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明治「再」起動 ―暴君が塗り替える近代史―  作者: tky
第3章:大陸と資源の収奪

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第47話:愚かなる密約と、物理の鉄槌

『鳳凰』の最上層に位置する、総督専用の広大な私室。


そこは、地球上のあらゆる贅を尽くしつつも、パレスの冷徹な美意識によって一滴の無駄もなく計算された、完璧な箱庭だった。


「……魁斗様。もう少し、こちらへ……」


私は、豪奢なソファに深く腰掛け、自らの足元や両脇に侍る五人の美しい令嬢たちを見下ろしていた。


大英帝国のアリス王女、フランスのイザベラ令嬢、プロイセンのルイーゼ令嬢、ロシアのアナスタシア大公女、そしてアメリカ合衆国のメアリー令嬢。


かつては列強の誇りとして私に献上された「親善大使」たちだが、シエルやアフロディテによる「新たな調和」を受けた彼女たちは、今や過去の身分や祖国への執着など微塵も残していない。


アリスは私の膝に頬をすり寄せ、メアリーは私の指先に恍惚とした表情で触れている。イザベラやルイーゼ、アナスタシアもまた、私の視線を一身に浴びようと甘い吐息を漏らしていた。


「良い子たちです。貴女たちはただ、ここで美しく咲いていればいい」


私が彼女たちの髪を優しく撫でると、令嬢たちは喜悦に満ちた声を上げた。


そこへ、室内に静かな電子音が鳴り響いた。シエルからの通信だ。


『総督。幹部たちが戦略会議室に集結いたしました。西の「ノイズ」についての報告がございます』


「わかりました。すぐに向かいます」


私は立ち上がり、名残惜しそうに見上げてくる五人の令嬢たちに微笑みかけた。


「少し、野蛮な玩具の片付けをしてきます。貴女たちはここで、シエルが用意した新しいドレスでも選んで待っていなさい」


「はい……魁斗様。お待ちしておりますわ」


完全にパレスの論理に依存しきった彼女たちの美しい声に見送られ、私は私室を後にした。


重厚な扉を開け、『鳳凰』の広大な戦略会議室へと足を踏み入れる。


巨大な円卓の中央には、リアルタイムで更新されるヨーロッパ大陸のホログラムマップが浮かび上がっていた。


「総督、お待ちしておりました」


戦略眼・大局統括のオーディンが、一つ目玉の義眼を妖しく光らせながら深々と一礼した。他の幹部たちも一斉に居住まいを正す。


「さて、オーディン。西の状況はどうなっていますか」


私は総督の席に着き、冷ややかにホログラムを見下ろした。


「ハッ。先日、総督の御威光に屈した列強諸国ですが……フランスのナポレオン三世と、プロイセンのビスマルク首相が、裏で密かに手を結んだ模様です」


オーディンが杖でホログラムを指し示すと、フランスとプロイセンの国境付近が赤く点滅した。


「我々のデータベースが示す旧人類の発展シミュレーションによれば、彼らは本来、この時期に両国間で大規模な軍事衝突を引き起こす確率が極めて高かったはずです。しかし、パレスという絶対的な脅威を前に、旧世界の恩讐を一時的に棚上げし、秘密同盟を結成したようです。水面下で軍備を増強し、一斉蜂起を企てております」


「全く、旧人類というものは、自らの置かれた立場すら正しく計算できない不良品の集まりですね」


私は呆れ果てて息を吐いた。


「自分たちの軍事力が、我がパレスの足元にも及ばないことをまだ理解していない。彼らにそのようなリソースの無駄遣いを許してはならない。……マモン、ロキ。出番ですよ」


私が声を掛けると、会議室の暗がりから二人の幹部が一歩前に出た。


「ヒハハ、お待ちしておりましたよ、総督」


薄笑いを浮かべた情報戦統括のロキが、手元の端末を弄りながらおどけたようにお辞儀をした。


「奴らの密約の電信は、海底ケーブルを物理的に掌握している私にすべて筒抜けです。モールス信号を少しばかりハッキングして、お互いを疑心暗鬼にさせる偽情報を流し込んでおきましょう。これで連携はズタズタです」


「ええ、お願いします。ですが、それだけでは足りません。彼らが銃を撃つ前に、国家というシステムそのものを根こそぎ奪って差し上げましょう」


私は、隣で冷たい微笑を浮かべている経済・資源管理統括のマモンを見据えた。


「マモン。彼らの国家財政は、あとどれくらいで崩壊させられますか?」


「総督のご命令とあらば、数日もあれば十分かと」


マモンは、金の縁眼鏡を指で押し上げながら、淡々と答えた。


「すでに、ハデスの地下ルートを通じ、両国の主要な銀行の地下金庫に、パレスの極限印刷技術で製造した『完璧な偽札』を大量に投下する準備が整っております。透かしも、紙質も、インクの成分も本物と分子レベルで同一。市場に流通させれば、瞬く間に超インフレーションを引き起こし、彼らの経済は死滅します」


「素晴らしい。しかし、彼らに我々の力を『魔法』や『神の奇跡』だと誤認させることは避けなければなりません。あくまで、彼らの理解できる『物理的な近代兵器の延長』として、圧倒的な力の差を見せつける必要があります」


私がそう告げると、軍事・戦術統括のカルマが一歩前に出た。


「であれば、総督。射程外からの『近代兵装』による、正確無比な拠点破壊を推奨します」


カルマは無感情な計算機のような声で提案した。


「我がパレスの冶金技術で生み出された超硬度装甲を持つ巨大な列車砲と、鳳凰の電磁投射砲レールガンによる長距離精密射撃です。彼らの大砲の射程の十倍以上の距離から、司令部と兵器廠『のみ』を誤差数センチでピンポイントに粉砕します。……彼らには、ただ『ものすごく遠くから、とてつもなく正確な大砲を撃ち込まれた』という物理的な絶望だけが残るでしょう」


「完璧な戦術ですね、カルマ」


私は満足げに頷いた。


未知の魔法に怯えるのではなく、自分たちが知っている技術の、永遠に追いつけない究極の完成形を見せつけられる方が、旧世界の人間にとっては遥かに深い絶望となる。


「マモンが経済を破壊し、ロキが情報を遮断したタイミングで、カルマの砲撃を開始しなさい。一切の無駄な血を流させることなく、彼らの誇りという名の幻想を、物理的な鉄槌で美しく解体するのです」


「……御意。総督の慈悲深き采配、必ずや完璧に執行いたします」


幹部たちが一斉に深く頭を下げた。


ヨーロッパ完全解体という、極めて合理的で美しいパズルのピースが、今まさに嵌まろうとしていた。

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