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第90話 闇に堕ちた英雄の真実

いつもお読みいただきありがとうございます。

前回、バッシュとの死闘を終えたノヴァたちは、ついに「闇に堕ちた英雄」――ギデオン団長の真実に迫ります。かつて父を奪った因縁の根源、クライン公爵家の陰謀。そして、師であるギュンター卿の過去に隠された真実。仲間たちの覚悟と、敵だった者たちとの共闘――。物語は新たな段階へ。第90話「闇に堕ちた英雄の真実」、ぜひお楽しみください。

 ノヴァの出発の声掛けに応えるように、リリアが一歩前に出た。月光が彼女の表情を照らし出し、そこには深い苦悩が刻まれていた。


「情報を集める……それについて、我々から提案がある」


 ゼオンが腕を組みながら続ける。


「ノルレア自由都市群にアストラルタワーという町がある。ルザン帝国から技術供与を受け、魔導師や錬金術師が集まる都市だ。そこにクライン公爵家の秘密拠点がある。そこには団長が……そして公爵の真の計画が隠されている」


 その言葉に、一行の空気が一変した。ユーリが身を乗り出す。


「おいおい、まさか俺たちをそこに連れて行くって話じゃないよな? 敵の本拠地だろ。敵がわんさかいる中に飛び込む気概はねえぜ?」


「そのまさかだ」


 リリアが真剣な眼差しをノヴァに向ける。


「もちろん私たちも手は尽くすわ。我々は団長の真意を確かめ、元の団長に戻ってもらいたい。クライン公爵家とも決別してね。しかし我々だけでは限界がある。あなたたちの力が必要なのです」


 ノヴァの表情が変わる。自分たちが所属する組織の崩壊を助長するような、自殺行為に近い行動を突然語られることに、戸惑いを隠せない。


「それを信じるのは難しい」


「聞いてくれ、ノヴァ! 団長は……本当は違うんだ。あの人は俺たちを守るためにああなったんだ!」


 ゼオンの声には、内面をさらけ出す人間の必死さがあった。広場にいた仲間たちも、ユーリが困惑したように呟いた。


「何だよそれ……守るためって、守るためなら何でもしていいのかよ! ステラ村を襲撃して散々村の人たちを殺したのに?」


「それは……」


 リリアが唇を噛んだ。


「説明が必要ね。でもここでは何だから場所を変えましょう」


 一行は元居た酒場に移動した。騒動の後でマスターもうろたえていたが、話をすることを伝えると快く場所を提供してくれた。薄暗い室内で、ゼオンとリリアが重い口を開く。


「まず知ってほしいのは、ギデオン団長がどんな人だったかということだ」


 ゼオンの目に、過去を懐かしむような光が宿る。


「昔の団長は、本当に『家族』を大切にする人だった。俺たち団員を実の息子や娘のように慈しみ、どんなに貧しくても誰一人見捨てなかった。『黒鴉』が小さな傭兵団だった頃、団長はいつも言っていた。『力は弱い者を守るためにある』と」


 リリアが続ける。


「それが変わったのは、五年前のことです。団長は剣聖としてノルレア評議会に所属していました。当時、評議会でカルザン帝国への従属案が提起され、団長は猛反対したのです。『自由民の誇りを売り渡す真似はできない』と」


「それで帝国に目をつけられたのか」


 ノヴァの問いに、ゼオンが頷く。


「そうだ。帝国は組織的に『黒鴉』を潰しにかかった。依頼の横取り、偽情報による罠、薬物の流入……手段を選ばなかった」


 セシリアがどもりながら確認するように尋ねる。


「そ、それで孤立してしまったのですか?」


「ああ。他の傭兵団も帝国の圧力に屈し、誰も手を差し伸べてくれなくなった。そんな時に現れたのが……」


「クライン公爵か」


 レオンハルトの言葉に、リリアが暗い表情を浮かべる。


「公爵は表向き『帝国への対抗』を掲げて協力を申し出ました。疑問に思った者もいたが、公爵の本心は利益のためだと説明され、納得してしまった。でも実際は、隠された野望のために団長を利用するつもりだった」


 ゼオンが拳を握りしめる。


「最初は資金援助や情報提供だけだった。見返りは帝国への対抗と、公爵絡みの依頼や製品の護衛。しかし徐々に危険な仕事を押し付けられるようになった。断れば資金援助を打ち切られ、収入源の大半を公爵家に頼っていた『黒鴉』は壊滅する。団長は……俺たちを守るために仕方なく従った」


「何だよ仕方なくって……!」


 ユーリが憤慨する。


「それで罪もない村を襲うのが正しいのかよ!」


「違う!」


 リリアが強く否定する。


「あの襲撃はクライン公爵の依頼だったが、団長は消極的だった。だがバッシュが独断で襲撃を行った。団長は止めようとしたのです。でも……間に合わなかった」


 ノヴァの表情が揺れる。父の死にまつわる真実が、思いもよらぬ形で明かされようとしていた。


「クライン公爵の真の目的は何だ?」


 ギュンター卿の問いに、ゼオンが答える。


「公爵は王家の血を引く家系だ。王室に何かあれば跡継ぎに選ばれることもある。現公爵も若い頃は前国王に従順だったが、周囲の讒言ざんげん阿諛あゆで心が歪んだのだろう。特に自分と前王の娘との間に生まれた息子グレンの才能を見て、『我が子こそ王に』と考えるようになった」


「それが反逆の動機というわけか」


 カイルが静かに呟き、ゼオンはさらに続ける。


「ステラ村を襲撃させたのは剣聖の存在があったからだ」


 ギュンター卿は驚愕してゼオンを凝視する。


「剣聖の役割には、国の危機に際して王家を守る誓いがある。王国では忘れ去られているらしいが、星の法典にはその条文が記されている。公爵は『剣聖』の存在が事を起こす際に大きな障害になると考えていたのだ」


 あまりの内容に、ギュンター卿の顔は青ざめていた。


「私の存在がステラ村壊滅の原因だと……」


「ああ。公爵の狙いは本来、剣聖であるあんたを村人と一緒に亡き者にすることだった。しかし依頼内容があまりにも難度が高いと考えた団長は、依頼を断ろうとしたが……バッシュが動いた。これが真実だ」


 ゼオンは目をつぶり、当時を思い出すように語った。あまりの話に、ギュンター卿は言葉少なく呟く。


「私がいなければロランドは死ななかった……私を直接狙えばいいものを……」


 ギュンター卿の狼狽を見て、リリアの声が緊張に震える。


「今、公爵は最終段階に入っています。ノルレア自由都市群の秘密拠点で何かを企んでいる。我々も詳細は知りませんが……危険な儀式の準備をしているようです」

 

 ノヴァが立ち上がる。

 

「場所は分かるのか?」

 

「ああ。だが……」

 

 ゼオンが躊躇する。

 

「拠点には『黒鴉』の精鋭千名が守りについている。正面突破は困難だ。だからこそ、我々が協力する」

 

 リリアが真剣な眼差しをノヴァに向ける。

 

「団長を……あの人を救いたい。私達が協力することはあなたたちにもメリットがあるはずよ」

 

 仲間たちが互いを見交わす。敵だった者たちからの協力の申し出に、戸惑いは隠せない。

 

「信用できるかよ」

 

 ユーリが不満を漏らすが、ノヴァは決断した。

 

「分かった。協力しよう」

 

「ノヴァ!?」「ノヴァ……。」

 

 同時にセレスティアが驚き。ギュンター卿が真意を尋ねるよう問いかける。

 

「でも条件がある」

 

 ノヴァの瞳に強い光が宿る。

 

「もしこれが罠なら、僕は君たちを容赦しない。だが本当にギデオンを救いたいというなら……僕も彼に会って、真実を確かめたい。師匠!師匠には何も責任はありません。僕の父さんを殺害したのはバッシュであり、本当の仇はクライン公爵というのであれば僕はクライン公爵を絶対許せない。」

 

 翌日の夜明け前、一行は海路でノルレア自由都市群へと向かった。ゼオンとリリアの案内で、一行はクライン公爵家の秘密拠点へと潜入する。拠点は古い要塞を改造したもので、周囲は『黒鴉』の傭兵たちで固められていた。しかし、ゼオンとリリアの内部情報により、警備の薄い地点から侵入することに成功する。

 

「こっちです」

 

 リリアが通路の角で手招きする。

 

「団長の居室は最上階にあります。ただし……」

 

 その時、警鐘が鳴り響いた。

 

「侵入者だ!」

 

「『黒鴉』を呼べ!」

 

 傭兵たちの怒声が要塞に響く。

 

「バレたか」

 

 ギュンター卿が剣を抜く。

 

「皆、作戦を変更する。ここは俺たちが食い止める。ノヴァ、お前はギデオンの元へ行け」

 

「しかし……」

 

「案ずるな」

 

 レオンハルトが氷の結界を展開する。

 

「俺たちが道を作る。行け!ノヴァ」

 

 ユーリが風を纏って敵を薙ぎ払い、セレスティアの炎が通路を照らす。カイルの治癒が仲間を支え、セシリアの土魔法が防壁を築く。ロバート、ジェイソン、アルフレッドも剣と魔法で奮戦した。混戦の中、ノヴァはゼオンとリリアと共に最上階へと駆け上がる。重厚な扉の向こうに、ギデオンの気配を感じた。扉を開くと、そこには窓辺に佇む男の姿があった。月光に照らされたギデオンは、以前よりも老け込んで見えた。

 

「来たか、ノヴァ」

 

 振り返ったギデオンの瞳に、複雑な光が宿る。

 

「君に会えて良かった。謝らねばならないことがある」

 

「謝罪など——」

 

「いや、聞いてくれ」

 

 ギデオンが剣を抜く。

 

「俺は……家族を守るために闇を選んだ。それが正しいことだと信じていた。だが……」

 

 剣戟が響く。ノヴァの『閃光絶命剣』とギデオンの『空虚なる断罪』がぶつかり合い、部屋が震撼した。

 

「君の村を襲ったのは俺の責任だ」

 

 ギデオンが苦悶の表情を浮かべる。

 

「俺がもっと強ければ、バッシュを止められた。おまえの父を……」

 

「違う」

 

 ノヴァが剣を収める。

 

「あなたは間違っていない。家族を守ろうとした気持ちは理解できる。でも……」

 

「でも?」

 

「本当の守りとは、大切な人を犠牲にしないことだ。闇に堕ちることじゃない」

 

 ギデオンの手が震える。

 

「では、どうすれば良かったというのだ?」

 

 その時、別の声が響いた。

 

「感動的ですね」

 

 扉の向こうから、金髪の青年が現れる。グレン・フォン・クラインだった。その後ろには、黒いローブの男——ゼノン・クロフトが続く。

 

「グレン……」

 

 ギデオンの顔が青ざめる。

 

「お疲れ様でした、ギデオン卿。もう用済みです」

 

 グレンが冷たく微笑む。

 

「ノヴァ殿も、よくいらしてくださいました。平民の分際で、ここまで来るとはすごいものです。私たちはあなたたちを排除するために来ました」

 

「貴様……」

 

 ノヴァが剣を構える。ゼノンが呪文を詠唱し始める。黒い靄が部屋を満たし始めた。

 

「ゼオン、リリア!」

 

 ギデオンが二人に向かって叫ぶ。

 

「ノヴァとともにここから逃げろ!私がこの場で命に代えても引き留める。決してこの闇に巻き込まれるな!」

 

「しかし団長!」

 

「これは命令だ!」

 

 しかしノヴァは一歩前に出る。

 

「いいえ。僕が殿を引き受けます」

 

「ノヴァ!」

 

「これは僕の戦いでもある」

 

 ノヴァが父の剣を構え、浄化の力を纏わせる。

 

「ギデオンさん、あなたもまだ間に合う。共に闇に立ち向かいましょう」

 

 ギデオンの瞳に、かすかな希望の光が宿る。しかし、ゼノンの闇魔法が拠点全体を覆い尽くそうとしていた。

 

「フフフ……すべてを闇で包んでやろう」

 

 ゼノンの嗤い声が響く中、黒い波動が襲いかかる。ノヴァは剣を掲げ、仲間たちを……そしてギデオンを守る覚悟を示した。闇と光がぶつかり合う中、新たな戦いの火蓋が切られようとしていた。

読んでいただき、ありがとうございます!

ギデオン団長の過去、そしてクライン公爵の野望がついに明らかになりました。

師として、父の仇として、そして一人の人間として――ノヴァが向き合う「闇」は、これまでで最も重く深いものです。


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次回もどうぞよろしくお願いします!

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