アルマゲドンが終わるまで 3 僕は鬼達と議論を交わし
さてさて、美佳が目を覚ますと、おじさんおばさん始め、鬼の一族は大喜び。
鬼達は日本語で、
はやた!はやた!
と僕の名前を賛唱した。いつのまに日本語喋れるようになったのかしら?
そのあと、緊急のミーティングが開かれる。氷の上、もしくは上空に、あらゆる種類の鬼達が集まってきた。
おじさんが言う。
「さぁ!我等の姫も隼太君のお陰で無事に目を覚ました!これより人間共との最終決戦に打って出る!目指すは日本!相模原の地球防衛軍キャンプだ!護身銃の光には充分注意しろ!《奴》に食われたらおしまいだ!」
呼応するように鬼達が雄叫びを上げる。
ていうか、おじさん達は人類を滅ぼす気なんですね。
「戦の女神の帰還により、勝機は再び我々に戻ってきた!殺された同胞の仇を討つべきは、今なのだ!」
僕はこっそり美佳に耳打ちする。
「戦の女神って?」
「私の事。今まで、たくさんの異世界で戦争してきたけど、ほとんどの勝利が私1人の手によってもたらされてきたんだって。なんでも、歴代の一族の中で、私の戦闘能力ってピカ一なんだって。パパとママも私にはかなわないらしいよ。戦った事ないから本当にそうなのかは知らないけどさ」
異世界っていうのがどれだけあって、どれだけ美佳達が戦争してきたのかは、あんまりにも恐ろしいから聞く事が出来なかった。
おじさんが言うには、美佳のスピードなら護身銃の光をかいくぐって、敵の大元を叩く事が充分に可能らしい。だからこそ美佳の目覚めを待っていたということらしいのだけど…。
僕は質問せざるを得ない。
「あの、一応聞きたいんですけど、この戦争を回避する事は出来ませんかね?」
「隼太君。無理だ」
「いや、でも、僕も一応人間なんで、さすがに全人類を滅ぼされる訳にはいかないんですよ」
「隼太君、何が言いたいんだ?」
僕の心臓はトクトク唸る。僕はとんでもない事を言おうとしている。
「皆さんが、どうしてもそれをやるっていうなら、僕は皆さんを止めなきゃならないって事です」
空気が変わる。ここが北極である事を差し引いても、あまりの寒気にガチガチな僕だが、言葉は口をついて出た。
「戦ってでも」
どよめき。蔑みとか、憐れみとかいうニュアンスでそこら中に溢れた。
この人間は、我々相手に何を馬鹿げた事を抜かしている?
「隼太君。君は自分が今、何を言っているか解っているのか?」
「解ってます」
「本気という事か」
「はい」
「では、君は我々とどのような方法で戦うというのだ?」
「議論です」
美佳のおじさんとおばさんが、顔を見合わせた。
「今の状況のどこに議論の余地がある?君は我々に、指をくわえて滅ぼされろと言いたいのか?議論で我々を止めるというなら、納得のいく説明をしたまえ」
僕は胸に手を当てる。美佳はそんな僕を無言で見つめる。そんな美佳に、僕は無言で笑いかける。
「皆さんと人間の価値観が違う事はもう充分承知してます。だから、どっちが悪いとか、そういう事を考えるんじゃなくて、皆さんにとっても人間にとっても、マイナスにならない案を模索するべきじゃないでしょうか?」
「何故、我々が人間にそこまで譲らなければならない?」
キッパリおじさんは言い放つ。そりゃ先に女の子を殺しまくったのは美佳なんだから、その程度は譲歩して欲しいと言いたいところ。
しかし、そういう意見はおじさん達に通用しないし、僕だって美佳の罪を背負ったからには、そんな一般論に頼るわけにもいかなかった。
「いくら美佳が強くたって、人間の手に護身銃がある以上、これから先に皆さんの犠牲がゼロであるという保証はないでしょう?犠牲を最小限に留める為です」
何より、美佳に死んで欲しくなかった。美佳は僕の手を握る。
僕達の議論は平行線をキープしていた。おじさんが言うには、犠牲を気にするにはあまりに同胞が死にすぎている、彼らの為にも命を賭けて戦わなければならないし、今までもそうしてきた、という事らしい。
僕が言うのは、だからつまり、そうは言ってもどれだけの犠牲が出るかは解らないんだし、可能性が少ないにしろ、返り討ちにあう事だってあるかもしれないんだから、ひとまず人類根絶は待ちましょうお願いという事だった。
父さんや母さんが1年かけたって全く説得できない相手を、まだまだ17歳(本当は16歳)の僕が、こんな短時間で論破できるとも思えなかったけど、とにかく僕は全力を尽くす。
「そもそも隼太君、人類根絶の範疇に君は含まれていない。つまり、我々は君を人類とみなしていないんだ。だから君が自分の命を憂いで人間を庇うなら、この議論は無意味なんだよ」
「そうじゃなくって、ええと、だからですね、僕はもう誰にも死んで欲しくないんです。おじさん達にも、人間にも。双方が何とか納得して、うまい具合に共存出来る方法はないのかなって、そういう事です」
ーー大切なものは1つにしておいた方がいいぞぉーー。
名無しの言葉が再び僕の頭をよぎる。解っている。でも、もう少し考えさせてよ名無し。
僕なりに世界を救おうとしてるんだ。君との約束を守る為にも。
「無茶だ隼太君。今更どうやって共存する?《奴》がこの次元域に存在している以上、我々はこの世界で生きていかねばならない。この世界で生きていく為には、もはや人類根絶は避けて通れぬ道なのだ」
《真っ黒》がいるとおじさん達は他の次元に移動する事が出来ないらしい。《真っ黒》を掃討する事も、なんたって天敵だから無理らしい。《真っ黒》って結局何なのさという疑問は、論点が変化してしまいそうなのでここでぶつけるのは止めておいた。
そして答えの出ぬまま議論は続く。僕もそろそろ疲れてきたなという頃に、ようやくそれはやってきた。
「ていうか」
唐突に口を開いた美佳に、その場にいた鬼達みんなが視線を投げる。
「私、人類根絶しないんだけど」
さらっと言い放ったその言葉とは裏腹に、僕の手を握る美佳の力は強くなっていった。