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アルマゲドンが終わるまで 5 そして、終局は近付き

僕は美佳に両脇を抱えられながら空を飛ぶ。


「ねぇ、隼太。これからどうするの?」


どうしよう。


「うん、そうなんだよね。やっぱりどちらにせよ、護身銃は取り戻さないといけないな」


「それじゃ、光の大元へ行く?」


僕はそれについて考える。美佳が一緒なら、あるいは誰も傷付けずに護身銃を奪い返すのも、そこまで困難ではないだろう。けど、単に奪い返すだけだったら根本的な解決には繋がらないんだよな…。


かといって、あのマイケルという兵隊さんを見る限り、どう考えても話し合いが通用する次元じゃないし…。


「ねぇ、どうするの隼太?」


実を言うと、何をするにも、その前に、僕にはしたい事がある。


父さんと母さんを探すのだ。多分無事だと思うけど、母さんの体調も大分悪かったし、どうしても気にかかってしまう。


とはいえ、美佳のおばさんが与えてくれた2日間の猶予をそれに費やす訳にもいかないし、それに、美佳の気持ちも察しないといけない。


美佳は家族を捨てて、僕を選んだのだ。その僕が、今ここで家族の安否を気遣うのは少しばかりアンフェアだと思う。


無性に名無しに会いたくなった。名無しなら、何か適切なアドバイスをしてくれる気がする。


「ねぇ、ちょっと聞いてるの隼太?」


「ごめんごめん。色々考えてたんだ。美佳ちょっと疲れない?よかったら、一度下に降りようよ」


「私は別に平気だけど、隼太が言うなら」


美佳と僕は着地した。


ここはどこだろう?僕が地理に弱い事を別にしても、ちょっとばかり荒れ過ぎていた。


元々は森だったんだと思う。折れた木々の残骸が何とかそれを思い起こさせるのだけど…。


木が折れすぎて、森特有の、ある種の匿名性みたいなものが失われていた。


つまり、木々に隠れて、ひっそりと生きている生物の面影みたいなものが、綺麗さっぱり損なわれている。


だから太陽の光が遮られる事もなく、ガンガンに日を照らしつける事によって、地面もカラカラにひび割れているのだ。


僕と美佳は大きな切り株(折れ株?)に、背中合わせで腰を下ろした。


「酷いね。これも護身銃の影響かな?」


何気なく、美佳にそう尋ねてみる。


「多分。降りる前、南の方向の大きな鏡がこっちに向いて立ってたのが見えたから」


僕は溜め息をつく。


鬼達が隠れられないようにこんな事をしたんだろうか?


「やれやれ」


「隼太って、やれやれって台詞がやたら似合うよね」


僕は心の中でやれやれと呟く。


「で、どうする?休憩したら、行くの?」


行くのか行かないかと言えば、行くべきだよね、やっぱり。


問題はどうやって、停戦を促すかなんだ。


「隼太が何を迷ってるのかよく解らないけど、私はずっと一緒なんだから、どれをしたって大丈夫だよ」


僕はドキリとする。背中合わせなので、美佳の表情は見えない。僕のドキリもバレてない。


ずっと一緒なんだから…?


そうなんだよね。ずっと一緒なんだ。でもずっと一緒だという事は、僕があれほど躊躇していた結婚をするって事で、でも結婚をするには法律的な手続きがいる訳で、法律的な手続きをするには、僕と美佳はあまりに世界の敵に過ぎる。


そういえば、僕も美佳も、もうどこにも属してないんだ。人間と鬼達の中間で、どちらからも疎まれている。


この世界に、僕らの居場所はもうないんだ。


泣きそうになる。それでも涙は出てこない。


『おめぇはもう、おめぇが決めるしかねぇんだ。どんなに寂しくったって、どんなに悲しくったって、どんなに自分が許せなくったって…』


こういう時、僕は必ず名無しの言葉を思い出す。名無しの言葉は、いつも僕の未来を言い当てる。


解ってるさ。大丈夫だよ名無し。世界は必ず救ってみせる。


「美佳」


「何?」


「全部終わったらさ、2人でどこか遠くへ行こうか」


「何々、新婚旅行?」


浮かれてる美佳の顔が、見えなくたって僕には見える。


「悪くないね、新婚旅行も」


「絶対、行こうね」


「うん、約束するよ」


背中から、美佳の体温が伝わってくる。


僕の中で、美佳の体温が勇気へと変換されていく。


いいさ、何とかしてやるよ。これまでだって行き当たりばったりで何とかやってきたんだから。今回も行き当たりばったりで、世界を救うまでの事さ。


「隼太のパパとママにもキチンと挨拶しなきゃいけないね」


美佳に、僕の悩みはバレていたらしい。美佳は僕の思っている以上に、僕の事を理解しているようだ。


「ありがとう」


と僕は言う。


「気にしないで」


と美佳が言う。


父さんと母さんにするのはきっと、別れの挨拶になるだろうけど、それでも、ここまで僕を育ててくれた両親に、何も言わずに消えるのはよくない。


顔を見ないで話し合うと、普段できない会話が成立するって事を初めて知った。


美佳の体温が名残惜しいけど、僕は重い腰を立ち上げる。


「行こうか」


僕は美佳に振り返る。


「どこまでだって、一緒にね」


美佳は僕に振り返る。


いつもの笑顔。そこにあるのが当たり前の笑顔。


美佳は僕を抱えて空を飛ぶ。



途中、護身銃の光が何発も僕らにとんでくる。


「しっかり捕まって!」


美佳は高速でジグザグに光を避けまくった。頭がガンガンする。


「ていうか、何で連射が出来んのさ?」


「充電の仕方によっては、10発まで撃てる仕組みになってるの!」


当時の僕も、それを知ってれば楽だったのに…。


「いくわよ隼太!」


「オッケー美佳!かっ飛ばしてくれ!」


あまりの速さに視界から色が消えていく。というか普通、生身の人間が耐えられるスピードじゃないでしょうに。


北極で美佳のおじさんが、僕の《体温を保った》ように、鬼の一族には、何かそういうものをコートするチカラがあるみたい。


あっという間に日本へ到着。護身銃の光はもう襲ってくる事はない。


彼方に、巨大な鏡のラッパ?というかメガホンが見える。


あれが地球防衛軍のキャンプなのか。


何もかもが、上手くいきますように。作戦は何もないけれど。


僕は神様に祈る。


もっとも、世界中の大体における神様がそうであるように、やっぱり僕が祈った神様も、願いを聞いてくれる事は無かった。


それから、空で《真っ黒》の気配を感じた。今回は姿が見えなかったけど、確かに空の奥で僕達を見ている。名無しと話したあの闇の中に行って以来、僕はそういう気配に敏感になっているようだ。


どうやら、終わりは近付いている。そんな予感がしていた。



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