する僕の罪は、美佳と共に、《真っ黒》から世界を救う事で、償う。


それでも全然足りないから、それ以上の事は、救った後に考える。


【お別れだ、おめえさん、ら。いい、か、銃を、使、え。元々《真っ黒》だった、この、銃に、名無しの、最後の力を、込めておく。一発だ、あと、一発使えば、この銃は壊れ、る。だから一発で、弱点に当てて《真っ黒》を、名無しを仕留める、んだ。】


名無しの体は、もうほとんど見えなくなっていた。


「やだよ、私、名無しがいなくなるのはやだ!初めて異世界に出来た、友達だったんだもん!」


【名無し、も、初めて、の、友達、だった。なぁ、はやたに、みかぁ?】


初めて、名無しは僕達の名前を呼んだ。


【友達って、あったけえなあ】


最後に、にっこり優しい笑顔で、名無しは言って、完全に消える。


護身銃が地に落ちて、闇が消え、空間が元通りになっていく。


護身銃を僕が拾うと、マイケルと若い兵士にも時が戻る。


最後の戦いが、始まろうとしていた。


そして、それが、正真正銘のアルマゲドン…。



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