第38話:積載された絶望と秩序の初鳴き
本日4話目
翌朝。
ロンドン市街地・第4区の主要輸送路。
朝霧の中を、パレスの大型輸送トラックの車列が、ディーゼルエンジンの重低音を響かせながら進んでいた。
荷台には、各区画の配給所へ届けられる予定の大量の食料が積載されている。
その沿道にある廃ビルの陰から、ハミルトン卿と彼の部下たちが、血走った目で車列を睨みつけていた。
「……来たぞ。あの忌まわしい鉄の車だ」
ハミルトンは手製の爆薬を握りしめ、歪んだ笑みを浮かべた。
「あの荷台の食料をすべて灰にしてやる。民衆が飢えれば、必ずや我々の元へ決起の声を上げるはずだ!」
「閣下、護衛の車両は見当たりません。今です!」
部下の合図とともに、ハミルトンたちは一斉に廃ビルから飛び出した。
彼らは輸送トラックの進路に障害物を投げ込み、急ブレーキをかけさせたところへ、一斉に手製の爆薬を投げつけた。
乾いた爆発音が響き、トラックの荷台を覆っていた強固な幌が吹き飛ぶ。
「やったぞ! これで悪魔の糧は――」
歓喜の声を上げようとしたハミルトンの言葉は、凍りついた。
吹き飛んだ幌の下、トラックの荷台に積まれていたのは、食料のコンテナではなかった。
そこに鎮座していたのは、冷たい光を放つパレスの重装甲外骨格部隊だったのだ。
「……な、なんだと……食料はどこだ!?」
混乱するハミルトンたちの前に、先頭の装甲車両のハッチが開き、巨漢の指揮官が降り立った。
パレスの武力統括官、バルムンクである。
「ガハハ! 驚いたか、ネズミ共。最初からテメェらがここを襲うことなんて、総督には筒抜けだったんだよ」
バルムンクは分厚い装甲に包まれた拳を鳴らしながら、獰猛な笑みを浮かべた。
「食料を燃やして、民衆の飢えを煽るたぁ、とんだ騎士道精神だな! だが残念だったな。本物の食料輸送車は、とっくに別のルートで配給所に到着してるぜ」
「罠か……! ええい、退け! 撃ちながら後退しろ!」
ハミルトンが叫ぶが、すでに遅かった。
荷台から展開したパレスの装甲兵たちが、圧倒的な制圧力で退路を塞いでいた。
マスケット銃の鉛弾など、パレスの重装甲の前では小石を投げつけるのと変わらない。
バルムンクが地を蹴り、一瞬にして距離を詰める。
「来るな! 私は近衛騎兵隊長だ! 大英帝国の誇りは――」
「誇り? 自分の民を飢えさせようとする奴に、そんなもんあるかよ」
バルムンクの巨大な鋼鉄の腕が、ハミルトンの首を軽々と掴み上げ、宙に吊るした。
「ぐ、がはっ……!」
もがき苦しむハミルトンの惨めな姿が、ステルス状態で随伴している監視ドローンのカメラを通じて、旗艦『鳳凰』の執務室へと送られていた。
魁斗はモニター越しに、冷徹に命じた。
「バルムンク。その者たちを特別収容区画へ移送なさい。……ただし、彼らには今後一切、パレスが管理する食料を与えないように」
通信機越しにその命令を聞いたハミルトンが、血走った目を剥く。
「な、なんだと……! 捕虜に対する最低限の待遇すら――」
「捕虜ではありません。貴方たちは自ら『パレスのパンを食う者は奴隷だ』と言い放ち、市民の糧を燃やそうとしたテロリストです」
魁斗の静かな、だが絶対的な冷酷さを帯びた声が響く。
「飢えこそが帝国臣民の誇りだと言うのなら、その高潔な理念を、貴方自身の肉体をもって証明していただきましょう。……どれほどの期間、その誇りだけで生存できるのか、観察させてもらいますよ」
(……死の淵を彷徨う飢餓の苦しみを味わいながら、自分が忌み嫌った配給のパンを乞う日が来るのを、楽しみに待っていますよ)
魁斗は通信を切り、静かにペンを置いた。
ロンドンに潜伏していた最大の「ノイズ」は、これで完全に排除されたのだ。
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