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第84話 新たな力、星辰魔導騎士団始動。

※お知らせ

本来82話を手違いでアップせずに83話以降を先に投稿してしまいました。修正いたしましたので引き続きお話をお楽しみください。

いつもお読みいただきありがとうございます。

今回の第84話では、ノヴァたち星辰魔導騎士団がついに本格始動します! 前世の知識と魔法が融合した“魔改造馬車”や付与魔法具の数々、そして闇の脅威との初戦――彼らの新たな旅立ちが描かれます。どうぞお楽しみください!

 王都にあるエルネスト辺境伯の屋敷の中庭は、朝の陽光に照らされて美しく輝いていた。中庭には、一見すると何の変哲もない普通の馬車が4台並んでいる。しかし、この馬車こそが、星辰魔導騎士団の技術の粋を集めた、まさに「魔改造された馬車」だった。

 

 ノヴァは団員全員を前に、今回の調査のために開発した付与魔法具を1つずつ説明していく。

 

「まずは今回の潜入調査で最も重要となる道具から説明する」

 

 ノヴァが手に取ったのは、透明な水晶のような小さなクリスタルだった。

 

「これは『音響集音クリスタル』。風魔法の原理を応用し、音響増幅と遠隔受信の付与魔術を施している」

 

「具体的にはどのような?」


 ロバートが興味深そうに身を乗り出した。

 

「隣の部屋などの小さな音を拾い増幅したり、設置して離れた場所の音収集することができる。増幅された音は本体のクリスタルから発信され、受信用の小型クリスタルで聞き取ることができる」

 

「つまり、敵対者の会話や怪しげな密談を盗聴できるということですね」


 ジェイソンが理解を示すように頷く。

 

「その通り。潜入調査には不可欠な道具と言える」

 

 次にノヴァが取り出したのは、光沢のある大きなマントだった。

 

「これは『光学迷彩付与布』。光の反射角度をゆがめ、周囲の景色と同化する魔術を施している」

 

「おお、隠密行動時に身を隠すための道具ですな」


 アルフレッドが感嘆の声を上げる。

 

「はい。隠密行動や情報収集などで重要な手段となります。気配を消せる手練れが使えば、王宮などの警備が厳重な場所でも難なく入り込める」

 

 セレスティアが不安そうに口を開いた。


「でも、ノヴァ、これって魔力消費が激しそうだけど?」

 

「大丈夫。付与魔法なので、一度発動すれば数時間は持続する。そして緊急時の脱出にも使えるだろう」

 

 続いてノヴァが提示したのは、手のひらサイズの美しいクリスタルだった。

 

「これは『通信クリスタル』。風魔法を応用した通信用クリスタル」

 

「通信?」


 カイルが首をかしげる。

 

「前世の知識だけど離れた場所にいる仲間と音声や心話で連絡を取り合うことができる。遠征中の情報共有や、緊急時の連絡手段として非常に重要になると思う」

 

「この道具はなんて画期的なんだ!戦いの概念が変わるぞ!」


 レオンハルトが目を輝かせる。因みにこれは辺境伯と両侯爵には渡し済みだ。距離的に通信は難しいと思うが何かの役には立つだろう。最後にノヴァが取り出したのは、小さなペンダントのような魔導具だった。

 

「そして『魔物避け付与具』。魔物が嫌う精霊の力を付与した魔導具。携帯することで、旅の道中での不意な魔物の襲撃を避けることができる」


 ユーリが感心したように言った。


「これで安全な移動が確保できるてわけか」

 

「これらの付与魔法具は私の前世の知識と、アルフレッド先生、ロバート、セシリア、カイル、そしてユーリたちの魔法の才能が融合して生まれたまさに星辰魔導騎士団の技術の粋を集めたものだ」

 

 そしてノヴァは馬車に向かって歩きながら続けた。

 

「しかし今回の旅の真の要となるのが、この魔改造された馬車」

 

 ノヴァは馬車の側面に手を触れながら説明を始める。

 

「この馬車には、私とアルフレッド先生、そしてロバートが中心となって開発した、複合的な付与魔法が施されている」

 

「複合的とは?」


 セシリアが質問する。

 

「まず『重力軽減付与』。馬車の車体にかかる重力を魔法的に軽減。これにより馬車がまるで羽のように軽くなり馬への負担が大幅に減る」

 

 ノヴァが馬車を軽く押すと本来なら動かないはずの重い馬車がするすると動いた。

 

「信じられない!」


 ジェイソンが驚愕する。

 

「通常の1.5倍ほどは一日の移動距離が上がると思う。次に『衝撃軽減付与』。馬車が道中の凹凸を乗り越える際の衝撃を魔法で吸収。これにより内部にいる者の揺れがほとんどなくなり、長旅の疲労を軽減する」

 

「まるで家で生活している感覚になりそうですね」


 カイルが想像を膨らませる。

 

「そして『速度向上付与』。馬の走る速度を魔法的にブーストし、しかも馬自体の疲労軽減も備えている。馬自体は何も荷物を背負わないで自由に走っているように感じるはずだ。これにより、短時間で長距離を移動することが可能になる」

 

 アルフレッドが誇らしげに補足した。

 

「これらの複合付与魔法は馬車という無機物に『漢字』を付与することで、既存では不可能とされていた効果を実現したものなのだよ」

 

「漢字を無機物に付与?」


 ロバートが目を丸くする。

 

「ええ。私の前世の知識にある『漢字』には、その1つの文字自体に概念が込められています。それを付与魔法と組み合わせることで、従来の魔法では不可能だった効果を生み出せるのです」

 

 ノヴァは魔力を流し込み馬車の各所に刻まれた付与した文字を可視化すると、文字を指差した。それは確かにこの世界の文字とは全く異なる「漢字」だった。

 

「『重力軽減』『速度向上』『衝撃軽減』といった漢字を、それぞれの効果に対応する箇所に刻み込んでいます」

 

 全員が馬車を見回し、その技術の高さに感嘆の声を漏らす。

 

「これで10日の行程が6日程度に短縮できるはずです」


 ノヴァが自信を持って言い切った。道具それぞれの説明と情報を共有することで団員の今後の混乱を防ぎ、実際にその効果を試すことでみんな今回の遠征がうまくいくと確信する。

 

 翌日の朝、ギュンター卿が王都に到着したという知らせが届いた。ノヴァは義祖父と再会を果たすことができた。

 

「ノヴァよ、また一段と逞しくなったな」

 

「師匠……ご無事で何よりです」

 

 師弟は固い抱擁を交わし、互いの無事を確認した。

 

 出発の時が来た。王都の門が開き、魔改造された馬車がゆっくりと動き出す。その瞬間、驚異的なことが起こった。馬車はほとんど揺れを感じさせず、通常の2倍以上のスピードで進んでいく。馬車の中にいる一行は、その性能に自分たちのことながらあきれ果てる。

 

「こ、これは凄まじいですね……」


 レオンハルトが窓の外を見ながら呟く。

 

「まるで飛んでいるみたいです!」


 セシリアが興奮を隠せない。馬車は全部で4台に分かれていた。1台目にはノヴァ、ギュンター卿、ユーリ、レオンハルトが乗車。2台目にはセシリア、セレスティア、カイルが。3台目にはアルフレッド、ロバート、ジェイソンが。そして4台目には道具、荷物、野営道具、食糧が積まれている。

 

 魔物除けの効果も高く旅は順調に進み、広がる草原や小さな村々を通り過ぎていく。王都から離れるにつれて、景色は次第に変わっていった。整然とした王都の街並みから、広大な自然が広がる辺境の道へ。ノヴァは、ユーリ、レオンハルトとの他愛のない会話を交わしながら、窓の外の景色を眺めていた。

 

「故郷を離れるのは寂しいものだな」


 レオンハルトが感傷的に呟く。

 

「でも、必ずこの平和を守るために結果を持って戻ってくるよ」


 ノヴァが力強く答える。通り過ぎていく村々では、人々が笑顔で畑を耕し、子供たちが無邪気に遊び回っていた。その平和な日常がノヴァの心に深く響く。この平和な日常こそが、自分が守りたいと願うものだと再認識する。その時、ノヴァの周りの精霊たちが、突如としてざわめき始める。


 彼らの声はまるで恐怖に怯えているかのように震えていた。ノヴァが精霊たちに問いかけると、彼らは不穏な空気を伝えようと彼の心に神霊の長老を通じ直接語りかけてきた。

 

『ノヴァよ、闇が近づいている。闇魔法の影響がここまで及んでいる』

 

 精霊たちの警告は、この旅の危険性と、クライン公爵の陰謀が想像以上に広範囲に及んでいることを物語っていた。ノヴァは精霊たちの悲鳴がこの旅の道標となることを悟る。それは彼らの旅がもはや単純な調査ではなく、この世界の命運をかけた戦いの始まりであることを示していた。

 

 その夜、野営地で焚き火を囲むノヴァたちの元へ、一匹の小さなリスが現れた。そのリスはノヴァの持つ精霊の力を感じ取ったのかノヴァの肩に飛び乗ってきた。ノヴァは優しく語りかける。


 「君も、闇の気配を感じているのかい?」

 

 リスは頷くようにノヴァの手に顔を擦り付けた。


 旅は続き、一行は辺境の小さな村にたどり着いた。しかしこの村は異様な雰囲気に包まれていた。村の入口で出迎えた村長は、疲れ切った表情を浮かべている。

 

「旅のお方、どうか今夜はここに留まらないでください。この村は今……危険なのです」

 

 村長の言葉にノヴァは眉をひそめる。


「何が起こっているのですか?」

 

「ここ最近、毎晩のように魔物が村を襲うのです。しかもその数は日に日に増えており……」

 

 村人たちはここ最近頻繁に起こるという魔物の襲撃に怯えていた。家々の窓は板で打ち付けられ、人々の表情には恐怖が刻まれている。ノヴァたちは、村人たちを助けるために、夜間の警戒と魔物の討伐を引き受けることにした。

 

「我々は王家直属の星辰魔導騎士団です。少しお手伝いをさせてください」

 

 ノヴァの言葉に、村長の目に一筋の希望の光が宿る。

 

「ありがとうございます!しかし、魔物の数は数百にも及び……」

 

「数百?」


 ギュンター卿が眉をひそめる。その時ユーリが遠くを見上げて叫んだ。


 「あ、あれは……!」


 地平線の向こうから、黒い影がまるで津波のように押し寄せてくる。その数は、村長が言った数百どころではない。

 

「一千は超えている……」


 レオンハルトが青ざめる。ノヴァは精霊たちの声を聞き、この異常事態の真相を理解する。

 

「これは通常の魔物の群れではありません。何者かが通常の魔物を闇の魔法で狂暴化させ、集団で村を襲わせているのです」

 

 アルフレッドが杖を構えながら言う。


 「これは明らかに人為的な攻撃だね」

 

 魔物の大群が村の周囲を取り囲み始める。その数は確かに1000を超える集団だった。

 

「皆さん、準備はよろしいですか?」


 ノヴァが仲間たちに問いかける。

 

「ああ、行くぞ!」


 ギュンター卿が剣を抜く。戦闘が始まる。レオンハルトが精霊の力を借り、村の門を覆う防御結界を張る。

 

「『聖域結界・光の守護壁』!」

 

 美しい光の壁が村を包み魔物たちの第一波を防ぐ。守りの壁を越えノヴァ、ギュンター卿、レオンハルト、ジェイソンがそれぞれの武器を構え魔物に直接対峙する。戦闘が始まると皆の剣技がさえわたる。特にギュンター卿の剣技は圧巻で、一振りで十体もの魔物を同時に斬り伏せていく。

 

「『流水連斬』!」


 ギュンター卿の剣が流れるような動きで魔物を薙ぎ払う。しかし、この戦いで最も目を引いたのは、なぜか精霊郷で武道家のような修行をして身体がマッチョになっていたユーリの活躍だった。

 

「『精霊風拳・連打』!」

 

 ユーリは魔法を使わず、純粋な体術だけで魔物を次々と倒していく。その筋骨隆々とした体つきと華麗な格闘術は、かつてのユーリからは想像もできない変貌ぶりだった。

 

「ユーリ……君、いつの間にそんな格闘術を?」


 ノヴァが驚きながら問いかける。

 

「精霊郷での教官が筋肉至上主義者だったんだ!毎日地獄の特訓だったよ!」


 ユーリが筋肉を誇示しながら答える。セレスティアが炎の魔法で魔物の大群を薙ぎ払う。


 「『業火大輪・炎嵐』!」


 カイルは治癒魔法で仲間たちの傷を癒しながら、光の魔法で魔物を浄化していく。セシリアは支援魔法で仲間たちの能力を底上げし、アルフレッドとロバートは高位魔法で戦況をコントロールする。戦いは熾烈を極めたが、ノヴァたちの連携は完璧だった。そして戦いも終盤ノヴァが剣を構え、精霊の力を解放する。

 

「この闇を祓いましょう。『天理剣術奥義・光明一閃』!」

 

 ノヴァの剣から放たれた光は辺り一帯を包み込み、残った魔物たちを一瞬で浄化する。闇の気配は霧散し村に平和が戻った。千匹はいた魔物たちを、ノヴァたちは圧倒的な力で討伐し切った。村人たちは歓喜の声を上げノヴァたちを英雄として称えた。

 

「ありがとうございます!村を救ってくださって!」

 

 しかしノヴァの表情は晴れなかった。闇の魔物の出現はこの旅の先に待ち受けている脅威を改めて予感させるものだった。

 

「この闇の力の規模は想像以上です。クライン公爵の陰謀はもう始まっているのかもしれません」

 

 旅はまだ始まったばかり。しかし、この旅路が、この世界の未来を左右する壮大な戦いになることをノヴァは既に感じ取っていた。彼らの旅は、希望の光と、絶望の闇が交錯する、壮大な物語の始まりを告げていた。夜空を見上げるノヴァの瞳には、故郷を守り抜くという強固な決意が宿っていた。


最後までお読みいただきありがとうございました。

星辰魔導騎士団の装備紹介回から一転、初陣の激闘まで駆け抜けた回でしたね。次回は、この闇の襲撃の背後に潜む“黒幕”の影が動き出します。ノヴァたちの旅は、いよいよ真の戦いの幕開けへ――!

ここでお知らせです。資格試験勉強や研修で少し忙しくなるため、今後は 2〜3日に1話 の更新ペースに変更します。引き続き応援していただけると嬉しいです。

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