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明治「再」起動 ―暴君が塗り替える近代史―  作者: tky
第1章:未知なる黒船と蝦夷の平定

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第14話:招かれざる使節団

本日4話目

【1868年 初夏 ―― 蝦夷・箱館沖】


鉛色の雲が垂れ込める箱館湾に、黒煙を吐き出す鋼鉄の群れが姿を現した。


イギリス、フランス、アメリカなどの極東駐留艦隊をかき集めた、総勢二十隻を超える「多国籍連合艦隊」。

当時の東洋においては、一国の運命を容易く消し飛ばせるほどの絶大な火力を誇る、まさしく「文明の暴力」の象徴であった。


連合艦隊の旗艦、イギリス装甲フリゲート艦の甲板に立ち、大英帝国公使ハリー・パークスは鼻先を抜ける潮風を深く吸い込んだ。


(……さて、東洋の野蛮人が見つけたという「魔法の城」とやらを拝見させてもらおうか)


パークスは単眼鏡テレスコープを構え、湾の奥、函館山の麓に鎮座する異形の建造物に焦点を合わせた。


「……ほう。なるほど、確かに異様ではあるな」


レンズの先に映ったのは、周囲の緑を完全に切り裂いてそびえ立つ、巨大な黒い要塞だった。

石垣もなければ、大砲の砲門も見当たらない。ただ、一切の継ぎ目がない黒々とした金属の壁が、天を衝くように屹立している。

まるで、宇宙から落ちてきた巨大な墓標のようだった。


だが、パークスの胸に浮かんだのは恐怖ではなく、冷酷なまでの「優越感」だった。


「どう思われますか、提督」

パークスは傍らに立つ連合艦隊司令官に問うた。


「図体ばかりがでかい、非効率なマトですな」

司令官は口の端を歪めて笑った。

「巨大な鉄板を張り合わせた、ただのハリボテでしょう。我が軍のアームストロング砲を数発撃ち込めば、トタン屋根のようにひしゃげるはずです」


「同感だ。おそらく、ロシアの屑鉄か何かを買い取って城に偽装し、我々を威圧しようとしているのだろう」


彼らの持つ「正常性バイアス」は極めて強固だった。

産業革命を経て、蒸気と鉄で世界を制覇した白人種こそが、人類の頂点である。東洋の未開な島国に、自分たちを凌駕する技術など存在するはずがない。

その強固な信仰が、眼前に広がる明らかな「異常」を、都合よく「まやかし」へと変換させていた。


【同日 ―― 箱館港】


パークスら各国の公使と、武装した数十名の海兵隊員が箱館港に上陸した。

彼らを出迎えたのは、かつての旧幕府軍総裁、榎本武揚である。


「出迎えご苦労、榎本クン。君たちも大変だな。あのような鉄のガラクタの裏で、小賢しいハッタリの片棒を担がされるとは」


パークスはステッキを振り回しながら、傲慢な笑みを浮かべた。

だが、榎本の表情は、パークスが期待していたような「強がる敗者」のものではなかった。


深く窪んだ目。疲労の色が濃い顔。

しかし、その瞳の奥には、パークスたち列強を「哀れむ」ような、極めて冷ややかな光が宿っていた。


「……パークス公使。そして各国の代表の方々。一つだけ、忠告しておきます」


榎本は、低く、押し殺したような声で言った。


「あの城の主たちの前では、決して武器に手をかけぬことだ。……彼らは、我々とは生きている『次元』が違う」


「フン、脅しのつもりか。我々の背後には湾を埋め尽くす艦隊がいるのだぞ。野蛮人の手品など、大英帝国の前では通用せんということを教えてやる」


パークスは榎本の警告を鼻で笑い、海兵隊を従えてアイアン・パレスへと歩みを進めた。


榎本はその後ろ姿を見送りながら、密かに拳を握りしめた。

(馬鹿な奴らだ……。自分たちが、竜の逆鱗に触れようとしている蟻であることにも気づいていない)


【同日 ―― アイアン・パレス内部】


アイアン・パレスの巨大な防壁の前に到着した使節団は、最初の「違和感」に直面した。


門番もいなければ、開閉のための巨大な歯車や蒸気機関の音すらしない。

パークスたちが近づいた瞬間、高さ数十メートルはある漆黒の金属壁が、文字通り「音もなく」左右にスライドして道を開いたのだ。


「な……なんだ、今の動きは……?」

フランス公使が息を呑む。


内部に足を踏み入れると、その違和感は決定的な「恐怖」へと変貌し始めた。

窓が一つもないはずの内部は、どこから発せられているのか分からない柔らかな光で満たされ、真昼のように明るい。

床は鏡のように滑らかで、彼らの軍靴の音を不気味なほど正確に反響させている。


そして、最も彼らを混乱させたのは「匂い」だった。

当時の西洋の軍事施設であれば必ず漂う、石炭の煙、機械油、火薬、そして人のかいた汗の臭い。それが、ここには「完全に」存在しなかった。

まるで、生命の存在を拒絶するような、無機質で冷たい空気だけが循環している。


長い回廊を抜け、彼らが案内されたのは、巨大な円卓が置かれた広間だった。


円卓の奥の玉座には、黒いコートを羽織った若い男――九条魁斗が、退屈そうに頬杖をついて座っていた。

その傍らには、燕尾服を完璧に着こなした第4席のカルマが控えている。


そしてもう一人。

円卓の端で、虚空を見つめながら指先を僅かに動かしている者がいた。


豪奢だが一切の無駄な装飾がない、白銀のドレスを纏った女性。

彼女の肌は透き通るように白く、瞳はガラス玉のように感情を映さない。


「……室温22.0度、湿度50.0%に固定。外部から侵入した未開個体サンプルスの心拍数上昇ならびに、発汗による体温の変化を感知。空間の気流を操作し、不快な獣臭を強制排気します」


彼女の鈴を転がすような、しかし機械的に平坦な声が響いた瞬間、パークスたちの周囲を包んでいた空気が微かに歪み、彼らが外から持ち込んだ土埃や汗の匂いが、一瞬にして掻き消えた。


「何だ、今の女は……?」

海兵隊員の一人が、思わずライフルを強く握りしめる。


「紹介しよう。第3席、防衛・エネルギー統括の『アイギス』だ」

魁斗が冷淡な声で言った。


アイギスはパークスたちを一瞥することすらしない。彼女は、彼ら「人間」を見ているのではなく、彼らが発する熱量や質量という「データ」だけを処理しているのだ。

その絶対的な無関心さが、歴戦の海兵隊員たちの背筋に氷のような悪寒を走らせた。


「さて、未開の客人たち」

カルマが一歩前に出て、完璧なクイーンズ・イングリッシュで優雅に一礼した。


「我が主の貴重な時間を割いて差し上げたのです。あなた方の非効率な要求とやらを、手短にお聞かせ願いましょうか」


列強の威信を背負った使節団と、未来からの管理者たちによる、絶望的な会談の幕が切って落とされた。

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