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第87話 闇の根源を断て

いつも読んでくださりありがとうございます。

父の仇バッシュ、そして“闇に堕ちた剣聖ギデオン”――ノヴァの前に立ちはだかるのは、かつて父と刃を交えた最強の戦士でした。仲間と共に辿り着いた闇魔法の根源、その先に待つ真実とは。闇を断ち、希望を灯すための激闘がいま始まります。第87話「闇の根源を断て」、ぜひご覧ください。

 翼ある竜亭の客間では、捕らえた傭兵の尋問が終わり、星辰魔導騎士団のメンバーが重苦しい表情で集まっていた。

 

「父の仇、バッシュ……そして剣聖ギデオン」

 

 ノヴァが静かに呟く。窓の外には、闇に包まれたノルレア自由都市の夜景が広がっていた。

 

「団長、どうする?」

 

 ユーリが身を乗り出す。

 

「まじで、その傭兵団の団長が剣聖なのか?ノヴァでも勝てるのかよ? あっ!でもこちらだって剣聖様がいるじゃん」

 

「ユーリ!」

 

 セレスティアが眉をひそめる。

 

「そのような軽率な発言は慎みなさい。剣聖というのは」

 

「わかってるよ!でもノヴァの親父を殺したやつらだろ?黙ってられるかよ」

 

 レオンハルトが静かに割って入る。

 

「ノヴァ、君一人で背負い込む必要はない。僕たちも一緒に戦う」

 

 ノヴァは仲間たちの顔を見回し深く頷いた。

 

「父さんを殺したのはバッシュてやつだけどね。皆の言葉は心に響くよ。だが今は復讐ではなくこの闇の根源を絶つことが先決だ」

 

 彼は精霊郷で得た力に意識を集中させる。

 

「精霊郷の大樹が警告していた。闇魔法の汚染がこの地だけでなく、王国全体に広がり始めている」

 

「どういうことですか?」

 

 セシリアが不安そうに尋ねる。

 

「つまり傭兵団はただの手駒に過ぎない。真の黒幕ははるかに大きな陰謀を企てているということだ。」

 

 その時ノヴァの周りを小さな光の精霊たちが飛び回り始めた。

 

「精霊が……何かを伝えようとしている」

 

 ノヴァが目を閉じ、精霊の声に耳を澄ませる。

 

『闇が……闇の魔力、大地の血管、通って流れている……根を断たないと……すべてが枯れてしまう……』

 

 目を開けたノヴァの表情が厳しくなる。

 

「おそらく地下水脈だ。闇魔法が地下水脈を通じて広範囲に拡散している」

 

「何ですって!?」

 

 カイルが驚愕する。

 

「それでは……国中の水も汚染される可能性があるということかい?」

 

「そうだ。だからこそ早いうちにその根源を絶たなければならない」

 

 ギュンター卿が重々しく口を開く。

 

「しかし、敵の規模が読めん。ギデオンの奴が関わっているとなれば、相当な戦力を覚悟せねばなるまい」

 

「師匠の言う通りです。しかし時間をかければかけるほど、闇の魔力による被害は拡大します」

 

 アルフレッドが杖を握りしめる。

 

「魔力の流れも異常だね。まるでこの地全体が巨大な魔法陣になっているような……」

 

 ジェイソンが剣の柄に手をかける。

 

「ならば、一気に勝負を決めるしかないな」

 

「いや、待ってくれ」

 

 ユーリが手を上げる。

 

「俺たち、また情報不足じゃないか?敵の本拠地もわからないまま飛び込むのかよ」


 ユーリの言葉にノヴァは決心したように立ち上がり仲間たちを見回す。

 

「ユーリの言うとおりだ。まずは偵察が必要だ。精霊の力を使えば、闇魔法の痕跡を追跡できる。根源を特定してから、計画を立てよう。彼を知り己を知れば百戦殆からず。だ!」


 ノヴァの言葉を聞くや、ユーリは反応を返した。

 

「彼を知り己を……?、とにかく俺も行くぜ!」

 

「僕ももちろんお供しますよ!」

 

 カイルも頷く。

 

「治癒魔法の知識があれば、闇魔法の性質も理解できるかもしれません」

 

 セシリアが優雅に立ち上がる。

 

「まぁ、ノヴァさん一人では心配ですわ。それにわたくしの感知能力が役立つでしょう」

 

「フン……仕方ありませんわね。わたくしが協力して差し上げますわ」

 

 セレスティアが腕を組む。

 

「あなたたちだけでは、きっと無駄な時間を費やすことになりますから」

 

 深夜の森で、ノヴァは精霊の力を使って闇魔法の痕跡を追っていた。

 

「おい、あれ見えるか?」

 

 メガネを掛けたユーリが小声で聞く。

 

「ああ。黒い靄のような魔力が、地中から立ち昇っている」

 

 精霊たちがノヴァの周りを舞い、特定の方向を指し示す。

 

「あの井戸だ」

 

 森の奥深くに、古びた井戸とその横に隠された地下通路の入り口があった。

 

「うげっ、なんか気持ち悪い匂いがするぜ」

 

 ユーリが鼻を押さえる。

 

「これは……」

 

 カイルの顔が青ざめる。

 

「生命力が歪められた時の匂いです。まるで、魂そのものが腐敗しているような」


 地下通路を進む一行。湿った空気と、血と腐敗の混じった匂いが肺を圧迫する。ノヴァが先頭に立ち、精霊の導きに従って道を選ぶ。

 

「すげぇじゃん、ノヴァ。まるで地図があるみたいだ」

 

「精霊郷での修練の成果だ。魔力の流れを読む感覚が鋭くなった」

 

 レオンハルトが複合魔法で一行を視界から消し去り、セシリアは魔力感知で警備の位置を正確に見抜いた。二人の連携は淀みなく修練の跡が見えた。

 

「左の通路に三人、右に二人いますわ」

 

「じゃあ、真ん中の通路を行こう」

 

 セレスティアがため息をつく。

 

「まったく、なぜ敵はいつも迷路のような場所を選ぶのでしょう」

 

「隠れ家の基本だろ?」

 

 ユーリが軽口を叩く。

 

「俺だって秘密基地作る時は、複雑にしたもんだぜ」

 

「あなたの子供時代の話など、今はどうでもよろしいですわ」

 

 一行はついに巨大な地下空間へとたどり着いた。そこは闇魔法の研究施設の様だった。

 

「これは……」

 

 カイルが息を呑む。

 

「何かの人体実験の跡ですね。しかも、かなり大規模な」

 

 無数の魔導具が不気味な光を放ち、壁や床には複雑な魔法陣が刻まれている。

 

「クソッ!こんなことを……」

 

 ユーリが拳を握りしめる。

 

「落ち着け、ユーリ」

 

 レオンハルトが制止する。

 

「感情に流されては、判断を誤る」

 

 ノヴァが施設の奥を指差す。

 

「あそこに研究資料があるようだ。情報を収集しよう」

 

 研究室の机の上で、一行は分厚い計画書を発見した。その中にクライン公爵家の印が見えた。

 

「クライン公爵……やはり」

 

 レオンハルトが計画書をめくる。

 

「王都の地下水脈を汚染し、王宮の人々を蝕む計画ですって!?」

 

 セシリアが戦慄する。

 

「そして……ルミナ王女の力を利用する?」

 

 カイルが驚愕する。

 

「闇魔法を最大限増幅させるのに王女の秘められた力を利用しようというのか!」

 

 その時、背後から冷たい声が響いた。

 

「やはり、お前たちがここに来たか。さすがはギュンターの弟子といったところか」

 

 振り返ると、長身痩躯で、白髪が混じりの黒髪と鷹のような鋭い眼光を持つ男が立っていた。その傍らには「黒鴉」の傭兵らしき者たちが控えている。

 

「俺の名前はギデオン・バルドゥスという。……傭兵団の団長をやっている」

 

「ギデオン……」

 

 ノヴァが剣の柄に手をかける。

 

「やめておけ。お前のような何も知らぬ若造に、仲間の死の重みに耐えきれるわけもない」

 

 ギデオンの声は静かだが、その眼光は鋭く一行を見据えていた。

 

「私にも守るべきものがあってな。守る為には時として闇に染まらなければならんのだよ」

 

「あなたの魔力は、闇に染まりきっている。もはや、人のものではない」

 

 ノヴァが断定的に告げる。

 

「くそっ!」

 

 ユーリが拳を構える。

 

「問答無用ってことか」

 

「皆、気を引き締めていこう」

 

 ノヴァが剣を抜く。

 

「相手は剣聖だ。油断は許されない」

 

 ギデオンが『無心流転』の構えを取る。その瞬間、空間全体に重圧が満ちた。

 

「これが……剣聖の気迫か」

 

 レオンハルトが冷や汗を流す。

 

「まずいぜ、ノヴァ!こいつは、本物だ」

 

 ユーリの声に緊張が走る。

 

 ギデオンの剣が一閃する。音もなく、光すら残さない完璧な無心の一撃。

 

「『閃光絶命剣』!」

 

 ノヴァは咄嗟に父の形見の剣で受け止める。地下空間に激しい金属音が轟き渡る。激突の衝撃で、ノヴァは壁に叩きつけられた。

 

「ノヴァ!」

 

 カイルが治癒魔法の準備をする。

 

「待て!」

 

 ノヴァがゆっくりと立ち上がる。

 

「みんなを守るために、俺はもてるすべてを使い戦う。父の想いとわずかな希望をめざして」

 

 彼の剣に淡い光が宿り始める。

 

「あの光は……」

 

 ギデオンが僅かに表情を変える。

 

「浄化の力か!」

 

「あなたは守るものが有ると言った。仲間を守るという想いは理解する、だがその手段が間違っている。だからこそ俺はあなたを止める」

 

 ノヴァの瞳に強い決意が宿し、ノヴァが『光の浄化・改』を発動する。父の想いと自らの決意が重なり合い、剣から放たれる光が地下施設全体を包み込んだ。

 

「うぬ。この光は……」

 

 ギデオンが後退する。

 

「闇を払うのは魔法ではない。想いの力だ」

 

 ノヴァが前進する。

 

「父と母から受け継いだ理と心が融合した力だ」

 

「みんな、力を合わせよう!」

 

 カイルが治癒魔法で仲間を支援し、セレスティアが炎魔法でノヴァを援護する。

 

「はぁ〜、全部ノヴァのせいだぜ」

 

 ユーリが愚痴りながらも、風魔法で敵の動きを封じる。

 

「文句を言っている割には随分と楽しそうですわね」

 

 セシリアが支援魔法で仲間の能力を強化する。光の力によって施設の闇魔法が浄化され、ギデオンは膝をついた。

 

「残念だが……まだ、俺には帰るべき仲間がいるのでな」

 

 彼が立ち上がり壁の色が違う部分を剣で突き崩す、その途端、施設の壁が崩れ始めた。

 

「ノヴァ、このままではみんな生き埋めになる!」

 

 レオンハルトが警告する。

 

「みんな逃げろ!」

 

 ノヴァが叫ぶ。

 

 一行は崩壊する施設から脱出し、地上に出ると朝日が顔を出していた。

 

「やったぜ、ノヴァ!これで闇魔法の根源を断てたな」

 

 ユーリが肩を叩く。

 

「いや、敵の頭には逃げられた。まだ終わりじゃない」

 

 ノヴァが振り返る。

 

「それにクライン公爵の陰謀は、これよりもはるかに大きい。本当の戦いはこれからだ」

 

 朝日に照らされた彼らの表情は、新たな決意に満ちていた。

 

「ま、どんな敵が来ても、俺たちなら大丈夫だぜ」

 

 ユーリが笑う。

 

「そうですわね。わたくしたちの絆があれば」

 

 セシリアも微笑む。

 

「みんなで力を合わせて、きっとこの世界を守ろう」

 

 カイルの言葉に、全員が力強く頷いた。遠くから響く鐘の音が、新しい一日の始まりを告げる。朝日に照らされ、彼らは確かな勝利の余韻に包まれていた――だが、その影で密かに笑む者の存在に、まだ誰一人として気づいてはいなかった。

ついにノヴァとギデオンの剣が交わりました。父の想いを受け継ぎ、仲間の力を信じて放つ“光の浄化”。闇に染まった世界に、一筋の希望が差し込みます。しかしギデオンの背後には、なお暗躍するクライン公爵の影が……。真の戦いはまだ終わらない。

執筆の励みになりますので少しでも面白いと思われましたらブックマーク・高評価をお願いいたします。また次回の話でお会いしましょう。

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