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第85話 暗闇に潜む真実

※お知らせ

本来82話を手違いでアップせずに83話以降を先に投稿してしまいました。修正いたしましたので引き続きお話をお楽しみください。

いつもお読みいただきありがとうございます。

今回は、ノヴァたちが王国を離れ、自由都市群の闇に踏み込む回です。荒廃した街に漂う不穏な気配、そしてクライン公爵の影――。

それぞれの班が掴む断片の情報が、やがてひとつの真実へと繋がっていきます。新たな戦いの幕開けを、ぜひお楽しみください。

 王都から順調に進んだ魔改造された馬車は、ついにノルレア自由都市群との国境に到達した。しかしそこで一行が目にしたのは、王国側の厳格で整然とした雰囲気とは対照的な、荒廃し無秩序な空気が漂う光景だった。

 

「これが……自由都市群?」


 セシリアが馬車の窓から外を覗き込み驚きの声を上げる。検問所は形骸化し本来なら厳重にチェックされるはずの入国手続きも、賄賂らしきものを握らせた商人が素通りしていく。街道沿いには疲れ切った表情の難民らしき人々が座り込み通り過ぎる旅人に物乞いをしている。

 

「まるで別世界ですね」


 カイルが眉をひそめる。人々は互いに疑いの眼差しを向け合っており、一見活気のある市場でさえ、その裏路地では平然と暴力が横行している。馬車の中からでも、怒鳴り声や何かが叩きつけられる音が聞こえてくる。

 

「ユーリ、この街の雰囲気をどう思う?」


 ノヴァが隣に座る幼馴染へ問いかける。

 

「ああ...ここまでとは。こんなに荒れているとは知らなかった」


 ユーリの表情が曇る。その時ノヴァは精霊たちの震えるようなざわめきを感じ取った。それは恐怖にも似た切実な警告だった。

 

『ノヴァよ、この地に闇がすでに深く根付いている。注意することだ』

 

 精霊たちの声はいつもの穏やかさとは程遠い緊張に満ちたものだった。

 

「みんな、気を引き締めて」


 ノヴァが仲間たちに告げる。


「精霊たちの反応から察するに、この地の闇はすでに相当深刻なレベルまで進行している」

 

 ギュンター卿が剣の柄に手を置く。


「では、用心に越したことはないな」

 

「ノヴァ団長、どこから調査を始めましょうか?」


 ロバートが地図を広げながら尋ねる。

 

「まずは中心都市の、ボルトを目指そう。都市に着いたら宿を確保してから、二人一組にそれぞれ分かれ、情報収集をしよう」

 

 アルフレッドが杖で地面を軽く叩く。


「魔力の流れも異常だね。自然な魔力の循環が何かによって歪められているようだ」

 

 一行は、この地で待ち受ける未知の脅威を予感しながら、ボルドへと向かった。自由都市群の中心都市の1つ、ボルトに到着した一行は、まず「翼ある竜亭」という比較的安全そうな宿を確保した。宿の主人は疲れ切った表情で、以前ほど客足が伸びないと嘆いていた。ノヴァが部屋で作戦会議を開く。

 

「では、予定通り班に分かれて情報収集を開始しよう!」


 ノヴァの力強い掛け声に各人受け持ちの場所へと向かう。

 

(ノヴァとユーリの班)

 

「まずは、市場の情報収集から始めよう」


 ノヴァがユーリと共に賑やかな市場へ足を向ける。市場では商人たちが声を張り上げて商品を売り込んでいたが、その裏では怪しげな取引が行われていた。

 

「おい、あそこを見ろ」


 ユーリが小声で指差す。路地裏で、フードを深く被った男が何やら小さな袋を別の男に手渡している。受け取った男の手首には、見覚えのある紋章が刻まれた腕輪が光っていた。

 

「あれは……」


 ノヴァの目が鋭くなる。二人は慎重に近づき会話を盗み聞きする。

 

「次の指示は明日だ。例の『黒鴉』の連中と合流する準備をしろ」

 

「了解しました。クライン様の紋章を持つ方からの指示ということで間違いありませんね?」

 

 ノヴァとユーリは顔を見合わせる。やはりクライン公爵の勢力がこの地に根を張っていたのだ。

 

(レオンハルトとカイルの班)

 

「まずはギルドに向かうとしようか」

 

 レオンハルトがカイルを伴い、冒険者ギルドの扉を押し開く。ギルド内は依頼の掲示板で埋め尽くされているが、その内容は異様だった。

 

「魔物討伐の依頼が異常に多いですね」


 カイルが掲示板を眺める。

 

「しかも、特定の商会からの依頼が目立つ」


 レオンハルトが依頼書を詳しく調べる。


「『銀狼商会』という名前が頻繁に出てきます」


 受付嬢に話を聞くと最近この地域の魔物の活動が急激に活発化していることが判明した。

 

「特に夜間の襲撃が増えているんです。まるで何かに操られているみたいで……」


 受付嬢は不安そうに答える。

 

「操られている?」


 レオンハルトが詳しく問いただす。

 

「ええ、普通なら人里を避ける魔物たちが、最近は積極的に村を襲うようになって。それにその後必ずと言っていいほど『銀狼商会』から復興支援の依頼が舞い込むんです」

 

 カイルとレオンハルトは、これがクライン公爵の勢力拡大戦略であることを確信する。

 

(セレスティアとロバートの班)

 

「まずは予定通り酒場へ行きますわよ」


 セレスティアがロバートを引っ張るようにして『踊る火炎杯』という酒場に入る。しかし酒場の雰囲気は異常なほどに重苦しかった。酔っ払いたちは普通なら陽気になるはずなのになぜか、皆どこか虚ろな表情をしている。

 

「なんだか嫌な感じね……」


 セレスティアが無言でロバートの袖を引き酒場の一角を指し示す。そこで彼らは隅のテーブルで密談をする男たちの会話を耳にした。

 

「クライン様の派閥に加われば、この街の主導権を握れるらしいぞ」

 

「だが、代償は大きいと聞く。心の一部を差し出さねばならないとか……」

 

「闇魔法の影響か?最近、酒を飲んでも楽しくないんだ。まるで感情が薄れていくみたいで」

 

 セレスティアとロバートは、闇魔法がこの地の人々の心を蝕んでいることを理解した。

 

(ジェイソンとアルフレッドの班)

 

「さあ商業組合で情報を集めるとしましょうか」


 アルフレッドが声をかけるとジェイソンは共に、商業組合の古い建物に入る。そこで彼らはこの地の情勢に詳しい地元の商人グリフィンと出会った。

 

「あんたら、王国から来たのか?なら忠告してやる。この街で夜に出歩くもんじゃない」


 グリフィンが購入した商品を整理しながら言う。

 

「なぜです?」


 アルフレッドが問いかける。

 

「闇魔法使いどもが跋扈してるからさ。黒いローブを着た連中が、夜な夜な何やら儀式めいたことをやってるて噂だよ。近づいた者は二度と戻ってこないらしいぜ」

 

「具体的にはどのような?」


 ジェイソンが身を乗り出す。

 

「街の地下には古い下水道があるんだが、最近そこから変な光が漏れてるって話だよ。それに失踪者が急激に増えている。特に若い女性や子供がな……。昔はそんなことは頻繁に起こってなかったんだがな」

 

 アルフレッドとジェイソンはこの情報が重要な手がかりになることを確信する。

 

(ギュンター卿とセシリアの班)

 

 宿屋で待機していたギュンター卿とセシリアは、道具を片付けながら各班が持って帰ってきた情報を整理していた。この地で活動している諜報員とも連絡が取れ、必要な情報とこの街の地図も受け取っていた。

 

「これらの情報を総合すると……」


 ギュンター卿が地図に印をつけていく。

 

「クライン公爵の勢力が組織的にこの地に浸透しているのは確実ですね」


 セシリアが魔力感知で周辺を探る。


「それにこの街全体に不自然な魔力の歪みを感じます」

 

「魔物を意図的に活性化させて混乱を作り出し、その後復興支援という名目で勢力を拡大する……巧妙な手口だ」

 

 ギュンター卿は、かつて戦った数々の戦場での経験から、これが単純な政治的陰謀ではなく、より深刻な何かであることを感じ取っていた。

 

「セシリア、君の魔力感知能力でもう少し詳しく調べてくれ。この街の魔力の流れの中心がどこにあるかを」

 

「分かりました」


 セシリアが目を閉じ、魔力の流れに意識を集中する。


「……地下です。街の中央部分の、かなり深い場所に強大な魔力源があります」

 

 魔力感知で感じ取った魔力の流れを地図に照らし合わし、おおよその場所を特定していく。

 

「地下下水道……アルフレッド達の情報と一致するな」

 

 各班の情報が1つの大きな絵を描き始めていた。夕刻、各班の情報収集を終えて宿に戻る途中、ノヴァはレオンハルトの班と合流する。そのとたん精霊たちの悲鳴のような警告を感じ取った。

 

『危険!無辜の魂、脅威にさらされてる!』

 

「みんな聞こえた?」


「ああ!精霊たちが何か騒いでるな?」


 ユーリが風の精霊から伝えられた意思を感じ取る。レオンハルトはもっと具体的な内容として精霊たちの警告を受けていた。

 

「これは……誰かが襲われているのか?」


「大変じゃないか!早く行動に移さないと。ノヴァは具体的な場所までは把握できるかい?」

 

 カイルが尋ねるとノヴァは仲間たちを促し、精霊たちに導かれるまま裏路地へと足を向ける。そこで彼らが目撃したのは黒いローブに身を包んだ魔法使いが、見たことのない魔法で男たち操っているようだった。操られている男たちが周りを囲み逃がさないようにしており、輪の中には一人の男と少女が対峙していた。

 

「やめろ!」


 ノヴァが剣を抜いて飛び出す。

 

「お父さん、やめて!」


 少女の悲鳴が路地に響く。父親が虚ろな目で娘に向かって手を上げようとするその瞬間、ユーリが風魔法で父親を吹き飛ばしレオンハルトが防御結界で少女を守った。

 

「おのれ、邪魔をするか!」


 黒ローブの魔法使いが杖を振る。しかしノヴァは発動する前の魔力を風と光の複合魔法で霧散させる。驚くその魔法使いの胸には、確かにクライン公爵の紋章が光っていた。

 

「やはり、クライン公爵の手の者か」


 ノヴァが剣を構えると魔法使いは操られた人々を盾にしながら逃げようとするが、カイルの水魔法とレオンハルトの土魔法の連携で、操られていた人々を正気に戻すことに成功する。

 

「これで終わりだ」


 ノヴァが精霊の力を剣に込める。そして、新たに会得した技を発動した。

 

「『光の浄化』!」

 

 ノヴァの剣から放たれた全属性と気が複合した光は、闇魔法使いを包み込み、その身に宿っていた闇の力を無効化する。魔法使いは苦悶の声を上げながその場に崩れ落ちた。

 

「これは……」


 レオンハルトが驚愕する。


 「物理的な攻撃ではなく、闇の侵食そのものを無効化している」

 

 救出された家族は涙を流しながらノヴァたちに感謝した。特に少女は、「お兄ちゃんたちが光ってた!」と興奮気味に話していた。

 

「この闇は剣や魔法だけでは祓えない」


 ノヴァが仲間たちを見回す。


「我々にはこの闇に立ち向かうための、新たな力が必要だ」

 

 倒れた闇魔法使いからは、クライン公爵家の正式な印章と、『計画は順調に進行中。次の段階への準備を急げ』と書かれた命令書が見つかった。

 

「いよいよ核心に近づいてきましたね」


 カイルが命令書を読み上げる。

 

「明日は地下下水道の調査を行うことにしよう」


 ノヴァが決意を込めて言う。


「この地を闇から解放し真実を暴く。それが我々の使命だ」

 

 夜空を見上げるノヴァの瞳には、故郷の村で見た悲劇を二度と繰り返させないという、強い決意が宿っていた。精霊たちもまた、ノヴァの決意に応えるように、温かな光で彼を包んでいた。この地で待ち受ける真の敵との戦いが、いよいよ始まろうとしていた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

自由都市群の腐敗と闇魔法の浸食、その背後で糸を引くクライン公爵。

ノヴァが放った“光の浄化”は、彼自身の覚醒の兆しでもありました。

次回、地下に眠る真の闇と、星辰魔導騎士団の新たな使命が明らかに――どうぞお楽しみに。

執筆の励みになりますので少しでも面白いと思われましたらブックマーク・高評価をお願いいたします。また次回の話でお会いしましょう。

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