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第82話 星々の導き、運命の王女

いつもお読みいただきありがとうございます。

今回は、星辰魔導騎士団がいよいよ本格的に始動します。

仲間たちがそれぞれの想いを胸に、新たな力と誓いを手に立ち上がる時。

それはただの再編ではなく、過去の痛みを超えて未来を掴むための第一歩でもあります。

静かな決意と共に歩み出すノヴァたちの姿を、どうぞ見届けてください。

 王宮の大広間に柔らかな燭台の光が揺れ、壮麗な水晶のシャンデリアが輝きを放っていた。それは国王ラファエル・リオン・アストレアがノヴァたち星辰魔導騎士団を晩餐会に招いた夜だった。国王の隣には気品溢れる王妃、そして可愛らしいルミナ王女と7歳の皇太子リオンが座っている。

 ノヴァは、目の前に立つ少女が、精霊郷の大樹が語ったルミナ王女であるという事実に驚いていた。しかし、それ以上に彼の心を揺さぶったのは、彼女から放たれる温かい波動だった。


「あなた……精霊郷の大樹に愛されているのね。あなたの周りから、精霊たちの温かい鼓動が聞こえてくるわ」


 ルミナ王女の澄んだ声がノヴァの心に直接響く。ノヴァは彼女の瞳が、精霊郷の湖のように深く、光を宿していることに気づく。


「はい、殿下。僕たちは精霊郷で修業を重ね、精霊たちの声を聞くことができるようになりました。殿下も精霊の声が聞こえるのですか?」


 ノヴァが尋ねるとルミナ王女は嬉しそうに微笑んだ。その表情は先ほどの威厳に満ちた佇まいとは打って変わって、年相応の無邪気さを見せていた。


「ええ、少しだけ。でもわたくし一人だけ……。だからずっと……誰にも話せなかったのです。でも今日、精霊たちが私に言ったのです。貴方と同じ心を持つ存在が、近くにいるって」


 彼女の言葉にノヴァは胸が熱くなるのを感じた。レオンハルトとカイルもその様子を静かに見守っている。


「ノヴァ様、お時間があれば後宮のサロンでお茶でもいかがですか? もっと精霊郷の精霊のお話がしたいのです」


 ルミナ王女の提案にノヴァは一瞬ためらった。王女に招かれるなど、通常ではありえないことだ。しかし精霊の導きそして彼女の純粋な眼差しにノヴァは頷いた。


「はい、喜んでお供させていただきます」


 ノヴァたち三人はルミナ王女に続いて王宮の一角にあるサロンへと向かった。部屋に通されたノヴァは豪華ながらも温かみのある部屋に好感を覚えた。


 侍女が淹れてくれた温かい紅茶を前に、四人の会話が弾む。ノヴァは精霊郷での出来事を、ルミナ王女は幼い頃に精霊と出会った話をした。


「ノヴァ様のお話本当に素敵ですわ。特に『天理の術』のお話はわたくしの『聖なる獅子』の力と、どこか似ている気がしますの」


 ルミナ王女は目を輝かせて言った。ノヴァはその言葉に驚きながらも、ふと彼女の年齢を知らないことを思い出した。


「ところで殿下、おいくつでいらっしゃるのですか?」


「わたくしは12歳になりましたわ。わたくしノヴァ様より年下だとばかり思って話していましたけれど。ノヴァ様はいくつでいらっしゃいますの?」


 ルミナ王女の言葉にノヴァの頭に警報が鳴り響く。前世の記憶がフラッシュバックし、「うわあああああああ!」と心の中で叫んだ。


(やべえええええ!12歳ってマジか!僕、前世の記憶があるから感覚的にはもう……いや、ダメだ!危ないぞノヴァ!このままでは変質者として人生が終わる!)


 ノヴァが顔を青ざめさせていると、ルミナ王女は彼の頬にそっと手を当てた。


「ノヴァ様、どうかなさいましたの? お顔が真っ青ですわ」


「いえ、なんでも……! その殿下があまりにお美しくて、つい見惚れてしまいました!」


 ノヴァの必死の言い訳にルミナ王女は頬を染めて微笑んだ。


「ノヴァ様ったら……。でも、嬉しいですわ。わたくしずっと孤独でしたの。でもノヴァ様といると、心が温かくなりますわ」


 ルミナ王女は、ノヴァの手をそっと握った。その手は、まるで小鳥のように小さかった。ノヴァは心の中で(いや、ロリ〇ンじゃないから!僕の好きな人は、ちゃんとした大人だから!)と叫びつつこの状況をどう乗り切るか頭をフル回転させていた。


「ノヴァ団長、失礼ながら、殿下の年齢でそのような言動は……」


 レオンハルトがノヴァを諫めようとするが、ルミナ王女は首を振った。


「レオンハルト様、ご心配には及びません。わたくしノヴァ様といると、とても楽しいのです」


 ルミナ王女はそう言って、再びノヴァに微笑んだ。この時ノヴァは決意した。ルミナ王女の心にある孤独を、少しでも和らげてあげたい。そのためにも自分にできることをしようと。


 やがて、ティータイムが終わりを告げようとしていた時、ルミナ王女が笑顔でとんでもないことを口にした。


「ノヴァ様、わたくし父上にお願いしましたの。近いうちにわたくしとノヴァ様、レオンハルト様、カイル様、そしてわたくしの家族で、晩餐会を開いてくださるようにと。わたくしの家族にもノヴァ様たちのことを紹介したいのです!」


 ノヴァはその言葉に、再び(ああ、人生って難しいな……)と遠い目をするのだった。


 王宮での晩餐会の招待という、とんでもないお土産を抱えて、ノヴァたちはグロリアス辺境伯の邸宅を訪れた。王宮の騒がしさから解放されたノヴァは、安堵のため息をついた。


「いやー、まじで疲れた……。王宮って、なんであんなに気を使うんだよ……」


 ノヴァがぐったりとソファに倒れ込むと、エルネスト辺境伯が穏やかな表情で彼らを出迎えた。


「ご苦労だった、ノヴァ君。国王陛下との謁見はうまくいったようだな」


 ノヴァは、王宮での出来事をすべてエルネストに話した。国王が自分たちの話を真剣に聞いてくれたこと、そしてエルドリッジ公爵家が裏で動いていたこと。


「なるほど、エルドリッジ公爵家が……。それも、国王陛下の密命を帯びて、君たちを監視していたと。これは好都合だ」


 エルネストはそう言って、深く頷いた。レオンハルトは驚きを隠せない。


「閣下、どうしてですか? 私たちは監視されていたのですよ?」


「レオンハルト、落ち着きなさい。エルドリッジ公爵は、国王陛下に最も忠実な家臣。その彼らが我々の味方だというのなら、これほど心強いことはない。それに国王陛下が表立って動けない中、彼が我々の後ろ盾となってくれる。これ以上の利はない」


 エルネストはそう言いながら、ノヴァの肩に手を置いた。


「ノヴァ君、君は君自身の力で、最も信頼できる味方を見つけたのだ。この上ない功績だよ」


 ノヴァはその言葉に少し照れながらも、安心感を感じていた。エルネストは早速、ヴァイスブルク侯爵とアルマ侯爵に連絡を取るよう侍従に指示した。


「夕方にもう一度会合を開こう。シルバーグロウ公爵家を味方につけるという話は、いったん白紙だな。君たちの力は研究対象として扱われるべきではない」


 エルネストの言葉にノヴァたちは深く頷いた。夕方、再びエルネストの邸宅に集まったヴァイスブルク侯爵とアルマ侯爵は、ノヴァたちの報告を聞き安堵のため息をついた。


「まさか、国王陛下がそこまで我々の話を信じてくださるとは……。そしてエルドリッジ公爵家の協力も得られるとはな。これならばシルバーグロウ公爵家の力を借りる必要もない」


 ヴァイスブルク侯爵は、心から安堵した表情を見せた。しかしアルマ侯爵は穏やかながらも厳しい表情で言った。


「しかし、ヴァイスブルク侯爵、喜ぶのはまだ早い。我々が今持っている証拠では、グレイはともかく、クライン公爵家を断罪するには至らないでしょう。あくまで『疑惑』の域を出ない。クライン公爵はそう簡単に尻尾を掴ませるような男ではないでしょう」


 アルマ侯爵の言葉に、ヴァイスブルク侯爵は頷く。


「その通りだ。ノヴァ君、君たちはこれから、ノルレア自由都市群に向かい、さらなる情報を集めてきてもらいたい。ノルレア自由都市群はすでにクライン公爵家の影響下に置かれている。危険な任務になるだろう」


 ノヴァはヴァイスブルク侯爵の言葉に静かに頷いた。


「はい。僕たちはこの世界を救うために精霊から使命を託された。どんな危険な任務でも僕たちはやり遂げてみせます」


 ノヴァの決意の言葉に、レオンハルトとカイルも力強く頷いた。夕焼けに染まる空の下、彼らの決意はますます固いものになっていくのだった。


 その頃、王都のクライン公爵邸では、当主のリヒャルト・フォン・クライン公爵が、苛立ちを隠せないでいた。彼の前にいるのは、フードを深く被った謎の男と、鋭い眼光を持つ一人の男。


「グレイの愚行のせいで、エルドリッジ公爵家が動き出した。どういうことだゼノン。お前は、この国の中枢にもう一人の監視者を送り込んでいたはずだろう!」


 クライン公爵の厳しい言葉に、謎の男、ゼノン・クロフトは無表情に答えた。


「申し訳ありませんな、クライン公爵。監視対象は精霊郷へ向かった時点で、私の予想を遥かに超えた力を手に入れていたようです。彼らの行動は我々の想定を完全に覆しました」


 ゼノン・クロフトの言葉にクライン公爵は忌々しげに顔を歪める。


「ふん、役立たずめ。いやそれよりもだ、ノルレア自由都市群の件はどうなっている? すでに我々はそちらの望み通りの品物は提供したはずだ!」


 クライン公爵はそう言って隣に立つ、ノルレア自由都市群から来た男に視線を向けた。男は傭兵団『黒鴉』の団長ギデオンと呼ばれ、その残忍な手口で知られる男だった。


「ご心配には及びません公爵様。すでに我々の手はノルレア自由都市群に深く食い込んでおります。連中の内紛を利用しすでに主要な都市は我々の手の内にあります」


 ギデオンは冷酷な目でクライン公爵に答えた。その言葉にクライン公爵は少し安堵した様子を見せる。


「そうか……。だが油断はするな。奴らは必ずノルレアの件を探りに来る。もし来たら、徹底的に排除しろ。特にあのノヴァという小僧だ。私の計画を邪魔する最も危険な存在だ!王国内では、ここまで分が悪くなればしばらくはおとなしくしなければなるまい。ここは、一時的に闇魔法の研究開発を凍結し、静観するとしよう」

 

 クライン公爵の言葉に、ゼノン・クロフトは眉をひそめた。

 

「馬鹿なことを! 闇魔法こそが我々が王国を支配する唯一の切り札だということをお忘れですか。」


「だが、未だ『天理の術』の詳細は不明。もしやつらがそれに匹敵する力を手に入れていたとしたら……。ゼノン!今は時期が悪い。奴らが動くのを待つしか無かろう」


 クライン公爵の言葉に、ゼノン・クロフトは苦々しい表情を浮かべた。しかし、彼の言うことも一理ある。ノヴァたちの行動は、彼の予想を遥かに超えていた。


「……分かった。一時的に、闇魔法の研究は凍結する。」


「ノルレア自由都市群へのバックアップは継続するぞ。ギデオン、再度言うがお前は奴らがノルレアへ来たら、決して生きて帰すな」


 ギデオンは冷たい目で頷くと、姿を消した。クライン公爵はゼノン・クロフトに、王都の情勢を監視するように命じると一人、窓の外を眺めた。


「ノヴァ・ヴァルシュタイン……。あの小僧が、まさかここまでやるとはな。しかし、私の計画を邪魔することは許さん。必ずお前を排除してやる……」


 クライン公爵の言葉は、夜の闇に吸い込まれていった。王都の夜は、平穏を装いながらも、新たな戦いの火蓋が切られようとしていた。

 ノヴァが深々と一礼すると、レオンハルトとカイルもそれに続いた。国王は温かい笑みを浮かべ、ノヴァたちを歓迎した。


「ようこそ、星辰魔導騎士団の諸君。今夜は一人の父として、そして王国の未来を担う若者たちと語らいたいのだ」


 国王の言葉に場の緊張は次第に和らいでいく。皇太子リオンは興味津々といった様子で、ノヴァたちをじっと見つめていた。


「お兄ちゃんたち、本当に精霊と話せるの?」


 無邪気な質問にルミナ王女が慌てて注意する。しかしノヴァは優しく微笑み、精霊の事について答えた。


「精霊たちは、とても優しい存在です。殿下のように純粋な心を持つ方になら、きっと話しかけてくれるでしょう」


 ノヴァの言葉に皇太子の目がきらきらと輝く。王妃は恐縮しながら口を開く。


「お客様にご迷惑を……」


「いやー。大変微笑ましいですね」


 カイルは穏やかに返し場を和ませた。


 レオンハルトもまた上品にナイフとフォークを使いながら、精霊郷での体験が人生観を変えるほどの出来事だったと語った。


「陛下、精霊郷での体験は我々にとって人生観を変える出来事でした。この力を王国のために活用させていただければと」


 国王はノヴァたちが驚くべき成長を遂げたというエルネスト辺境伯からの報告を事前に聞いており、満足したように頷いた。するとルミナ王女が静かに口を開く。


「ノヴァ様、あの時庭園でお話しした精霊の声……私一人では細かいとこまでは理解できませんでした」


 ノヴァはルミナ王女こそ精霊たちに愛されていると返し、自分の方が学ぶことの方が多いと謙遜した。王妃は娘が持っている不思議な力を理解してくれるノヴァたちと出会えたことを心から喜んでいた。


「ルミナは幼い頃から不思議な力を持っていました。でもそれを理解してくださる方に出会えて本当に良かった」


 その様子を見ていた皇太子リオンが再び声を上げる。


「僕もお兄ちゃんたちみたいに強くなりたい!」


 国王は豪快に笑い皇太子を諭した。


「リオン、おまえはまだ7歳だ。まずは剣術から始めなさい」


 ノヴァもまた剣聖である祖父からまず剣術を学んだと語り、皇太子の目がさらに輝く。


「剣聖!?すごーい!」


 皇太子はノヴァの言葉に目を輝かせ、興奮を隠せない。レオンハルトは苦笑いを浮かべ、皇太子に注意を促す。


「殿下、お食事が冷めてしまいますよ」


 皇太子は慌てて食事に戻り、その微笑ましい姿に一同は笑顔になった。ルミナ王女は決意に満ちた瞳でノヴァを見つめ言った。


「私も王国を守るためにこの力を使いたいのです。ノヴァ様たちと共に」


 国王は娘の言葉に心を打たれつつも、その身を案じる。しかしルミナ王女の純粋な決意は揺るがなかった。ノヴァはそのひたむきな想いに心を打たれ深く頷いた。


「殿下、もしよろしければお時間のある時に精霊との対話について、もっと詳しくお話しできればと」


 ノヴァの提案にルミナ王女の表情が明るくなる。王妃は王女のことが心配で身の危険を案じるが、カイルが優しく答える。


「精霊たちは決して人を傷つけることはありません。むしろ、殿下の心を癒やしてくれるでしょう」


 その言葉に王妃も安堵の表情を見せた。晩餐が進む中、皇太子リオンが再び口を開いた。


「お兄ちゃんたち、今度僕にも魔法を教えて!」


「リオン様、まずは文字をしっかり覚えてからですよ」


 ルミナ王女が姉らしくたしなめると、レオンハルトも魔法の勉強には文字が不可欠だと説明した。皇太子は素直に頷き、国王は満足そうに微笑んだ。


「君たちがいてくれて本当に心強い。ルミナもリオンも良い刺激を受けている」


 晩餐の最後国王は立ち上がりノヴァたちへの期待を語った。


「今夜は素晴らしい時を過ごせた。君たちの今後の活躍を心から期待している」


 ノヴァたちが一礼すると、ルミナ王女が立ち上がり、改めて王国の未来を共に守ってほしいと願った。その言葉に込められた純粋な想いに三人は深く感動し、ノヴァは「必ず、殿下」と誓うように答えた。こうして王家との絆を深めた夜は、静かに更けていった。


 晩餐会が終わり、ノヴァたちは王宮の奥にある重厚な会議室へと案内された。そこには国王陛下を筆頭に、エルドリッジ公爵、ヴァイスブルク侯爵、アルマ侯爵、そしてエルネスト辺境伯が集まっていた。


 国王の「では、本題に入ろう」という言葉で、厳粛な雰囲気が漂う中、密談が始まった。


 エルドリッジ公爵が予言について問うとノヴァは立ち上がり、精霊郷の大樹から託された『大樹の悲鳴』について詳細を報告した。


「神霊の長老から心話が私の心の中に直接響き、精霊郷の大樹が悲鳴を上げ、闇が我らの故郷を覆い尽くそうとしていると伝えられました。その声は、かつてないほど悲痛で焦燥に満ちていました」


 ノヴァは精霊たちの悲鳴のようなささやきを感じ取った。それはこの辺境伯領だけではない。ミルウェン王国全体から聞こえてくる、悲痛な叫びだった。


「精霊郷の大樹は私たちに、闇による世界の侵食といえるべき災厄の始まりと嘆きをイメージで送ってきました。これらはヴォルター男爵からの情報とも一致します。私たちは闇魔法を操り世界を滅ぼそうとする者の影とその協力勢力の存在を調査の中で確信しています」


「確かに諜報機関よりクライン公爵がノルレア自由都市群と結託し、王国内で不穏な企てを行っているという情報が入っています。ただ、証拠の確保には至っておりませんが」


 エルドリッジ公爵は、諜報機関の調査でも似たような情報が入っていることを伝える。ヴァイスブルク侯爵は憤り、声を荒げた。


「国王陛下、これは王国に対する許し難い背信行為です!」


 しかし、アルマ侯爵は現状を冷静に分析し意見を述べた。


「決定的な証拠がないのが現状です。憶測だけでは動けません」


 国王は頷くとノヴァたちへ体を向け、1つの判断を下した。


「だからこそ君たちの力が必要なのだ。ノヴァ、君たちならば真実を暴けるはず。ノルレア自由都市へ赴き、調査を行い真実を突き止めてくれ」


「陛下のご信頼、必ずや応えて見せます」


 エルドリッジ公爵は、危険を伴うノルレア自由都市群への潜入に、王国全体で支援することを約束した。レオンハルトが具体的な支援策を問うと、エルドリッジ公爵は諜報機関の工作員との連携を約束した。カイルは安堵の表情を見せる。


 エルネスト辺境伯は、ノヴァの祖父である剣聖ギュンター卿に応援を要請することを提案し、ノヴァは驚きと感謝の表情を見せる。


「我が師ならあらゆる敵の罠を打ち破ることができるでしょう」


 ヴァイスブルク侯爵からは、情報収集のためにノルレアで商会を営む信頼できる商人たちへの紹介状を用意した。アルマ侯爵もまた、もしもの時に備え、ノルレアで働く信頼できる治癒士の弟子への連絡を取り、協力を仰ぐよう提案する。


 国王はこれらの提案に加え、自身の親衛隊騎士団から選りすぐりの騎士二名と、ノヴァたちの研究に興味を示している宮廷魔導師アルフレッド・グレイヴンを新たに星辰魔導騎士団の所属にすることを決断した。


「グレイヴン先生が?それは心強い。ありがとうございます」


 レオンハルトは頼もしい増員の件を聞き、感謝の言葉を述べた。そして会議は打ち切られ、会議室を出る際にエルドリッジ公爵はノヴァたちに早速協力のための内容を伝えた。


「明日の朝一番に、ノルレアの政治情勢、有力者の人脈を網羅した詳細な情報資料をお渡しする」


 こうして、王国の命運を左右する重要な密談は幕を閉じた。


 翌朝、エルネスト辺境伯の屋敷の訓練場は活気に満ちた空気に包まれていた。エルネスト辺境伯の紹介で、新たな仲間である二人の騎士と魔術師が現れる。


 一人目は、カスタード子爵家のロバート・フォン・カスタード。魔術学院出身で、親衛騎士団に所属し、魔法の研究に熱心な青年だった。


「噂は聞いています。評判の付与魔法の研究、ぜひ参加させてください!」


 二人目は、サンダー男爵家のジェイソン・サンダー。彼は王龍剣術聖光流の門下生で、ノヴァの祖父である剣聖ギュンター卿に稽古をつけてもらった経験があり、ノヴァの剣技に敬意を払っていた。


「君たちの成長ぶりは、師匠からも聞いています。特にノヴァ殿の剣技は既に我々を超えているとか」


 ノヴァは謙遜しながらも、皆がそれぞれの得意分野を活かして旅の準備を進めることを提案した。


 そして三人目は、元王立魔術学院副学院長であり、「賢老」の2つ名を持つ、王家付き宮廷魔導師であったアルフレッド・グレイヴンだった。


「いやー、みんな久しぶりだけど、顔つきが見違えるほど精悍になったね。いや、その前に改めて挨拶をすることにしよう。元王家付き宮廷魔導師のアルフレッド・グレイヴンです。今後よろしくお願いします、ノヴァ団長!」


 アルフレッドは片目を閉じ、お茶目な敬礼をする。ノヴァたちは苦笑いをしながら、元恩師に挨拶した。


「からかわないでください、先生。私たちこそ本当に心強いです!これからよろしくお願いします」


 早速全員で話し合いを行う。ロバートは潜入調査に適した目立たない高性能な装備の必要性を指摘する。セシリアとセレスティアは、付与魔法でそれを実現できると話し込み、ユーリは盗聴防止の結界を作れると名乗り出た。


 ノヴァはさらに前世の知識を活かして、移動手段である馬車自体にも付与魔法をかけることを思いつく。


「前世の知識を活用すれば、馬車自体にも付与魔法をかけられます」


「馬車に?」


 ロバートが驚くと、ノヴァは付与魔法で、できそうなことを提案する。


「生き物である馬には無理ですが、移動手段である馬車本体に、速度向上、衝撃軽減、重力軽減、魔物避けなど、様々な効果を付与できるはずです」


 特に「重力軽減」と「速度向上」を付与できれば、10日の行程を6日程度に短縮できるかもしれないと語った。さらにセシリアの支援魔法とカイルの回復魔法を馬に掛ければ、もっと時間を短縮できるかもしれないことを追加する。ロバートはその発想力に感嘆し、興奮気味に叫んだ。


「ノヴァ団長、その着眼点は普通じゃないですよ!言われてみれば可能でしょうが、そんな発想、今まで誰もしたことがありません!」


 ノヴァの指示で、アルフレッドは長年の研究対象であった付与魔法の知識を活かし、馬車改良を担当することになった。


 セシリアはスパイ活動に必要な道具の検討を始め、カイルは隠密行動用や情報収集用の魔法具を列挙した。ノヴァはさらに盗聴器の原理を応用した「音響集音」と電話をイメージした「遠隔受信」、「遠隔送信」を施したクリスタルや、周囲の景色と同化する「光学迷彩」を付与した特殊な布の開発にも着手した。


 その日の夜、ノヴァは団員の皆が付与魔法具の開発に没頭している姿を見て、確かな手応えを感じていた。この仲間たちとならどんな困難も乗り越えられる。彼の心に、クライン公爵の陰謀を阻止し、この世界に真の平和を取り戻すという決意がより一層強く刻まれた。


「さあ、最後の準備に取り掛かりましょう」


 ノヴァの言葉に、騎士団員全員が頷く。王国の命運をかけた、星辰魔導騎士団の新たな冒険が今まさに始まろうとしていた。

※お知らせ

本来82話を手違いでアップせずに83話以降を先に投稿してしまいました。修正いたしましたので引き続きお話をお楽しみください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

星辰魔導騎士団の再結成は、失われた絆の再生と新たな絆の始まりを意味します。

ノヴァたちはそれぞれの覚悟を胸に、迫る闇へと立ち向かう準備を整えました。

次回は、彼らが初めて団として動き出す「最初の任務」へ。

新たな光が差し込む瞬間を、どうぞお楽しみに。

執筆の励みになりますので少しでも面白いと思われましたらブックマーク・高評価をお願いいたします。また次回の話でお会いしましょう。

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