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明治「再」起動 ―暴君が塗り替える近代史―  作者: tky
第2章:帝都の落日と美しき賓客

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第34話:帝国の終焉と黄金の鳥籠

本日4話目

翌朝。大英帝国の首都ロンドンは、歴史上類を見ない混乱と絶望の坩堝に叩き込まれていた。


武力による直接的な砲撃を受けたわけではない。目に見える炎も、派手に上がってはいない。



だが、この世界を支配していた「大英帝国」という巨大なシステムは、たった一晩でその心臓を停止させられたのだ。


パレスの経済統括官マモンが実行した作戦は、極めて物理的で、かつ暴力的な経済干渉だった。


まず、我々が所有する巨大な輸送艦隊が、ロンドンを含む欧州の主要な港湾に、パレスのプラントで大量精製された純度99.99%のゴールドの延べ棒を「無尽蔵」に投下した。



同時に、綿織物や鉄鋼といった彼らの主要産業を根底から破壊する、圧倒的に高品質で底値の工業製品を市場に氾濫させたのである。


さらに、世界の情報を繋ぐ海底ケーブルの要衝をパレスの潜水艦部隊が物理的に掌握。



ロンドン証券取引所に対して、意図的に操作された偽の暴落情報を絶え間なく打電し続けた。


(……魔法など必要ない。金本位制という脆弱なルールの上で踊っている旧世界の経済など、絶対的な『物量』と『情報の遮断』を行えば、わずか数時間で自壊する。希少価値という幻想が消え失せれば、金貨もポンド紙幣も、ただの重い金属と鼻紙に成り下がるのだ)


私は展望執務室の窓辺に立ち、眼下に広がるパニックに陥ったロンドンの街を見下ろしていた。


銀行には預金を引き出そうとする暴徒が群がり、警官隊との間で流血の惨事が起きている。



給与の支払いが停止した軍隊は早くも統制を失い、各地の武器庫からは略奪が始まっていた。



旧世界の秩序が、その自重によって崩れていく様は、実に滑稽ですらある。


「……九条、様。私たちを、お呼びでしょうか」


背後で、重厚な扉が開く音がした。


振り返る必要はない。


そこにいるのは、私が呼び出した大英帝国のアリス王女、フランスのイザベラ、プロイセンのルイーゼだ。



彼女たちの纏う、アフロディテが調整した極上のドレスの衣擦れの音が、静謐な室内に響く。


彼女たちはまだ、外の世界で具体的に何が起きているかを知らない。



ただ、私に呼ばれたという事実だけで、その声にはかすかな怯えと、すでに私に飼い慣らされつつある「依存」の色が混じっていた。


「おはようございます、アリス。そして皆様。今日はあなた方に、少しだけ『現実』を見せようと思いましてね」


私はゆっくりと振り返り、冷淡な視線で彼女たちを見据えた。


私の態度には、昨日までの「表面的な慈愛」は一切含まれていない。



これから示すのは、圧倒的な上位者としての、無慈悲な宣告だ。


「現実……ですか? あの、外がひどく騒がしいようですが……」


アリスが、窓の外から微かに届く暴徒の叫び声に気づき、不安げに眉を寄せる。


「ええ。暴動ですよ、アリス。大英帝国の経済は、今朝を以て完全に停止しました」


私は淡々と事実を告げた。


「……え?」


アリスの時間が止まった。

ルイーゼとイザベラも、私の言葉の意味を理解できず、呆然と立ち尽くしている。


「ですから、経済が死んだと言っているのです。パレスの圧倒的な物資投下によって、ポンドの価値は紙屑になりました。フランスも、プロイセンも同様です。あなた方の父君である王たちは、もはや兵士に給与を支払うことすらできず、今日食べるパンを買う資金すらない。……国家という幻想は、今この瞬間、私が解体しました」


私の静かな宣告に、三人の令嬢たちは凍りついたように動けなくなった。


「解体、した……? そんな、それでは私たちの国は……お父様は……国民は……!」


ルイーゼが血の気を失った顔で叫び、私に歩み寄ろうとする。



だが、私の冷たい一瞥を受けると、目に見えない壁にぶつかったかのように足を止めた。


「私がパレスのシステムに統合したのです。無駄な国境をなくし、効率的に資源を分配するためにね。世界の愚かな王たちには、退場してもらう。……ですから、ルイーゼ。イザベラ。それからアリス。あなた方が命を懸けて背負っていた『国家』という重荷は、もうどこにも存在しないのです」


(……残酷な宣告だと彼女たちは思うだろうか? いや、違う。これは救済だ。国家という呪縛から解き放たれ、自分自身の生存のみを考えればよくなる。そして、彼女たちが生存するための完璧な環境は、今、彼女たちが立っているこの場所しかないのだから)


「そんな……嘘です、大英帝国が、こんなにあっけなく……」


アリスがその場に崩れ落ち、両手で顔を覆った。

彼女の華奢な肩が、激しく震えている。


だが、私は彼女に駆け寄って慰めるような、無意味な真似はしない。


「嘘ではありません。これが、圧倒的な技術と論理の差です。……アリス、よく聞きなさい。外の世界は今、飢餓と混乱に満ちている。かつての王族であっても、一歩外へ出れば暴徒に引き裂かれ、明日の命すら保証されない。あなた方の帰る場所は、この地球上のどこにもない」


私の声に、彼女たちは弾かれたように顔を上げた。

その瞳には、祖国を失った悲しみよりも、これから自分がどうなるのかという、根源的な「生存への恐怖」が色濃く浮かんでいる。


「ですが、安心しなさい。私はあなた方を外の汚泥に放り出すような、非効率な真似はしません。」


私は歩み寄り、崩れ落ちたアリスの顎を指先で持ち上げた。

私の冷たい指の感触に、アリスの身体が微かに震える。


「あなたはもう、大英帝国の王女ではない。ただの『アリス』だ。……そして、ただのアリスとして、私の庇護下にある限り、あなたは永遠にこの完璧な環境で、美しく咲き続けることができる。飢えることも、凍えることも、愚かな政治に利用されることもない。……私に従い生きる。それが、今のあなたに許された唯一の生存戦略です」


(……彼女たちはもう、この鳥籠の外では生きていけない。私の指先一つで生殺与奪が握られているという事実が、彼女たちの魂を最も深く屈服させるのだ)


アリスの瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。

だが、その瞳の奥には、確かな「安堵」と「陶酔」が広がっていた。

国家を失った絶望よりも、すべてを決定し、すべてを与えてくれる私の存在への圧倒的な依存。


「……はい……。九条、様……。私は、あなたの……」


アリスは私の足元にすがりつき、その艶やかな唇を、私の靴の甲に押し当てた。

それは完全な屈服であり、同時に、私の所有物となることへの歓喜の表現だった。

続いて、イザベラも、ルイーゼも、まるで絶対的な神に救いを求める信者のように、私の足元に跪く。


「よろしい。あなた方のその美しい従順さを、私は高く評価します。……これからは、私のために生きるのです。」


私は彼女たちを人間としてではなく、手に入れた最高級の美術品を愛でるように、その柔らかな金糸の髪を撫でた。


窓の外で旧世界が崩壊していく炎の明かりを背景に、私の完璧な黄金の鳥籠は、ついにその鍵を閉ざした。

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