アルマゲドンが終わるまで 1 全てが壊れた世界の上で
これより物語は後半へと移行します。いいものを書けるよう努力いたしますので、どうか最後までお付き合い下さい。
僕は落ちて落ちて落ちまくる。雲を突き抜けると、大地が段々見えてきた。というかここは何処ですか?そこかしこが月みたいなクレーターで溢れてるじゃん。
街とかどこにいったんだろう?
あぁでも結局僕は死ぬ?
そりゃそうだわ、この高さじゃ助からないよ。下が海ならよかったけど、残念ながら固い土だし。
いやそれ以前に、空気の抵抗で体がバラバラになりそうに痛い。痛すぎる。痛いの痛いの飛んでいけ。飛んでいるのは僕自身。違うよ僕は落ちてるの。
名無しには悪いけど、さっそく約束守れない。
僕は眼を閉じ死を受け入れた。受け入れた後、追い出した。
いくらなんでも、落ちてグチャグチャじゃ、色んな事に失礼すぎる!
僕は生き抜く方法を詮索する。どんどん地上が近くなる。とりあえず、足掻いて足掻いて足掻きまくる。
「何ジタバタしてるんだ、隼太君」
死の間際の幻聴に、僕は怒りを覚えずにはいられない。そりゃ無様かもしれないけど、死ぬ前に足掻いたっていいじゃないか!僕にだってそのくらいの権利はある!もっと優しい言葉をかけろ!
ふわっと落下が収まった。
やばい、気付かない内に死んじゃったのだろうか?
「それにしても、よく無事だったな。どうやって《あれ》から逃げてきたんだい?」
何だか聞き覚えのある声がした。まぁそりゃそうだ。天国に行けば知り合いだっているだろうし。
「おい、隼太君。目を閉じて笑うのはよした方がいい。何だか、不気味だ」
僕は目を開く。あら不思議、大地はまだまだ遠かった。どうして僕は浮いてるんだろう?
というか僕の腰を誰かが抱いてくださってる。この態勢じゃ顔が見えない。
宙ぶらりんになりながら、僕は
「どちらさまでしょうか?」
と尋ねてみる。
「久しぶりだな隼太君。美佳の親父だ」
美佳の父さんが助けてくれたのか。いや人間でない事くらいは解っていたけど。だって空を飛べるんですもん。だけど、久しぶりって?久しぶりも何も、しょっちゅう会ってた気がするけど。
「君が異次元に飛ばされてから、もう1年にもなる。あぁそうか、君の感覚ではさして時が経っていないのかな」
僕は名無しの言葉を思い出す。時の流れが違うって…。違いすぎるよ名無しさん…。
さて、僕が知らず知らずの内17歳になっていた事はこの際仕方ないからよしとしよう。さらに、僕の顔から痛みが消えて、多分折れた鼻が元通りになっている事もラッキーだからよしとしよう。
それより美佳は、どうなった?父さんと母さんは?そして世界はどうなったんだ?
僕は美佳のおじさんに、疑問をたくさんぶつけてみた。
「美佳は…、いや、これは後にしよう。君の両親は恐らく保護された筈だ。部下の1人が、あの兵士に連れていかれるのを目撃している。世界はご覧の通りだ。我々を滅ぼそうとする、君達人類の手によって、そこかしこが穴だらけだよ。あれを見なさい」
あれって言われても、どっちだか解らなかったけど、遠くに大きな長方形が光っていたから、あれとはあれの事なんだろうと理解した。で、あれは一体何かしら?
「鏡だ。君達人類が、増幅させた護身銃の光をあれに反射させて我々を狙っている。多くの同胞が殺された。正確には、殺したのは光ではなく、《奴》なのだがな。隼太君、君はどうやって《奴》から逃げてきたんだ?」
美佳のおじさんが言う《奴》とは、恐らく《真っ黒》の事なんだろう。でも僕が飛ばされた真っ暗の中に、少なくとも《真っ黒》はいなかった。
僕は美佳のおじさんに抱えられて、世界中を飛び回る。酷い光景だった。新宿だけじゃなく、世界中の都市、街、村はただの大きな穴になり、人間の姿なんてほとんど見えやしないのだ。ただ、巨大な鏡がいたるところで、無残な世界の姿を嘲笑うように映し出しているだけだった。
時々、エメラルドグリーンが鏡と鏡の間中をいったりきたりするのが見えた。
「君達人間の悪知恵には驚嘆したよ。あの光は、地上に落ちない屈折率で放たれている。我々に鏡を破壊させない為の防衛策だ。何かが割って入るまで、消える事がない。我々に向かって放つ光と、鏡を破壊させない為の光を使い分けて、じりじりと我々を追い詰めているらしい」
僕は空の上でおじさんの説明を聞く。
この1年で、何がどのようにして変化したのか。
名無し…、僕が救うべきは、この荒れ果てた世界だっていうのかい?だったらそれは、想像を超えて辛すぎる。ちっぽけな僕が救うには、少々救いがなさすぎたりはしないだろうか。
「なんにせよ、隼太君。君の帰還を歓迎する。運がよかった。たまたま私が飛んでいた空域に、次元の穴が開いたのだから」
「そういえば、おじさんは何処に向かっているんです?僕を何処に連れて行くんですか」
「今の我々の住まいだ。君達で言うところの、北極」
北極と聞いただけで鳥肌が立った。僕の格好で北極なんて、世の中で最悪のジョークよりも寒すぎる。
「安心しなさい。我々のチカラは、君1人の体温を保つ事くらいは造作ない」
おじさんの言葉は、おじさんが熊みたいな体つきと顔をしている事よりも、美佳の父親であるからこそ、説得力満点だった。
「美佳も、北極にいるんですか?」
おじさんは押し黙ってしまう。嫌な予感がした。
「教えてください。僕は美佳に会うために、この世界に帰ってきたんです」
それから、この世界を救う為?に。
「君が消えた後、君を追って異次元へ向かった。《奴》がこの世界に近付いていた事を、我々はその時初めて知ったよ。美佳が打ち明けたんだ。まったく、気付いていながらこんな事態になるまで言わなかったという事は、よっぽど君と離れたくなかったんだろう。私も妻も、美佳を必死に止めたが、無駄だった。諦めかけていた頃に、美佳は君と同じように、空から落ちてきたんだよ。まったくの無傷でね。《奴》に接触しながら、それは奇跡と言っても過言じゃないな。我々は大いに喜んだ。しかし、美佳は…」
再びおじさんが押し黙る。僕は続きを促した。
「眠ってるんだ。我々が何を試みても、目覚める気配がない」
安堵と不安が同時に僕に押し寄せる。美佳が生きていた喜びと、眠ったままに対する危惧。
「しかし、君なら、美佳が初めて愛した男の君だったら、目覚めさせる事が可能かもしれない。根拠も何もありはしないが、私も妻もずっとそう感じていたんだよ。美佳の眠りを覚ます事は、君以外の誰にもできはしないってな。隼太君、美佳の父親として、君に頼む。娘を、救ってやってくれないか」
「もちろんです。僕に出来る事なら、何だってします。でも、教えて下さい。《奴》って、一体何なんです?」
僕を取り巻く環境は、《真っ黒》を見たあの日から変わっていった。僕はそろそろ、《真っ黒》の正体について知らなければならない。
「天敵さ。我々だけでなく、あらゆる次元に存在する全ての生物にとってのな」
おじさんは、さも忌々しそうに、吐き捨てるようにそう言った。