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明治「再」起動 ―暴君が塗り替える近代史―  作者: tky
第3章:大陸と資源の収奪

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第54話:驕る連合艦隊と、漆黒の巨艦

本日4話目

1870年11月。


凍てつくような潮風が吹き荒れる北海において、大英帝国と新興国アメリカが密かに編成した巨大な艦隊が陣形を組んでいた。総数五十隻からなる英米連合艦隊である。


彼らがここに集結した理由はただ一つ。

ここ数ヶ月、大西洋の通商網を単艦でことごとく壊滅させ、英米の経済網を物理的に寸断している「蝦夷パレスの黒い悪魔」――漆黒の巨艦『鳳凰ほうおう』を沈めるためである。


「見えたぞ。我らが誇る大英帝国の補給線を荒らしまわっている、忌まわしきパレスの巨艦だ」


連合艦隊の旗艦、最新鋭の重装甲艦『リヴァイアサン』の艦橋で、チャールズ・ウェリントン提督は高性能な望遠鏡を覗き込み、獰猛な笑みを浮かべた。


彼が乗る旗艦リヴァイアサンは、排水量一万トン。六千馬力の巨大な蒸気機関を搭載し、最高速力十四ノットを誇る。主兵装は当時の常識を覆す三〇・五センチ(十二インチ)前装施条砲。分厚い錬鉄の装甲を纏った、まさに十九世紀における大艦巨砲主義の結晶であった。


「帆もなければ、煙突から黒煙も出ておらん。魔法ででも動いているのか、あの船は」


副官が望遠鏡を覗きながら訝しげに呟く。


「魔法なものか。アメリカの資本家どもはあの得体の知れない動力に震え上がっているようだが、所詮は鉄の塊だ。一万トン級の我がリヴァイアサンと、五十隻の艦隊の集中砲火を浴びて沈まぬ船など、この世の物理法則上存在し得ない」


ウェリントン提督は自信に満ちていた。

もしあの艦を無力化し、その技術を拿捕できれば、大英帝国は再び世界の絶対的な覇権を取り戻せる。


「目標『鳳凰』、向かい風にもかかわらず速度を維持。……信じられません、推定速力三十ノット以上! あり得ない速度です!」


観測手からの報告に、艦橋がざわめいた。


「馬鹿な、嵐の海で三十ノットだと!? 機関が破裂するぞ! ええい、構わん! 敵を有効射程に引き付けろ! 距離四千ヤードで一斉射撃だ!」


五十隻の軍艦が、一斉に巨大な砲門を鳳凰へと向けた。

不純物だらけの石炭が燃える黒煙が空を汚し、旧来の文明が誇る野蛮な熱気が海原を満たしていく。


一方、その頃。

距離四千ヤード(約3.6km)まで接近した『鳳凰』の最上層。

微細な振動だけが心地よく伝わる静謐なサロンでは、九条魁斗が最高級のダージリンの香りをゆっくりと楽しんでいた。


「マスター。敵艦隊、有効射程内に入りました。当艦の装甲および出力とのスペック比較、算定完了しています」


工学統括のノアが、タブレット端末を手に静かに報告する。


「ご苦労様です、ノア。彼らの『誇り』の数値はどうなっていますか?」


「敵旗艦リヴァイアサン。排水量約一万トン、蒸気出力六千馬力。対する我が『鳳凰』は排水量四万五千トン。多段燃焼式内燃機関による出力、四十五万馬力。装甲材の分子結合強度は彼らの錬鉄の約六百倍です」


ノアは油の匂いが微かに漂う作業着のまま、冷徹な事実だけを読み上げた。


「ふふ……六千馬力に、四十五万馬力、ですか。まるで大人と赤子の出力差ですわね」


同席していた大英帝国のアリスが、扇子で口元を隠しながら嘲笑した。

自国の最高峰の技術が、魁斗の船の前では数字の上ですらゴミ同然であることに、彼女は奇妙な恍惚感を覚えていた。


「撃ちます!!」


通信機越しに、敵艦隊の一斉射撃を知らせる報告が入った。


リヴァイアサンをはじめとする五十隻の軍艦から、猛烈な火柱が上がる。

数百発の徹甲弾や炸裂弾が、北海の冷たい空気を引き裂きながら、鳳凰へと向かって飛翔した。


「さて、ノア。彼らが無駄に消費した火薬のエネルギーを、正しく『相殺』してあげなさい」


「承知いたしました」


鳳凰へと数百の砲弾が降り注ぐ直前。

鳳凰の舷側に配置された小型の旋回砲塔群が、四十五万馬力の内燃機関から直結された圧倒的な動力によって猛烈な勢いで駆動を始めた。


ギュイィィィン……ッ! ブゥゥゥゥーーーッ!!


既存の職人が数ミリの誤差で喘ぐ中、千分の一ミリの公差で組み上げられた多銃身機関砲(CIWS)。

演算装置『アテナ』の予測計算に従い、目にも留まらぬ速射で空中に分厚い実弾の弾幕を形成する。


望遠鏡で着弾を確信していたウェリントン提督は、息を呑んだ。


「な、何だ……!? 砲弾が、届く前に空中で砕け散っているぞ!?」


鳳凰の周囲で、連続的な爆発の火花が散る。

数百発の砲弾のほとんどが、目に見えないほどの速度で放たれる金属弾の雨によって空中で粉砕された。


一部の砲弾が弾幕を抜け、鳳凰の漆黒の装甲に直撃したものの、分子レベルで強化された特殊合金の前にひしゃげて空しく弾かれ、海へと落ちていく。


着弾の硝煙が晴れた後。

ウェリントン提督の望遠鏡に映ったのは、装甲に煤一つ、かすり傷一つ負わず、三十ノットという異常な速度を全く落とさずに真っ直ぐこちらへ向かってくる、絶望的な黒い巨艦の姿だった。


「ば、馬鹿な……。五十隻の至近距離からの集中砲火だぞ!? なぜ、あの艦は平然と進み続けているのだ!」


艦橋の将校たちは、その非現実的な光景に絶句した。

彼らが絶対の自信を持っていた「大艦巨砲」という物理の暴力が、全く通じていない。


「彼らの放った運動エネルギーの総量は、我が方の機関砲の迎撃エネルギーと装甲の反発力によって完全に相殺されました。……本当に、無駄な摩擦です」


魁斗は窓の外でパニックに陥る敵艦隊を見下ろし、冷たく呟いた。


「龍炎。そろそろ、彼らに『最適化された物理』の真意を教えてあげましょうか」

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