第97話 奪還への序章
本日もお読みいただきありがとうございます!
いよいよ王都奪還作戦の本格的な戦闘が始まります。
第97話は、星辰の矢じりによる「城門突破」から「敵軍の崩壊寸前」まで。ノヴァと仲間たちの奥義が立て続けに炸裂し、戦闘シーンが多めの回です。
テンポ早めのバトル回なので、ぜひ勢いのまま読んで楽しんでください。
それでは本編へどうぞ!
城門が爆砕した瞬間、轟音と閃光が王都奪還遊撃隊『星辰の矢じり』を包んだ。セレスティアの魔術が鉄壁を誇った正門を木端微塵にしたのだ。
「うおっ、本当にぶっ壊しやがった!」
ユーリが興奮気味に叫ぶが、その表情はすぐに引き締まる。門は消失したが、前方の敵兵は微動だにしない。クライン公爵家の紋章を掲げた2,000名の精鋭が、黒い壁のように隊列を維持していた。
「気を引き締めろ。城門の破壊は突破の開始に過ぎない。正面から隊列を突き破る。それが最も効率的だ」
ノヴァが冷静に分析する。彼の視線は敵の数ではなく、魔力の流れと隊列構造を捉えていた。後方から剣聖ギュンター・ヴァルシュタインが一歩前へ進み出る。
「ノヴァよ、ここからは剣の出番だ。お前達が道を作れ。ノヴァ、レオンハルト、ジェイソン、そしてリアム。四人で突破口を開け。他の者は待機せよ」
ギュンターは隣のジェイソン・サンダーに視線を向けた。
「ジェイソンよ。聖光流の閃光絶命剣を見せてやれ。王家直属騎士の意地を叩き込むのだ」
「はっ!剣聖ギュンター卿の御教示、心に刻んでおります!」
王龍剣術聖光流の使い手であるジェイソンは、特級剣客の域にある。剣聖の隣で戦えることは無上の誉れだった。ノヴァは剣を握りしめ、魔力を集中させる。
「承知しました。全力で突破します」
極致・双極融合を発動。魔法と気を同時に練り上げることで、剣は白く輝き、全身から荒々しい気力が噴出する。周囲の砂塵が渦を巻き始めた。
「行け!」
ギュンターの号令と共に、四人の剣士が敵陣へ突貫した。ノヴァの弟リアムは、剣聖の薫陶を長年受け、若いながらも特級剣客の域に達している。無心流転の境地で、流れる水のように滑らかに敵の攻撃をかわし、触れるものすべてを断ち切る。
「奥義!閃光絶命剣!」
リアムは一瞬で膨大な魔力を剣に集中させ、無心で放つ。光が迸るように速い一撃は、敵の命脈を寸断する。速すぎて相手には剣を振ったことすら認識できない。
スッ――。
魔力流動を最大集中させた一閃。敵兵数十名は何が起こったか理解する間もなく倒れ、隊列が分断された。
「リアム、よくやった。次は私の番だ」
レオンハルトは優雅な外見からは想像できないほど精確で鋭い連撃を繰り出す。風と土の精霊が剣に精霊憑依し、素早さと鋼鉄のような防御力を付与していた。彼は敵をなぎ倒しながら、常にノヴァの背後を守るように援護射撃を排除していく。
「これが私の剣の真理だ!奥義!不動重力斬!」
ノヴァは虚無隠蔽で存在感を完全に消すと、次の瞬間、敵の前衛隊列中央に重力をねじ曲げる重い一撃を叩き込んだ。
ドゴオォン!
大地が揺れ、重力操作の斬撃は半径10メートルの敵兵を鎧ごと地面に叩きつける。一瞬で数百名の隊列に巨大な穴が開き、リアムが作った裂け目をさらに横へ広げた。
ジェイソンは後方でその様子を見守りながら、己の奥義を放つ。
「聖光流!閃光絶命剣!」
ジェイソンの一閃も光のように速い。リアムのそれよりわずかに劣るが、威力は十分だった。
四人の猛攻により、敵の前衛数百名は瞬く間に打ち破られ、クライン公爵家の強固な隊列は中央と側面に分断され、統率を失い始める。
「ほう、随分とくたびれた顔をしておるな、ノヴァよ。しかし、その瞳には達成感が満ちておる」
ギュンターは敵兵を蹴散らしながら、涼しい顔でノヴァに話しかけた。
「ギュンター卿。敵の隊列は分断され、指揮系統は乱れました」
「では、遠慮なく次へ進むとしよう。ここからは魔法の出番だ。セレスティア、アルフレッド、ロバート!奴らの戦意を完全に叩き潰せ!」
ギュンターは後方待機していた星辰魔導騎士団の三名に指示を出した。
「承知いたしましたわ!ノヴァ団長が道を開けてくださった。この好機、無駄にはしません!」
セレスティアは対抗心から瞳を炎のように輝かせた。彼女の魔力量と火魔法の扱いは当代随一、まさに「炎の魔女」だ。隣には元宮廷魔導師アルフレッド・グレイヴンと親衛隊出身ロバート・フォン・カスタードが控える。
「アルフレッド様、ロバートさん。私の火属性魔法を核に、最大限の広範囲攻撃を構築します。お二人は支援を。目標は崩壊した前衛と後衛の間にいる予備隊ですわ!」
「承知した」
二人が応じる。アルフレッドは王家付き宮廷魔導師としての知識と特級魔導師としての経験に基づき、即座にセレスティアの詠唱に必要な分子構造を計算し始める。
「セレスティア君、君の火の勢いは素晴らしいが、ここは光で視界を奪い、風で炎を拡散、土で足場を崩す複合術式の方が効率的だよ」
アルフレッドは一瞬で、火魔法に他の属性を絡ませる複合魔法の理論を構築し助言した。セレスティアは一瞬苛立った表情を見せるが、すぐに冷静な顔に戻る。
「フン……ようやく、あなたが少しは役に立つ男だと認めてあげますわ。やってご覧なさい!」
彼女の火魔法は極親和の力を発揮し、巨大な火球を形成する。その火球にアルフレッドが古代魔術の知見を応用した光と風の複合符丁を重ね、ロバートが土属性の魔力を注ぎ込んだ。
「複合魔法!炎帝の黄昏」
セレスティアの叫びと共に放たれた巨大な火球は途中で炸裂し、光と風の共鳴により眩い閃光を放ちながら竜巻となって拡散した。閃光により敵兵の視界は一瞬にして奪われ、炎の竜巻が彼らを焼き、風が隊列を乱し最後にロバートの土属性が足元の地面を抉り取って崩落させた。
グワアアアア!
先ほどまで頑なだった敵の軍勢は、視界も足場も失い完全にパニックに陥った。負傷者と悲鳴が飛び交い、統制は崩壊する。
「敵の士気は低下し、戦意は70%を割った。だが、後方に指揮官がいる。あれが崩壊しなければ、部隊は再結成される」
ノヴァは遠くにいる、鎧に身を包んだ指揮官らしき人影を見抜いていた。
「ユーリよ。お前の出番だ。あの指揮官を討て。あの男を討てば、この戦は終わりだ」
ギュンターの声が響いた瞬間、ユーリの全身を戦慄が走る。彼は前衛突破の瞬間から全身の気力を練り上げ、精霊郷での修練で身につけた精霊魔法を身体に纏わせていた。丹田に集めた気が渦を巻き、四肢の隅々まで力が満ちていく感覚。
「うおっ、まじか!指揮官かよ!よっしゃあ、派手にやってやるぜ!」
ユーリは喜びと興奮を隠さず、両拳を握りしめる。その瞳には獲物を見つけた猛獣のような光が宿っていた。深く息を吸い込み、精神を集中させる。周囲の喧騒が遠のき視界が研ぎ澄まされていく。
「来い、シルフィード!」
ユーリの呼びかけに応じ風の精霊が彼の身体を包み込んだ。透明な風の渦が彼の全身を螺旋状に纏い、足元の砂礫が舞い上がる。身体が軽くなりまるで重力から解放されたかのような浮遊感。これが風の精霊の力だ。
「精霊魔法!風神の歩法」
叫びと共にユーリは地を蹴った。いや、蹴ったというより風そのものになったと言うべきか。視界が激しく流れ、周囲の景色が残像となって後方へ飛んでいく。混乱した敵陣営の中を彼は疾風となって駆け抜けた。最初の敵兵が槍を構えて立ちはだかる。だがその動きは止まっているかのように遅い。
「どけえ!」
ユーリの拳が敵の鎧を捉える。ガキィン!金属を叩く音と共に、敵兵は数メートル吹き飛ばされた。二人目、三人目。次々と現れる敵兵をユーリは殴り飛ばし、蹴り飛ばし、突き飛ばしていく。風の精霊の力と、自身が練り上げた気力集中が完璧に融合し、彼の身体能力は常人の域を遥かに超えていた。敵の剣がユーリの首筋を狙う。だが彼の身体は風のように流れ刃は空を切る。反撃の拳が敵の顎を打ち抜き、兵士は意識を失って倒れた。
「ははっ!遅い遅い!全然遅えんだよ!」
ユーリは獰猛な笑みを浮かべながらさらに加速する。阿修羅のごとく彼は戦場を疾駆した。拳を振るうたび足を振り上げるたび、敵兵が吹き飛んでいく。その姿はまさに一騎当千の闘神だった。
その直後、後方から大声が響いた。
「ヴォルター男爵軍!我が失態を雪ぐ時が来た!我に続け!奴らを討ち取れ!」
ヴァルター・フォン・アウグスト男爵が、ノヴァ達を助けるために連れてきた300名の私兵団と共に、ギュンターの号令の下、敵の精鋭部隊へと突撃を開始したのだ。
ギュンターはヴァルター男爵軍と共に指揮官目掛けて突っ込む。
「ノヴァよ。お前が闇に打ち勝った時と同じ感覚で、この剣を振ってみろ。何も考えるな。ただ感覚に身を任せるのだ」
ギュンターの声は静かだが、その言葉には深い教えが込められていた。彼の瞳は、まるで湖面のように凪いでいる。そこには一切の迷いも、驕りも、恐れもない。ただ純粋に、剣と一体となった境地があるのみだった。
ノヴァは息を飲む。剣聖の背中から放たれる気配は、嵐の前の静けさのようでありながら、同時に宇宙の深淵のような無限の力を秘めていた。これが無心流転の極致なのか、と彼は直感する。
「見ておけ。これが、お前がいずれ到達すべき境地だ」
ギュンターは無心流転の境地で、指揮官へと肉薄した。その動きには一切の無駄がない。呼吸すら消え、剣を握る手に力みはなく、ただ自然体のまま剣を構える。天地の気が彼の周囲に集まり始め、剣身が淡く光を放ち始めた。
「天地雷鳴剣!」
双極融合によって天地の魔力と気が剣に宿り無心の境地で放たれた一撃は、雷鳴と共に大地を割き指揮官の鎧を、剣を、そして魂を周りの精鋭部隊と共に完全に粉砕した。指揮官の死を確認した瞬間、敵の軍勢は完全に戦意を喪失し武器を捨てて逃走を始めた。
「片付いたようだな。ヴァルターよ。お前の真意、受け取ったぞ」
ギュンターは汗ひとつかかずに、瓦礫の中央で剣を収めた。
「戦闘終了と判断する。みんな、怪我はないか?王都は開いた。気を引き締めていこう」
ノヴァは冷静に周囲に目を配りながら、仲間の安全を確認した。
「行こう。王都を、取り戻すために」
ノヴァは剣を鞘に収めると、仲間たちを見回し、静かに告げた。重い決意を胸に、一行は開かれた門の先へと歩み始めた。
夕陽が王都の瓦礫を赤く染める中、『星辰の矢じり』の面々は無言で立ち尽くしていた。閉ざされていた王都の門は今、彼らの手によって開かれた。だが終わりではない。真の戦いは、ここから始まるのだ。
読了ありがとうございました!
四人の剣士による突破、セレスティアたちの複合魔法、そしてギュンター卿の“無心流転”の極みによって、ついに敵軍は崩壊。王都の門は開かれましたが――物語としてはここが「序章」。本当の奪還劇は、この先の王都内部で待ち受けています。戦争編はさらに緊迫感が増していきますので、引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。
更新ペースは2〜3日おきで続けていきます。
いつも応援ありがとうございます!




