THE END
「……あなた、はい、ブランデー」
「……ああ、ありがとう」
私はいつものようにリビングルームで、妻に勧められるまま寝酒のブランデーを口にした。
しかし、その瞬間、今まで味わったことのない激しい吐き気が我が身を襲った。
「うっ!」
私の口から液体がだらりと零れ落ち、たちまち呼吸困難に陥った。手にしたブランデーグラスは滑り落ち、ガシャガシャと派手に音を立てて床に砕け散っていった。
「……く、く、く、……苦し……い!」
私は苦悶のうちに息絶え、目を開けたままソファーから床へバタンと崩れ落ちた。
どうやら、妻に毒を盛られたらしい!
「……ついにやったわ! この時が来たのね」
妻は私の顔を覗き込みながら、微笑んだ。
元女優で女神のように美しいと思っていた妻の顔は、悪魔のように醜く歪んでいた。
「馬鹿な人ね。本当はあなたのことなんて全然愛していなかったのよ。どうしてもって言うから。……あなたが売れっ子の作家で金持ちで、しかも豪邸に住んでいるから結婚したのよ」
妻は無言の私に言いたい放題言った。
「これで、あなたの財産は全部、私と邦彦のものになるのよ」
邦彦とは、おそらく妻の取り巻きの一人で、大学病院の勤務医である瀬尾邦彦のことだ。小柄で貧相な私と違い、長身で男前の……。
妻は私を裏切り、瀬尾と共謀し、彼に用意させた毒物で私を殺したのだ!
「朝になったら、警察に伝えなきゃね。それまで少し休むわ。作家だから、……行き詰まりの上での自殺ってことで納得するかしら」
そう言い捨てて、妻はリビングルームの端にある螺旋階段を上り、二階の寝室へ向かった。
「……きゃあああああああ!」
突然、パキパキッと鋭い音を立てて金属製の階段の手摺りが折れ、バランスを崩した妻は逆さに落下し、後頭部を強打した。
妻は目を閉じて微動だにしなくなった。




