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明治「再」起動 ―暴君が塗り替える近代史―  作者: tky
第2章:帝都の落日と美しき賓客

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第21話:最適化された地平の支配者

本日3話目

【1869年 春 ―― 蝦夷地・アイアン・パレス、最高統治室】


房総半島での「不具合(襲撃作戦)」が、最小限の損害で収束した数時間後。

九条魁斗は、アイアン・パレスの最上階に位置する最高統治室の椅子に深く腰掛け、眼下に広がる箱館の灯りを見つめていた。彼の前には、空中に投影されたいくつものホログラム・ディスプレイが、日本全土のエネルギー消費量、食料生産率、そして「社会適応率」をリアルタイムで示している。


「房総区画における、再教育済み個体の実働データ。……極めて良好ですね。かつての高度な戦闘技能を、そのまま治安維持能力へと転換する。人的資源の活用としても、これ以上ない最適解です」


魁斗の言葉に、影から一人の男が歩み寄った。円卓の一員、戦略統括のカルマである。

「マスター。確保した襲撃者たちの身元確認を完了しました。現在、彼らには当システムの基本理念を提示し、社会貢献への適性を再診断しています。彼らも数ヶ月後には、立派なインフラ管理要員として機能するでしょう」


「ええ、期待していますよ。彼らのような高い自律心を持つ個体は、一度『大義』の方向性を修正してあげれば、これほど頼もしいリソースはありませんからね」

魁斗は、組んでいた指を解き、静かに微笑んだ。


「始末はしないのですか、マスター。斎藤一は依然として逃走中ですが」

カルマが問う。


「不要ですよ、カルマ。彼は今、猛烈な葛藤の中にいます。自分が信じていた『刀の世界』が、私の提供する『飢えのない世界』に敗北しただけでなく、かつての仲間たちが自ら進んで私を肯定している。……その事実こそが、彼に対する何よりの教育です。彼がどれほど私の完璧さを周囲に語り継いでくれるか、楽しみではありませんか?」


魁斗は立ち上がり、窓際に歩み寄った。

そのガラスには、かつての日本には存在し得なかった、漆黒の都市美が映り込んでいる。


「マスター。旧・京都所司代周辺のインフラ整備が完了しました。明日より、デメテルによる大規模農地の開拓が始まります。これにより、近畿圏の食料自給率は三〇〇パーセントを超え、栄養失調という言葉は死語になります」

カルマがデータを更新する。


「素晴らしい。……それにしても、旧時代の為政者たちは一体何をしていたのでしょうね? わずか数ヶ月の『合理的な配置』で救える命を、彼らは数百年も放置し、無意味な精神論に逃げていた。……実に滑稽で、救いようのない無能さだと思いませんか?」


魁斗の言葉には、確固たる実績に裏打ちされた、他者を寄せ付けない知的な威圧感があった。

そこへ、医療衛生統括のフローラが静かに入室し、報告を加える。


「マスター。箱館の住居区において、精神的な倦怠感を訴える住民が〇・一パーセント。原因は『役割の固定による刺激の不足』と推測されます」


「刺激、ですか。贅沢な悩みですね。生存の不安が消えれば、次は娯楽を求める。……フローラ、彼らに『自己研鑽の機会』という名の学習プログラムを強化しなさい。新しい技術を習得し、システム内での『貢献ランク』が上がる喜びを提示する。……幸福とは、向上しているという実感の中にこそ宿るものですから」


「了解しました。直ちに満足度維持のためのアップデートを行います」


魁斗の統治は、暴力による支配ではない。

圧倒的な「正論」と「成果」による、逃げ場のない救済だ。

病を消し、飢えを消し、そして「迷う必要」さえも消していく。

人々は、温かな家と食事、そして「社会の一部であるという肯定感」を与えられる代わりに、自らの運命を思考するという、最も孤独で残酷な権利を魁斗に譲渡したのだ。


「土方さんは、どうしていますか?」

魁斗がふと、窓の外を見つめたまま尋ねる。


「……アイヌの民と和人の労働境界を調整する仕事に従事しています。彼は驚くほど公正に役割を振り分けていますが、その眼底には、依然として消えない冷たい炎が観測されます」

カルマが報告する。


「それでいい。彼は、私の統治が『正しい』と理解しながら、それでもなお私の存在を拒絶しようとしている。……その矛盾こそが、人間に残された最後の輝きだ。土方さん。貴方のその高潔な魂が、いつこの完璧な幸福の前に膝をつくのか。私はそれを見守る義務がある」


魁斗は、暗い夜の底で脈動するアイアン・パレスの鼓動を感じていた。

それは、幕末という混乱を完全に浄化し、日本を一つの巨大で完璧な「生命維持装置」へと作り替える、管理の律動であった。


「さぁ、次のフェーズへ進みましょう。この国から、最後に残った『非効率な夢』を、すべて幸福という名の現実に書き換えて差し上げるために」


魁斗の静かな、しかし有無を言わせぬ攻撃的な意志が、日本全土へと浸透していった。

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