第94話 勅命!王国を2分する戦い
本日も読んでいただきありがとうございます!
誤って先に95話をアップしていましたので94話に修正いたしました。一度読まれていた方は改めて読んでいただけると幸いです。
今回は、王都を奪われた国王ラファエル。本話では、忠臣と保身、私欲に走る貴族たちの「決断」が王国を二分します。宰相エルドリッジ公爵は、クライン公爵が宿敵カルザン帝国と結んだ「売国」の事実を掴み、戦いは国の存亡をかけた「聖戦」へと一変!ノヴァ率いる星辰魔導騎士団は、膠着した戦局を打開すべく、光学迷彩を纏って敵地・王都へ極秘潜入。彼らが張り巡らせる「星辰の耳」が、反撃の狼煙となるか、緊迫の情報戦にご注目ください!それでは本編へどうぞ!
王都ミルウェンの混乱から離れた地で、王国の運命を左右する激しい決断が下されていた。
王都近郊、ヴァイスブルク侯爵は、その厳格な表情の下に燃える揺るぎない忠誠心を家臣たちに示した。ノヴァたちによって国王がグロリアス辺境伯の領都ヴェイルへ無事辿り着いたとの報を受け、彼の決意は固まる。
「ヴァイスブルク家は代々、王家の忠臣として血を流してきた家柄だ。この非常時において、我らの立つべき場所に迷いはない。全軍、直ちにヴェイルへ急げ!一刻の猶予もならぬ!」
一方アルマ侯爵もまた一族の使命を静かに、しかし断固として宣言した。
「アルマ家は代々王家に仕える治癒と守護の一族。我らは王家の盾となり、この国に刻まれた病巣を癒さねばならない。医療隊と兵糧を整え、王家の御許へ馳せ参じよ!」
しかし、王国の全貴族が同じ道を歩むわけではなかった。アグニア伯爵、ストーンウッド・フォン・アグニアは、邸宅で怒り狂っていた。
「何だと!セレスティアが王家に付いただと! あの娘は我が家の財政がどれほど逼迫しているか知らぬのか!クライン公爵の提示した莫大な支援金を見捨てる気か!もうよい、あ奴は勘当だ!我々はクライン公爵家に加勢する!」
伯爵は憤怒に任せてワイングラスを叩き割った。娘セレスティアの離反は、家門の窮状と野心に満ちた彼の決断を決定的なものにした。
また、ホークウィンド侯爵のグレッグは、自領の安泰を最優先していた。
「うーん、こりゃあ厄介な内乱だねぇ。どちらに付いても血を見るのは間違いない。ここは『中立』が一番。とりあえず、どちらにも恩を売っておくのが賢いだろう。食糧支援だけは双方に行うこととしよう。もちろん、割高でね」
そののんびりとした口調の裏には、戦火を利用し富を築こうとする冷徹な打算が見え隠れしていた。そして、シルバーグロウ公爵アルベルトは、政治そのものに興味を示さなかった。
「興味深い化学反応だ。この触媒の配合比率をわずかに変えるだけで、こんなにも安定性が変わる。ふむ……。政治?それは些末な問題だ。私は真理の探求に忙しい。いかなる勅令も、私の錬金術研究を妨げることは許さん」
彼の実験室には、金銀財宝よりも価値のある知識が眠っており、公爵は自室に籠城する決意を固めた。
グロリアス辺境伯領の領都ヴェイル。堅牢な要塞都市の奥にある秘密の部屋で、エルドリッジ公爵イグナティウスは震える手で暗号文書を広げていた。
「これは……!予想を遥かに超える、王国の根幹を揺るがす事態ですな」
彼の前には、長年の諜報活動によって手に入れた戦慄の事実が記されていた。
「クライン公爵が、宿敵カルザン帝国と秘密同盟を結んでいたとは……!公爵家の反逆は、外国の侵略を呼び込むための露払いであったか!」
ノヴァと星辰魔導騎士団の仲間たちが呼び出され、この衝撃的な情報が伝えられた。ユーリは雷撃を放つかのように驚愕の声を上げる。
「何だって!? まじかよ、それって単なる反逆じゃねぇぞ……国を丸ごと売り渡すってことじゃねぇか!」
ノヴァは静かに、しかし断定的な口調で分析した。
「売国だ。これで状況は一変した。我々の戦いは、王家と公爵家の対立という生易しいものではない。カルザン帝国という強大な外敵に対する、王国の存亡をかけた防衛戦となった」
国王ラファエルは、一瞬にして事態の深刻さを悟り、王としての覚悟を固めた。冷や汗を拭い、威厳に満ちた声で命じた。
「イグナティウス、勅令を発布する」
「は!いかなる内容にいたしますか、陛下」
国王は簡易的な王座から立ち上がり、窓の外の闇を見据えて力強く宣言した。
「王都奪還とクライン公爵家討伐の勅令を、王家に忠誠を誓うすべての貴族、騎士団、そして民衆に送れ。同時に、クライン公爵の売国行為と、背後にいるカルザン帝国の陰謀を全て公にせよ!これは内乱ではない、聖戦であると!」
エルドリッジ公爵は、その歴史的な決断に深々と頭を下げた。
「御意に!陛下の御威光を、全土に轟かせましょう!」
勅令は魔法の通信網を通じて瞬く間に王国全土を駆け巡った。それは、ひとつの王国をふたつに引き裂く号砲となった。忠義に燃える者は剣を取り、保身を選ぶ者は屋敷に籠り、野心に駆られる者はカルザン帝国の後ろ盾を得たクライン公爵の元へと雪崩れ込む。
王都奪還へ向かうノヴァたちと、国の命運を握る貴族たちの思惑が交錯する中、王国は、血と裏切りに染まる未曾有の戦乱へと突入した。
数日後、グロリアス辺境伯邸の会議室は、焦燥と沈黙が支配していた。駆けつけた忠臣たちと騎士団長たちが広げた王都の地図は、現状の絶望的な状況を無言で物語っている。
「……王都を奪われたままでは、民の信頼は揺らぎ続ける。そして、外部の敵に王国の弱みを見せつけることになる」
国王ラファエルは疲労を隠せない顔で、しかし毅然とした声で宣言した。
「王都を必ず取り戻す。そのため、余は我が身のすべてをささげる」
その決意に呼応するかのように、城外からは2万5千を超える連合軍の鬨の声が響いた。辺境伯領の兵、ヴァイスブルク家、アルマ家の兵――忠誠心に燃える兵士たちが集結している。しかし、クライン公爵側はすでに4万名を超え、さらに正体不明の精鋭傭兵が加わっているという未確認情報もあり、陣中の空気は重かった。
「敵はこちらより数がまさる。野戦に持ち込まれれば不利は必至。慎重に戦略を検討するべきだ!」
「何を言う!戦は数がすべてではない。王都を全軍で直撃し、一気に敵の頭を叩くべきだ!時間をかければ敵はさらに増える!」
「……一度、相手と講和の道を探るべきでは?無益な血は避けるべきだ」
国王は進軍の意思を示すものの、各貴族の思惑と軍略が複雑に絡み合い、軍議は混迷を極めた。弱気な意見まで出始め、宰相エルドリッジ公爵は苦渋の進言を行う。
「国王陛下、このままでは貴重な時間だけが空費されてしまいます。進軍の是非は、シルバーグロウ公爵やホークウィンド侯爵など、未だ態度を決めかねている貴族たちの返事を待ってからとすべきかと」
会議は何も決まらぬまま閉会となり、連合軍の進発は宙に浮いた。会議後、ノヴァは休む間もなくグロリアス辺境伯の私室に赴いた。
「グロリアス辺境伯。このままでは時間だけが過ぎ、敵の体制が整うのを許すだけです。今こそ迅速な情報が必要です。ここは我々、星辰魔導騎士団が先行し、敵の状況を偵察に出るべきです」
ノヴァは強硬偵察を提案した。辺境伯は重々しい顔で応じる。
「しかし、この連合軍は王国軍だ。陛下へ正式な手続きが必要だろう。だが、陛下は今、他の貴族の陳情で手いっぱいの様子。落ち着いて話ができる状況ではない」
ノヴァは落ち着き払っていた。
「グロリアス辺境伯、そこですが、一度宰相エルドリッジ公爵へ相談するのはいかがでしょうか?偵察ならば我々だけであれば付与魔法具がある、即座にかつ極めて低い危険性で敵地に潜入できます」
その言葉に、付き添っていた執政官ユリウスが、顔色を変えて声を上げる。
「それは危険だ!4万の軍勢がひしめく王都へ少人数で潜入するなど、自殺行為に等しい!」
「ユリウス執政官、ご心配なく。我々はこのような極秘任務を幾度も経験しており、そのために開発された最新の魔法具も携行していますので」
ノヴァは、『光学迷彩付与布』の存在など、彼らの特殊な任務遂行能力を説明した。辺境伯はその才能と覚悟に心を動かされる。
「ノヴァ君の才能と、王家への忠義を信じよう。宰相への意見具申は私が責任を持って行おう。君たちの即応性こそ今、この国に必要なのだ」
「グロリアス辺境伯、ありがとうございます。必ずや有用な情報をもたらします」
辺境伯は大きく頷いた。宰相エルドリッジ公爵は、その緊急性と重要性を認め、自身の責任において、この極秘偵察の案を受け入れた。夜の闇が王都ミルウェンを包む頃、星辰魔導騎士団の面々は、その機能の全てを発揮していた。
彼らの身を包むのは、特殊な『光学迷彩付与布』。周囲の光と魔力を歪ませ、視覚的な認識を完全に遮断するこの布の効果は絶大だった。ノヴァやレオンハルト、ジェイソンといった、剣術で鍛え上げられた者たちが纏えば、敵の歩哨から2メートルまで接近しても、その気配すら察知されないほどの完璧なカモフラージュとなった。
王都を巡る外壁には、数メートル間隔でクライン公爵家の兵士たちが立つ。ノヴァたちは、その足音の隙間、照明の届かない死角を縫うように、都市へと潜入していった。
本部で通信魔導具を操作するアルフレッドが、冷静に指示を出す。
「こちら本部よりアルフレッド、各員、現在の状況と敵の配置を送れ」
「こちらレオンハルト、セシリア班。敵の貴族連合軍を監視中。敵の規模は約2万。ただし、複数の貴族の寄せ集めで、陣形に統一性がなく、指揮系統も混乱している模様。組織的な大規模攻勢はできそうにない。送れ」
「こちらノヴァ、ロバート班。第1騎士団を監視中。前回の我々との戦闘で受けた負傷の影響は想像以上に大きく、戦力は著しく落ちている。士気も低く、『疲労』の負の魔力が充満している。規模は2000人程度。送れ」
「こちらカイル、ユーリー班。第3騎士団を監視中。団としては健在だが、クライン公爵への不満が内側で燻っている様子。集団で博打に興じたり、飲酒をする兵士が多く、士気は低い。規模は2500人ほど。送れ」
「こちらセレスティア、ジェイソン班。第5騎士団と近衛兵団を監視中。第5騎士団は他団と同様に士気が低い。近衛兵団は逃亡者で半減し、残った者たちも絶望の色が濃い。規模は2500と300程度。送れ」
ノヴァたちはただ敵を観察するだけでは終わらなかった。彼らの真の目的は、永続的な情報収集経路の確保である。
「本部よりアルフレッド、各員、外壁や都市内の状況がつかめたら、『音響集音クリスタル』の設置も行い、さらなる情報を集めるようギュンター卿からの指示だ。絶対に無理はするな。以上」
ノヴァたちは、敵の司令部近くの建物の屋根裏、兵舎の地下通路の壁、そしてクライン公爵邸の庭園の噴水内部など、想像もつかない場所に、直径数センチの音響集音クリスタルを次々と仕掛けていった。付与魔法の力で、クリスタルは周囲の魔力に溶け込むように不可視となり、長期間にわたり盗聴器として機能する手はずを整えた。
完璧な任務遂行を終えた彼らは、誰にも気づかれることなく王都を離脱。得られた情報と、王都に張り巡らされた『星辰の耳』を手に、グロリアス辺境伯領へと退却した。この先行偵察が、膠着していた戦局を大きく動かす、決定的な一手となることは間違いなかった。
第94話をお読みいただきありがとうございます。忠誠と私欲、様々な思惑で動く貴族たちの姿を通し、王国が抱える深い亀裂を描きました。最大の衝撃は、クライン公爵の裏切りが**カルザン帝国と結託した「売国」**であったという事実です。これにより、戦いの規模は一気に拡大し、「内乱」から「聖戦」へと変貌しました。ノヴァたちが光学迷彩を駆使して王都に潜入し、音響集音クリスタルを仕掛ける情報戦は、彼らの特殊能力とプロフェッショナルな面を際立たせました。彼らが獲得した「情報」こそが、今後の戦局を動かす決定的な鍵となります。次話、いよいよ反撃が始まります。ご期待ください!
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それでは、次話で!




