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第92話 王都の陥落

王国に嵐が吹き荒れる――。

クライン公爵ロードリック、ついに反旗を翻す。王都を包囲し、王家の支配を終わらせるべく、かつての盟友たちまでもが裏切りの剣を取った。一方ノヴァたちは、王都へ急行する中で、戦乱の渦に呑まれていく。仲間たちの覚悟、そして国を揺るがす陰謀。王都陥落編、開幕。

 ノヴァたちは、事前に付与魔法を徹底的に施しておいた馬車(4台)へと乗り込んだ。車体と車輪には『重力軽減付与』と、『衝撃軽減付与』が施されている。さらに、駆動部には『速度向上付与』が幾重にも刻み込まれていた。


 王都への街道で、とんでもない光景が繰り広げられていた。

 

「うおおおおお! これ馬車じゃねえ、空飛ぶ絨毯だ!」

 

 ユーリが絶叫する中、ノヴァの馬車は地面を蹴るように高速で駆け抜けていく。


「カイル!回復魔法の援護を頼む!セシリアは加速魔法で馬をプッシュだ!」


 ノヴァは、自身も馬車の周りに風属性の『軽量化』と付与魔法『速』の強化を重ねがけする。


「ノヴァさん、この速度は常識外ですわ!」

 

 セレスティアが興奮気味に叫ぶ。

 

「10日の道のりを2日半で駆け抜けるぞ!」


 ノヴァが宣言すると、一同が歓声を上げる。


 「ははは! さすがノヴァだ!」


 レオンハルトは妙な顔をしながら大声で笑う。もう笑うしかない。


 馬車はまるで魔導列車のように、信じられない速度で荒野を駆け抜け、闇夜を切り裂くように、王都へ向かって疾走を続けていた。


 王都ミルウェン――。冷たい風が石畳を撫で、闇に包まれた王都はまだ眠りの中にある。だがその静寂を裂くように、クライン公爵ロードリックは王宮を見据え立っていた。


「すべての駒は揃った……。今こそ、この腐敗した王家を正す時だ」


 その声は鋭く冷たく、背後に控える騎士たちの胸を打つ。第1、第3、第5騎士団の団長たちは、鋼の鎧を鳴らしながら恭しく頭を下げた。


「はい、マイロード。現国王陛下には“休息”をとっていただきましょう」


 その頃、王宮の外郭では、クライン家の紋章を掲げた兵士たちが各門をひとつずつ封鎖していた。親衛隊の半数もすでに公爵の金で買収済みだった。王宮の守りは、もはや形ばかりである。


「陛下、緊急事態です!」


 エルドリッジ公爵イグナティウスと側近の一人である大蔵卿ハワードが血相を変えて駆け込み、寝所の扉を開け放った。扇子を握る手が震え、額には冷や汗が滲む。


「何事だ、イグナティウス」


 国王ラファエルは寝間着姿のまま身を起こした。声には威厳が残るが、わずかに眠気と驚愕が混じる。


「クライン公爵がついに反旗を翻しました。王宮はすでに封鎖され、近衛騎士団の半数が呼応。さらに第1・第3・第5騎士団までもが彼に従っています。」


「……なんと」


 国王の顔が青ざめるがイグナティウスは息を整え畳みかけた。


「ヴァイスブルク侯爵、アルマ侯爵にはすでに伝令を送りましたが、所在がつかめません。恐らくすでにクライン公爵の手に落ちたか、あるいはうまく逃げ延びたかでしょう」


「王妃と子らは……」


「王妃陛下と王女殿下、皇太子殿下は既に避難させました。しかし、時間がありません」


 大蔵卿ハワードが王に答える。廊下の奥から甲冑の金属音が近づいてくる。クラインの手の者たちが確実に迫っているのだ。


「陛下、決断を!」


 大蔵卿ハワードが声を張り上げる。


「籠城しても勝ち目はありません!」


 ラファエルはしばし沈黙した。王座の間、民衆の顔、そして家族の姿……数多の光景が脳裏を駆け抜ける。やがて彼は、国王としての覚悟を胸に刻んだ。


「……分かった。この場で戦えば王都は血に染まり、罪なき民が犠牲になる。王の務めは玉座にしがみつくことではない。国を未来へ繋ぐことだ」


「賢明なご判断です、陛下」


 イグナティウスが深く頷いたそのとき、大蔵卿ハワードが抑えた声で進言した。


「まずはサウスウォール侯爵領へと落ち延びましょう。エドガー侯ならば必ずや陛下にお力添えをし、御身をお守りいたしましょう。脱出の準備は整っております。お早目の出立を。」


 その言葉に、イグナティウスはほんの一瞬だけ眉をひそめた。

 

(なぜ、サウスウォールなのだ?)


 彼の脳裏には自然と別の名が浮かんでいた。グロリアス辺境伯。堅牢な要塞と忠実な軍を抱え、王国随一の守り手と称される人物である。危急の際、頼るならば本来は彼をおいて他にないはずだ。それなのに、なぜあえてサウスウォール侯爵なのか。


 視線を巡らせると、進言した大蔵卿ハワードの口元には、ごくわずかに笑みが浮かんでいるように見えた。


(まさか、金で釣られたか。)


 イグナティウスの胸に警戒心が走る。しかし今は問いただす暇はない。兵士たちの足音が、廊下の奥からますます迫ってきていた。


「……承知しました。陛下、急ぎましょう」


 彼は疑念を飲み込み、王と共に隠し通路へと進んだ。だが胸中ではサウスウォール侯爵への道行きに暗い影が差していることを感じずにはいられなかった。

 

 ノルレア自由都市群から王都へと続く街道。夕刻、ノヴァたちの魔力強化馬車が疾走する中、前方に黒い影が立ちはだかる。

 

「止まれ!」

 

 クライン公爵家の黒鷲の紋章を掲げた騎士たちが、土煙の中から姿を現した。その数、およそ五十名。いずれも精鋭揃い、重装備の甲冑が沈む夕陽を反射して、獣のように剣を構えている。


「チッ、やっぱり来やがったか」


 ユーリが舌打ちし、拳に青白い雷光を宿す。ノヴァは冷静に状況を見極めた。

 

「全員、戦闘準備だ。敵は我々の動きを完全に読んでいるようだ。」


 ノヴァは代表で馬車を降り、相手の真意を訊ねる。


「我々は星辰魔導騎士団だ!緊急の報告があるため王都に急いでいる。道を開けられよ!!」


「王都は今、閉鎖;されている!これより先に通すわけにはいかぬ。引き返されよ!!」


 クライン公爵家の指揮官らしき騎士が返答をする。


「我々は王家直属の騎士団だ。クライン公爵家の騎士である君たちに我々を止める権利はない!王宮に至急報告をしなければいけないことがある。邪魔するとあらば押し通るがよろしいか!」


「えーい!構わぬ皆殺しにしろ!!」


 クライン公爵家の指揮官らしき騎士はいら立ちのあまり突然攻撃を指示する。

 

「話にならない。全員戦闘態勢へ入れ!!」

 

 馬車から飛び降りた星辰魔導騎士団の面々が、瞬時に陣形を整える。セレスティアが先陣を切り、紅蓮の魔力を両手に収束させた。

 

「邪魔をするなんて、百年早いですわ!――フランマ・マグナ!」


 轟音と共に炎の奔流が大地を薙ぎ払った。赤き火柱が一気に敵陣を飲み込み、十数名が甲冑ごと炎に包まれる。しかし敵も手練れである。

 

「魔力障壁、展開!」

 

 後方の魔術師たちが詠唱を終えると、半透明の結界が展開し、セレスティアの炎を押し返した。


「ユーリ、左翼から回り込め! レオンハルト、右翼を押さえろ!」

 

 ノヴァの号令に、仲間たちが即座に動いた。


「了解だぜ!精霊よ、我が身に宿れ――雷風拳ッ!」

 

 ユーリは精霊憑依を発動し、風を纏って雷速で駆け抜ける。拳に宿る雷鳴が轟き、敵兵数名が瞬く間に宙を舞った。大地を叩き割る衝撃波と共に、敵の槍兵がまとめて吹き飛ばされ、骨の砕ける音が木霊する。一方、レオンハルトは静かに剣を構えた。冷気が地面を這い白き霜柱が立ち上がる。

 

「氷華絶技――氷牙連撃!」

 

 剣閃から放たれた氷刃が、花弁のように舞い散り、敵兵の脚を一斉に凍りつかせた。激突は苛烈を極めた。敵は訓練された正規兵、盾と槍の壁を組んで押し寄せる。星辰魔導騎士団は数で劣るが、各人が一騎当千の実力だ。


 セレスティアの炎が夜を裂き、ユーリの雷が敵陣を穿つ。レオンハルトの氷刃が兵の足を奪い、その隙を仲間の剣が斬り伏せる。ジェイソンが剣技で相手を圧倒する。ノヴァはその全てを俯瞰し、光の精霊の力を解き放つ。


「聖霊重力斬――!」

 

 光と重圧を纏った大剣の一撃が大地を叩き割り、敵陣中央が大きく陥没した。鎧ごと圧し潰された兵士の呻き声が、土煙の奥で虚しく響いた。それでも敵は怯まない。

 

「歯向かうものは一人残らず討ち取れと命じられている!退くな!」

 

 指揮官らしき騎士が咆哮し、騎兵部隊が突撃してくる。


「くっ!」

 

 ノヴァが剣を構えた瞬間、セレスティアの詠唱が重なる。

 

「紅蓮よ、爆ぜろ――インフェルノ・カスケード!」

 

 炎の滝が天から降り注ぎ、突撃する騎兵を丸ごと呑み込んだ。馬が悲鳴を上げ、兵士たちが黒焦げになって地に崩れ落ちる。


 状況を完全には把握できていないノヴァたちは、できる限り敵を殺さぬよう立ち回っていた。戦いは一進一退を繰り返し、すでに三十分が経過していた。やがて敵はじりじりと押し返され、数を半減させたところでついに退却を始めた。ノヴァは追撃を命じず、剣を収めた。

 

「深追いは不要だ。ここで時間を浪費すれば、本命を逃す。――先を急ぐぞ」


 仲間たちが頷く。その表情は疲労に濡れていたが、誰一人として怯みはなかった。だが、その時――。森の奥から一人の騎士が現れた。傷だらけのマントを翻す男。

 

「星辰魔導騎士団の諸君!」


「マーカス団長……!? 第七騎士団は王都のはずでは?」


 レオンハルトが驚愕する。


 男は兜を脱ぎ、険しい顔で告げた。

 

「クライン公爵が謀反を起こした。我が騎士団はクライン公爵には与しなかったため、奇襲を受けた。何とか体制を整えて反撃しようとしたが、王都からバラバラに逃げるのが精いっぱいだった。今ここにいるのは50名ほどに過ぎない。それともっと悪い知らせがある」


 ノヴァの眉がわずかに動く。

 

「聞きましょう」


「サウスウォール侯爵エドガーが、クライン側に寝返った。恐らく多額の軍需品供給契約との引き換えだろう」


「何だと!?」

 

 仲間たちがざわめく。


「どうやら王宮の高官もかなりの人間が買収されているようだ。陛下は何とか逃げ延びてはいるらしいが、彼らが陛下をサウスウォール侯爵領へ誘導している可能性が高い」


 ノヴァは精霊の声に耳を澄ませる。風が答え、王宮の奥から囁きが届く。

 

「……間違いない。国王陛下たちは罠にかかっている。急がなければ」


「少ない人員だが我らも同行しよう」


 マーカスは剣を抜き、背後からは第七騎士団の精鋭であろう兵が現れる。

 

「危険を承知ですか」


 ノヴァが問う。

 

「王国を守るのが騎士の務めだ」


 その決意に、ノヴァも力強く頷いた。彼らは再び馬車を駆り、サウスウォール侯爵領へと急行する。


 その頃、場所は変わり王宮を脱出した国王一行の馬車が山道を進んでいた時、突然黒い影が周囲を取り囲んだ。

 

「陛下、敵襲です!」


 エルドリッジ公爵が叫んだ。クライン公爵家の追撃部隊、約200名が一斉に襲いかかる。付き従っていた役人の一人が肩を射抜かれ倒れる。

 

「やはり罠だったか……」


 国王が歯噛みした。その時、轟音と共に炎の奔流が敵陣を貫いた。

 

「フランマ・マグナ!」

 

 赤き火柱が一気に敵陣を飲み込む。

 

「ぬ!味方か?」


 国王は突然のことに驚く。

 

「陛下御無事でしたか!みんな、王族の護衛を最優先だ!」

 

「ノヴァ様!」


 王女ルミナが安堵の声を上げた。ノヴァたちはついに国王一行と合流を果たした。しかし、彼らが辿り着いた先は、忠誠心と裏切りが複雑に絡み合う、王国の命運を分かつ新たな戦場だった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

ついに王都が炎に包まれ、クライン公爵家の反乱が明確となりました。ノヴァたちは間一髪で国王陛下と合流しましたが、すでに王国の中枢は腐敗と裏切りに覆われています。

光の剣が闇を裂くその瞬間を、どうか見届けてください。

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