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第88話 血と刃の港

いつも読んでくださりありがとうございます。

闇の根源を断ったノヴァたちは、ついに父の仇・バッシュが潜む「血と刃の港」ブラッド・ハーバーへ――。

混沌に満ちた無法の街、潜む傭兵団「黒鴉」、そして現れた新たな敵と謎の幹部たち。

燃え上がる復讐の炎の中で、ノヴァは“剣聖の教え”を思い出す。

血と光が交錯する運命の一夜、どうぞお楽しみください。

 夜が更けた翼ある竜亭の客間に、不気味な静寂が漂っていた。テーブルには、地下施設で発見した分厚い計画書が広げられている。その表紙には、クライン公爵家の紋章が金文字で刻まれていた。

 

「これで証拠は揃った」

 

 ノヴァが計画書のページをめくりながら呟く。これを王都の王国宰相ルドリッジ公爵に報告すればクライン公爵家を追い詰めることができるだろう。

 

「だが、我々が止めたのは氷山の一角に過ぎぬ。根源を断たねば、また同じことが起こる」

 

 ギュンター卿の言葉に、アルフレッドが古い地図を広げる。

 

「そうですね。この計画書によれば、ブラッド・ハーバーに本拠地があるようです」

 

「ブラッド・ハーバーか……。聞いたことあるぜ。確か、無法者の巣窟だって話だろ?」

 

 ユーリが眉をひそめる。

 

「ああ。ノルレア自由都市群の3大都市の中でも最も危険な場所の1つだ」

 

 レオンハルトが地図上の港を指差す。

 

「海賊や傭兵が跋扈し、金さえ出せばどんな汚れ仕事でも請け負う連中の本拠地だ」


 ノヴァは父の形見の剣を手に取った。

 

「父さんを殺したバッシュが、そこにいる」

 

「ノヴァ、復讐に囚われてはならんぞ」

 

 ギュンター卿が警告する。

 

「わかっています。でも、あの男を野放しにはできない。きっとまた、誰かの家族を奪うでしょうから」

 

「そうだな。なら準備をしよう」

 

 翌朝、一行は武装商隊の護衛馬車に身を隠し、ブラッド・ハーバーへ向かった。道中、無法者や怪しげな傭兵の姿が次第に増えていく。

 

「うげっ、この辺りの空気なんか重くない?」

 

 ユーリが鼻を摘まむ。

 

「闇の魔力が蔓延しているのもあるのでしょうが、この地のもともとの雰囲気でしょうね」

 

 セシリアが魔力を感知して顔をしかめる。

 

「さすがは自由の名の下に混沌が支配する街ですわね」

 

 セレスティアが皮肉めいて言う。

 

「みんな、気を引き締めていこう。あの街では何が起こるかわからない油断すればどんな人間だって命はない」

 

 ノヴァが仲間たちに注意を促す。長旅の末、夜の帳が降りたブラッド・ハーバーに到着した。港には海賊らしき船が何隻か停泊しており、街にはあちらこちらで酔っ払った荒くれ者たちの怒声が響いている。

 

「ついて早々ですが師匠の古い伝手がある酒場に向かい情報を集めましょう」

 

 ノヴァがエルドリッジ公爵の配下から手に入れた、都市の地図を広げ位置を確認する。

 

「『泥酔竜亭』……いかにもって名前だね」

 

 カイルが苦笑いを浮かべる。

 

「そうだね。あっ!ここだ。さあ移動しましょう。」


 ノヴァは目的地を見つけると皆にそう告げた。ついた建物は王都では見たことのない汚れた飲み屋だった。外から様子をうかがっていると中から酔っぱらいの笑い声や怒鳴り声などの喧騒が聞こえる。


「師匠、この建物のようです。営業しているようですので、数名で入ってみましょう」


「うむ、奴は金には汚いが、報酬分の働きはきっちりやる男だ。危険はないと思うが注意は怠るなよ」


 ギュンターは低く唸るような声で言い、ノヴァの目をじっと見据えた。 その言葉には、過去に何度も裏切りや油断を経験してきた者の重みが滲んでいた。 ノヴァは頷きながら、これから対面する人物への警戒心を胸に刻んだ。ノヴァは数名の仲間を連れて酒場へと足を踏み入れ、残りの者たちは外で待機することとなった。


 扉を開けた瞬間、彼の鼻をついたのは、煙草と酒が混じり合った濃厚な匂いだった。 薄暗い店内には、低くざわめく声と、擦れた木の床を踏む音が響き、場末の空気が漂っていた。 ノヴァは一歩ずつ奥へと進みながら、視線の先にある何かを探るように、周囲を静かに見渡しカウンターに近づくとノヴァは希少な宝石をカウンターに置く。

 

「『黒鴉』について聞きたい」

 

 店のマスターである髭面の中年男が宝石を見て目を見開く。

 

「ほう、これは……上質な魔力を帯びているな」

 

「情報次第で、これは君のものだ」

 

 ノヴァが交渉を始める。

 

「『黒鴉』のことなら知っているぞ。最近この街を拠点にしている。だが、団長のギデオンはほとんど拠点にはいないぜ。実質的に街を支配しているのは副団長のバッシュだ」

 

 マスターが声を潜める。

 

「あの男は力で住民を押さえつけ、逆らう者は容赦なく始末する。まさに恐怖の独裁者だ」

 

「他に何か知っていることは?」

 

「『黒鴉』は単なる傭兵団じゃない。もっと深い、危険な組織と繋がっている。詳しいことは知らんが……」

 

 その時、酒場の奥の席から2つの人影が立ち上がった。 長身で端正な顔に傷のある男と、黒いローブを纏った女性が近づいてくる。

 

「興味深い話を聞かせてもらった」

 

 男が静かに口を開く。

 

「君たちが『黒鴉』を探しているとはね」

 

「貴方たちは?」

 

 ノヴァが警戒する。

 

「俺はゼオン。こっちはリリア。こう見えても『黒鴉』の幹部だ」

 

 ゼオンが名乗る。

 

「っ!」

 

 一行が身構えるが、ゼオンは手を上げて制止する。

 

「おいおい。待て、待て、戦うつもりはない。むしろ、君たちに忠告したいだけさ」

 

「忠告?」

 

「ギデオン団長は……変わってしまった。『家族』を守るため、闇に手を染めその闇に蝕まれている」

 

 ゼオンの声には悲しみが込められていた。

 

「そんな話信じられませんわ」

 

 セレスティアが反発する。

 

「信じる必要はない。だがこの街の闇は君たちが想像する以上に深い」

 

 一方、リリアはノヴァの剣に注目していた。

 

「その剣……未知の付与魔法が施されているわね」

 

「!!付与魔法を知っているのか。お前たちは何が目的だ?」

 

 レオンハルトが身構える。

 

「研究者としての好奇心よ。付与魔法なんてある程度、魔術に精通していれば知って当然。でもその剣には今までに見たことのない付与魔法が掛けられているようね。しかもひとつの呪文だけじゃなく複合的にかけられている。まるで国宝級ね、その秘密を解き明かしたいわね」

 

 リリアが不敵に微笑む。その時、酒場の扉が乱暴に蹴り開けられた。


「おい、マスター!今月の貢ぎ物はどうした!」

 

 複数の傭兵がなだれ込んでくる。

 

「今月は売り上げが悪くて……」

 

 マスターが震え声で答える。

 

「言い訳はいらねぇ!」

 

 傭兵の一人がマスターを殴りつける。

 

「やめろ!」

 

 ノヴァが立ち上がる。

 

「何だ、お前は?」

 

「ただの通りすがりだ」

 

 ノヴァが剣の柄に手をかける。

 

「通りすがりが口出しするんじゃねぇ!」

 

 傭兵たちが武器を抜く。しかし、ノヴァの一瞬の剣閃で、全員が床に倒れた。

 

「すげぇ……」

 

 ユーリが呟く。

 

「この力……やはり只者ではないな」

 

 ゼオンが感心する。

 

「すごい剣術ね。ますます興味が湧くわ」

 

 リリアが瞳を輝かせる。

 

「さあ、行こう興も冷めたし戻るとするか」

 

 ゼオンとリリアが立ち去ろうとする。

 

「待て!」

 

 ノヴァが呼び止める。

 

「安易に踏み込めば、全てを失うことになるやもしれんぜ。覚悟はあるか?」

 

 ゼオンが振り返る。

 

「ああ。家族や仲間を守るためなら」

 

 酒場を出ると、街の広場に異様な殺気が満ちていた。

 

「来たな、鼠ども」

 

 街の広場に、不気味な圧力が漂った。闇を裂くように姿を現したのは、巨大な戦斧を担いだ筋肉の怪物――バッシュだった。

 

「父さんの仇……」

 

 ノヴァが拳を握りしめる。

 

「はっ?まだガキじゃねぇか。くだらねぇ」

 

 バッシュが嘲笑する。

 

「ステラ村という名前に聞き覚えがあるか?」

 

「ああ!なんだぁ?てめェ」

 

「ここを北西に馬車で1週間ほど行ったミルウェン王国の端にある800人程度の村だった。覚えがないか?」


 ノヴァは剣を持った腕をバッシュに向ける。

 

「うん?その剣見覚えがあるぜ。数年前に襲撃した村の凄腕の剣士が使っていたものだな?村人にしては剣の達者な奴がいたなぁ。あれは楽しい狩りだったぜ」

 

「許せない……」

 

 ノヴァの剣が光を帯び始める。

 

「おっと、いい殺気だ。久々に骨のある獲物だな!」

 

 バッシュが戦斧を振り上げ、炎を纏わせた。

 

「『獄炎砕斧:業火の顎』!」


 灼熱の炎が獣の顎となり、ノヴァを呑み込もうと迫る。

 

「『閃光絶命剣』!」

 

 ノヴァの剣が稲妻の閃光を放ち、炎の顎を裂く。だが、バッシュの膂力は凄まじく、衝撃が広場を揺るがした。石畳が砕け、砂塵が舞い、ノヴァの身体は吹き飛ばされる。

 

「がはっ!」

 

 血を吐き、地に叩きつけられるノヴァ。

 

「ノヴァ!」

 

 仲間たちが駆け寄る。

 

「フハハハ!この程度か!」

 

 勝ち誇るバッシュ。だが、ノヴァはよろめきながら立ち上がった。

 

「まだだ……」

 

 ノヴァが立ち上がる。

 

「まだだ……俺は倒れない!」

 

「しつこい奴だな!」


 バッシュはめんどくさそうに巨大な戦斧を肩に担ぐ。ノヴァの周りにレオンハルト達が駆けつける。

 

「くそっ、なんて力だ……」

 

 ユーリが息を荒げる。

 

「このままでは……」

 

 カイルが治癒魔法を使いながら呟く。その時バッシュが苛立ち、無造作に戦斧を振るう。その軌跡が、近くの市民に迫る。

 

「やめろ!」

 

 ノヴァが叫ぶが、間に合わない。しかし、突如現れた人影がバッシュの攻撃を受け止めた。


「『不動重力斬』!」

 

 轟音とともに、鋼の一撃を止める剣閃。そこに立つのは剣聖ギュンター卿。

 

「間に合ったようだな」

 

「師匠!」

 

「ノヴァ、なかなかの戦士のようだな。剣士で言えば剣豪クラスといったところか。こやつの相手は俺がをしよう。」

 

 ギュンター卿は剣を構えバッシュと対峙する。バッシュはギュンター卿に巨大な戦斧をその体に似合わぬスピードで叩き込む。ギュンター卿は戦斧を威力が無いかの様に剣で受け流す。しかし流されたバッシュは体勢を崩しながらも驚異的なスピードでまた戦斧をギュンター卿の頭めがけてたたきつける。それも軽く剣でいなされる。その動きは水のように滑らかな動きで見る者を魅了した。


「ノヴァよ。お前の父親が残してくれたものは剣だけか?わしとの修行で得たものを思い出せ」

 

 ノヴァははっと目を見開く。脳裏に甦る、父の教えと、ギュンター卿の厳しくも温かな稽古の日々……。三大剣術のひとつ、『水霊剣術 動麗流』。


「師匠……! もう一度だけ、この私に任せてください!」


 広場を包む闇は、なお濃く、なお深い。だがノヴァの瞳には、確かな光が宿っていた。父の志と師の教えを胸に、仲間と共に進むための覚悟が形を成したのだ。炎と剣が交錯する死地において、少年はもはや迷わない。運命の刃は、今まさに振り下ろされようとしていた……。

ブラッド・ハーバーにて、ついにノヴァと父の仇バッシュが激突しました。

圧倒的な力の差に苦戦するノヴァ――しかし、師ギュンター卿の言葉が再び彼の心に火を灯します。

「剣だけが全てではない」――父と師の想いを胸に、少年は再び立ち上がる。

次回、動麗流が光を放ち、炎の巨斧と激突! 運命の戦いの行方をお見逃しなく。

少しでも面白いと思われましたらブックマーク・評価をいただけると励みになります。また次回の話でお会いしましょう。

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