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第91話 闇を断つ光の剣と調和

闇に堕ちた魔術師ゼノン、そしてその背後に潜むグレン・クライン公爵。ノヴァたち星辰魔導騎士団は、ついに闇の拠点へと突入します。精霊のことわりを歪める闇魔法――“逆理”。その暴走の中で、ノヴァは「調和の理」で挑むことを決意する。激戦の果てに明らかになる、国家を揺るがす陰謀の証拠。

光と闇、理と心――二つの意志がぶつかり合う第91話、どうぞご覧ください。

 眼前の魔術師ゼノンが放つ闇魔法は、まるで魔力の流れそのものを腐食させるかのように室内を覆いつくしていく。


 「精霊よ、我が身に力を!」


 闇に包まれた秘密拠点のホールに、カイルの雄叫びが響き渡った。彼は精霊憑依を行い、全身に水の清浄な魔力を纏っている。しかし、ゼノンの嗤い声が部屋に響き渡る中、黒い波動が襲いかかろうとしていた。

 

「フフフ……すべてを闇で包んでやろう。この世界に光など必要ない」


 ノヴァは冷静だった。父の剣に宿る想いの力を感じ取りながら、闇の本質を探ろうとしていた。


「みんな、僕の後ろに下がって。この闇魔法……何かおかしい」


 ノヴァは剣を構えながら、付与魔法具の魔力感知の眼鏡をかけ、ゼノンの魔法を解析し始める。


「ノヴァ、何が分かった?」

 

 カイルが水の魔力を纏いながら尋ねる。


「この闇魔法の本質は『存在の不調和』だ。精霊たちの調和を乱し、自然の理を歪めている。天理の術で言えば……逆理だ」


 ノヴァの分析を聞き、セレスティアが眉をひそめる。

 

「逆理?それは何ですの?」


「本来なら制約によって抑えられる側が、逆に支配してしまう関係のことだ。精霊たちの均衡を意図的に崩している」


 ゼノンは顔の半分を覆う影の中で嘲笑した。


 「無駄だ、星辰信仰の優等生よ!君達の信じる『調和』など、この『不調和』の前では意味をなさない!」


 彼の放つ黒い靄が、カイルの防壁を容赦なく削り取る。カイルは冷や汗を流しながらも、持ち前の集中力で耐え抜く。


 「ノヴァ!まだかい!?さすがにこの闇の魔力を水で『制約』し続けるのは厳しい!」


 その時、ユーリが前に出る。

 

「それなら俺に任せろ! 俺も精霊憑依で対抗してやる」

 

 ユーリの体が淡い光に包まれ、風の精霊が彼に憑依する。精霊の力を借りた彼の拳が、闇の波動を散らしていく。


「ほほう、二人も精霊憑依とは珍しい。だが所詮は……」

 

 ゼノンが冷笑を浮かべるが、ノヴァは既に次の手を考えていた。


「ならば、逆理には循環で対抗する!セレスティア、カイル、君たちの魔法を融合させよう!」


「え? でも火と水では……」

 

 カイルが戸惑うが、ノヴァは確信に満ちた表情で続ける。


「逆理を突くんだ。火は本来水に制約されるが、過剰な火は水を蒸発させる。治癒の光で火を制御し、調和を取り戻すんだ」


 セレスティアの瞳が輝く。

 

「なるほど……私の炎を、カイルの水で調和させるということですのね!」


「その通りだ。レオンハルト、セシリア、君たちも協力を」

 

 レオンハルトが氷の壁を展開し、セシリアは土の結界を展開して支援した。星辰魔導騎士団の連携が完璧に機能し始めた。


「我ら、汝の下に集いし光の戦士なり!」


 セレスティアが杖を掲げ、強力な火魔法「フランマ・マグナ(大いなる火柱)」の短縮詠唱を開始。カイルは両手を突き出し、アルマ家に伝わる水魔法の奥義「サルース・マキシム(至高の癒し)」の魔力を、セレスティアの炎の渦の中に投入した。


 火と水、制約の関係にあるふたつの属性は、ノヴァの理論と指揮により増幅の理を超え、循環の理へ。


「複合魔術・浄火の奔流ピュロス・フルーメン!」


 燃え盛る炎が水素に引火し、爆発的な光と熱がホールの闇を一掃した。その衝撃に、ゼノンは初めて顔を歪め、後退を余儀なくされる。


「馬鹿な……この程度の小僧どもに……!」

 

 ゼノンが狼狽する中、ノヴァはふっと息を吐き、勝利の糸口を掴んだことを確信した。


 ノヴァたちの複合魔法にゼノンが怯んだその瞬間、グレン・クライン公爵が苛立ちを露わにして戦闘に介入した。


「チッ、貴様らいつまでゴチャゴチャと無駄な小細工を弄している!」


 グレンは全身に雷を思わせる魔力を纏い、レオンハルトの前に立ちはだかった。


「お前に用はない、グレン・フォン・クライン!」


 レオンハルトは剣をグレンに向けた。


「ほう、随分と偉くなったものだ、レオンハルト。私の前に立つとはな」


 グレンは冷笑した。


 「王立魔術学院に入学する前、お前の無意味な騎士道の理想を散々嘲笑ってやったはずだが?『弱きを守り、正義を貫く』だと?ハッ、馬鹿馬鹿しい。世は力と金、そして血統で動いているのだ!」


 グレンは長剣を抜き放つと、一瞬で雷光を纏った一撃をレオンハルトの頭上から振り下ろした。


「王龍剣術・雷光斬らいこうざん!」


「甘い!」


 レオンハルトは間一髪で剣を交差させ、グレンの剛剣を受け止める。彼の足元が僅かに沈んだ。


「王龍剣術か。所詮、王家の犬の剣だ」


 グレンは力を込める。


「貴様はいつだってノヴァの影に隠れて、理想を語るだけの腑抜けた騎士だ!あの日のように、今も何も変わってはいない!」


 グレンの言葉は、レオンハルトの心の奥底を鋭く抉った。二人が初めて王宮で出会った少年時代、些細なきっかけから対立が生じた。当時まだ幼かったレオンハルトは、爵位にふさわしい礼を欠く所作をしてしまう。その失態を盾に取ったグレンは、彼の理想をことごとく踏みにじり、深い傷を刻んだ過去があった。


「黙れ、グレン!」


 レオンハルトは叫ぶが、グレンは構わず複合魔法を発動させた。


「見せてやろう、我がクライン家が代々伝わる複合魔法の秘術を!天風剛雷壁てんぷうごうらいへき!」


 グレンの剣から風と土と水が絡み合い、巨大な竜巻となってレオンハルトに襲いかかる。


「うっ……!」

 

 レオンハルトが吹き飛ばされそうになるが、その時、ギュンター卿から教わった剣術の基本を思い出す。


(そうだ……剣と魔法は調和してこそ真の力となる。ギュンター卿の教えを忘れるな!)


 レオンハルトは剣を下げ、全身の魔力と気を研ぎ澄ませた。彼は剣聖ギュンターから直々に教わった奥義の要素、『気力集中オーラフォーカス』と『無心流転ゼンスター』を瞬時に統合した。


「物理と理屈だけで勝てると思うな。俺の剣は、守るべきもののためにある!」


 グレンが再び雷光斬を放つ瞬間、レオンハルトはあえて一歩前に踏み出した。彼の氷魔法が剣に宿り、《氷華絶技:凍花一閃》を繰り出す。美しい氷の華が舞い散る中、グレンの竜巻を切り裂いた。


「何だと……?」

 

 グレンは驚愕に目を見開いた。


「僕が守るべきもの……それは仲間たちとの絆だ。君にはそれが理解できないのか?」


 レオンハルトの反撃を受け、グレンがよろめく。汗を拭うその顔には、迷いはない。


「俺の理想は、お前のような存在から、大切な人を守ることだ。そして、俺にはもう、ノヴァや仲間、家族という、守るべき現実がある!」


 その間、ノヴァはゼノンを追い詰めていた。


「ノヴァ・ヴァルシュタイン!貴様のその剣は何だ!なぜ闇の術を弾き返せる!」


 ゼノンは焦燥していた。


 ノヴァが手にしているのは、ただの長剣ではない。彼の付与魔法の真髄を駆使して作成した、付与魔法具の「日本刀」だ。刀身本質部分に、ルーン文字と漢字が緻密に刻み込まれ、刀身は白銀の光を帯び、刃文は水面に映る月影のように揺らめいている。


「これは、俺のことわりだ、ゼノン。闇魔法の本質が『存在の不調和』ならば、対抗するのは『本質的な調和』だ」


 ノヴァは剣に魔力と気を流し込み、声を張り上げる。


「『浄』……『光』……『調和』……闇を断つ光の剣よ、その真価を示せ!」


 ノヴァの剣が眩い光を放つ。それは付与魔法の真髄を極めた、究極の魔法剣だった。


「これが……付与魔法の本当の力……!」

 

 セシリアが驚嘆の声を上げる。


「君の魔法は確かに強力だ。だが、調和を乱すだけの力に僕たちの絆は負けない!」

 

 ノヴァが剣を振り上げると、光の奔流がゼノンを襲う。


「馬鹿な……この私の闇魔法が……!」

 

 ゼノンは焦りを隠せない。


 追い詰められたゼノンは、ついに禁忌の領域に踏み込んだ。


「くそ……仕方ない。禁忌の術を……!究極の不調和、闇属性術式・虚空断罪アビス・ジャッジメント!」


 ゼノンが発動した術は、彼の制御を超えて暴走を始めた。黒い渦がホール全体を飲み込み、拠点の構造が物理的に歪み崩壊を始める。天井が軋み、壁が内側へ向かってねじ曲がった。


「ノヴァ、みんな撤退だ!このままでは生き埋めになる!」

 

 レオンハルトの叫びが響く。グレンはゼノンの暴走を見て、舌打ちした。


 「ちっ、失敗か!ゼノン、引くぞ!」


 グレンは崩れゆく壁に魔法で穴を開け、ゼノンを抱え上げると、黒い煙と共に闇の奥へと撤退していった。ノヴァたちは、崩壊するホールから辛うじて脱出した。


 崩壊が止まった拠点跡地は、まるで巨大な隕石が衝突したかのように変わり果てていた。星辰魔導騎士団の面々は、無事を確認し合うと、すぐに内部の捜索を開始した。


「ノヴァ、こっちに何か重要そうな文書が……」

 

 カイルが呼びかける。


 ノヴァが駆け寄ると、そこにはクライン公爵家の印章が押された密書があった。


「帳簿と書簡だ。そこにはクライン公爵家がノルレアの傭兵団『黒鴉』に行った多額の資金提供、さらに王都の近衛騎士団内部への工作活動の指示が、詳細に記されている……」


 ノヴァは声が震えるのを抑えられない。レオンハルトが覗き込む。


「これは明確な反逆行為の証拠だ。国王陛下の暗殺計画まで記されている」


「マジかよ……これはヤバすぎる」

 

 ユーリが青ざめる。その時、一人の男が瓦礫の中から姿を現した。ノルレアの傭兵団「黒鴉」を率いるギデオンだ。彼はノヴァたちの奮戦を見て、すでに協力を約束している。


「ノヴァ殿、証拠は手に入ったようだな。だが、お前たちはすぐに王都へ戻るべきだ」


 ギデオンは険しい表情で言った。


「クライン公爵は今が好機と見て、動きを活発化させているに違いない」


 ノヴァは証拠を握りしめ躊躇した。


 「しかし、ギデオン殿。このノルレアは、クライン公爵の謀略により混乱の極みにある。貴殿一人に任せて、本当に鎮圧できるのか?」


 ギュンター卿が心配そうに問いかける。その言葉の後にロバートが不安そうに呟く。


 「ノヴァ団長。ギデオン殿の状況は理解できますが、彼は公爵家に通じていた者です。この混乱に乗じて、我々を欺く可能性も――」


「本当に信じて大丈夫なのかよ?今まで殺し合いをした敵だったんだぜ。そんな……」


 ユーリも感じた不安をそのまま口にする。その言葉を遮ったのは、剣聖ギュンター卿の、雷鳴のような声だった。


「ユーリ、口を慎め!」


 ギュンター卿はいつの間にか彼らの背後に立っていた。彼の眼光は鋭く、ノヴァを真っ直ぐに見つめる。


「ノヴァよ。お前が持つ『ことわり』は、真実を明らかにした。しかし、『こころ』の理は、その真実を信じることだ。ギデオンの言葉を信じよう。彼は道を間違えたが、その心に宿る『仲間を想う気持ち』は本物だ。それが分からぬか」


 ノヴァはギュンター卿の言葉に打たれ、深く頭を下げた。


「……申し訳ありません、師匠。ギデオン殿、このノルレアの平和を、信じてお任せします」


 ギデオンは片膝をついた。


「感謝いたします。我が命に代えても、この地を守り抜きましょう」


 決断は下された。一刻の猶予もない。


「全員、馬車へ!最速で王都へ帰還する!」


 崩れ去った闇の拠点。その瓦礫の下から覗いたのは、国家を揺るがす陰謀の真実だった。光と闇の均衡は、今まさに決定的な破綻を迎えようとしていた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

ノヴァたちはついに、クライン公爵家の反逆の証拠を手にしました。そして、ギュンター卿の言葉――「ことわりこころ」の対比は、物語の核に深く関わっていきます。

光と闇の均衡は崩れ、王都を巡る争乱は次章で激化します。

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