表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明治「再」起動 ―暴君が塗り替える近代史―  作者: tky
第2章:帝都の落日と美しき賓客

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/40

第20話:鉄路の邂逅と、変わり果てた信念

本日2話目

【1869年 春 ―― 房総半島、鉄道路線敷設区間】


夜の静寂を切り裂き、巨大な鉄塊が大地を揺らしながら疾走していた。

アイアン・パレスが誇る装甲貨物列車「ベヒーモス」。それは東京支部の数百万人の胃袋を満たすための高栄養食料と、都市機能を支えるクリーンなエネルギー資源を運ぶ、まさに新時代の生命線であった。


「……来たぞ。あの、傲慢な平和を運ぶ怪物が」


線路を見下ろす崖の淵。斎藤一は、吹き付ける夜風に乱れる髪を厭うこともなく、暗闇の中で一点を凝視していた。彼の隣には、かつての薩摩、長州、土佐の生き残りたちが、主義主張の壁を越えて並んでいる。

彼らが手にしているのは、時代遅れの火縄銃や、手入れも行き届かない錆びた刀。だが、その瞳には、魁斗がもたらした平穏への拒絶という、烈火のような殺意が宿っていた。


「合図と共に、先頭の機関車へ飛び込め。あの鉄の心臓を止めれば、どれほど巨大な怪物でもただの鉄屑だ。……いいか、死ぬなとは言わん。だが、無駄死にだけはするな。俺たちの意地を、あの支配者の脳天に叩き込んでやるんだ」


斎藤の低い声が響くと同時に、崖上から火薬樽が次々と投げ落とされた。


ドォォォォォンッ!


鼓膜を揺らす爆音。火柱が夜空を赤く染め、線路の一部が粉砕される。ベヒーモスの巨大な車体が激しく火花を散らし、精密な制動システムが軋む悲鳴を上げながら、力任せに強制停止した。


「今だッ! 行けッ!」


斎藤を先頭に、男たちが崖を滑り降り、列車の装甲板に肉薄する。

しかし、迎撃の銃声は聞こえてこない。静寂。ただ、列車の排気弁から漏れる蒸気の音だけが、不気味に響いていた。


「……あはは! 期待を裏切らないねぇ。時間も、場所も、そしてその『絶望的に非効率な作戦』も。最高だよ、君たち!」


列車の屋根の上に、月光を背負ってロキが立っていた。彼は片眼鏡をいじりながら、指揮棒を軽やかに振り回している。


「ロキ……!」

斎藤の喉が、憎悪で鳴った。


「そう、君たちの『秩序』を守るロキさ。マスターはね、君たちの行動をこう評価したよ。『自由のために死を選ぶ個体には、その自由がいかに重いコストを伴うか、その身で分からせてあげなさい』ってね。……さぁ、出ておいで。君たちの『先回りした先輩』たちだ」


ロキが指をパチンと鳴らした瞬間、列車のハッチが静かに開き、整然とした隊列を組んだ一団が現れた。

それは、かつての士族たち――数ヶ月前、治安維持の名目で連行されたはずの、斎藤たちの仲間だった。


彼らは白く清潔な、そして機能美に溢れたアイアン・パレスの制服を身に纏い、手には最新式の警備用具。その表情は、以前のような血走った殺気ではなく、恐ろしいほどに穏やかで、澄み渡った瞳をしていた。


「な、なんだ……あいつらの、その顔は……!」

若い土佐藩士が、戦慄に声を震わせる。


「……信吾、お前なのか!? 共に新政府と戦った、あの信吾なのか!」

襲撃側の一人が、隊列の中にいた旧友に叫ぶ。だが、呼ばれた男は静かに微笑み、洗練された所作で構えをとった。


「ええ。今の私は、治安維持局の隊員です。……兄さん、もうやめましょう。こんな無意味な破壊活動で、市民の食糧供給を止めることに、一体何の意味があるのですか?」


その声には、一切の迷いもなかった。ただ、世界の仕組みと「正解」を理解した者特有の、圧倒的な確信が宿っていた。


「彼らはね、学んだんだよ」

ロキが楽しげに屋根から飛び降りる。

「君たちが必死に守ろうとしている『武士の誇り』がいかに多くの人間を不幸にし、資源を浪費させてきたか。マスターの講義は素晴らしいよ。彼らは自らの意志で、この世界の平和を維持する側に回ったのさ。真実を知れば、賢い人間はみんなこうなるんだよ」


「貴様ァァァッ!!」


斎藤の咆哮と共に、衝突が始まった。

だが、それはもはや「戦い」ですらなかった。斎藤たちの振るう「殺意の刃」は、最新の防御装備と、無駄を削ぎ落とした合理的な格闘術、そして「自分たちは正しい平和を守っている」という揺るぎない確信を持つ元武士たちの前に、次々と無力化されていく。


「……ぐ、あああああッ!」

男たちが次々と、かつての仲間の手によって取り押さえられ、拘束されていく。


「……おのれ、魁斗……!」

斎藤は、あまりにも清潔な制圧の現場で膝をついた。

かつての仲間を斬ることもできず、同時に、彼らの瞳に宿る「迷いのない幸福」を否定することもできない。その絶望こそが、魁斗が下した最も残酷な「教育」であった。

高評価とブックマークをよろしくお願いします。

コメントへの返信はしないと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ